一対の魔王   作:ウィナ

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…あれ?お気に入り登録1000件超え?(投降後に気付いて手が震える)
UA4万超え?(以前1万突破時のときの日付を確認して二度見)

いや本当に、ありがとうございます。
こんな拙い作品ですが細々と続けていきますので今後ともよろしくお願いします。


6話 治水

1局様子を見て、咲は姉の後輩である淡の能力をほぼ見抜いていた。

高確率で初手テンパイを引き込み、ダブリー後特定のタイミングでカンを入れると裏ドラがもろ乗りする。

分かりやすい跳満連発能力。あーゆーシンプルなのはシンプル故に強力だ。

あのまま適当に大会に放り込んでもそれなりの順位ならすぐに取れるだろう。

 

だが、シンプル故に対策も容易。

 

簡単に思いつく対策だけでもダブリーさせない、されたとしても和了らせない、和了られる前に和了る、などなど…

 

咲ならカンでツモをずらしてツモ和了りなどさせないし、カンされたときの嶺上牌を狩れる。

衣ならそもそもダブリーさせないし、されても和了り牌など引かせない。

 

そうなれば淡などその辺の有象無象以下。

 

()()()()()()()()()()()()()()に咲も衣も負ける要素は微塵もないのだ。

 

故に衣に譲った。

 

そもそも初期配牌が弄れるのなら役満聴牌したり天和地和ぐらいやってほしいものである。

まあ、そんなことされるのはゲームの中だけで十分。

「お前等やる気ないだろ」とか「本気でぶつかってきやがれ」と言われ何回ノーコンクリアを妨害されたか。

 

…ともかく、淡は咲が戦うような相手じゃない。

衣も同じ意見だろうし、この程度なら衣にも勝てないだろう。

 

 

だから、衣は言葉を続けた。

 

◆ ◆ ◆

 

「…とはいえ、すぐ終わらせるのも興醒めであるな…一つ、()()を試すとしよう」

 

隣りに座る赤リボンの少女がそう言う。

茶番は終わり?興醒め?

たった今自分に負けた相手にそんなことを言われてなんとも思わないような淡ではない。

 

「ふ、ふん。全力じゃなかったから負けたなんてよくある言い訳だよね」

 

少女が放つプレッシャーに少し震え声になっている自分を抑えながらそう言ってやる。

少しでも強気でいないとこのオーラに押しつぶされそうだった。

そう感じていると正面から声がかかった。

 

「それはお互い様でしょ、淡ちゃん」

 

それは咲の声だった。

その声に顔を向けると笑顔の咲がいた。

いや、笑顔は笑顔なのだが目が笑っていない。

 

それを見た瞬間、底知れぬ恐怖が体を貫いた気がした。

 

手を抜いていたのがバレたから?それ自体は問題じゃない。

隣の少女(天江衣)のオーラに怯えている?そうじゃない。

目の前に座る照の妹、宮永咲。その不気味な笑顔が恐ろしかった。

 

だが、やっていることは麻雀であって脅し合いなんかじゃない。

だから強気に出てこう返した。

 

「手抜きの私に負けてたのに、全力を出せば私に勝てるって言いたい訳?」

 

「やれば分かるけど…衣ちゃんが()()を試したいって言うし、そっちが先かな?」

 

要領を得ない返しをされ、少し呆然とした。

それを尻目に咲は

 

「それじゃあ、お願いできますか?」

 

と一言、隣りに座る金髪の女性に声をかけた。

 

◆ ◆ ◆

 

「あれ…ですわね?」

 

金髪の女性、龍門渕透華がそう答えると少し渋い顔をして言葉を続けた。

 

「あまり気乗りはしないんですけど…私も試してみたい気持ちはありますわね」

 

「ぜひ、見せてあげてください」

 

そう言って咲はこちらを見た。淡ではなく私に何かを見せたいということなのだろうか。

 

 

 

咲の言葉を受けて透華は一つ息を吐き、右手で髪を梳き、()()()()()()

そうして少しすると、瞳は視点が定まっていないような虚ろな、それでいて透き通ったものへと代わり、

場の空気が重くなっていくのをひしひしと感じた。

 

 

何かが起こる。

 

 

淡もそれに気付いているようで引きつったままの顔が少し強張る。

私も何が起こるのかさっぱり分からない。こんなことなら照魔鏡を使っておくべきだったかもしれない。

 

ただ、これだけは分かる。

 

 

 

 

淡は負ける

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「…さて、透華さんの準備もできたようだし…始めようか」

 

そう咲が言って始まった二戦目。

目の前で様子が急変した相手を警戒しないほど、淡は馬鹿ではない。

とはいえ元は数合わせだと思われる相手。無意識にも評価を低く見てしまう。

 

(雰囲気がいきなり変わった…何をされるか分かったもんじゃないし、さっさと終わらせよう)

 

故に速攻戦術を取ろうとした。

そうして自分の配牌を確認し、絶句した。

 

(…聴牌()ってない!?)

 

いつも通りダブリーをするつもりだった。だが配牌は聴牌どころか3向聴はある。

 

(分からない。この人はそういう能力持ちってこと?じゃあなんで最初から使わないの?)

 

勝つためなら使えるものは使うべきであるし、ましてやそれが相手(わたし)への対抗能力(アンチスキル)なら積極的に使うべきだったはず。

いや、そもそも透華自体からはそんなに強そうな気配が無かった。

 

(私の能力が抑えられるレベルの能力者なら、私や照が気づかないはずがない…発動に条件がある?)

 

例えば右目を隠す行為自体がトリガーだったり、1局捨てる必要があったり…

何れにせよ自身の能力の及ばぬ現状に歯痒い思いをしていた。

 

「はい、淡ちゃん。それロン」

 

「…えっ」

 

考え事をしていたからと言うと言い訳のように聞こえるが、

あまりにも透華を警戒しすぎていて他が疎かになっていた。咲に振り込んでしまった。

 

(敵味方を区別して対象を選べる…?だとしたら理不尽すぎない?)

 

もし狙った相手にだけ能力封鎖ができる能力だとしたら、私どころか照ですら勝てるか怪しい。

もはや咲や衣どころではない、一番警戒するべきなのは透華である。

 

そう、淡が()()()してしまうこともまた、魔王達の読み通りであったのだ。

 

◆ ◆ ◆

 

 

…衣と咲が初めて対局した時、目覚めた龍門渕の血。

 

一が「冷やし透華」と呼称し、その後に誰が言い出したのか「治水モード」と名付けられたそれは、

 

『対局者()()()能力の封鎖』+『自身の処理能力の大幅向上(デジタル打ちの最効率化)』という化け物じみた能力であった。

 

しかし、発動条件が不明でかつ、発動後対局が長引けばほぼ確実に透華自身が倒れるといういつ現れるかわからない諸刃の剣のような能力でも()()()

 

 

故に、去年のインハイで冷やし透華にビビった他校が勝ち逃げをした時に咲は考えた。

 

「任意のタイミングで短時間だけ発動できたら強いだろうなぁ…」と。

 

 

 

 

だから、出来るようにした。

 

 

 

 

今の透華は、『軽く息を吐き、右目を隠すことで、4局だけ治水モードに移行できる』のだ。

 

 

1日1回だけ、それも4局のみという制限こそあれど、任意に発動できる様になった治水モードに、

透華本人は当初「こんなの私の麻雀じゃありませんわー!絶対に使いませんわよ!」と言っていたものの、

咲や衣による「相手を序盤で完全に押さえつけた上で、後半大きく和了って完全勝利をすると目立って格好いい」という説得(せんのう)を行った結果、渋々ではあるが頼めば使ってくれるようにはなった。

 

 

そうして、「1日1回強制能力封印麻雀」が遊べるようになった魔王二人は、喜々としてその能力を上回るだけの力をつけようと『練習』をし始めたのだ。

その結果、無効化とは行かずともそれなりに抵抗できるようになった二人にとって冷やし透華との麻雀は「最新AIを搭載した麻雀ソフトとの対局」みたいな状態になっている。

 

 

だが、それを知るのは龍門渕高校麻雀部のメンバーと咲のみ。

それを知らぬ淡と、それを後ろで見ていた照の心中は動揺と困惑で入り混じっていた。

 

----------

 

対局終了

咲  32000 +2

衣  28000 △2

淡  -2000 △32

透華 42000 +32

 

 

河がもたらすは平和な一時か、或いは。


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