【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜   作:藻介

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向こう(Fate/sn×デレマス)の方の続きがまだなので、先にこっちのストックから消化。
英雄王に全力出してもらうために色々と迷走した記憶しかないので、自分で直していても拙さが目立ちましたが、それでも良ければ、暇つぶしにでも。


5 明日への動機

sideルーラー(ぐだ男)

 

 サーヴァントを従えるマスター同士の戦いにおいて最も戦況を左右する事柄は何か。

 もちろん両者の実力に差があれば、能力の高い方が有利になるだろう。けれど、それ以上に風向きを変えるのは、やはりサーヴァント同士の相性をもって他にない。

 竜種と交わった逸話を持つ者には竜殺しを当て、高い神性を有する者には神秘殺しをぶつけ、明確な弱点を持つ相手であればそこを容赦なく突く。

 それゆえ、多くの英霊と契約を交わした稀有なマスター同士では、相手のサーヴァントに強いサーヴァントを出し、相手もまた、こちらが呼び出したサーヴァントに強いサーヴァントを出す。

 言ってみれば、いくらでも後出しの聞くじゃんけんと同じ。

 どう転んでも、どうあがいても、結局はそれの繰り返し。

 だから、彼女がこういった手を打ってくることは、最初から分かっていたことだ。

 

 黄金の鎧をまとった赤い蛇の瞳を持つ男。

 

 互いのサーヴァント()を打ち合うことすでに十数回。遅すぎたと言ってもいい。その果てに彼女は決意を固めた。その表れがアレだ。

 かつてこの世のすべての財を手にし、その蔵にありとあらゆる英雄殺しの宝具を集めた、人類最古の英雄王。

 アーチャー。ギルガメッシュ。

 彼に勝てる可能性のある英雄はオレの知る限り一人しかおらず、その一人をオレが呼び出せないことを彼女はよく知っている。彼女の呼び出した別の自分が心底恨めしい。

「ごめん、王様。ちょっと訳ありなの。初めから、手加減なんてできる状況じゃないんだ」

 彼女、藤丸立花の口からそうこぼれた。

「ほう。貴様がそう言うからには、相当根の深い事情があるのだろうが、まあ聞くまい。だがな、雑種」

 英雄王の赤い瞳が彼女のマスターを睨む。

「よもや貴様、たかが雑種の事情風情で、我にエアを抜かせようというつもりではないだろうな」

「————————」

 藤丸立花は答えない。けれど、その沈黙こそが何よりも雄弁に語っていた。

 そこまでしてまでも、彼女はオレという存在を認められない。けれど、彼との信頼関係を犠牲にしてまで、自身のエゴを押し通すべきか悩んでいる。

「フン、よかろう。今はその葛藤だけで十分だ。それに免じて、手加減をするのは控えてやる。乖離剣を抜くかどうかは我が判断する」

「うん。ありがとう、王様」

「たわけめ。すでに選んでいるのというのにまだ迷うか。そこで見ているがいい、雑種。その選択が行き着く先をその目にしっかりと焼き付けてゆけ」

 その言葉を言い切るか否か、英雄王の背後から飛んでくる無数の宝具。

 槍、槌、長剣、戦斧に巨大な岩の塊なんてものまで、もはや数えるのも馬鹿らしい凶器の雨。その合間に体を滑り込ませ、一つ二つは回収したダガーで弾く。そのうえで、尚も武器がふってくる。

 能力上、避けるだけならば相当の自信と自負がこちらにはある。高い敏捷と千里眼による望まない未来予測。絶対に避けられない、必中の宝具なんてものを持ってこられないかぎり、まず当たることはない。もちろん相手はあの英雄王なのだから、きっとそれに類するものも山のように持っているはず。

 そんなものを出されては殺されるのはこちらの方なのだから、その前に決着をつけるか、さもなくば弾いてしのぐしかない。

 それがいつまで続くのか。決まっている。きっとそう長くはもつまい。

「そら、これで終わりだ」

 英雄王が指を鳴らす。それと同時に、オレの周囲すべてが砲門で埋め尽くされた。たとえ単純な射出であろうとそれは躱しきれるものではない。必中の宝具なんて出すまでもない。逃げ場なんてどこにもないのだから。

 なら、全てを防ぎきるしかない。

 胸に手を当て、そこにあったものを強く握りしめた。

 

 

side藤丸立花(ぐだ子)

 

 敵を囲っての全方位射撃。私の知る限り本気に限りなく近いそれを王様、ギルガメッシュは何のためらいもなく打ち放った。

 それは、まだどうしようもなく甘い私自身への叱責。一度決めた道であるのなら、迷わずに進めるだけの覚悟を持てという、あの王様なりの激励。

 それでもまだ、私は決断できない。だってそういう覚悟の果てにあるのが、英霊フジマルリツカという自分のなれの果てなんじゃないのか。

 彼にはどうしようもなく迷いがない。そのかけらも感じられたことがない。

 この迷いを消し去ってしまったら、その瞬間、私は彼と同じ道をたどることになる。その恐怖がどうしても拭いきれない。

「何度も言わせるな、たわけ! 目を離すなと言ったであろう!」

 いつの間にかうつむいていた視線を、その声が強引に上に引っ張った。

 目に映ったのはいまだ土煙の舞う射出後の戦場。やがて晴れるその向こうにはきっと何も残ってはいないはずだ。

 ————けれど、その期待はたった一瞬で裏切られた。

「マ、シュ……?」

 十字の盾。見間違えるわけがない。これまで私を何度も救ってきたその盾が、英雄王の射撃によってできたクレーターの中に、そそり立っていた。その足元には円形に振り回したのか、丸く削れた痕がある。きっとあの盾でルーラーに降り注いだ宝具全てを弾いたのだろう。

 いいや、問題はそんなことじゃない。

 どうして。

「どうしてあなたがそれを持っているの? ルーラー」

 その盾を握っているのか。

「答える必要はオレにはない。そもそも、君はすでにその答えを持っているだろう?」

 盾を持ち上げ、構えなおしたルーラーの上に再び宝具の雨が降る。それをルーラーは飛びのいて躱し、止んだところで前進する。当然その前進が簡単に許されるわけもなく、その進行方向に向けて再び射出されるが、今度は躱すことなくその盾で弾き、英雄王に肉迫する。

 上段から振り下ろされる盾、激することなく冷静に剣を抜き対応する英雄王。停止するルーラーの頭上に落とされる無数の宝具が、王への追撃を許すまいと降り注ぎ、ルーラーを後退させる。

 私のよく知る盾の使い方とは、とても同じとは言えない。けれど、現に彼は、自分一人であの英雄王に迫っている。自分の願いのために、その願いを一度忘れて、ただひたすらに最善手を取り続ける。自分のために自分を殺すそれが、英雄王との絶望的な差をただ防御においてのみ埋めている。

 その姿に、認められない相手との闘いの最中だというのに思い知らされた。

 

 ————彼が大切にしていたものも、間違いなく私の後輩のマシュ・キリエライトと同じものだったのだ。

 

 誰よりも戦いを恐れながら、何かを守りたい一心で恐怖を殺し続ける。

 彼らは敵と戦うものではなく、弱い自分を打ち負かすもの。

 なら、彼と、彼のマシュの根底にあったものが同じなら、彼はあの盾を使える。

 では私は? 私が戦うべきものは?

「ソレを考えている時点で貴様に勝ちの目は無かろうよ。雑種」

 今まさにルーラーとのつばぜり合いの最中だった王様が、淡々とつぶやいた。

 ……というか、割りと余裕あるんですね、王様。

「ハッ! 観測の未来視程度で我が倒せるか。いずれにせよ、どの未来においてもこの世のすべてが我の物であることは変わらん。まあ、今目の前に迫りつつあるこの盾をどう捌くかについては、今もって検討中だがな」

「集中! 王様、集中して!」

「フハハハハハハハハハ!! そう急かすな」

 剣をしならせ、体勢を崩したルーラーに宝具を射つ。それがあらかじめ見えていたように、不安定な体勢のまま腰をひねり、盾に宝具がぶつかった反動でルーラーは後方に飛びのいた。そしてまた、彼は宝具の雨の中に戻る。何度も繰り返してきたことだ。きっと二分もしないうちに抜け出してくるに違いない。

「さて雑種。聞いてやろう。貴様が我を呼んだのであれば、それは確実に勝つ気でいるときだけ。それ以外の場に呼びつけることなどあるまいし、もしそのような場に呼ばれても我は応じぬ。後で貴様の首を宝物庫に収めるだけのことよ。我をまがいなりとも期待させた人類最後の雑種としてな。であれば、当然この戦い、勝算は見えているだろうな?」

 ルーラーがもう一度迫ってくるまで、そう長くはない。今は判断を遅らせる時ではない。返事は即決で返す。そのあとに首が飛んでいようが、その時はその時だ。

「はっきり言って、勝つことはできない。このまま続ければ、負けることはないけれど勝てもしない。そうなったらじり貧だ。っていうか、今の状態がすでにそれだ」

 一息に答えた。目をつむりたくなるのを我慢して、それでも意識を自分の外に向けて、待つこと三秒。さらに二秒かけてゆっくりと自分の首がつながっていることを確認した。

 生きているって、やっぱり素晴らしい。

「良い。分かっているではないか。そものこと、今この状態に陥ったことこそが貴様の不手際だが、それを正しく認識していただけ良しとしよう。この件は帰ってから存分に聞くことにする」

 ……やはり英雄王は甘くはなかった。ここに来て初めてカルデアに帰りたくないとか思ってしまった。

「さて、その上でだ。雑種。貴様、アレに負けることに納得できるか?」

「そんなのできるわけがない」

 今度も即答だった。けれど、さっきとは違う。さっきは理性が反応していたけれど、今のは本能。打てば響くように、胸の奥が反応していた。

「私は、あのフジマルリツカを許容できない。あれが私の行き着く先だなんて言われても、そんなの、絶対に納得なんてできない」

 そもそも、前々から突っ込みたかったのだけれど、私とルーラーでは性格如何の前に性別が違うのだし。あれか、英霊の座には時間の概念だけじゃなく、性別の概念すらないのか?

 閑話休題。

「いずれにしてもだ。貴様はアレに負けたくないのだろう? なら、答えはたった一つしかないはずだが?」

「…………」

 紅い蛇の目がほんの一瞬、こちらをねめつけた。

「でも…………」

「いい加減目を覚ませ、この戯けが! よいか、貴様はどこまでも愚かだ。この世に並み居る愚昧な雑種と何一つ変わらん大バカ者よ。だが、戯けではあるが貴様は腑抜けではなかった。それだけを、我は評価していたのだがな」

「……王様」

「もう一つ教えてやろう。王の忠告とありがたく受け取るがいい。貴様も、ついぞ向こうの雑種も気づかなかったようだがな、フジマルリツカは戦うものではない。貴様のかわいい後輩についても同じことが言えようよ。では貴様は何なのか、戦うのではなく、何を、するものなのか。

 答えよ。貴様はなぜ、人理を正すなどという途方もない旅に出たのかを!」

 それは。きっと————

 

「————自分にできることだと信じたから」

 

 ああ、そういうことか。

 私にはきっと迷いを捨てる必要はないのだ。

 私はただ、自分にできることをするだけ。自分にできる最善を探して、そこに必死に手を伸ばす。

 迷いながら、悩みながら、苦しみながら。きっとそれでも私は、私に行けるところまで、決して立ち止まらずに歩いて行ける。

 だって、私には多くの英雄()たちが力を貸してくれているのだから。

 きっと支えてくれる。励ましてくれる。引っ張ってくれる。どんなに落ち込んでも彼らとなら、きっとどこまでだって。

 だから、私は、自分にやれる最善を探せばいい。たったそれだけが、この先にある新しい明日を見せてくれると信じて。

「フン。ようやくか、立花。さて、貴様の望む最善とやらを言うがいい。我も我慢が限界に来ていたところだ。その令呪でもって、存分に望め」

「ありがとう。王様。————令呪を持って命ず、英雄王、乖離剣であの私を思いっきりぶった斬って!!!」

「フハハハハハ!! そうでなくてはな! さてそこな星の瞳よ。全力で行くぞ悪く思え。恨むなら、ここまで我をじらした雑種か、果ては我の憂さ晴らしに出くわした己の運を恨むのだな!」

 ルーラーをただ迎撃するだけだった砲門がすべて閉じた。それと入れ替わりにルーラーの周囲を囲むように並ぶ。また宝具の掃射かと構えるルーラーに襲い掛かったのは剣や槍ではなく鎖。盾を構えるルーラーの手足に絡みつき、彼の回避を許さない。

 その間に、英雄王の手元から暴風が生まれる。吹き荒れる砂塵の奥で、ドリルのような形をしたそれは三層に分かれた各パーツをそれぞれが違う方向に回転させ、英雄王を中心とした巨大な嵐を形成する。次第に嵐は成長し、指向性を持った一つの強大な竜巻となって周囲を飲み込み、さらに肥大。この空間そのものが壊れるのが先か、英雄王がその一撃を放つのが先か。使えと命じた自分自身でさえそう不安に思った時、ついに英雄王はその柄をつかんだ。

「————死して拝せよ。『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』を!!!!」

 その言葉とともにふり下ろした一撃。絶対の火力を持った暴風。

 一度放てば後には何も残らない破壊がなされるその前に、私はほんの小さな声を聴いた気がした。

 

「真名、偽装」

 

 直後、とんでもない熱量を持った光の柱が、エアの風圧に触れた。

 


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