一対の魔王   作:ウィナ

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年始早々、虫垂炎(いわゆる盲腸)で入院していました。
みんなもきをつけようね!


7話 格差

結果を見たとき我が目を疑った。

 

後輩という贔屓目を差し引いても白糸台トップ5には確実に入るであろう淡が、何も出来ずに一方的に完全敗北を喫したのだ。

 

それも咲や衣の仕業(魔王の蹂躙)ではなく、特別目立った能力者じゃないと思っていた龍門渕透華の力で。

 

(…そう言えば)

 

ここに来てようやく思い出した。

今年のインターハイ団体戦、その準決勝。彼女が同じような状況になっていたことを。

その対局後、彼女は張り詰めた糸が切れたかのように気絶したそうだ。

 

(あの時は能力が暴走しているような印象だったけど…これは違う)

 

明らかに意図的に能力を行使している。

だが、代わりに効果時間が短くなったように感じた。

 

(多分半荘ぐらいで効果が切れているのだと思う。それに気付いていれば…)

 

後半、淡はなされるがまま点棒をむしられ続けていた。

能力が使えなかったのではなく、使っても無駄だと諦めていたのだろう。

普段は諦めが悪い方だと思っていたが、これは仕方ないところもあるだろう。

 

…自分の信じていた力が、為す術もなく消し飛ばされたのだから。

 

そうして照は確信した。

来年のインハイ最大の壁、それは咲個人ではなく…

咲を含めた『龍門渕高校そのもの』であると。

 

同時に恐怖した。

力を挫き、心を折り、全てを根こそぎ奪っていく。

その為に仲間の力を使う。

咲がより狡猾に、そしてより強くなっているという事実に。

 

「おーい、淡ちゃん生きてるー?」

 

対局が終わり、意気消沈する淡に声をかける咲。

こうなった原因の一つだと言うのに反省の色は微塵もない。

当然だ。私が淡をボコボコにするように言ったからここまで叩き潰したのだ。

咲はそういう人間だ。

 

透華は、途中でこの対局の意図をなんとなく察していたようだが、

わざわざここまで痛めつけなくても良かったのではないか、と渋い顔をしている。

 

衣は試したいことが試せて満足しているようだ。

基本的に咲と思考回路の似ている衣もまた、淡を気遣うような素振りはない。

 

淡は何も言わずただ俯いたままだ。

 

「…淡」

 

俯いたままの彼女に肩を貸し、なんとか立ち上がらせる。

 

「えっと、淡ちゃん大丈夫かな?」

 

「咲」

 

「えっ、何?」

 

 

 

「来年のインハイ、楽しみにしてるから」

 

 

 

そう言い残し、私達は帰路へと就いた。

 

--------

 

帰りの新幹線の中でも淡は落ち込んだままだった。

 

飲み物も口にせず、ただひたすら俯いたままであった。

 

だが、ここで凹んでいても何も動かない。

 

 

「淡」

 

「…何」

 

「淡は負けた」

 

「…分かってる」

 

「…私でも勝てないかもしれない」

 

「…だよね」

 

あんなものを見せつけられたのだ。

正直な所、自分に勝てる学生は妹だけだろうと思っていた私も大きなショックを受けている。

でも、それを認めて、そこから導き出される真実と向き合い、

淡を、自分を奮い起さなければならない。

 

「でも…」

 

「…?」

 

「あれが龍門渕高校の()()

 

「…副将じゃなくて?」

 

「今年は副将だった。でも、来年は咲もいる」

 

「…()()より強いの?」

 

その疑問は当然のもの。

淡は、いや、私も途中まではそう思っていた。いや、()()()()()()()()()

 

「あの能力(ちから)は盤面を支配するタイプの能力」

 

「…!」

 

淡は頭が良くはないが察しが悪いわけではない。

ここまで言えば言わんとしていることは理解しているだろう。

 

一つ、『龍門渕透華の能力は自身の能力である程度の抵抗ができる』こと。

 

一つ、『自分たちでは抵抗できないその力に、咲と衣(あの二人)は抵抗出来る力を持つ』こと。

 

それはつまり、龍門渕透華という壁を隔てた、圧倒的な力の差を(間接的に)見せつけられたということ。

 

「…照?」

 

震えが止まらない。覚悟していたはずなのに。

 

何処かで咲のことを低く見積もっていたのかもしれない。

 

小学校・中学校と公式非公式問わず、大会には一切出なかった咲。

それと対照的に力を示すように、タイトルを取り続けていた自分。

いつしか高校生一万人の頂点などと呼ばれ、雑誌にすら乗るようになった。

だから『今なら咲にだって勝てる』などと夢見てしまっていたのだろうか。

 

震えが収まらない。まるで道化ではないか。

考えてみれば当たり前なのだ。自分だって強くなったのだ。

咲だって小さい頃より強くなっているに決まっているはずなのに。

自分は姉だから、妹の成長を喜ぶべきはずなのに。

その成長が、何よりも恐ろしかった。

 

 

「…照」

 

震えを押さえるように、淡の手が重なる。

手を伸ばされた方を見ると、淡が私の顔を覗き込んでいた。

 

「…ごめんなさい」

 

なぜ謝るのか。本来なら私が謝るべきなのに。

淡を倒してほしいと頼んだのは自分だ。言うなれば淡を落ち込ませた原因は自分なのに。

 

「淡のせいじゃない。全部私の…」

 

「そうじゃないよ、テル。…私のためだったんでしょ?」

 

…照以外の強い相手と戦わせて、普段の態度を改めさせる。

この小旅行にそういう意図が含まれていることに、薄々気付いていたそうだ。

…ますます自分が道化であるようだった。

 

「私、自分は一番強いと思ってた。地元の中学じゃ敵なしだったし、監督の知り合いのプロ?にも勝てたし…」

「でも白糸台でテルと出会って、一番じゃないって気付いた。」

「だけど、一番はテルで、自分は二番目だって、ずっと思ってた。」

「だから、テル以外と打つのに意味が無いと思ってた。ごめんなさい」

 

「…それは、帰ったら菫に言ってあげて」

「…うん」

 

「でも、テルも一番じゃなくて、一番は誰なのか分からなくて」

「だからテルはいつも強くなろうとしてたんだって、今やっと気づいて…」

 

「……」

 

「ええと、なんて言えばいいかな…と、とにかく!サキに勝つために一緒に頑張ろうって言いたかった!」

 

「…勝つつもりなの?」

 

「当然!サキに勝てばテルは間違いなくナンバーワン、でしょ?」

 

「…そうだね。今までだってそうなるべく練習してきた」

 

「私もこれからはサボったりしない!打倒龍門渕!」

 

「…うん、ありがとう。でも、二人だけじゃない」

 

「?」

 

「皆で、白糸台高校麻雀部一丸となって頑張って、倒すの」

 

「…!もちろん!」

 

 

 

…気がつけば、震えは止まっていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「…帰っちゃったね、お姉ちゃんたち」

 

「来年のインハイが楽しみ、か」

 

「楽しみにされちゃ、何もしない訳にはいかないよね。透華さん、さっきの送っておいてくれますか?」

 

「別に構いませんが…いいんですの?」

 

「いいのいいの、そうでなきゃ()()()()()もん、ね?」

 

「咲も愉悦の何たるかを心得ているよなぁ。今日は泊まりで打っていくか?」

 

「いいね~、この昂ぶりを発散したかったんだよね~。でも泊まりは無理かな」

 

「(´・ω・`)」

 

「衣ったら…」




白糸台の二人襲来編は一段落。
さ、ここから頑張って入学編、そして長野編に繋いでいくぞー


あ、ちなみに先のネタバレになりますがオーダーについて一つだけ

龍門渕透華は中堅ではありません』(うみねこ感)

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