キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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この話だけは台本形式でやります。


第十七話 蕞防衛戦七日目② 李牧軍の異変

 

 

数時間後。

 

李牧軍の陣中に、待ちに待った報せがもたらされた。

 

「秦国31代大王・嬴政捕縛」

 

の報せである。

 

李牧「よし!」

 

李牧は全軍に攻撃停止命令を出す。

 

捕縛された大王が偽物だろうが本物だろうが、噂が流れて蕞の戦意は完全になくなると判断し、これ以上、味方の戦力が傷つくことを恐れたためだ。

 

李牧は秦王・嬴政の尋問に入ろうとした。

 

南壁の指揮権を幕僚に委ね、幕営に戻る。

 

 

趙兵の間を通っていく嬴政の影。

 

脇を、嬴政を捕らえた趙兵の小隊が固める。

 

 

そして、その一団は李牧の幕営に到着した。

 

李牧「ご苦労様でした。  秦王を私に見せてください。

あとは我々に任せて外で退避していて下さい。」

 

趙兵「「はっ!」」

 

趙兵は外に出て行く。

 

李牧「…………さて、頭を上げさせて下さい。」

 

衛兵「おら、頭をあげろ!」

 

嬴政は頭を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を上げた男は、本物とは似ても似つかないあどけなさを存分に感じさせる少年だった。

逆に王族特有の気品は全く感じさせない。

 

黄金色の鎧を脱がせたらもはや誰が王と信じるだろうか?

 

この少年こそ作戦を考えた章覇その人である。

 

カイネ「偽物だな!  李牧様っ!」

 

カイネは叫ぶ。

 

だが、李牧は。

 

李牧「落ち着きなさい。

カイネ。 

秦王は市井の育ちと聞きます。

あどけなさを残していて、気品を感じなくとも不自然ではありませんよ。」

 

カイネ「李牧様?」

 

カイネはびっくりした顔で李牧の方を向く。

 

李牧の発言はまるでここにいる偽物が本物であると信じているような物言いだったからだ。

 

李牧「貴方が偽物だろうと本物だろうと、私達からしたらそんなのはどうでも良いのです。

 

我々が貴方を本物の秦王として扱うなら、貴方が本物の秦王になるのです。

もし、貴方が偽物で、本物の秦王が本物が自分だと主張しても貴方と秦王は身なりを交換しているはずですから、秦王の身なりは一般兵のそれと変わりないはず。

蕞の民は貴方こそが本物の秦王だと信じるでしょう。」

 

李牧はそう語った。

 

嬴政が蕞の民を奮起させた理由は王だからであり、一個人だからではない推測している李牧。

 

嬴政一個人の実力を推し量り間違えていた。

 

 

 

 

章覇は黙ったままである。

 

李牧「それにしても、何が目的ですか? 

時間稼ぎですか?

 

ずいぶんと小賢しい真似をしてくれますね。」

 

李牧は吐き捨てるようにそう呟く

 

章覇はやはり黙ったままだ。

 

李牧「…………まあ、いいでしょう。

彼を秦王として、そのまま柱に縛り付けて下さい。

見せしめにして蕞の民に降伏勧告を促します。」

 

兵士「はっ!」

 

こうして章覇は縛り付けられる。

 

 

 

 

 

程なく、章覇は縛り付けられて見せしめにされた。

 

李牧「蕞の民達に告ぐ!

我々はこの通り、秦王・嬴政を捕らえた!

我々はこの秦王を交渉材料に使い、咸陽を無血開城させるつもりである!

 

蕞の民達よ 降伏せよ!  秦は滅びたのだ!」

 

南壁の軍は動揺を見せる。

 

 

 

「も、もう………ダメだ」

 

兵士が武器を落とそうとした、次の瞬間

 

「まだだ!」

 

張りのある、聞き慣れた声が蕞に轟いた。

 

嬴政「まだだ!  この俺、秦王・嬴政はここにいる!

皆が皆、全員俺の顔を間近でみた訳ではないだろうが、俺の声には聞き覚えがあるだろう!

 

この俺こそが本物の秦王である!

秦王・嬴政はここにいるぞ!」

 

嬴政は南壁の高楼の屋根の上に登り、平民とかわらない服を身に纏いながらも叫ぶ。

 

程なく

 

「大王様はご無事だぞー!」

 

「間違いない!  蕞はまだ戦える!」

 

「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」

 

蕞の民は瞬く間に戦意を取り戻してしまった。

 

(……………やはり、侮りすぎていたか。

恐ろしい王とはいえ、まだ17の若王と。

ひとたび偽物を本物と喧伝して戦意を喪失させたならば蕞は戦意を喪い降伏すると思っていたが、まさかあの状態から戦意を復活させてしまうとは…………。

 

世の中には、我が国の王のような、暗い王だけではなく、このような英邁な優れた王もいるというのか。

 

だが、目的はなんだ?

 

何が目的なのか?

 

偽物を送りこむことにどんな目的が………?

 

………………?!)

 

李牧「この偽物の秦王を捕らえた兵士達を直ちに呼んで来て下さいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。

 

「李牧様っ!  大変です!

兵糧が!  兵糧の貯蔵庫が全焼しました!」

 

「東側用の兵糧庫もです!  李牧様っ!」

 

「同じく北側に輸送する兵糧も燃え尽きました!」

 

「西側の兵糧庫も焼け落ちました!」

 

相次いで急を知らせる報が李牧の許に届けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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