ゴブリン成長記   作:補う庶民

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本日2本目です。視点変更しただけなのでどっちかだけを見ても大丈夫だと思います


16話 @

「今日は魔物を討伐しに行こうと思う」

 

騎士団長——モルザさんがとうとう言った。

それを聞いて盛り上がる人もいれば怯える人もいる。

私は怯える側の人間だった。

杉元くんは盛り上がっている。

それを見て安心する自分がいた。

訓練場に行き、防具を渡される。

服の上から胸当てを着けてローブを着る。

その後に手袋をはめる。

胸当てもローブも手袋もエンチャントされてて、来てるだけで防御力や耐性といった見えないパラメータがかなり上昇する。

ゴブリンなどの弱い魔物ならどこを攻撃されても傷1つ追わない装備らしい。

胸当て1つで一般市民の月給3ヶ月分に相当するという。

武器に杖を選択する。

魔法の威力が上がるタイプと魔法のコントロールが良くなるタイプがあったが私はコントロールが上がるタイプを選んだ。

最後に支給された腕輪を身に付ける。

この腕輪は1回だけ自分を守るシールドを出すことが出来る。

その代わり使ったら壊れてしまう。

 

「装備には必ずMPを流し忘れることがないように気をつけて下さい!流さなかったらなんの効果もありません!」

 

兵士が大声で注意喚起する。

 

杉元くんも胸当てを着けてる。

私の胸当てと違って防御力は低いがそのぶん速度が上がる装備だ。

他には特に防具をつけてない。

彼は腕輪をつけられない。

『盾装備不可』の所為だ。

武器は背中に槍を背負い、帯剣して太ももに短剣を複数しまっている。

 

「よお」

「軽装備だね」

「まぁな」

 

会話が続かない。

杉元くんも緊張しているようだ。

自分のステータスをチェックしておく。

 

『名前:斎藤知恵

職業:魔物使い Lv:1/30

使役:1/1

HP :30

MP :35

 

使役魔物:ボブゴブリン

 

スキル

強化魔法 Lv1/5 火魔法 1/5 風魔法 1/5

鑑定 Lv3/5 使役 祈り 』

 

「ゴブリン呼ばなくていいのか?」

「あっ、そうだ。忘れてた」

「おいおい」

「街から出たら呼ぶよ」

「そうか」

 

周りを見渡すと大体みんな装備が終わったようだ。

 

「では行きましょう!」

 

兵士の後に続いて街から出る。

 

 

外に出る。

初めての外だ。奥には森が見える。

かなり広そうだ。

そして私はゴブリンを呼んだ。

 

「ゴブリン、来て」

「本当にそれでくるのかね」

「さぁ、来るんじゃない?」

「進化してると思うか?」

「してたらいいんだけど」

 

「グループに分かれて下さい!人数は最低4人から!兵士と魔術士が護衛につきますので!」

 

「組むか」

「お願い」

「他はどうする?俺は岡本呼ぶよ」

「谷口さんは他の人と組んじゃったからなぁ」

「あ、あの、私、入れてもらってもいいかな」

 

畑中さんが恐る恐る話しかけてくれた。

 

「うん。喜んでお願いするよ」

「ありがとう!仲のいい友達は他の人と先に組んじゃってて……」

「あー、なるほどね」

 

杉元くんも無事に了承を得られたようだ。

そのことを報告してくれてるうちにゴブリンが戻って来た。

……マッチョになって。

 

「お、来たか」

「マッチョになってる……。しかもなんか担いでるし。鉈持ってるし」

 

ゴブリンは私の前に来ると持ってた袋を私の前に下ろした。

中から石がこぼれ落ちる。

 

「とてつもない量の魔石ではないですか!!!」

 

周りにいた兵士や魔術士が盛り上がっている。

近くにいた兵士が持とうとしても持ち上げられなかった。

 

「これ、くれるの?」

 

ゴブリンに聞いてみる。

ゴブリンは嬉しそうに首を前に振る。

 

「ではそろそろ行きましょうか!」

 

グループに分かれる。

魔石は後で小分けにして城に持って行くらしい。

まぁかなりの量だからね。

 

 

 

まず、関くんのグループが森に入って行く。

遠足に行くかのようにすごい楽しげだ。

しばらくして私たちの順番になった。

男子たちは楽しそうだが私達は怖い。

肩を叩かれる。

その方向を見ると私のゴブリンがサムズアップしてた。

それを見てつい笑ってしまう。

どこからか遠くから金属の音が聞こえる。

体が強張る。

どこかのグループが戦闘を始めたのだろう。

そして私達の前にゴブリンが現れた。

しかも2体もいる。

 

「じゃぁ、俺からいくか」

 

杉元が剣を抜いて前に出る。

 

「気を付けてね」

「頑張れよ!」

 

私達も応援する。

 

「おらぁ!」

 

スキルを発動させて一瞬で相手に詰め寄って切り裂いた。

杉元くんの速度に反応できなかったのかゴブリンは普通に切られる。

だけどまだ生きてるようだ。

他のゴブリンが慌てて構えるがもう遅い。

杉元くんが剣を腰に構え、これもスキルなのだろうか、剣が光って勢いよく横に払う。

最初に切られたゴブリンは死んだようだ。

杉元くんの狙いは2体とも一気に倒すことだったのだろう。

だけどもう1体のゴブリンはほとんど傷が付いていない。

スキル硬直の所為で一瞬動けなくなった杉元くんに向かってゴブリンが拳を振るう。

ぎりぎり動けるようになったのか片腕で受けたけどそのまま吹き飛ばされてしまう。

しかもそれで腕が折れてしまった!

魔力を通してなかったのだろう。

 

「きゃぁぁぁ!!!」

 

思わず叫んでしまった。

私は急いで手を組んで唱える。

 

「『祈り』」

 

このスキルの不便なところはいちいち手を組んで集中しなくちゃいけないことだ。

しかも治るのに少し時間がかかる。

杉元くんの折れた腕が光りだす。

ゴブリンが悪い笑みを浮かべながら近づいて来る。

恐怖で岡本くんと畑中さんは動けないようだ。

兵士や魔術士も何もしない。

それを見ていた私のゴブリンはやれやれといった表情で前に出る。

私のゴブリンを見たゴブリンは途端に格上を相手にした表情で逃げ始めた。

岡本くんと畑中さんはぽかんとした顔でそれを見る。

私も『祈り』使ってなかったら同じような顔をしてただろう。

私のゴブリン、そんなに強かったのか。

逃げるゴブリンにすぐに追いついてその筋肉質な拳で殴る。

 

それだけで杉元くんが苦戦したゴブリンは死んでしまった。

杉元くんの腕が治ったのか、腕の光が消えていた。

私のゴブリンが杉元くんに近づき、慰めるように肩を叩く。

 

「あ、ありがとな」

 

杉元くんは困惑した表情で言う。

やけに人間臭さのあるゴブリンだ。

 

「次は俺か……」

 

岡本くんはすごい不安そうだ。

気持ちは分かる。

岡本くんの職業は『剛盾士』。

名前の通り、守備専門職で攻撃できるスキルはほとんど持たない。

 

「グギャァ!!」

 

私のゴブリンがいきなり叫んだ。

しかもやけに威圧感がある。

 

「え!?」

「どうしたの!?」

 

ドドドドドド、とこっちに何かがこちら近づいて来る音が聞こえる。

とびだしてきた猪がそのままゴブリンに突っ込む。

 

「おおおおおお!!」

 

両腕の盾で威勢良く受け止めたが勢いを殺しきれず少しずつ後ずさって行く。

 

「やっぱタイミングがなぁ」

「今からどうにかするのは難しいと思います。タイミングを合わせるって相当難しいと思います」

「だけどねぇ。使えるようになったら強いんだけど」

 

兵士と畑中さんが言ってるのは、『盾術』にある数少ない攻撃系スキル、『シールドバッシュ』だ。

ダメージもそれなりでノックバック効果もある。

だがタイミングがすごいシビアで当たった瞬間に発動させなきゃ成功しない。

今回は流石に無茶だろう。

なんで私のゴブリンが叫んだら来るんだよ。

 

「すまん!誰かお願い!」

 

とうとう耐えきれなくなったようだ。

 

「じゃぁ、私が」

 

と、まず畑中さん。

 

「頼む!」

「『ホール』!」

 

猪の真下に魔法陣が出てその後落とし穴が出来て猪が落ちていく。

 

「次は私か」

 

私は『火魔法』で攻撃しようと考えた。

 

「ダーム」

 

手を前に出し、魔法陣が出て火の玉が現れ穴の中に入っていく。

 

「ダーム」

 

1発で大丈夫だろうか。

もう一度火の玉を出して穴に入れる。

 

「ダーム」

 

万が一を考えてまた火の玉を穴に入れる。

 

「ダーム」

 

念のためもう一度……

 

「も、もういいだろ」

 

杉元が止めてくる。

 

「でもまだ生きてるかも……」

「いや、もう死んでるから。大丈夫だから」

 

穴を覗くと猪が焦げていた。

やり過ぎてしまったようだ。

 

「では、もう帰りますか?」

「いえ、もう少しやらせて下さい」

 

杉元くんはもう少しやりたいらしい。

私も少しでもいいからレベルを上げたいし、色々と慣れておきたい。

岡本くんと畑中さんも同じ考えだろう。

 

「ゴブリン、叫ばないでね」

 

ゴブリンがまた変なことをしないように注意しておく。

兵士を先頭に魔物を探すために移動を始める。


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