「ふぁあああ〜。眠いな……」
カチャカチャ カチャカチャカチャ
完全に暗い部屋の中。窓もなければ明かりを灯す道具もない。
部屋の内装はベットだけでそれ以外は何もない。
部屋の主は今起きたようで布団からかおをだした。
ドアの開く音がする。
「ノックぐらいしてくれないものかね……。 まぁ別にいいけどさ」
部屋に入ってきたものはなにも言わない。
カチャリ
「はぁぁぁぁぁー」
部屋の主は面倒臭そうにため息をはく。
「面倒臭いなぁー。何もしたくないなぁ」
はーっ、とまたため息をつく。
またドアが開く音がする。
「だからノック……、もういいや」
ボフッ
顔を枕にうずめる。
「好きにしなよ。どうでもいい。私は寝る」
それだけを言うと部屋の主は寝てしまった。
そして残った奴らも何も言わずに部屋から出て行った。
==============================
「やっぱ、熟練度が足りないからだよなぁ」
「基本的にそこらへんはゲームと同じ考えでいいと思うぞ」
「どういうこと?」
「レベル上げには経験値、スキルレベルには熟練度ということ。斎藤さんも『鑑定』使い続けたら上がったって言ってたじゃん」
「3からめっきり上がらなくなったけどね」
「今でも使ってる?」
「あ、忘れてた」
「これから魔物を見つけたら使って内容を教えてくれ」
「わかった」
杉元たちはレベル上げに対して色々相談し合っている。
その様子を見ている俺は頑張れと心の中で応援する。
兵士と魔術士は周りの警戒で忙しい。
「次は連携してやってみるか」
「俺が前衛、斎藤さんと畑中さんが後衛で杉元が遊撃かな」
「私のゴブリンはどうする?」
「あー……。俺たちがどうしようもない時に手伝ってもらうとか?」
えー。
「なんか不満そうな目でこっちを見てるけど」
「あいつも闘いたいのかな」
「レベルとかないくせにな」
俺にもちゃんとあるわ!
あいつら、魔物にはレベルとかのステータスがないと思い込んでるらしい。
そんなわけあるか。俺にもちゃんとあるから。
話せれば1番楽なんだが、あいにくゴブリンではグギャとかしか話せない。
文字も書けないし。ちくしょう。
「?????????!」
兵士が何か言ってきた。
「スライム!」
「定番だな」
「ドラ◯エと同じなのかな?」
「いや、凶悪な方だった。目みたいな核があって、それを酸性のジェルみたいなのを纏ってる。岡本のシールドバッシュは効かないから杉元の火魔法で焼いてくれ」
「分かった」
さっきのゴブリンのことがあってか慎重に行動する。
うんうん、良いことだ。
俺はベビーしか相手にしてなかったけど結構弱いから大丈夫だよ。
「とりあえず俺が前な」
岡本が前に出て盾を構える。
杉元も今度は槍を構えた。
その後ろで斎藤さんが火の玉を出しておく。
杉元と畑中さんはさらに後ろで様子を見てる。
スライムがあらわれた。
俺が見たベビーよりも大きい。
「これ、俺いらなくね?」
「……だね」
だが遅い。ベビーの頃よりは速いのは分かるがそれでも遅い。
斎藤さんが火の玉を飛ばす。
それだけでスライムはすぐに燃え尽きた。
「弱かったな……」
「そうだね……。あ、レベル上がった」
「俺たちも上がってる……パーティ共有なのか」
「あ、だから最大6人なんだ。ますますゲームっぽいな」
「でも初のレベルアップがこれって……」
俺のレベルは上がってない。
俺は来る前に少しレベル上げしたからなのかな。
『名前:高橋浩太郎
種族:ビルドゴブリン Lv5/40
HP :380/380 LP:4
MP :250/250
誓約:偽自
スキル
HP上昇(中) Lv2/5 毒耐性(中) Lv2/5
咆哮 置換 言語習得不可 』
あれ、LPが僅かだけど増えてる。
なんでだ?
「どうしたの?行くよ」
斎藤さんに声をかけられる。
みんなはまた移動を始めたようだ。
今日でできる限りレベルを上げておきたいのだろう。
「グギャイ」
LPのこととかあとで考えよう。
この世界は一歩間違えれば死ぬ世界だ。
今はクラスメイトを守ることを考えよう。
そんなことを考えながら俺はみんなの後ろをついて行く。
それからは順調だった。
主にゴブリンを倒してまわった。
岡本が受け止め、畑中さんがホールで相手の邪魔をして斎藤さんと杉元でとどめを刺す。
安定している。
兵士と魔術士も問題ない様子で見守っている。
「おらぁ!」
杉元が剣でゴブリンのとどめを刺した。
「レベル上がった。これで8か」
「私は10だね」
「私も8だ」
「俺はやっと6になった。俺だけ遅くね?」
杉元はレベルが上がりずらいようだ。
俺は今のでやっと1上がった。
貢献度によって変わるのだろうか。
それにしては杉元は上がってない。
「?????????????」
「上位職の難点だな。ちくしょう」
上位職?職にも色々あるのか。
「???、???????????」
「ですね。帰りましょう」
お、帰るのか。まぁ、日も暗くなってきたからな。
「最初はやばかったけど、今はもう大丈夫だな」
「慣れたっていうこともあるよね」
「生き物を殺すことに慣れるってのもねぇ」
「あんまり衝撃受けなかったな」
「やらなきゃ殺されるって思うとそれどころじゃなかったからね」
「俺は腕折られたからな」
和気藹々と色々話しながら歩く。
みんな楽しそうだ。
俺は話せないことに寂しさを覚える。
「どうしたの?」
斎藤さんが聞いてくれた。
なんでもないと首を横に振る。
「なぁ、そいつに名前つけねぇの?」
「あ、そうだね。いつまでたってもゴブリンだとかわいそうじゃん」
「可愛い名前にしようよ!」
「ゴブリンに可愛い名前?」
俺の名前を決めてくれる。
高橋浩太郎は人間の時の名前だ。
ゴブリンとしての名前だったら俺もこいつらにつけて欲しい。
「五月雨ってどうだ!」
「厨二病かよ。無難なのでよくね?」
「それじゃつまんないだろ」
「プッチーとか」
「見た目を考えろよ」
うーん、とみんな悩んでいる。
それだけで嬉しくなってくるから不思議だ。
「私はナズナがいいなぁ」
斎藤さんがポツリと呟く。
「ナズナって花の?」
「うん。なんか語感いいじゃん」
「まぁ、飼い主が言うならそれでいいんじゃね」
「じゃあこれで決定!」
俺の名前はナズナになった。
『名前:ナズナ【高橋浩太郎】
種族:ビルドゴブリン Lv6/40
HP :420/420 LP:13
MP :280/280
誓約:偽自
スキル
HP上昇(中) Lv2/5 毒耐性(中) Lv2/5
咆哮 置換 言語習得不可 』
それによってステータスの表示も変わる。
俺はナズナ。ナズナになった。
きゃぁぁぁああああああああ!!
何処かから叫び声が聞こえる。
「ど、どうしたの!?」
「とりあえず行くぞ!」
さっきまでの楽しい雰囲気は消えた。
急いで叫び声が聞こえた方向に向かって走る。
意外と遠くない。すぐに着いた。
そこにあったのは
まだ息はあるようだが血まみれで倒れている、関悠人と田中里志。
未だに泣き叫んでいる、町田涼子と里中百合。
そしてまだ戦闘中だが限界が近い二ノ宮和彦と葛城秀水。
もう死んでいる兵士と魔術士。
不良グループが全滅しかかっていた。
相手は線は細いが両手剣を軽々と片手で振るっているゴブリンだ。
身長は俺より少し高い。
160くらいだろう。
腰には見覚えがある折れた剣があった。