キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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第四十五話 彼の隊、飛信隊と合流せり。

咸陽から北に少しいくと。

 

遥か向こうに、「飛」の旗が見える。

 

「信さんっ!」

 

飛信隊の方へ駆け寄る僕ら。

 

飛信隊は迎撃態勢を取ろうとしていたが、河了貂さんが武器を降ろさせた。

 

「飛信隊だ!」

 

「これが………飛信隊!」

 

後ろの77人は興奮している。

 

 

 

 

 

「ん? お前どっかで見たような………確か蕞の……。」

 

「章覇です。 覚えておりますか?」

 

「あ!

………久しぶりだなってお前、かなり大きくなったな

何してたんだ?」

 

「廉頗将軍のとこで、修行してました。」

 

「廉頗!?」

 

「廉頗だってよ、  マジかよおい」

 

「廉頗…………。」

 

山陽戦で廉頗と対峙したという飛信隊の古参兵の人々がざわめく。

 

後ろの百人の中にもしかして、こいつ(=章覇)は、相当凄いんじゃねえかって空気が流れている。

 

「マジで行ったのかよお前。

楚に行くなんて度胸あるなオイ!」

 

「って訳で、曲刀、ありがとうございました。」

 

「あ……………ああ! いいっていいって、お前、持っとけよ。」

 

「僕、専門矛なんで。」

 

「そーかそーか  実は俺も矛に変えたんだ。

王騎将軍の矛を扱えるようにな」

 

「矛では僕に一日の長がありますから、今度お手合わせ願いましょう」 

 

「へっ! 

その言葉、後悔させてやっからな! 覚悟しとけよ」

 

信さんはニヤリと笑う。

 

すっかり話に花が咲いてしまった。

 

「ところで、信さん」

 

「あ? どうかしたか?」

 

「うちの百人隊は急造で、まだ実戦云々にいささか不安があります。

つきましては、次の戦が終わるまで飛信隊に合流させていただきたいのですが………。」

 

「構わねえよな? テン?」

 

「う、うん…………。」

 

河了貂さんは微妙そうに頷いた。

 

こちらの百人隊はまだ訓練さえままなっていないこと、僕という人間の力量を計りかねているのが原因だろう。

 

だが、武具は一通り買い揃えてあるし、鍛えればどうにかなりそうな連中ばかりだ。

 

「ありがとうございます。 

では、しばらくよろしくお願いします。」

 

「大船に乗った気でいてくれよな」

 

出っ歯………尾平さんが口を挟む。

 

「お前は黙ってろ尾平っ」

 

「そーだそーだ!」

 

飛信隊の各地から声が上がる。

 

「いやぁ~。 アハハ………。」

 

尾平さんも笑って誤魔化している。

 

皆、仲が良いようだった。

 

僕も後々は、こうした隊を形成したいものだ。

 

 

 

飛信隊は居心地は悪くなかった。

 

蕞の民と飛信隊はかつて戦った戦友だったし、喬英も美人で気っ風がよかったので、飛信隊士からも人気を集めた。

 

決して河了貂さんにない露出の高さが原因ではないと信じたい。

 

だが、如何せん、どうにも飛信隊の皆さんからは、新人を見るような目、頼りにはならないだろうなという目。

 

そんな目も幾つか見られた。

 

恐らくは千人→三千人に増えた際に加入した新人からの目だろう。

 

まあ、仕方ない。戦で見返そう。と、うちの百人にも割り切らせたし、飛信隊の皆さんもあからさまにはそういうことを言わなかったので、対立にはなり得なかった。

 

 

 

 

 

 

そんなある日、僕等と飛信隊は棘という都市に駐屯した。

 

飛信隊の皆さんのうち、早めに飯を食べ終わった人々は食後の運動と称して、訓練をしている。

 

と言っても走り込みぐらいだけど。

 

何人か、僕が連れてきた百人からも参加………

 

………………ん?

 

遥か前方に、やたらバクバクと飯を食べている人がいるようないないような

 

いや、間違いない。  いる。

 

周りが呆然…………としている気がするが………。

 

なんだろう

 

 

 

近づいてみると、その人は女の子だった。

 

顔立ちもなかなかの美じ…………ってえ?

 

何そんなに食べているんだこの人っ!

 

 

「き、羌瘣副長ぉ~!  また俺の飯を~!」

 

「そんなんじゃ、また没収されますよ!

いくら没収明けだからってそんなに…………。」

 

「…………煩い」

 

「副長ぉ!  いくら美人で腕が立って兵略にも通じているからってそりゃあ無いでしょう!」

 

「ふぅ………あ、水も頼む」

 

「副長ぉおお~!」

 

羌瘣という副官……って蕞にはいなかったよな?

 

偉く傍若無人だが、配下も嫌っているわけじゃないらしい。

 

 

 

これもこの隊の日常茶飯事…………「なあ、アンタからもなんか言ってくれよ」…………飛び火きた

 

「え、な、何ですか?」

 

「よくぞ聞いてくださいました!

貴方は昼間、合流した百人将の方ですよね?

 

こちら、飛信隊副長の羌瘣さんで、私共はその側近なのですが、この羌瘣さんってつくづく酷いんですよ!

 

腕は立つし、顔は美人だし、頭も良くて、うちらの隊長よりよっぽど将軍向きなのですが、如何せん、配下の飯を盗むんです!

玉に瑕なんで止めて下さいと言っても全く聞いてくれなくて!」

 

信さんが凄い言われようだが、とにかく優秀な副官ということは分かった。

 

「………………。」

 

羌瘣さんは無視して黙々と奪った飯を食べている。

 

「で、つい先日も、隊長が飯抜きを宣告しまして……それが解けるいなや、こうなんですよ。」

 

「……………………。」

 

女に逆らわない。 これは我が家訓だ。

 

「ま、まあ、頑張れ!」

 

「ああっ!  そんなっ!」

 

その側近の方の悲痛の叫びを背に、僕は歩いて、食後の走り込みに参加した。

 

 

 

 

 

それが終わると、信さんに呼び止められた。

 

「どうかしましたか?」

 

「まあ、付き合えって。」

 

「……………?」

 

信さんは僕の矛(※廉頗のではない)を持ってきて、自分の矛を構えた。

 

「打ち合い、やってみようぜ。」

 

そういうことか。

 

「分かりました。 」

 

「そう来なくっちゃな!  」

 

信さんが矛をぶつけてくる。

 

「………………くっ!」

 

凄い衝撃だ。

 

だが、こちらも廉頗将軍の一撃を散々受けている。

 

負けるわけにはいかない。

 

ガキン!

 

弾き返した。

 

「うぉっ!  田有よりも重いな!」

 

「いきますよっ!」

 

10連撃を信さんの矛に叩き込む。

 

「しかも、速い…………厄介な相手だ………ぜっ!」

 

更に凄い衝撃が僕の矛に響き、弾き返される。

 

「らあああっ!」

 

 

 

こうして、応酬を繰り返していると

 

「なんだなんだ。」

 

「隊長とあの昼間の百人将がやり合ってるんだ!」

 

「喧嘩かっ?」

 

「にしては二人とも清々しいから、違うぞ」

 

「しかし、強いなあの百人将。」

 

野次馬がぞろぞろと集まってきている。

 

 

 

 

 

そして、200合くらい打ち合ったところで

 

「はあっ!」

 

信さんが僕の誘いを逃れた。

 

依然として僕は今、信さんの首を狙える必殺の間合いにある。

 

「今だっ!」

 

首を目がけ、矛を突きたてに向かう。

 

しかし、信さんも僕の矛を弾き飛ばせば一気に覆せる間合いにあり。

 

まさにお互いが必殺の間合いにあった。

 

「させっかよっ!」

 

信さんの一撃が僕の矛に叩き込まれ、僕の、信さんの矛に突き立てようとしていた矛は…………

 

「くっ!」

 

弾き飛ばされ、ヴァアアアンと鈍い音がして地面に転がった。

 

「おおーっ!」

 

「流石、隊長っ!」

 

飛信隊から賞賛の野次が飛ぶ。

 

「だが、あの百人将、やべえな。」

 

「ああ。 あいつ、相当やる。」

 

「あともう一瞬速ければ信は負けていたな。」

 

そんな声も聞こえてきた。

 

弾き飛ばされる直前、僕の矛の尖端は首まであと三寸というところに迫っていたからだ。

 

 

 

 

「やるじゃねえか 章覇」

 

信さんは肩で息をしながら、手を差し伸べてきた。

 

「やはり、まだまだ信さんには勝てませんね」

 

「当たり前だろ?

俺はなにしろ天下の大将軍になる男だからな。」

 

「はははっ。」

 

その日を境に、飛信隊の一部からのそのような目は消えた。

 

僕等の百人隊も、飛信隊に揉まれている内に相当強くなっていき。

 

 

 

 

 

そして、ついに著雍の戦場についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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