キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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第四十三話 離別

「や、やぁ…………。」

 

「………………。」

 

やっぱり、喧嘩別れしたばかりだから、気まずい。

 

「やっぱり、帰っちゃうの? 秦に。」

 

少しの沈黙が流れた後、玲が言葉を発した。

 

「うん。  こればかりは譲れない。

中華を統一する力は楚にはないからだ。

春申君が死んだ後は特に厳しくなるだろう。」

 

「そう………………。  なら」

 

「?」

 

「私も秦に連れてって」

 

「………………?!」

 

「何?」

 

い、今のって…………まさか?

 

いや、ダメだ。

 

「ごめん それは無理だ。

君は大将軍の娘だし、僕は平民の子だから。

到底、玲の今の生活の質を維持させることなんて、今の僕には出来ない。」

 

「私の事が嫌いなの?」

 

「嫌いとか、そういうんじゃないよ。 

これは。

 

ただ一時の感情で、どうこうして欲しくないだけだよ。」

 

嫌いか好きかと言われれば間違いなく好きだ

 

父さん母さんに会えない日々の中で、支えになってくれたりもした。

 

平民の娘だったら、間違いなく連れてっただろうが、何しろ大将軍の娘ときてる。

 

何故、よりによって、今の僕に?

 

 

「そう……………ゴメンね…………。」

 

玲は顔を俯いた。

 

 

何故だろう   

 

 

凄く後ろめたい心持ちにさせられる。

 

僕は……………いや、それでも…………止めるべきなのか?

 

「ゴメン…………ゴメンね…………。」

 

いつの間にか、玲は泣いていた。

 

止めたくない…………けど、止めなくてはならない。

 

心は千々に乱れ、どうにもし難かった。

 

僕はまさか、玲のことを………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、僕はこれで行くから…………ゴメン。

どうか、元気でいてください。

 

それと、お菓子をありがとうって楽諒が言ってたよ。

本当に、玲には感謝している。 今まで、本当にありがとう。」

 

どうにか言葉を絞り出して、その場を去った。

 

凄く辛かった。

 

肉親を亡くすかのような寂しさや悲しみが押し寄せてきて、何とも言えない気持ちにさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

楽諒達は既に項燕将軍達のお屋敷前に着いていた。

 

「玲姉ちゃんとはお別れしてきた?」

 

「ああ。」

 

「やっぱり、辛い……………?」

 

「気にしないでくれるか?」

 

「……………………。」

 

喬英が楽諒の肩に手を置いて、目配せする。

 

「それじゃあ、行こうか。 秦へ」

 

「「おぅっ!」」

 

僕と楽諒、喬英とその配下、計23人は、寿春を発った。

 

 

淮河を船で西の上流へと遡っていく。

 

そして、淮河の最上流に近づいたところで降り、南下して長江に合流したところで長江を北上し、漢水に合流したところで今度は漢水を北上すると、秦の領内に到着した。

 

 

 

懐かしい秦の地は、何ら変わっていなかった。

 

喋る人の秦訛も、楚とはかなり違う風俗も何もかもが変わっていない。

 

「懐かしいかい?」

 

「ああ…………凄く懐かしいよ」

 

そして、南道の脇道を北上し、南道に入り、南道の終点に向かうと、懐かしき故郷・蕞が見えてきた。

 

 

 

2年ぶりに、僕は故郷に帰ってきたのだ。

 

 

 

 

 

 


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