キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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登場人物の戦術眼とか、色々怖いので、そちら方面の批判とか感想をくれると凄くありがたいです。


第三十五話 項燕

「項燕っ! 邪魔するぞ!」

 

傲岸不遜なこの将軍、廉頗将軍はドカドカと入っていく。

 

「あ、姫様! 」

 

「よくぞ、ご無事で………」

 

通りがかった召使いが玲に頭を下げていく。

 

 

そして、奥の部屋に入ると

 

「やはり、殿の予想通りとなりましたな。」

 

「媧燐も李牧も、その本質は軍略家だ。

桓騎にも似たようなところがあるが、必殺の手から敵が逃れたらそこからがあまり強くない、いや粘れない。

桓騎のソレはわからないが、李牧と媧燐は敵が逃れえない状況を作り出した上で必殺の手を打つため、敵がその必殺の手から逃れるような状況は想定しないからだ。

二人はその先の対応にどうも弱い節がある。

まあ、最も、あの場に王翦が現れるなど想定しろという方が難しいが。

 

軍略家の必殺の手は、武将の勝利への執念により放たれる一撃には劣る。

一方で軍略家は、引き際を誤らず、退く時の潔さは武将には真似しえない。

まあ、どちらも一長一短といったところであるが…………。」

 

と、熱心に話し込んでいた。

 

 

 

その声の主……………項燕大将軍は廉頗将軍に気づき、頭を上げた。

 

部下も事情を察して引き下がる。

 

 

 

 

項燕将軍は、流れるように美しい鬚を蓄えていた。

 

パッと見た感じは武将のようで、大きな体に引き締まった筋肉をしているのが見てとれるが、その本質は或いは知略なのかもしれないと思えるような、頭の良い人特有の鋭い目をしている。

 

とにかく、捉え難い人物であった。

 

「廉頗将軍。 手前の娘がお手数をおかけした。」

 

項燕将軍は頭を下げた。

 

「いや、なに、儂も退屈しておったところだ。

勘弁してやるわ。」

 

「そう言っていただけてありがたい。 玲っ!」

 

「ひっ!」

 

項燕は、玲に少し近づいた。

 

「廉頗将軍にとんだ迷惑をかけさせてくれたな。

常々、人に迷惑をかけることだけはするなと、あれほど言っていたろう!」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「いつものおふざけならばいざ知らず、今日ばかりはごめんでは済まさん!

 

婆はどうした!」

 

「婆はおそらく…………殺されたかと」

 

いけない。 口を滑らせてしまった。

 

「………………。」

 

「相違、ないか?」

 

「……………はい。」

 

項燕将軍は目をカッ! と見開くや、

 

剣を抜き去り、

 

「あっ!」

 

玲の頭に向かって斬りつけた。

 

「危ないっ!」

 

体がが勝手に輪虎将軍の曲刀を抜く。

 

「「!!」」

 

 

 

 

曲刀と剣が烈しい音をあげてぶつかる。

 

次の瞬間、体がフワァッと持ち上がり、大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

 

ドサッ

 

 

どうにか壁に打ち付けられずに済んだものの、膝を床についてしまった。

 

加えて、体全体に痺れが走り、その痺れがしばらく抜けない。

 

「「!!」」

 

再び廉頗将軍と項燕将軍は目を見開いて驚いた。

 

「え…………まさか本気で……。」

 

と、次の瞬間

 

「このバカ弟子がぁっ!」

 

廉頗将軍の拳骨が脳天に炸裂した。

 

 

 

な、なんだこの痛さは…………!

 

痺れが残って立てないところにこの一撃とは

ヤバイ 気を失いそ…………う………。

 

いや、そうはいくかっ!

 

喬英やその仲間達の命を救わねばならない!

 

気合で意識を保つ。

 

「なるほど…………まさか耐えるとは。

うちの息子でさえ耐えられなかったというのに。」

 

「いや、うぬが躾をしようとしているのを見て、つい腕が動いてしまった。

 

ところで、項燕。いくらなんでもやりすぎじゃぞ。

儂のとこの不肖な弟子が庇いだしたではないか。」

 

真似してどうする! 頭打って馬鹿になったらどうしてくれんのさ!

 

最近、僕は心の中で悪態をつくことを覚えた。

 

こうでもしないと、この破天荒な将軍の下ではやっていけない気がするからだ。

 

「………しかし、手前の本気の一撃を受け止めるとは。

少年、名前は何という?」

 

「章覇と言います。 迷惑をおかけしました。

………うっ。」

 

「はっはっは。   将軍もつくづくやりすぎでは?

こちらの少年は口の中を切っておられる。」

 

口の中が血の味で充たされていた。

 

「あ、あの………斬ろうとしたんですか?」

 

「いや、本気の一撃で驚かし、かつ、頭の上の飾りの辺りの髪を切り捨てて戒めにと思っていたが、流石にやり過ぎてしまった。

こちらこそ、迷惑をかけた。」

 

「と、とんでもないことです!」

 

慌ててその場で頭を下げる。

 

「玲。」

 

「は、はいっ………!」

 

玲は既に涙目で、大分恐怖におののいている。

 

普段の顔つきは大人びているのに、こうしてみると年相応に見えるのはつくづく不思議だ。

 

「今日のところは、お前を庇ったこの少年の男気に免じて見逃してやる。

その少年に感謝するように。」

 

「わ…………分かりましたっ!

ごめんなさい………っっ!」

 

と、ここで項燕将軍は父親の顔に戻り、

 

「だがまぁ、とにかく、怪我がなくてよかった。」

 

にこりと笑いかけた。

 

「うわぁあああん!」

 

玲は項燕将軍に抱きついて、泣き出す。

 

 

「将軍にはつくづく、お見苦しいところをお見せいたした。」

 

「ハッ………。」

 

廉頗将軍は吐き捨てるように笑った。 

 

よし、頃合いだ。

 

 

 

「ところで、項燕将軍。」

 

「どうかしたか?」

 

「無理なお願いとは存じますが、娘さんを捕らえた賊の処理を任せていただきたいのです。」

 

恐る恐る、切り出してみた。

 

項燕将軍は一笑するや、

 

「良いとも。 玲も無事に戻ってきたことだしな。」

 

「……!! あ、ありがとうございます。」

 

とにかく、喬英達の命は助かったことになる。

 

よかったよかった…………。

 

 

そう考えていた、その時。

 

「だが、章覇とか言ったな、少年……………言葉に秦の訛がする。

お前、秦人だろう?」

 

項燕将軍は、先ほどまでの父親の穏やかな顔を変え、鋭い目つきに顔を変えて、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




項燕………楚の虎と称される、キングダムのラスボス。
一族は代々、上将軍(上柱国)の地位に就いている。
項翼は息子という設定でいきます。

このバカ弟子がっ!←決して東〇不敗さんとは関係ありません


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