本日の「電子と脳の記憶学Ⅱ」はお休みとなります。代講日は後日お知らせします。
とある晴れた日のお昼時
「休講か……」
のんびりと流れていく雲。大学のキャンパスは今日も平和そのもので、四階建てのビルから見下ろす中央庭園を学生たちが三々五々と歩いてゆく。
それにしても、休講か。となると暇だ。非常に暇だ。理系学生というのは平日ずっとぶっ通しで勉強させられるものだ。もちろんそれは嫌ではない。学徒の宿命だ、受け入れよう。
だが、こうして突拍子もなく暇になってしまうと辛いものだ。空から差す光がさわやかに降り注ぎ、ちりちりと服が焼かれる気分。暇だ、大変暇だ。
そして気が付いたら、首元へと手を伸ばしていた……っておっといかんいかん。ここは外だぞ? いくら脳電子工学の発展がいつでもどこでものフルダイブを実現したとはいえ、だからといってここは大学だ、公共の場だ。そして私はこの国の未来を握る工学学生だぞいい加減にしろ。
まわりを見渡す。三号館の屋上にはソーラー発電パネルや昼食をとる学友たちがいて、もちろん私のような人間には構っているはずがない。いやしかし、それでも私は周囲を気にせずにはいられない。
でもまあ……少しくらいなら、いいかな。と思うのだ。私が多少VRに潜っていたって誰も気にしやしないだろう、というか現に、誰も見ていないじゃないか。
よろしい、ならば
私は首元に装着された脳神経回路接続用デバイスを軽くタッチし、小さく呟く。それを合図に視界が真っ白になる。0と1だけで構成される電脳の世界へと飛び込んだのだ。
艦隊これくしょん。というゲームがある、いや小説だっけ? 映画だったような気もする。漫画だっけか。まあともかく、そういう作品があるのだ。21世紀初頭に流行った擬人化系作品のひとつだ。
そう、擬人化だ。いろんな物を人間に例えてしまうのだ。歴史の教科書を見れば列強諸国が擬人化された風刺絵を見ることが出来るだろう、ああいうのだ。
……といっても、21世紀初頭における日本においての擬人化というのはなんでもかんでもオンナノコにしてしまう文化のことを言うのだ。
で、艦隊これくしょんにおける擬人化の対象は軍艦だ。
そう20世紀中盤の第二次世界大戦に参加した軍艦――あ、例外もあるにはあるが――を擬人化したのだ。
うん。でまあそれが爆発的人気を誇ったわけだ。出来ることならその最盛期に学生でありたかったものだ。
まあもしその時期に学生だったら今頃社会人でとても忙しくだろうし、今の生活は送れなかったかも知れないが。
そんなことを考えている間にも読み込みは進んでいく。ログインは頭に少し文字列を浮かべてみれば終了、思考同期型入力インタフェースを使うまでもない。
タイトル画面表示、モード選択はもちろんロードゲーム。ネットワークへの接続を確認し――いつも思うんだが、なぜ大学で艦これにアクセスできるのだろうか――そして神経と身体データとの調律が始まる。
……あぁ、察して欲しいがこれはVRゲームだ。Virtual Reality(バーチャルリアリティー)から頭文字を取ってVRと表現するこのゲームジャンルは、要するに仮想のものとして構築された第二の現実世界で行う体感型ゲームだ。
で、艦これには登場キャラが擬人化された艦娘――つまり女性だ、いや艦船は女性名詞なのだから当然だ――
これ強制的に女の子しか選べないんですよね。性別。
見知った天井だ。それは何度も見た天井。
私は横になっている。ふわふわの布団を被ってる。え、始まりの街から始めろ? いや、普通に考えてくださいよ。朝起きたら布団に入ってるのが普通じゃないですか。
「うぅん……」
いつも通りの高めの声。
思考ははっきりしているのだけれど、どうにも身体全体に力が入らない。調律が不全だから? いや違う寝起きの倦怠感です。皆さんだって朝は少しでもお布団に入っていないものでしょう。ほら、少し横になったままもぞもぞ動いてれば大丈夫。
すいっと時計を見ます。時刻は標準時。実際には民用VRには30倍までの加速が許可されているので時計が厳密な時を刻んでいるとは限らないのだが、しかし私にとっては一秒は一秒です。時の感じ方は人それぞれなのです。
……今日は、どうしましょうか。まあ特にすることもないですし、
ですけど、折角ですし起き上がりましょう。誰もいないのならジムで運動でもして、この前買った水着でも着てプールで泳ぎましょう。邪魔されないからこそ好き勝手やりましょう。ええそうしましょうとも。
……え、お前は誰だ。ですか?
申し遅れました。私、翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴です。一航戦二航戦の先輩方に、少しでも近づけるよう、瑞鶴と一緒に頑張ります。
案外、私はこのゲームにハマってたりしている。
つまりどういうことかというと、翔鶴ねぇになりきってネカマプレイをしようという作品。
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