キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

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第十三話 蕞防衛戦五日目 中編 南壁離脱指令

僕は大王様の陣営から戻った。

 

「りゃあああ!」

 

南壁右翼の本来の持ち場にやってきた趙兵に矛をたたき込む。 

 

が。

 

ガキィン! 

 

矛が受け止められる。

 

精鋭部隊がついに南壁右翼にも到達したのだ。

 

今、相手をしている敵はあまりにも強い。

 

「ちいっ」

 

「がはっ」

 

即座に戻すと、槍の柄を両断して事なきをえた。

 

南壁右翼だと気を抜いていたら痛い目みるとこだった…………。

 

 

 

右手の田永さんの部隊、左手の渕さんの部隊も苦戦を強いられている。

 

あらかた、大王様の存在が敵に露見したからだろう。

 

「章覇兄ぃ………。」

 

弓兵を務める少年兵が話しかけてきた。

 

「いいから、敵を1人でも多く撃て。

今、お前がやるべきはそれだけだ。

わかるね?」

 

「うん!」

 

「よし。 蕞を守り抜くぞ!」

 

僕は再び趙兵を殺しにかかる。

 

 

 

 

 

 

僕達はどうにか五日目の夕日を拝むことが出来た。

 

しかし

 

「大王様は大丈夫だろうか…………。」

 

大王様は腹を貫かれた。

 

出血多量、或いは刺さり所が悪ければ…………。

 

いや。考えるべきではないな。 それは

 

 

 

 

程なく、各地から南の屋敷にたくさんの民兵が寄ってくるのが見えた。

 

大王様は南の屋敷にいるとの噂が流れているためだ。

 

情報が錯綜しており、中には亡くなったなんて噂も流れている。

 

「大王様…………大王様ぁっ………ううっ」

 

周りの民兵も泣き始めている。

 

つくづく、大王様の凄さ。  精神的支柱としての大王様の存在を思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、章覇、夜襲迎撃準備はしなくて良いのか?」

 

民兵からそんな質問がくる。

 

大王様の存在がバレた以上、夜襲で城が落ちた際に、夜陰に紛れて大王様に脱出されたなら李牧は余計な労力を強いられるだろう。

故に李牧は夜襲はしないと見ている。

 

「いや、いらないはずだよ

それに、この状況じゃ、到底…………」

 

大王様の安否に不安の様子を隠せない民兵。

 

今すぐ夜襲迎撃の準備にといってもなかなか難しい。

 

それだけ大王様の存在が不可分だということだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、飛信隊・信が南壁に戻ってきた。

 

河了貂さんも一緒だ。

 

「おーい  章覇はいないか?!」

 

飛信隊・信は何故か僕の名前を呼んでいた。

 

 

 

「はい。」

 

「おお。 章覇。

お前、明日から東壁行け。」

 

は?

 

いや、南壁も手一杯だけど

 

「理由を聞かせてください。」

 

「オレが説明しよう。」

 

河了貂さんが口を挟む。

 

「あ、はい。」

 

「まず、明日から竜川と田有が復帰してくる

加えて飛信隊の損害が少ないのと、明日からは更なる激戦になると思う。

 

そこで、南壁は、飛信隊を主軸とした超攻撃型戦術を採ることにしたんだ。」

 

「超攻撃型戦術?」

 

「超攻撃型戦術では蕞の民兵の出番はあまりないんだ。

かといって、飛信隊同士の連携が重要だから民兵を組み込むことは出来ない。

だから、その、13才の民兵とは思えない実力を有する章覇の実力を活かしきることが出来ないんだよ。

 

それよりは、一番戦況が不利な東壁に行かせるべきだと思う。」

 

「カカカッ。 俺も初陣は13の時だった。

お前は昔の俺を見ているようでなかなか懐かしい気持ちにさせられたぜ。

 

ま、お前ならどこでもやっていけるだろ」

 

「信さん………。」

 

「ま、章覇のが頭いいけどね。」

 

「う、うるせえよテン」

 

「あはは…………ありがとうございます。

信さんに河了貂さん。

 

ところで、一番戦況が不利なのが東壁とは?」

 

父さんが東壁にいるから気になった。

 

「ああ。  風が吹いているんだよ。 

蕞の東から西に。

だから、東壁にとってそれは向かい風となる。

向かい風ってことは、敵が飛ばした矢は………」

 

「より高く、より強い威力でこちらに向かってくる。」

 

「そういうことだ。

だからオレは、秦国随一の強さを誇る精鋭部隊・麃公兵を東壁に置いたんだけど…………麃公兵のいない箇所がかなり厳しいんだよ。

……………一カ所を除いて。」

 

「一カ所?」

 

「どうやら、かなり強い民兵が東壁にいるようなんだ。」

 

「東の鬼…………とか言われている?」

 

「あ、知ってた?」

 

「はい。 昨日の夜襲迎撃の際に、その人に先を越されて、梯子を焼く作戦が出来なくなりました。」

 

「そっか……………やはり血は争えないってことかな」

 

「??」

 

「いや、なんでもない。  とにかく、お前はその東の鬼と呼ばれる強い民兵と合流してほしい。」

 

「分かりました。 今すぐ向かいます。」

 

「よろしく。」

 

 

 

 

 

 

東壁についた。

 

「さて、壁という三千人将に挨拶してこいとのことだったけど…………。」

 

「……………いだっ」

 

僕は大柄な兵士にぶつかってしまう。

 

いや、それにしてもデカいな………この兵士

 

「大丈夫か 坊主」

 

「い、いえ。 それより、壁三千人将はこの先の高楼にいますか?」

 

「あ?  ってえことは、お前があの?」

 

「あの………とは?」

 

「いや、いい。 えらく強い民兵が南壁にもいるって話を聞いていたからな。

明日からこっちにくるって聞いていたが、まさか、こんな坊主とはなぁ…………。

 

壁三千人将の居場所なら間違いねえ。」

 

「は、はぁ。  ありがとうございます。」

 

僕は走り去っていった。

 

 

 

「まさか、あんなガキがな…………。

 

…………麃公様。

やはりこの国ではまだまだ新しい芽が育っていくようです。」

 

その兵士がそう呟くのが後ろから聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

東壁の司令部のある高楼についた。

 

「河了貂さんの指示を受けて南壁から来ました章覇といいます。

壁三千人将はいますか。」

 

「例の民兵か。  少し待たれよ」

 

程なく、壁三千人将が出てきた。

 

蕞の初日で南門で見かけた育ちの良さそうな青年。

それが壁三千人将だった。

 

「お前が貂の言っていた…………。

明日からよろしく頼む。」

 

「はい!」

 

「彼を呼んできてくれ。」

 

壁三千人将は脇の配下に命じた。

 

「はっ」

 

程なくして連れて来られたのは。

 

「お呼びでしょうか。

…………章覇か?」

 

驚いた様子の父さんだった。

 

 

 

 

 


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