キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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第二十一話 南道追撃の檄

「それで、そなたがここに来たからには、対応策があるということだな?」

 

「それには李牧が奪った城を取り返しつつ、そこから兵力を吸収していくしかありませぬ。」

 

「し、しかし、それでも兵力は足りませんぞ!」

 

昌文君が声を荒げる。

 

「無論、承知だ。 だが、圧力にはなるだろう。」

 

つまり、武関の兵と李牧軍を挟撃する形を作り出そうとしているわけだ。

 

「だが、一番の問題は果たして李牧がそれを許すのか?

ということではないか?」

 

大王様が指摘する。

 

「ゆえに李牧は今頃、全速力で南道を逆走している頃かと思われます。

そして、武関には20000の兵がいます。

疲労困憊の李牧軍に、少なくとも2日は持ちこたえるはずです。」

 

「分かった。  明朝一番に義勇兵を募る。

そして蕞を起ち、李牧を追撃するものとする。」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

そうして、僕たちは解散したのだった。   

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

蕞の民達は蕞防衛戦初日と同じ広場に集められた。

 

「なんだ? なんだ?」

 

「秦は助かったはずだろう?」

 

「慰労のお言葉をいただけるんだろう。」

 

「ありがたやありがたや」

 

安堵に満ちた蕞の民達を見ている大王様の表情はやるせなさに満ちていた。

 

更なる苦労を強いさせる王を許してほしい。

そんな表情であった。

 

 

 

そして大王様は話し始めた。

 

「蕞の民達よ。

皆の活躍のお蔭で、ひとまず、秦国の危機は去った。

あらためて、この国の王として、民として、秦人として礼を言う。

 

ありがとう。」

 

大王様は深く恭手した。

 

「そ、そんな、恐れ多いことでございます大王様っ!」

 

「「「「「「大王様ぁあああっ!」」」

 

「しかしながら、まだ秦国から脅威が去っていった訳ではない。

 

どうか、再び、俺と共に戦ってほしい。

そして、民を戦に駆り立てようとしている不甲斐ない王をどうか許してくれ。」

 

大王様は頭を下げた。

 

「だ、大王様?」

 

「話が見えてきませぬ!」

 

「大王様っ  大王様っ!」

 

蕞の民が騒ぎはじめる。

 

 

 

 

 

「静まれいっ!」

 

昌文君の一喝で民は静かになり、大王様は話を続けた。

 

「皆も見た通り、李牧軍は確かに、蕞からは撤退した。

 

そう蕞からは(・・・・)

 

 

しかしながら、李牧軍の進路は、合従軍の本営ではなく南道を逆走するものだ。

 

これが意味するところは、李牧が南道の武関を開けようとしているということだ。」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

「もう一度言う  李牧は咸陽を諦めてはいない。」

 

「「「ええーーっ!?」」」

 

「俺の言わんとしていることは、そう。 そなた達に今一度、立ち上がってほしいということだ。

 

そなた達の多くは傷つき、立ち上がるのもやっとであろう。

何故自分たちが?  何故自分たちばかりこれ以上立ち上がらなくてはならないのか?

そう考える者が少なからず出てくることだろう。

 

しかしながら、そなた達だから、そんなそなた達だからこそ出来ることが存在するのだ。

 

この俺と、戦ってきたそなた達だからこそ!」

 

「ど、どのようなことでしょうか?」

 

蕞の民は奮起の様相を示していた。

 

「南道には幾つもの諸城が存在する。

秦国が李牧の前に見捨ててきた城だ。

 

その中にいる民を、俺と共に説得してほしい。

そして、共に再び、国を 家族を 現在を守るために戦ってほしい!」

 

大王様はそう叫んだ。

 

蕞の民も半ば、仕方ないという半ば諦めのような心積もりであったように思う。

 

「大王様にこの命を捧げると誓った身であります!

どこまでもついていきまする!」

 

「呂去もついていきます!」

 

「洪鞍もです!」

 

「大王様っ!!」

 

「「大王様っ!!」」

 

「「「大王様ーーーっ!!!」」」

 

 

「この嬴政、そなた達の勇気に感謝する!!

かたじけない!」

 

 

 

 

こうして蕞の現住民16000のうち、傷兵と子供を除いた11000あまりがこの義勇兵に参加することとなったのであった。

 

 


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