キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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摎の最期の描写、原作の該当巻が紛失したため、想像で書いております。
ご理解、お願い致します。


第十四話 蕞防衛戦五日目 後編 父の真実

「と、父さん!?」

 

何故、父さんがここに?!

 

「やはり貴方の息子だったのか。

章界殿。」

 

「はい。 間違いなく私の息子です。」

 

「流石、親子の血は争えないものですな。」

 

「いやいや。」

 

「…………どういうことでしょう?」

 

「東壁にえらく強い民兵がいるという噂を聞いたことはないか?

それがこの章界殿だ。」

 

いや、あり得ない。  何故なら………

 

「いやいやいや。 父は足が悪いはずです」

 

「槍を使うからだ。

槍は間合いが広いから問題ない。」

 

「お蔭で東の鬼などという恥ずかしいあだ名までついてしまいました。」

 

父さんは無邪気に笑う。

 

「いや、そもそも父さんが槍を使えるなんて聞いてないんだけど。」

 

「話してなかったからな。

足を傷める前まで私は戦場にいたことを含めて。」

 

「父さんっ!!」

 

「さて、積もる話もあるだろうから、章界殿、章覇。

持ち場に戻られよ」

 

 

 

壁三千人将の配下に促されて僕達は父さんの持ち場に向かった。

 

 

 

「いやぁ、まさか戦を嫌っていたお前がなぁ。

…………心なしか、四日前より大きくなった気がする。

戦は人の成長を促すとはこのことか。」

 

父さんは呑気にそう呟いている。

 

「父さん? 」

 

「どうした。」

 

「父さんは軍人だったの?」

 

「すまない。 話していなかったからな。

いずれは話すつもりだったんだけどな。」

 

「今、話してもらえる?」

 

「いいだろう。」

 

道中、父さんは真相を話してくれた。

 

「六大将軍 って知っているだろう?」

 

「うん。 白起、王齕、王騎、胡傷、司馬錯、そして摎の6人だろ。」

 

「ああ。  私はその摎という6人目の六大将軍に仕えていた。

生涯で100の城を落とした、攻めの達人だ。

私はその護衛兵だったんだ。」

 

「は?」

 

いや、今、蕞に住む足の不自由な、どこにでも居そうな人が将軍の衛兵って。

 

「信じられないだろう? だが事実だ。

お前がまだ生まれる前までの話だからな。

 

あのお方が死んだ年にお前が生まれた。」

 

「ってことは、その足は?」

 

「ああ。 その時に武神と対峙した際にやられた。」

 

武神……………龐煖か。

 

「事故って言ってたじゃないか。」

 

「すまない 嘘だ」

 

「父さん!」

 

「それで、私はあの日………。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

(side  章界)

 

 

 

「皆の者、下がっていろっ!

そいつは危険過ぎるっ」

 

摎将軍はそう叫ぶ。

 

龐煖と将軍の間の兵士は散開した。

 

 

「我、武神、龐煖也。

我は天の災い…………」

 

その怪物と接近していく将軍。

 

「ヌン!」

 

龐煖の刃が将軍の仮面を砕く。

 

「はーーぁっ!!」

 

将軍の刃は龐煖の身体に突き刺さる

 

が。

 

「がはっ」

 

将軍は左肩から切られてしまっていた。

 

「し、将軍っ!」

 

私は立ちすくみながらも叫ぶので精一杯だった。

 

 

普段ならば衛兵だし戦慣れしている身なので将特有の気迫だったりは平気だ。

 

しかし、この怪物は…………異質だ。

 

まさに異物といっていい。

 

私を含めて、周りはただ震えていることしかできなかった。

 

わ、わわ私は……………こ、ここでし、しぬのか…………。

 

そんな思いが私を支配した。

 

その時、脳裏に浮かんだのは甘怜の姿だった。

 

ちょうど戦場に出る前に妊娠が分かったばかりだった。

 

 

 

すまない。  

甘怜……………子供を頼む………いや、まだ私は死んではいない。

 

ならば足掻くべきだ。

 

と、そう考えた次の瞬間、私の身体は動き出していた。

 

「うわあああっ!」

 

「に、逃げろっ!」

 

つられて何人も兵士が動く。

 

私1人が作った、逃亡の波がどんどん伝播していく。

 

こうして無力な兵士が何人も龐煖を背に逃げ出した。

 

 

 

 

だが。

 

「ヌン!」

 

龐煖の武力は圧倒的だった。

 

足元めがけて矛を一薙ぎ。

 

「ぐっ!」

 

足元に激痛が走る。

 

私をはじめ、何人もの足を切られた兵士が転んだ。

 

一方の龐煖は、ついで上から矛を振り下ろしたっ

 

「がはっ!」

 

私のすぐ真後ろにいた兵士が、餌食になる。

 

「お、おい!」

 

そんな声をかけたのも束の間、龐煖は私の目の前にいた。

 

矛を振り上げ、奪命の一閃がまさに振り下ろされる次の瞬間  

 

「ん?」

 

龐煖は後ろを振り返る

 

そこには怒りに満ちた表情の王騎将軍がいた。

 

王騎将軍は咆吼をあげるや、瞬く間に龐煖を追い詰め、身体に深い傷を負わせ、そして谷底に叩き込んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(side   章覇)

 

「それ以来、私は片足を不自由にして戦には出ていない。

もし、あの瞬間、逃げ出していなかったら今、私はこの場にはいなかっただろうなぁ。

しかし、あのとき、逃げていなかったなら…………死なずにいた兵士は何人いたことか…………。

 

人間、一度逃げたらもう逃げることしか出来なくなってしまうんだ。

 

だが、私はこの戦からは逃げたくなかった。

私のせいで、私が最初に逃げ出したせいで死んだ兵士達のように、ご近所さんを見殺しにしたくなかったんだ。

 

それに、何か、罪滅ぼしをさせてもらえる気がしたんだよ。

天が与えてくれた罪滅ぼしの機会なんじゃないかって。

だからこの戦では私は率先して敵を殺し、東の鬼などという恥ずかしい名を貰った。

 

それが、今、ここにいるお前の父親だ。」

 

「………………。」

 

父さん……………。  

 

「失望したか?」

 

「いや。 驚くので精一杯だよ」

 

従兄弟の甘秋と同じように普段の父さんは平和をこのみ、事なかれ主義を貫いていた。

 

だが、その陰には戦争があるとは…………。

 

「……………そうか。

しかし、まあ、そんな私でも、六大将軍は格好良く感じた。

憧れていた。

 

そして、その彼らに共通するものが間違いなく、あの若き大王様にもある。  

とてつもなく大きな夢……とでも言うのか……。

 

それを守りたくなったのもまた、事実だ。」

 

「………………。」

 

 

 

 

父さんの持ち場に着いた。

 

「ん?  章覇、お前、何故、こんなとこに?!」

 

ご近所さんは皆、東壁にいたようだ。

 

「いや、南壁が飛信隊の連携が重要だから、僕は手持ちぶさたになる可能性があるだろうって東壁に。」

 

「とかいって、本当は~?」

 

「もうっ! 怒りますよっ!」

 

「あははははっ。  さて、皆さんも休もうじゃないか」

 

父さんの一声で皆、横になる。

 

 

 

 

かつて、戦場から逃げ出そうとした父さん。

 

今、僕が見ている父さんの姿に、当時を彷彿とさせる陰はない。

 

いっぱしの部隊長の姿をしている。

 

 

 

 

もし、逃げ出さなかったなら、今頃、父さんは王騎将軍の残党軍にいたかもしれない。

 

そして、そんな父さんの人生に影を落とすきっかけを作った龐煖。

 

趙三大天の龐煖とはどのような人物なのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな風に思いを馳せながら、蕞防衛戦五日目を終えた。

 

 

 


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