キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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第三十七話 章覇対項翼 後編

「スパァアアン!」

 

「や、いやぁああああっ!」

 

玲の叫び声が響く。

 

 

 

 

「か、軽っ! …………ん?

 

 

てか、オイてめえもかよ!」

 

項翼…………いや、山猿が何か言ってる。

 

「…………やはり、受け流しを使いおるか。

先程のアレはあの項燕の本気の一撃にしては、威力が少ないとは思っておったが。」

 

廉頗将軍はそう呟いた。

 

僕の習った矛術は、受け流しを主とし、相手の攻撃をやり過ごす防御を主としている。

 

そして、その技の移り変わりの速度も速く、その速度と誘いの手で相手を翻弄することもできる。

 

受け流しを使わないという点では傅抵の剣術とは異なるが、速さと誘いの手を多用するという点で、かなり似ているので、傅抵の剣術は相性が非常に良かった。

 

その上で、相手の動きに破綻が見えた時、即座に必殺の一撃を放って確実に敵を屠るのが基本的な概念だった。

 

今回は、その概念を曲刀に応用したのだ。

 

「チッ!   だが必ずぶっ殺………」

 

次の瞬間。

 

「いい加減にしてよ!」

 

項玲が叫んだ。

 

「玲……………?」

 

山猿は手を止める。

 

「初対面の章覇にいきなり斬りつけるなんて何考えてるの!

その人は、私の命の恩人なのに!

 

 

お兄ちゃん最低っ!」

 

玲は走り去っていった。

 

 

 

 

玲の一言に結構衝撃を受けたようで。

 

「けっ! 玲に免じて見逃してやるよ 秦のクソが。

 

……………待て玲っ!」

 

山猿は刀を鞘に収め、玲を追っかけていった。

 

項燕将軍には玲以外の娘がおらず、唯一の女兄弟だからか、山猿は大事にしているようだが、この山猿はいちいち煩いと思う。 

 

 

 

「翼が迷惑をかけた。 気に障っただろうが、悪い奴じゃないんだ。」

 

美少年が頭を下げる。

 

「いえ。  秦人なのは事実ですから。

 

ですが、あなたも大変ですね……………。」

 

つい、この美少年に同情してしまう。

 

「ああ……………。  あ、そうだ。

俺は白麗。 中国十弓の第三位にいる。

義兄の臨武君を先の大戦で騰に殺されたから、秦人とはよろしくする気は無いが、まあ名を名乗っておいても損はないからな。」

 

「僕は章覇と言います。」

 

「ああ。 お前は手強そうだから、名前は覚えておいてやる。」

 

「ありがとうございます。」

 

中国十弓…………秦人は弓より騎馬を重んじるからよく分からないが、弓で中国第三位とあれば、弓の盛んな楚でも屈指の達人であることは間違いない。

 

白麗…………こちらも名前を覚えておこう。

 

 

 

 

「さて、項燕。

儂らは帰る。

煩くしてすまなかったな。」

 

廉頗将軍が別れを切り出す。

 

「こちらこそ、不肖の子らが迷惑をかけて済まぬ。

わざわざ、玲を返しに来てくれたというのに、ろくな礼も出来ず、申し訳ない。」

 

「気にするな。 王のそなたのご機嫌取りでもあるのだからな。

 

おい、小童、  帰るぞ」

 

「は、はいっ!

では、項燕将軍。 お邪魔しました。」

 

「ああ。 いずれ、折があれば来るがいい。

玲はそなたを気に入っているようだしな。」

 

「分かりました。」

 

こうして、僕は項燕将軍の屋敷を辞去した。

 

 

 

廉頗将軍の屋敷も、項燕将軍に負けず劣らず、大きな屋敷だった。

 

「ひ、広いですね………!!」

 

「馬鹿者。 各国の王宮はもっと広いぞ」

 

すると、どたどたと走ってくる音がする。

 

「じっちゃん!  」

 

すると廉頗将軍はニコッと笑って

 

「坊主~ 元気だったか?」

 

見たこともないような笑顔を浮かべた。

 

「うん。 」

 

「そーかそーか ガハハハハハハ」

 

………………?!

 

「し、将軍…………まさか将軍、孫がいたんですか?」

 

「あ? バカ言え。 この子は楽乗の息子じゃ。

 

奴は儂の一番弟子で、かの燕の軍神・楽毅の一族でもあったが、儂が魏に亡命しようとした際に、奴は儂の心を察して、死力を尽くして儂と戦い、敗れた。

その後、儂は奴の心意気に感じ入り、奴の首を刎ねた。

そのいまわのきわに後を頼まれたのが、この楽諒。 楽乗の息子じゃ。

今じゃ9才になる。」

 

「じっちゃん、 この兄ちゃんだ~れ~?」

 

「ん? この兄ちゃんはな、儂の弟子じゃ。

仲良くしてやるんじゃぞ~?」

 

「うん! よろしくね!」

 

無垢な笑顔を浮かべた楽諒。

 

どことなく、甘秋にも似ているところがある気もして、好感がもてた。

 

「よろしく!」

 

にこやかに笑って、僕は楽諒に話しかけた。

 

人懐っこい質なのか、楽諒はニィッと笑い返してきた。

 

 

すると、廉頗将軍は

 

「さて、この楽諒は父をも上回る才能を有しておる。

 

そこでた。  

 

小童。  この楽諒と勝負してみい。」

 

驚くべき提案をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 




楽乗…………趙将。 楽毅の息子・楽間の一族。
廉頗の一番弟子という設定。
長年、廉頗と共にあり、その力量は廉頗を超えたとさえ謳われたが、廉頗と交戦した際はこれを苦戦させるも、最終的には敗北。 捕らえられた。
史実では捕まらずに逃走している。

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