プロローグ
高校生で麻雀をやっていればほぼ確実に知っているであろう少女がいる。
宮永照。白糸台高校麻雀部所属の3年生。
2年連続インターハイ団体優勝、インターハイ・春季大会で個人戦二冠達成などの功績を持つ彼女は、
「高校生1万人の頂点」「チャンピオン」と呼ばれ、慕われたり恐れられたりしている。
そんな彼女は今日、今年度のインターハイ三連覇への意気込みを聞くためにインタビューを受けていた。
インタビューは特に変わったことも話さず、いつも通りの営業スマイルと当たり障りのない返答で進んでいたのだが…
「にしても宮永さんが高校生になられてもう3年になるんですねぇ…この年になると時間の流れが早く感じますよ。
先日も近所に住む方の弟さんがもう中学2年生になってるって聞いてこの間まで小学生じゃなかったっけなんて感じたり…」
いつもインタビューの終わりにはこんな感じで麻雀に関係ないフレンドリーな話をしてくれるインタビュアー。
それを(営業スマイル全開だが)笑顔で相槌を打つ宮永照という図式が定番になっていた。
だが、
「ところで宮永さんはご兄弟とかいらっしゃるんですか?」
その質問は宮永照の顔を強張らせるものであった。
すぐに表情を戻し一言、「ええ…妹がいますよ」と答えた。
「おいくつなんですか?」
「今年に高校1年生になったはずです」
「同じ白糸台に?」
「いえ、妹は長野に父親と二人暮らしなんです」
「…もしかして聞いたら不味かったですか?」
「いえいえ、私が母親の仕事の用事に付いてきただけなので」
「最後に妹さんに会ったのっていつですか?」
「そうですね…去年の秋の暮だったはずです」
いつも通りに見えるが何処かぎこちなく受け答えをする照。
しかしインタビュアーはそれに気づかずに話を進めていく。
「やはり、宮永さんの妹さんですし、麻雀は強かったりするんですか?」
「…はい、とても強いですよ」
答える照の手は僅かに震えていた。
震える手を必死に抑えるように力を込め、動揺を悟られぬよう…
「きっと、インターハイにも出てくると思います」
と、続けた。
「もしかするとインターハイで姉妹対決が見れたりしちゃうわけですね?」
「そうですね、その可能性はあると思います」
「今年のインターハイが今から楽しみですね!それでは宮永さん、最後にファンの皆さんに一言お願いします!」
「前人未到のインターハイ三連覇へ向けて、私は勿論、白糸台は精一杯がんばりますので、皆さん応援よろしくお願いします!」
…インタビューを終え、自宅へと帰る途中、照は震えていた手を握り、
(…怯えてちゃいけない。あの恐怖を乗り越えるためにこれまで努力してきた…)
そう心のなかで呟いた。
◆ ◆ ◆
その少女は孤独であった。
幼いころに両親を失い、親戚の家に引き取られるも、
その類まれなる才能と知識を恐れられ、半ば幽閉されているようなものであった。
引き取られた先の娘や、執事等に世話こそされていたものの、心が満たされることはなかった。
少女の唯一の楽しみは麻雀であった。
異能とも言える彼女の圧倒的な力で他者をねじ伏せて来た。
定期的に執事がそれなりの打ち手を贄として連れてきてくれた。
「今宵の贄は其方等か…少しは楽しませて欲しいものよの」
そこで繰り広げられるのは麻雀という名の一方的な暴力。
贄は驚愕し、恐怖に震える羊のようであった。
少女は「自分の好きな麻雀」を打つことで心の安寧を保っていた。
彼女と出会うまでは。
追記:
4話の矛盾の解消のためテキストの一部を変更。
変更前:「そうですね…1年の時のインターハイが終わった後だったはずです」
変更後:「そうですね…去年の秋の暮だったはずです」
こういったことが今後も起きかねないのでもしあったときには容赦なくボロクソ言ってください