中々纏め切れず強引な進め方になってしまったかもしれません。
怪物二匹は互いの限界を探るように力を解放していった。
嶺上開花と海底摸月が乱発される異常空間は、回数を重ねるごとにその荒々しさを増していく。
無論、数をこなせば時間が立つ。もうすぐ日も沈み、衣の実力が発揮できる時間帯になる。
衣が支配を強め咲の嶺上開花を阻止し海底摸月を和了れば、
それに応えるように咲も支配を強め、嶺上開花を和了る。
二人共ツモ和了りなので余波で透華か一が飛ぶ。
(卓を重ねるごとに支配が強くなっていく…単にこちらを試しているのか、はたまた条件を満たしつつあるのか)
咲は現状を楽しんでいた。
目の前の御馳走は想定以上に美味であった。ここまでの強者はそれこそ姉以来である。
(まあ、相性の関係で私が負けることはまずあり得ないね。私に勝つなら王牌に直接干渉するか、配牌から槓材を壊すぐらいしてくれなきゃ)
とは言えこんな御馳走、次にありつけるのは何時か分からない。
咲はこの至福の時間を長く愉しむため、全力を出さなかった。
◆ ◆ ◆
(宮永咲…間違いなく衣と同じ領域に立つ存在)
目の前の中学生雀士は全力を出していないとはいえ自分の支配を破るほどの力を持ち、破天荒な和了りを魅せてくれる。
過去にこれ程の打ち手を相手にしたことのなかった衣は、歓喜に震えていた。
その一方で
(…彼女は、衣の莫逆の友となってくれるだろうか)
そう思っていた。
全力を出した時、自分はまた恐れられ距離を置かれるのではないか、今までがそうだったように…
その恐怖は衣に全力を出すことを否定させた。
しかし、その楔は思わぬ方向から壊されることになる。
◆ ◆ ◆
地平線に日が沈み、満月が顔を出し始めた頃。
その変化は些細なところからだった。
「カン」
今日何度目か分からないカンから、嶺上牌を手に取り咲は疑問符を浮かべた。
(あれ、有効牌じゃない…?)
嶺上牌が有効牌ではないことなど通常の麻雀では普通であるが、咲の麻雀に普通の思考は通用しない。
槓材が集まり、嶺上牌として有効牌が手元に来る。それが咲の普通なのだ。
(天江衣さん…長いし呼びづらいし衣ちゃんでいいか。これは衣ちゃんの支配ではないね。こんなことできるなら最初からやってるはず)
嶺上開花の阻止のために何度か暗槓や大明槓を阻害されたことはあれど、嶺上牌を不要牌にされたことはない。
そんな事ができるならとっくにそうしている筈なのだ。
(かと言って他の2人の能力じゃないはず…手加減しすぎてるのかな)
その場はひとまず原因は「全力を出していないから」としておくことにした。
(となればこの局は衣ちゃんが海底摸月を和了るね)
槓材もない、衣の支配下なので嶺上牌以外のツモには期待できない。であれば諦めが肝心。
そして流局1順前
「リーチ」
こちらも本日何度目か分からない流局直前リーチ。もはや見慣れた光景である。
しかし、海底牌をツモった後、衣はそのまま牌を捨てた。
衣の支配の関係で聴牌しているのは衣のみではあるが、衣の顔には少なからず驚愕と疑問の表情が見え隠れしている。
(和了り放棄ではない…失点が減るからありがたいとはいえ、不気味だね…)
今日の対局の中で初めての流局。
一人の少女の血が今、目覚めつつある。
不自然に終わった前局に疑問を持ちつつも、牌を取り理牌していく。
そして数巡、とある違和感に気づいた。
(槓材が来ないし、ツモも極端に悪いわけじゃない…強いて言えばあまりにも普通)
咲が力を発揮していれば槓材が来るはずだし、衣が支配を行っているのであればツモは悪いはずだ。
だが現状はその両方に当てはまらない。疑念は増すばかりだ。
「立直」
その咲の思考を掻き消すように上家からリーチの声が上がる。
上家…透華から発せられたその声は感情のようなものが希薄に思えた。
対面の衣には先程よりも強い驚嘆の表情が伺える。
そして数巡後、透華はツモ和了りを宣言した。
1戦目以降初となる、『咲と衣以外のツモ和了り』である。
そして牌を倒した瞬間、咲は今まで感じていなかった、否、気づかなかった凄まじい力を感じた。
それは自分たちの
(透華さんから凄まじい力を感じる…今まで隠していたとでもいうの?にしては初対面の時特に何も感じなかったし…)
衣の表情を窺い知るに、恐らく透華の力だと気づいたのだろう。そして、
「成程、これが龍門渕の入婿が憂懼していた龍門渕の血の力、というわけか…」と呟いた。
透華の瞳には光がなく、その瞳はまるで深淵を覗くかのように暗い。
だが、解き放たれるその力は方向は違えど、まさしく強者に匹敵するものである。
「この卓、この面子がトーカの血を目覚めさせた…宮永咲、どうやらこの力、衣達の全力に値するようであるが…」
「…そうだね、様子見は終わりみたい」
「そうこなくてはな。宮永咲!龍門渕透華!御戸開きと行こうか!今宵の宴はここからが本番よ!」
新たな強者の登場に咲は喜んだ。極上のディナーに至高のデザートが付いてきたと。
透華の目覚めに衣も喜んだ。奇幻な手合が増えると。
そして一対の魔王はこの日初めて『本気を出した』
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…天変地異という表現すら生ぬるい程の混沌とした対局は、透華の気絶という結果で唐突に幕を閉じた。
自分たちのせいで気絶させてしまったのだろうか、という罪悪感に駆られた咲と、対局中の堂々たる姿とは打って変わって透華にしがみつき見た目相応に泣きじゃくっていた衣は、一先ず翌日に再び咲が龍門渕家を訪れるということでその場は解散となった。
帰りのリムジンの中で、
「ハギヨシさん、透華さんは大丈夫なのでしょうか?」
「龍門渕家には優秀な医師の方もいらっしゃいます。宮永様はご心配なさらぬよう…」
「…分かりました」
と言ったやり取りをし、そのまま咲は家路についた。
そして翌日、前の日と同様にハギヨシさんの迎えにより龍門渕家を訪れた咲は、客間に通された。
そこには俯いて表情を窺い知ることの出来ない衣がいた。
昨日の今日ということもあり声をかけるのを躊躇し、大人しく椅子に座って待つこと数分。
昨日同様扉を開いて透華が一に連れられて姿を現した。
その姿を確認すると衣は飛び上がり、
「トーカ!大丈夫なのか!?」
「ええ、心配をかけてしまったようですわね。私はこの通りピンピンしてますわ」
咲と衣はホッと胸を撫で下ろす。
「宮永さんも折角お越し頂いたと言うのに、申し訳ないですわ…」
「いえ、気にしないでください。責任の一端は私にもあると思いますし…」
「うむ、衣も少しやりすぎてしまったと思う…」
「そんなことありませんわ。衣があそこまで楽しそうに麻雀をしているのを見たのは初めてでしたもの。私としては喜びはしても怒るようなことはありませんわ」
そう言う透華は笑みを浮かべていた。
「そうだなあれほどの手合はそういない。衣も楽しかった!」
衣も満面の笑みを浮かべそう答えた。
「そして宮永さん、衣と打っていただいて有難うございます」
「私も天江さんと打てて楽しかったです。お誘いいただいて有難うございます」
咲は心の底からそう思う。とても愉しい時間であった。
「それは良かったですわ。もしよろしければ…」
「トーカ、そこから先は衣に言わせて欲しい」
「…!分かりましたわ」
「宮永咲、もしよければ今後も衣と麻雀を打って欲しい!」
衣は答えを確信しているかのような眼をしていた。
事実、咲の答えは決まっていた。
「勿論!喜んで!」
満点の笑顔を持って咲はそう答えた。
「それでは衣達はこれから友達だ!」
「よろしく!衣ちゃん!」
「さあ、昨日の続きといこうか!今日は最初から全力でいくぞ!」
「ふふっ、それじゃあ私も全力でいかなきゃだね!」
「昨日出会ったばかりというのに、既に意気投合してますわね。微笑ましいですわ」
「それだけ二人の相性がいいってことなのかな」
「トーカ、早く衣の部屋にいくぞ!」
「分かってますわよ!さ、一も行きますわよ」
「うげぇ…今日は何回箱割れするのかな…」
◆ ◆ ◆
この日を境に咲と衣は友となり、定期的に卓を囲むこととなった。
それからは衣にも変化があった。
学校では今までのような超然とした立ち振舞は鳴りを潜め、明るく振る舞うようになったおかげなのか本人の小動物的な可愛さのおかげなのか、友達と呼べるような存在も少なからず出来た。
最初こそ透華の父親はあまりいい顔をしていなかったものの、透華と咲という存在が抑制剤になってくれるだろうとある程度妥協したそうだ。
そうして龍門渕高校1年生の衣率いる龍門渕高校麻雀部はインターハイ出場。
予選で三校同時飛ばし、初出場で長野予選通過、衣はプロアマ親善試合優勝しMVP取得などやりたい放題やった龍門渕高校は再び強豪校として名を連ねることとなった。ついでに衣のファンクラブが出来た。
インターハイ全国では準決勝副将戦にて他校が飛ばされ三位敗退となってしまったが、来年は必ず優勝すると大会後のインタビューにて衣が答えていた。
そうして時間は流れていく。
次の話に関してなのですが、少し悩んでいます。
このままですと全国編の決勝で淡ちゃんが魔王にトラウマを植え付けられて終わってしまうので強化フラグを入れようと思ったのですが、どうしましょうかね。
追記:投稿後に気づきましたがUA10000突破、お気に入りも500件突破していました。
こんな拙い作品ですがご覧いただきましてありがとうございます。
感想の方は出来るだけ返すようにしてます。ありがとうございます。
追記2: 水戸開き() ご指摘ありがとうございました