翔鶴ねぇ☆オンライン!   作:帝都造営

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お久しぶりです。脳内劇場でズイズイしながら3-5編を考えていたのですが、ふと思いついたので番外編と参ります。

このシリーズがVR艦これのシステム理解に役立ってくれれば幸いです。


【番外編】海燃ゆ!空燃ゆ!眼下燃ゆ!それが艦隊これくしょん!
駆逐艦戦記1-1


「ぶいあーるかんこれ?」

 

 それは、ある晴れた日の昼下がりであった。数学小テストのクラス平均がまったく振るわず先生がため息をついた時だった。

 

「そうそ、これがめっさおもろいんだわ」

 

「はぁ……」

 

 親友である彼はそう言うが、まあ何がどう面白いのか説明されずに言われても分かるわけがない。

 

「あーこの反応はあれか、おまえ『艦これ』を知らないな?」

 

「うん」

 

「だぁーーーーっ、そりゃそうなるよなぁ!」

 

 そう言いながら大げさに頭を掻く仕草をしてみせる親友。

 

 

 もちろん、先生に怒られた。そりゃホームルーム中ですもの。

 

 

 

 でまあ、放課後親友にいろいろ布教されてしまった俺は、ひとまずVR艦これなるものをインストールしてみることにした。St○○mでセールしていたので助かった。

 

 だいたい、VRゲームというのは値段が高くていけない。厚生省だか電郵省だか知らんけども、とにかくそういうところから認可を受けるのはとても大変なのだそうだ。しかし認可を受けなければフルダイブシステムは稼働できないようになっている。

 先生曰く精神汚染だとか違法版がどうとからしいが……まあ細かいことはいいのだ。

 

 

 よし、インストール完了。

 

接続開始(リンクスタート)!」

 

 

 

 

 親友の教え・そのいち

 

”とりあえず好きな子を探すべし!”

 

 なんでも、このゲームでは一つのアカウントで複数の艦娘(プレイヤーキャラ)を登録することが常識なのだそうだ。だからとりあえずいろいろ試すべし、とのこと。

 主な理由は、艦種によってプレイスタイルがまったく違うから、だそうだ。

 

 彼が言うには……遠距離型の空母、中距離型の戦艦、近接戦闘特化の駆逐、中距離から近距離まで多彩にこなす巡洋艦、そしてゲテモノ潜水艦と大別されるらしい。

 

 

 とりあえず、軍事的な意味で評価してはいけないそうだ。駆逐艦が戦艦を沈めるとかざらにあるそうなので……最近の駆逐艦は最高だからともかく、果たしてWWⅡ時代の駆逐艦が同年代の戦艦を沈めることなどあり得るだろうか? これ反語表現。

 

 

 

「うーん、どの艦種にしようかな……」

 

 

 親友の教え・そのに

 

”迷ったらランダムにして見ろ!”

 

 艦これというのは史実に基づいているそうだ。だからある程度プレイに硬直性が出てしまう。それを避けたければキャラの選択をランダムにしてしまえばいいそうだ。

 

 

 

「えっと……艦娘はランダムで、艦種もランダム、これだと確率論的に駆逐艦になる可能性が高まるから、レアリティを金で固定するんだっけ……というかレアリティってなんだ? 初めからほとんどの艦娘が選択できるならレアリティとか関係ないだろうに……?」

 

 

 条件指定は終わり。では実行をクリック。目の前に用意されたステージが輝く演出をもって、俺の目の前にしゅわあっと少女が現れた。目を閉じたまま眠っている少女。

 

 え……いまからこの子になれと?

 

 

 親友の教え・そのさん

 

”諦めろ! 女しかいないぞ!”

 

 

 えぇ……。

 

 

 

 

 陽炎型駆逐艦 時津風

 

 

キャラメイクを終了してよろしいですか? Y/N

 

 

 

 

 ま、まあ親友にちょっと付き合うだけだし。まあ仕方ないか。逆に考えてみればつるぺたでよかったとも言える。むしろ当たりだよ。ついてないだけと考えればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 Yesを選択、俺の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 普通、VR空間の肉体情報はゼロから構築される。体格の異なる身体を動かすことは出来ないから、脳みそに接続される神経から全部VR空間で作ってしまおうということだ。

 脳神経工学における複数末端神経接続適応能力(マルチターミナルナーヴコネクティビティ)を利用したものらしいが……要約するとVR(ここ)にいる俺は現実(リアル)の俺とも違う存在として存在するのである。

 

 何を言ってるのか分からねえとは思うが、俺も何が起きているのか分からねぇ。俺はゲームをプレイすることにより催眠術だとかそんなチャチなもんじゃない、現代科学の恐ろしさの片鱗を味わっているのだ……。

 

 ともかく、そういう風にして俺たちは自由に「なりきり」することが出来るのだ。

 

 

「ん、んぅ……」

 

 

 目が覚めると、そこは雪国だった。なんてことはなく。

 

 

「ここは……どこだろう?」

 

 俺の出す声はずいぶんと幼く細いものになっていた。身体も小さくなっているせいかいつもとなんだか違う感じに世界が見える。

 

 うーん、性転換ゲーはあんまり好きじゃないんだよなぁ。そうは思いつつもついつい胸やお股に手が伸びてしまうのは仕方がないんです先生。ほ、ほら俺は現状を確認しているだけですし……あ、胸も息子も無事ありませんでした(無事とは言っていない)。

 

 ……というかあれか、傍から見ると俺はもう幼女になっちゃってるのか、とんでもないゲームだなこれは。よくもまあ認可が下りるものだ。電郵省は複雑怪奇。

 

 

『ようこそ! ”艦これ”の世界に!』

 

 と、目の前になんだかちみっこいのが降りてきた。二頭身くらいだろうか? 一昔前の魔法少女モノに出てきそうな先端に星の付いたステッキを持っている。

 

『私は妖精! そしてあなたは艦娘です!』

 

 なるほど、チュートリアルというやつだな。このちみっこいのがこの世界についていろいろ説明してくれるのだろう。

 

 

『では! まずは出撃してみましょう!』

 

 それだけ言ってちみっこいのが持っている星付きステッキを振ると視界がぱあっと明るくなった。これあれだ、強制転移だ。

 

「え? ちょま――――」

 

 

 

『気分はどうですか?』

 

「最悪です。主にあなたのせいで」

 

『それじゃあ戦闘について説明します!』

 

 人の話くらい聞いてくれバカAIさんよぉ……。

 

『さぁ! 今あなたが身に着けている機械を確認してみてください』

 

「身に着けている……ってあれ?」

 

 そう妖精に言われて、俺は二つのことに気づく。

 

 

 ひとつ、ここが海のど真ん中であること。

 ふたつ、俺の身体、というか背中にめちゃくちゃ大きな何かがくっついているということ。

 

「こ、これっていったい……?」

 

『あなたが今背負っているのは”艤装”です』

 

「ぎ、そう……」

 

『それを使って、あなたには深海棲艦と戦ってもらいます!』

 

「は、はぁ……」

 

 

 なるほど、わからん。

 

 

『ではさっそくイ級をやっつけてみましょう!』

 

 次の瞬間、目の前の海面が爆ぜる。

 

「わぁっ!」

 

 思わず飛びのき、尻もち。お尻がびちょっと濡れる。うぅ。気持ち悪い。

 というか聞いてはいたけどほんとに海面に立ってるんだね俺。海面で尻もちついてそれから立ち上がりつつ、やっぱりとんでもないゲームだと再認識。

 

『さあ、あなたのちからでイ級を倒しましょう!』

 

 妖精がそう要請。妖精だけに……じゃなくて、とにかく倒せと言っている。目の前にはなんだか強そうな敵キャラ、イ級。身体は俺よりもずっと大きくて、ルビーみたいな目が輝いている。

 

「え、ええっと……」

 

 こういう時はほら、あれだ、メニューだ。メニュー画面展開、装備という項目があるのでそれを選択、主砲魚雷機銃……主砲だ、機銃なんかよりずっと強い、砲兵! 戦場の女神!

 

 選択すると、手元に手提かばんみたいな箱が現れた。これを使って攻撃すればいいに違いない。

 

 構えて照準。これだけならFPSで何度もやった。簡単だ。ターゲットをセンターに入れてスイッチ。

 

「それっ!」

 

 どんって軽い音。次の瞬間イ級が爆ぜた。あれ、意外と弱い……。

 

 

『お見事! さあ次です!』

 

 まだ続くらしい。まあ、チュートリアルというからにはたいして強くはないだろう。

 

 ふ、フラグじゃないし。

 

「頑張るぞ!」

 

 そう両手を振り上げてみたり。この娘の幼さを考えれば、なかなか絵になっているんじゃなかろうか。

 

『さぁ、敵の主力艦隊が現れました!』

 

 え、主力。

 

 主力かぁ……。

 

 

 

「無理無理無理っ! 勝てるわけないじゃん!」

 

 

 主力ってことは一番強いんでしょ!? 始めたばっかなのに勝てるわけないじゃん!

 

『頑張ってくださいね!』

 

 その言葉と同時に再び爆ぜる海面。流石にまた尻もちをつくようなことはないけれど、問題なのはその数だ。全部で四つ。多すぎない?

 

 

 うわぁ、なんかいるよ。さっきのイ級とかいうのと全然違う雰囲気のやつ。なんかすごい強そう。

 

「……」

 

 で、でも……だ、大丈夫。さっきはイ級を倒せたんだ。それを四回やればいいだけ!

 

「く、くらえぇっ!」

 

 砲が火を噴く。即座に動き出す四つの影、真後ろに水柱。

 

 

「しまっ――――」

 

 

 即座に殺気を感じて飛びのく、いやいやいや、これゲームじゃないの!? なんでこんな殺されそうになってるの?!

 

 飛びのいた先にはもちろん海、着地に――――失敗。

 

 

 あ。詰んだ詰んだ。

 

 

 と、とにかくさっきの砲を……目をこすりながらなんとか起き上がると――よくよく考えると海の上で立て直せたのってもの凄いおかしいんだけど――当然というべきか砲はどこかに行ってしまっていた。

 

 そして、目の前には四つの影。

 

「えっと……て、停戦! 停戦しませんか?」

 

 両手を上げて降伏のサイン。これで皆幸福!

 

 

 直後発砲。

 

 

「デスヨネェェェェェェェ――――!!」

 

 逃げるが勝ち! 逃げるが勝ちだって! 偉い人もそう言ってたからぁ!

 

 

 

Vater unser im Himmel, geheiligt werde dein Name.

 

「!?」

 

Dein Reich komme Dein Wille geschehe,

 

 え? 何この声?

 

wie im Himmel, so auf Erden.

 

 次の瞬間、影の一つが爆ぜた。

 

Unser tägliches Brot gib uns heute.

 

 真正面ではない。側面だ。側面からの攻撃だ。

 

Und vergib uns unsere Schuld,

 

 側面奇襲に反撃を試みようとする三つの影。

 

wie auch wir vergeben unseren Schuldigern.

 

 それを嘲笑うかのように水しぶきが上がる。何かが横切ったのだと気づくころには遅い。

 

Und führe uns nicht in Versuchung,

 

 崩れ落ちる一番強そうだった異形。もはや過去形。

 

sondern erlöse uns von dem Bösen.

 

 残されたのはイ級が二つ。

 

Denn Dein ist das Reich und die Kraft

 

 まさか敵うはずもなく。

 

und die Herrlichkeit in Ewigkeit.

 

 

 『それ』はさっと()()()()()()()()()()()()を向け――――。

 

 

Amen.

 

 

 敵を粉砕せしめた。

 

 

 

 

「えっと……」

 

 誰だろう。あまりにも情けないけれど。まずやってくれたのが誰なのか分からない。俺を助けてくれた……のであろう彼女は今の俺の身体であるこの娘(ときつかぜ)と同じ格好をしていて、身に着けた箱――艤装だっけか――も似ている気がする。

 

 特徴と言えば頭についてるよく分からないラッパ? みたいなの。あ、あとズボン履いてない。多分あれシャツの下パンツ一丁だよ。どこの「恥ずかしくないもん!」だよ……別作品じゃん。

 

 

「え、えっと……」

 

 

 と、というかなんで佇んでるんだろう。この人。カッコいいとでも思ってるんだろうか。どうせズボン履いてない時点で全く頼もしくないというか、なんというか……。

 

 

 と、とりあえず気づかれないようにメニューを起動。検索で艦娘の名前を調べる。

 

 

 

 陽炎型駆逐艦 雪風

 

 

 

 なるほど。名前は分かった。同じ格好をしていたのは同型艦だからだったのだなるほど。

 

「あ、あの……ありがとうございました、雪風s

丹陽( たんやん)

 

「……へ?」

 

 雪風さんが振り返ります。

 

「私のことは丹陽( たんやん)と呼びやがってください」

 

「えと、あの……?」

 

 

 

 な、なんかすごい変なヒトに絡まれてしまったようです……。

 

 

 

 

 

 ちなみに、雪風こと丹陽が戦闘中に口走っていたのは祈り文句だったらしい。

 

 とにもかくにも、こうして俺の時津風ライフが始まったのである。

 










――――





本日を以って、貴様らは無価値な鉄屑を卒業する!
これより貴様らは帝国海軍駆逐艦である。

戦友の絆に結ばれる。貴様らのくたばるその日まで。海軍は貴様らの兄弟であり、戦友だ!
これより貴様らは戦地へ向かう! ある者は二度と戻らない。
だが肝に銘じておけ。

そもそも駆逐艦は沈む。沈むために駆逐艦《われわれ》は存在する。


だが――――二水戦は永遠である!
つまり――――貴様らも永遠である!


故に二水戦は、貴様らに永遠の奮戦を期待する!!







 というわけでタンヤン・デグレチャフ少佐。



 ド イ ツ 艦 で や れ !

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