誰かが話し合っている声が聞こえる。
俺は生きているのだろうか。それとももう死んでいて閻魔の前にでもいるのだろうか。
こっそり薄目を開ける。
場所はどこかの洞窟のようだ。
見える範囲だと、武器を持ち鎧を着た人達が座ってたり話してたりしていた。
疲労困憊で倒れ込んで息を整えてるのもいる。
鎧にみんな同じマークが描かれていて結構な人数がいる。
どこかの国の軍隊かなんかだろうか。
俺は死んでなく生きているようだ。
体の痺れももうない。
ステータスを表示する。
『名前:高橋浩太郎
種族:ボブゴブリン Lv1/15
HP :3/30 LP:1
MP :8/8
スキル
HP上昇(小) Lv3/5 毒耐性(小)Lv4/5
言語習得不可 』
HPがギリギリで、毒耐性が成長していた。
上がりずらいスキルが一気に2つも成長しているところをみるとあの毒は相当ヤバイものだったのだろう。
ステータスを閉じ、ちらっと横を見る。
「????????????????」
「???????????」
相変わらずなんて言ってるかは理解できない。
木じゃなく鎖で縛られている。
もしかして助けてくれたのだろうか。
いや、そしたら縛ることはないはずだ。
しかも俺を見て嘲笑する奴や睨んでくる奴もいる。
……何か嫌な予感がする。どうにかして逃げたい。
逃げられるだろうか。いや、無理だ。
少しでも動くと鎖がジャラッと音がなる。
近くにいる兵士が俺を見る。
目を閉じて寝てるふりをして洞窟の奥を見る。
出口には兵士だらけで逃げられる気がしない。
逃げるとしたら奥だろう。
『HP:7/30』
逃げられないことはわかってる。
だが何かして諦めるのと何もしないで諦めるのとでは意味合いが違う。
必死にレベル上げして進化しようとしたのもゴブリンのままでは生きていける気がしなかったからだ。
だから頑張った。
そしてその結果が今の状況だ。
進化しても弱いものは弱い。
『9/30』
カウントを始める。
10、9、8、
もう一度薄目を開けて周りを見る。
さっきと状況は変わらない。
7、6、5、4
走る方向は洞窟の奥。
3、2、
足に力を込める。
1、
息を吸って、
『HP:10/30』
思いっきり立ち上がり驚いて一瞬動きを止めた兵士達を尻目に走り出す!
スタートダッシュは失敗した。
少し足が滑って閉まったのだ。
後ろは振り向かず、ただ前を見て走る。
なぜか追ってきている様子はなかった。
走る。走る。
進むにつれてどんどん暗くなっていく。
真っ暗になってちゃんと前に進めているかどうかわからなくなる。
後ろからはなんの音も聞こえてこない。
そして走ってるうちに先が少しずつ明るくなってきた。
やはり出口があったのだ!
思わず笑顔になる。今の俺は最高に気持ち悪いに違いない。
体は縛られたままだが転ぶことはなく、走るスピードが上がる。
あと少し、あと少しで外に———
———そこにあったのは光る石碑だけ。
出口はなく、進める道もない。
行き止まり。
「ギィ……?」
神も救いもないのか。いや、救いはあった。
だから動く木から助かった。
後ろから足音が聞こえてくる。
音からして歩いてきてるのだろう。
彼らは知っていたのだ。この先に道などないと。
だから、慌てて追いかけてこなかった。
騒がしい声が近づいてくる。
それが笑い声だと気づく。
石碑に近づく。少しでもいいから兵士から逃げたかった。
無駄な足掻きなのは知っている。
だが動かずにはいられない。
俺はゴブリン。人類の敵だ。4人組に狩られた猪を思い出す。
俺は殺されるのだろうか。
それとも何かの実験台でもなるのだろうか。
そんなことを考えながら石碑に着く。
青白く、剣士ゴブリンの時に見た輝きと比べてとても澄んでいる。
書いてある文字は読めない。
『言語取得不可』の所為で俺は文字も習得することはできないだろう。
俺の両手は前に縛られている。
石碑に触れる。
瞬間、頭痛が走る。
平衡感覚が狂って体がふらつく。
ピントがズレたみたいに周りが何重にもブレて見える。
『———を———————』
頭が痛い。頭痛はどんどん酷くなる。
耳鳴りも酷い。寒気もしてきた。
吐き気が止まらない。
「???????????」
「?????????」
後ろで声がする。
俺の真後ろにいるようだ。
肩に手を置かれる。
もう限界だった。
俺は意識を失った。
『スキル:置換を取得しました。』
起きると俺は牢屋の中にいた。
最近の俺は気絶してばっかだな、とまだぼんやりしている頭で考える。
体は縛られたままで、HPは全快していることからかなり時間が経っていると思う。
立ち上がって檻に行き、横を見る。
他の牢屋には少しだが人がいて、兵士が巡回している。
刑務所みたいなところだろうか。戻って地べたに座る。
ひんやりとした壁が心地よい。
「ギィ」
諦めた。もう無理だろう。逃げられない。
洞窟ではまだ希望があった。
ないに等しい希望だが、わずかにはあったんだ。
窓がないから今が朝か昼か夜かわからない。
さっきまでは気づかなかったが近くに水が置いてある。
これは飲めるのだろうか。それともトイレ用とか?……トイレだったら嫌だな。飲まないでおこう。
特にやるべきこともない。
暇つぶしにステータスを表示する。
『名前:高橋浩太郎
種族:ボブゴブリン Lv1/15
HP :30/30 LP:1
MP :8/8
スキル
HP上昇(小) Lv3/5 毒耐性(小)Lv4/5
置換 言語習得不可 』
見覚えのないスキルが追加されてた。
『置換』
何を置き換えるのだろうか。
レベル表記がないから成長しないスキルだということしかわからない。
デメリットスキルではないと思いたい。
ステータスを閉じる。
あまりいい暇つぶしにはならなかった。
足音で目がさめる。いつの間にか寝てしまったようだ。
巡回だろうか。どうもご苦労様です。
兵士達が俺がいる牢屋の前で立ち止まる。
兵士達の中にとても豪華な鎧を着た奴がいる。隊長か何かだろうか。
ガキが開く音がした。
「???????」
なんて言っているかわからない。
何も反応を返さない俺を見て焦れったくなったのか、鍵を開けた兵士が俺を掴む。
そのまま俺を牢屋から出した。
そしてまた鍵を閉めると階段に向かって進み出す。俺も後からついていく。
階段を上がり外に出る。
ここは前に見た街中のようだ。
猫耳が生えてる人やら蜥蜴みたいに鱗がある人など異世界チックな人種が色々いる。
しばらく兵士達について行くと城壁にある門を抜けて城に入らず、体育館みたいなところに入った。
そこにいたのは、俺がよく知っているクラスメイト達だった。