キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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原作に未登場なため、項燕はオリジナル性格になると思います。

原作に登場した時点でこの作品が連載中の場合、その時点で順次変更致します。


第三十四話 郢陳

説得し終えた直後、廉頗将軍が入ってきた。

 

「ま、まさか!

聞いてらしたんですか?」

 

「誰も一切を任せるとは言うとらんわ。

 

……………にしても、最も多く悲しみと痛みを背負うものが大将軍………か。

 

小童め。 分かった風な口を利きおって。」

 

「ほ、本物の大将軍に駄目出しされたら何も言えませんからっ!」

 

子供が大人ってこんな感じかな………というのに思いを馳せるも、その実態は全く異なるように

大将軍とはこう! 

と定義付けてみたものなんて、本物の大将軍の感じるそれとは違いはあるだろうに。

 

だけど、僕が思い描く大将軍とはこうであるし、なった際にもこうでありたいと思っている。

 

そこだけははっきりと言える。

 

「…………じゃが、あながちそれを否定することは出来ぬのがつまらんわ。

 

そうしたあらゆる重みを背負っているからこそ、大将軍は強いのだからな。

 

 

 

さて、小娘も見つかったことだし、帰るぞ!」

 

「はっ」

 

「ハハァ!」

 

 

 

こうして、ようやく僕は郢陳に向かうことになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸路を1ヶ月近く行くと、楚の王都・陳、通称:郢陳についた。

 

楚は国土が広い割に、その領国支配は都市とその周辺地域に留まっている。

 

つまりは、都市を点、道路を線とした、点と線の支配でしかないのだ。

 

加えて、秦のそれと比べて都市間の距離が凄く長い。

 

実際の人口は、秦の1.2倍程度と見るのが正しいのではないだろうか。

 

 

郢陳には、幾つもの荘厳で豪華な建物が並んでいた。

おそらく、都に住む貴族の館であろう。

 

総司令・昌平君の父親もあるいはこの屋敷群のどこかにいるのかもしれない……………。

 

 

 

だが、何よりも気になったのは、郢陳の雰囲気が暗かったことだ。

 

「将軍…………この暗さは、敗戦のですか?」

 

「それだけでは無かろう。

山陽戦の後の大梁は、秦に備えようと民間に至るまで対策を練ろうとする勢いがあった。

魏人は真面目じゃからな。

 

じゃが…………楚のこれは………怒りじゃ。

汗明と臨武君。 二人の将軍を失ったのだから、誇り高き楚人は反秦の怒りに燃えているのであろう。

 

加えて、敗戦の責任を取される令尹(宰相)の春申君の失脚を悼む声もあるはずじゃ。

 

項燕や汗明、臨武君などの将軍を取り立てたその人材を見る眼に加え、自ら軍を率いて魯を滅ぼした程の軍略をも有し、内政においては、荀子(李斯、韓非子の師)を招聘して楚国内の学問の興隆に多大なる貢献をしておる。

楚にこれほどの傑物は他にはおらん。

彼に引き立ててもらった項燕も、さぞ憤慨しておろうな。」

 

魯は周の初代・文王の息子にして、武王の弟である周公旦の末裔の国であり、孔子がそこの出身であることでも有名な国だ。

ちなみに、周公旦は忠臣・名臣としても大変有名である。

 

 

「項燕大将軍………ですか。」

 

項燕。 隣にいる項玲の父親にして、長らく楚の大将軍の地位にいる人だ。

 

「お父さん……………か。 家出したから帰るの怖いな…………。」

 

「ま、まあ…………武家の娘として戦場を一度見てみたかったといえば、幾らかは…………。」

 

それでも、召使いの婆を失っているから、厳しいものはあるけども。

 

「普段、全く怒らないから、その分、怖いな………。」

 

「………………。」

 

おそらく、娘は一人だから甘やかされて来たんだろう。

 

「ねぇ、章覇も謝ってよ~。」

 

「いいっ!?  な、なんで僕が?」

 

飛び火が来てしまった。

 

「まあまあ、廉頗将軍に引き合わせたのはこの私だよ?」

 

「で、でも…………。

 

……………はぁ 仕方ないな。」

 

父さんや甘仁叔父さんも母さんや叔母さんには弱い。

男は黙って引き下がるのが章家や甘家の伝統だ。

 

「ありがとう! 優しいのね?」

 

項玲は僕の手を握りしめてくる。

 

体温が伝わってくるのと、男のそれとは異なる肌の滑らかさがくすぐったい

 

つかさず

 

将軍、助けて下さい!

 

と目配せして援護を頼もうとすると、廉頗将軍はニヤリと笑うだけだった。

 

諦めろと目が物語っている。

 

年甲斐もなく人の危機を楽しんでるよこの人………。

 

 

 

 

 

廉頗将軍は、80をゆうに超えている。

 

そして、その見た目は70くらいと見た目よりも若いのはこういった子供っぽさがあるからだろうなとつくづく思う今日この頃だった。

 

 

 

 

配下にした喬英も、郢陳に入ったら、賊として体を縛られているので、助けてはくれないだろう。

 

そして、廉頗将軍は追い打ちをかけるかのように

 

「さて、ではそろそろ項燕の屋敷に参るとするか。

小娘の無事を知らせねばならんし、賊を配下にする許可を項燕に認めさせねばならんからな。」

 

喬英達を説得したとはいえ、その処罰云々の権限は娘を奪われた項燕大将軍に帰するのだ。

 

「だ、大丈夫なんですか?  将軍?」

 

「あやつは親バカじゃからな。

娘が取りなせば許さざるをえんだろう。」

 

「だから、先程…………。」

 

一緒に謝る代わりに、喬英達を許して貰えるように取りなして貰えということだったのか

 

ただ単に楽しんでいた訳ではないみたいだ。

 

「何のことだ?」

 

「将軍~!」

 

「…………という訳で、小娘、取りなしを頼むぞ。」

 

「任せておいて下さいね。」

 

とびきりの笑顔で返してきた。

 

………………つくづく女って狡い。

悪い気がしないのが尚更、ズルいっ!

 

 

 

 

 

 

 

気づけば、僕達は大きなお屋敷に着いていた。

 

このお屋敷の主こそ、項燕大将軍である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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