キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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第三十三話 初の課題

「して、介子坊。 

敵の首領は捕らえてあるのだろうな?」

 

「女なのでやりにくいことこの上ありませんでしたが捕らえてありますぞ」

 

「そうか。

ならばよいわ。  

 

何分、こちらも20人ほど手勢を失っておるからな。

50人程度でここまで、この廉頗の直下の軍に痛手を与えた賊ははじめてじゃ。」

 

廉頗将軍は、少し思案するや、やがて

 

「おい小童。」

 

「? 何でしょうか? 将軍」

 

「お前に最初の課題を与えようと思うてな。

 

小童。 貴様の配下になるように敵の首領を説得してこい。」

 

…………??   え?

 

「え?!」

 

「貴様今更何を驚く?

 

蒙驁のところの桓騎や儂の姜燕のように、昔は敵だった奴が、今の副将なんて事は珍しくなかろう。」

 

「な、成る程……………。」

 

「分かったらさっさと行ってこんか!」

 

「は、はい!」

 

何の教えも受けていないのに、いささか厳しい課題な気もするが、こちらから教えを乞うた身としては、断るわけにはいかなかった。

 

 

 

 

「こっちだ。」

 

僕は兵士の人に聞きながら、女頭目とその幹部たちが捕まっている場所に案内された。

 

生存者は20人…………廉頗将軍の話では50人くらいなのになぜ20人も殺さずに生け捕りにしなかったのか………謎である。

 

女頭目は近づいてきた僕に驚いた表情をしていたが、後の幹部たちは敵意の篭もった視線を向けてきていた。

 

「将軍は、賊は食い扶持を与えりゃあ賊には戻らないと考えているから、殺さずに兵隊にしちまうんだ。

賊はもともとの基礎体力もあるし、手懐けるのには多少苦労するが、兵士としてはむしろ徴兵で補充されてきた一般人よりも精鋭化しやすいんだとよ。」

 

そう考えていたら、そういう答が、廉頗将軍の将校らしき人から帰ってきた。

 

「成る程…………。  とりあえず、そこの女の首領を別室に呼んで貰っていいですか?」

 

「ああ、構わんともさ

おいっ!」

 

「「はっ!」」

 

将校の人に命ぜられた兵士2人が、女頭目を連行する。

 

「こちらの部屋にお願いします。」

 

「「はっ!」」

 

「では、入り口で見張っていて下さい。」

 

 

僕は女頭目を部屋の中に押し込む。

 

 

 

 

 

「で、少年。 私に何の用だい?

今更、私に出来ることなんて、ありはしないよ。」

 

女頭目は開口一番、そう言い出した。

 

さて、どう切り出したものかな…………。

 

 

とりあえず…………。

 

「あなたたちは戦災孤児の出身と、言っていましたが、本当なんですか?」

 

「ああ。   私達は皆、先代の首領に拾われてきた戦災孤児だ。

そのひもじさ、寂しさ、苦しみはこの身でしかと味わってきている。

そして、戦災孤児を集めて、盗賊という生きる術を教え込み、自活していけるようにしているんだ。

 

当然、金持ちや悪人しか襲わないように教育もしている。」

 

「と、いうことは、あなたたちは、そのようにして仲間達を増やしていると?」

 

「ああ。  そうだよ。 それが何だい?」

 

「それが戦災孤児を野垂れ死なせないための、一時しのぎでしかないことをご存じでありながら?」

 

「…………! それはどういう…………。」

 

「戦災孤児が生まれる、そもそもの原因は戦争だ。

500年前から、人々は争い続けてきた!

 

そんな戦争を亡くすために、僕は、僕たちの王様は中華統一を目指そうとしている。

 

楚王は後継者に悩まされ、韓や魏王は領土を守るのが精一杯、燕王や斉王とて、中華統一までは考えていないだろう。

 

秦王だけが、中華統一を考え、実行に移そうとしているんだ。

 

確かに、中華統一の過程で数多の悲劇が生まれ、あなたの言うように数十万の女子供が路頭に迷うかもしれない。

 

だけど、今、止めなければ、或いはこの先1000年、戦災孤児が生まれ続ける現状が続くかもしれない。

 

今、中華統一をすることで救える命は、それこそ計り知れないんだ。

 

もし、あなたが、本気で戦災孤児を救いたいのなら、どうか、僕や僕達の王様に力を貸してはくれないだろうか」

 

女頭目ははっとした表情を見せる。

 

そして、思案を重ね、

 

「以前…………先代が似たようなことを言っていた。

 

戦災孤児をいくら、拾ってきたところで、全ての戦災孤児を救える訳ではない。

戦争そのものを無くすことが出来るのなら、それに越したことはないと。

だが、その過程でも戦争は必要不可欠であるし、その戦争でも数多の悲劇が生まれる。

加えて、それを成しうる王はこの世界のどこにもいない。

昭王でさえ出来なかったのだから、もうしばらくはその様な王は出ないだろうと。

 

 

だから、少年、1つ問おう。

 

 

お前に、中華統一の過程で生じる悲劇の責任を、重みを背負う覚悟はあるのか?

その覚悟を示してみな。」

 

 

 

 

 

「………………蕞に李牧軍が攻めてきた時、僕は趙兵を200人近く、1人で殺した。

 

そこで600の涙を生んだ。

600の涙が、1人の少年の手で生み出されたんだ。

 

そして、今でも、偶に、その殺した兵士の顔が夢に出てくることがある。

この夢からは恐らく、一生、僕は逃れられないだろう。

 

だが、僕の子供や孫、更にその世代には同じ思いをして欲しくはない。

 

 

確かに戦争を無くすのは凄く難しいことだ。

戦争は人間の闘争本能に根づいた人間の営みであることに間違いはないのだから。

その戦争の中では何人もの仲間が死に、その死の痛みや悲しみを背負って戦っていかねばならないと思う。

 

その痛みや悲しみの重みを一番、多く知る者が、大将軍。

戦争を終わらせる男でなくてはならない。

 

戦争を終わらせるために、大将軍になることを志したその日に、そうした、中華統一の過程で起こりうる悲劇をも背負う覚悟を、僕は固めたんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女頭目はしきりに頷くと。

 

「あい分かった。

あんたが中華統一に抱く想いは、ただならぬものを感じる。

ただならぬ覚悟も……………。

 

だから、どうか…………大将軍としてこの戦乱の世を、終わらせてくれ

 

この喬英以下、水奴の川賊20余名は、揃ってあんたに順おう。

 

我が主、章覇よ。」

 

 

 

 

ふぅ……………存外、本心を言葉にするって難しいのだな。

 

だが………………とにかく、今は。

 

説得に成功して、よかった!!

 

「ありがとうございます。 喬英さん。

これから、よろしく頼む。」

 

「ああ。」

 

 

 

僕は、人生初の配下を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




喬英

もと長江の水賊集団:水奴の女頭目。

後に章覇軍の疾風旗・青龍大隊の隊長として、対楚戦で活躍することになる。

水奴は、50人で廉頗直下の精兵を20人も殺すなど、素の戦闘力は長江の水賊集団の中でも屈指である。

武器は弓を使う。精度はあまり高くないが、矢の飛距離は一流の域。

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