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分かりづらい気がするけどその時は言ってくだされ…
二人の出会いは少し昔、具体的には1年ほど前の話。
◆ ◆ ◆
最上級生として入学式の後片付けも終わり、普段と変わらぬ日常に戻っていく。
宮永咲、当時中学3年生。
本来であれば高校受験を考えるところではあるが彼女は特に考えていなかった。
家の近くにある清澄高校に通うつもりだったし、あの高校であれば今の学力で十分合格できるからだ。
かといって中学最後の年を友達との思い出づくりに使うのかと言われるとそんなこともなかった。
単純に彼女には友達が少なかったのだ。
そんな彼女の趣味は読書と麻雀であった。
最初は麻雀部に所属しようと思っていたのだが、体験入部の際に当時の先輩方をボコボコにしてしまい、それ以降出禁になってしまった。
そしてその時の暴れっぷりを見ていた同級生により、
「宮永さんが先輩をフルボッコにした」とか「宮永さんは先輩相手でも容赦がない」などという根も葉もある噂を流された結果、同級生からドン引きされて距離を置かれてしまった。
そんな訳で帰宅部3年目の彼女の友達と言えるのは鈍感野郎な京太郎ぐらいであった。
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放課後、一度自宅に帰った咲は私服に着替え、ある場所に向かった。
商店街の一角にある真新しい雰囲気がある喫茶店。
とは言え普通の喫茶店ではない。いわゆる麻雀喫茶である。
昨今の麻雀ブームにより暗いイメージの強かった雀荘という施設は、明るいイメージの喫茶店と麻雀を組み合わせた麻雀喫茶に生まれ変わりつつある。
この店もまた、麻雀喫茶に生まれ変わった元雀荘なのである。当然ノーレート。
そして咲はこの辺りの麻雀喫茶の常連であった。
母親は仕事の都合で姉と東京へ行き、父親も仕事の都合で夜遅かったりすることもあり、
また、放課後を共に過ごす友達もいない彼女の放課後は、家で本を読んでいるか麻雀を打ちに行くかの二択であった。
そんな彼女が今日この店に来たのは偶然であり、強いて言えば今日はこの店の気分だったのである。
「いらっしゃい。お、咲ちゃんじゃないか」
「こんにちはマスター。卓開いてますか?」
「さっき一人抜けたところだよ。早速入るかい?」
「是非。あ、あとオレンジジュースお願いします」
卓には大学生ぐらいの男性が1人、後は30~40ぐらいのおじさんが2人。
いくら昨今の麻雀ブームで女性雀士が増えていると言ってもこういったところで打つのはだいたい男性である。
そんなところの常連である女子中学生な咲は割りと顔が知られている。
「咲ちゃん久しぶりじゃないか。今日は負けないからな?」
「お前さん前回もそう言ってボロ負けだったじゃないか」
「あれはお前も俺の事狙い撃ちするからだろうが」
「偶然だよ偶然、さてと、咲ちゃん待たせても悪いし始めるか」
「はい、よろしくお願いします」
こうして他の常連客との交流などもしながら、いつもの様に麻雀を始めるのだった。
◆ ◆ ◆
その日彼がその元雀荘を訪れたのは偶然であった。
以前から「お世話」になっている雀荘が麻雀喫茶になったと聞いて、近くの雀荘に寄る前に話を聞きに行こうと思っただけなのだ。
彼が入ってくるとマスターは目を見開いてから、
「これはこれは龍門渕の…ご無沙汰しております」
と言った。
「ええ、お久しぶりでございます」
「例の『アレ』の件でございますか?」
「その通りです。しかしここも様変わりしましたね」
「時代には逆らえませんわ。もう『アレ』を集められるのはあの辺りぐらいかと…」
「やはりそうですか…近頃は場数も減ってきたと嘆かれていまして…」
そう話しながら、彼は今まさにオーラスに入ったばかりの卓をちらりと見て少なからず疑問を抱いた。
「あそこの卓にいる少女は一体?」
「咲ちゃんのことですかい?あの子はここが麻雀喫茶になってからの常連客ですよ」
「強いのですか?ここは元雀荘ということもあってお客様の腕はそれなりのはずですが」
「勿論。しかもただ強いだけじゃあないですよ」
「と、言いますと?」
「彼女が来ると大体3~4回打っていくんですが、最初の1~2回は相手に花を持たせ、3回目は接戦をしたふりをして、4回目に大きく勝つ、ってのが彼女の流れですかね。平たく言うと接待が上手いんですよあの子。3回で終わると同席した人は気分良く帰っていくし、4回やった場合は次こそ勝つぞって笑って帰る」
そう話すマスターは何処か乾いた笑みを浮かべていた。そして
「彼女の本気は、そんな可愛いものではないですがね」と続けた。
龍門渕家に仕えるハギヨシと呼ばれる執事はマスターの発言に少し驚いていた。
この麻雀喫茶のマスターは元雀荘の運営者で、龍門渕家は雀荘でそれなりの腕を持ち、金に困っていそうな人を探し、金を餌に衣様への贄として差し出していた。
その際の腕前の指針としてマスターのような麻雀の腕を見極める力がある人間に話を聞いたりする。
そんなマスターがあの卓に座る少女に対して「彼女の実力は可愛くない」と言うのだ。
ハギヨシは残り数巡となったその卓に座る少女を見定めていた。
透華お嬢様は衣様の為に龍門渕高校の既存の麻雀部を壊し、衣様のための麻雀部を作られた。
透華お嬢様が見立てた衣様の友にふさわしい打ち手を集めて。
もしかすると彼女もまた、衣様の友となってくれるのではないかと。
数秒後、少女が牌を取る瞬間どす黒いオーラを感じた。
衣様が麻雀をされる際に感じたようなオーラを。
そして少女は
「ツモ。3000・6000です」
他を圧倒してその卓を終えた。
ハギヨシは確信した。
彼女であれば衣様を満たしてくれると。
◆ ◆ ◆
「だぁ~っ!今日も勝てなかった!」
「前よか全然良かったじゃん何時か勝てるって」
「咲ちゃん、次のときも4回な!今度こそ勝つから!」
「分かりました。楽しみにしてますね」
そう言って同席した3人は帰っていった。
すっかり温くなってしまったオレンジジュースを飲みながら一息ついていると、マスターがやってきて
「咲ちゃんちょっといいかい?」と言ってきた。
「咲ちゃんを紹介してほしいって人がいるんだ」
そう言って、たった今空いた卓にマスター、そして執事服を来た男性が座る。
(執事服なんて漫画でしか見たこと無いよ…)と割りと失礼な事を考えている咲に対してマスターが話を切り出した。
「こちらの方は龍門渕家からいらっしゃった執事の方なんだ」
「龍門渕って龍門渕高校の龍門渕ですか?」
「左様でございます。私、龍門渕家に使える執事のハギヨシと申します」
龍門渕高校と言えば長野でも有数のお嬢様校だ。一般市民である咲には遠い存在である。
そこの理事を務める龍門渕家といえばそれはもう雲の上の存在とすら言えるだろう。
「龍門渕家の方がどうして私を?」
それは当然の疑問であった。
「宮永咲様、貴方に是非麻雀を打っていただきたい方がいるのです」
その一言にマスターは仰天したように、
「お、おいハギヨシさん!まさか咲ちゃんを!?」と叫んだ。
咲は何のことか分からないような表情を浮かべて、ハギヨシは淡々と話を続けた。
「龍門渕家には親戚のお嬢様がいらっしゃるのですが、そのお嬢様は大変麻雀がお好きでございます。しかし、お嬢様は麻雀がとてもお強く、自分と対等に戦える相手がいないと嘆いておられました。」
「えっと…そのお嬢様と麻雀を打って欲しいってことですか?」
「左様でございます。先程の対局を少し見学させていただきました。宮永様ほどの腕前であればお嬢様もお喜びになるかと…」
「見てたなら分かるかと思うのですが、私そこまで強くないですよ?」
「見ていましたから分かりますよ。貴方はまだ本当の実力を出していません。」
その言葉に咲は笑みを浮かべた。
物珍しげな視線を感じていた最後の局、勝つために少しだけ本気を出したのを目の前の執事は感じていたのだ。
咲は
分かるということはつまり『分かるぐらいの実力を持っている』か『同じようなオーラを日常的に感じている』ということだろう。
言っては失礼だが目の前の執事は強そうには見えない。後者なのだろう。
つまり『自分に匹敵する実力を持つ人間と麻雀を打って欲しい』と頼まれているのだ。
さて、咲は趣味は麻雀と言ってはいるのだが、この表現は少し間違っているかもしれない。
咲は「強者を相手に自分の全力を持って蹂躙する麻雀」が好きなのだ。有り体に言って性格が悪い。
さすがに麻雀喫茶のような場所で全力を出そうとは思わないが、
昔やっていた家族麻雀のような遠慮無用の空間では咲は全力を振るうことに躊躇がない。
そのせいで麻雀が大好きで、かつ麻雀が強い照は咲の核兵器の如き麻雀に蹂躙され、
咲を恐れ、まるで逃げるように母親とともに東京に渡ったのだ。
ちなみに咲はそのことに関しては寂しいとは思ってはいるが、まさか怖がられてるとまでは思っていない。
母親についていかなかったのも父親の世話役になるという他に単純に人混みが苦手という話である。
そんな訳で久しく強者と戦っていない咲にとってこれは絶好のチャンスであった。
しかしこの話を鵜呑みにするのは危険だとも思っていた。
実際やってみて弱かったら拍子抜けだし、それ以前に相手は金持ちなので何をするのか分かったものではない。
そこでまずは威嚇をしてみることにした。
「ふふふ、私はあれで全力ですよ」
そう言って家族麻雀を打っていた頃ぐらいのオーラでハギヨシを威嚇してみた。
これで怯えるようであればそのお嬢様とやらも大した存在ではない。
◆ ◆ ◆
目の前の少女、宮永咲の一言と同時に発せられたオーラを真正面から受け、ハギヨシは確信を深めた。
(衣様に匹敵するこの圧倒的なオーラ…彼女ならば間違いなく衣様の友になっていただける。なんとしてもお二人を会わせたい)
そこで少し強引ではあるが、
「…お受けいただけるということでよろしいですか?」と切り出した。
すると咲は目を丸くしながらオーラを引っ込め、
「はい。お嬢様に宜しくお伝え下さい」と答えた
その後、日程などの調整を行い、今週の末にこの麻雀喫茶に咲を迎えに行くという段取りになった。
(早速、透華お嬢様にお伝えしなければ)
そう思い本来の目的を忘れ、ハギヨシは龍門渕家へと車を走らせた。
◆ ◆ ◆
龍門渕透華は困惑していた。
ハギヨシが突如、次の衣との対戦相手に何処とも知れぬ中学生を連れてくるというのだ。
これが全中覇者である原村和とかなら話は分かるのだが、ハギヨシ曰く元雀荘だった麻雀喫茶で逸材を発見したというのだ。
「…で、その咲って子は強いのかしら?」
「ええ、間違いなく衣様に匹敵するかと」
正直全く信じられなかった。衣のような特異な打ち手がそうそういては堪らない。
だがハギヨシは下らない嘘は付かない。だからこそこの龍門渕家で透華の執事を務めているのだ。
「…分かりましたわ。ところで他の面子はどうしますの?」
「…申し訳ございません。一刻も早くこのことを伝えるべきかと思い他の面子に関しては…」
ハギヨシがこのようなミスをするのは珍しい。いや、初めてではなかろうか。
しかしそれだけ運命的な出会いだったのだということは分かった。
透華はデジタル打ちだがオカルトに関しても理解があるのだ。
「仕方ありませんわ。当日は私も相席します」
「宜しいのですか?」
「衣の友となってくれるかもしれない人物なのでしょう?私も直接会ってみたいですもの」
(あと1人は一でも連れてくればいいでしょう)
「畏まりました。それではそのように手配させていただきます」
「でもいいんですの?…その日は満月ですわよ」
◆ ◆ ◆
ハギヨシとの約束から数日、週末が訪れた。
咲は約束通り先日訪れた麻雀喫茶の前にやってきた。
(楽しみだなぁ…小学生の頃のお姉ちゃん程度には強いと良いんだけど)
咲の強者の基準は照である。少なくても小学生の頃の照程度には強くないと麻雀にもならない。
だがその辺りは先日威嚇した際に冷や汗一つ欠かなかったハギヨシを見ているので心配にはなっていない。
(さて、どうせまだ時間はあるしコンビニで飲み物でも…)
そう思っていると一台のリムジンがやってきて、目の前で止まった。
リムジンの運転席から出ていたのはハギヨシであった。タイミングが完璧である。
「お待たせいたしました咲様。お嬢様も楽しみにお待ちです」
リムジンでの迎えなど一生縁がないと思っていた咲は内心テンションが上がっていた。
ハギヨシがドアを開け咲を案内する。
リムジンの中はそこが一つの部屋であるかのように広く、テーブルの上のワインラックにはいかにも高そうなワインが入っていた。
テンションが上がる一方で今更ながら凄い場違い感を感じている咲。
特に着飾ってるわけでもなく普段通り私服なのだ。
「お屋敷までは少々お時間がかかります。お好きなものをお飲みいただいてお待ち下さい」
「いや、私未成年なんですけど…」
「冷蔵庫の中にジュースが入っておりますので、そちらをどうぞ」
(冷蔵庫までついているのかこのリムジン…)
言われるまま冷蔵庫を開け、その中に入っていた牛乳を飲むことにした。
リムジンの中で牛乳を飲む女子中学生はすごい違和感のある図であった。
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龍門渕の屋敷に到着し、客間に案内された咲。
リムジンの中もすごかったが、屋敷の中はもっと凄かった。語彙力が足りなくて表現が追いつかない程度には。
そこで咲は、自分が今すごい状況に置かれていることに気づいた。
(あれ、私って麻雀をしに来たはずだよね)
そう思っていると客室の扉が開き、一人の金髪の女性と、付き従うように一人の活発そうなメイドが入ってきた。
「龍門渕家へようこそ。あなたが咲さんですね?」
「はい。宮永咲と申します。本日はお招きいただきましてありがとうございます」
「
「国広一といいます」
「あまり堅苦しいのもあれですので、早速本題に入らせていただきますわ」
◆ ◆ ◆
そう切り出して透華は話を続けた。
「私の従姉妹である天江衣と麻雀をしていただきたいんですの」
「ええ、そう聞いていましたからそのつもりです」
「ただ、衣の強さは強い弱いとかそういう次元ですらありませんわ。申し訳ないのだけれどもあなたが衣と対等に戦えるようには思えないのですの」
「ふふふ、それは楽しみですね」
そう言って目の前の中学生、宮永咲は軽く笑みを浮かべた。
その瞬間、得も言えぬ恐怖を感じた。まるで衣と初めて対局した時のような圧倒的力のオーラを。
(ハギヨシが太鼓判を押すだけありますわね…)
「…ひとまず衣の部屋へ向かいましょう。卓もそこに用意がありますわ」
そう言って咲を連れ、衣の部屋へと向かった。
「衣、来ましたわよ」
そう一言告げて扉を開けると、すでに卓に座って待っていた天江衣がいた。
「おお、来たか。久方振りにトーカと卓を囲めると聞いて楽しみにしていたぞ」
「ええ、最近は中々機会がありませんでしたものね」
「して、今日の贄は其奴か」
そう言って衣は咲の方を見た。
「初めまして、天江衣さん。宮永咲と言います」
後に「龍門渕の一対の魔王」と称され、高校麻雀界にその名を轟かせる怪物二匹、その邂逅の瞬間である。
一ちゃんのメイドやってるときの客人に対する口調がよくわからない…
多分当たり障りのない普通のメイドだとは思うんだけど、皆さんどう思いますか?
後ハギヨシさんの口調もよく分からない…執事っぽいってどんな口調なんでしょうね
追記:指摘されて気づきましたが、一対って1セットのことでしたね・・・
魔王が4人になったら麻雀界が死ぬぅ! というわけで直しました。ごめんなさい