【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜   作:藻介

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かなり遅くなりました。
今回で幕間編終了。次回からは、監獄塔に場所を戻してぐだ子vsぐだ男の戦闘になります。



幕間4 つまるところ

 巧くできた映画でも見ているような気分だった。

 見てくれだけの映写機が映し出したのは、ほんのいくつかを除いて、見も知らない遠い国での出来事ばかり。けれど、そのほんのわずかの見知った風景が、どうしようもなく告げてくる。

 これはすべて本当のことで、これから、私自身が歩む道のりなのだ。と。

 

 閑散とした空気、気のせいか薄ら寒ささへ感じる客席。その中に、もう一人の観客を見つけた。

 

「少年は少女を守れなかった。つまるところ、たった一行で済むお話だったんだ」

 

 観客の青い瞳はひどく憔悴しきっていた。ここに来る前に感じていた殺意など、すでに萎えきってしまっているよう。

 その隣に座る。

 

「貴方にとっては、本当に、それだけのことだったんだね。目の前で繰り返される惨劇も、誰かの犠牲も、えんえん見せ続けられる悲劇も、何もかも、あなたは、本当の意味では見ていなかった」

 

 観客の青年は、ああ、と、うだつの上がらない声で返答した。

 

「ずっと後悔ばかりしていた。彼女を守れなかった自分を恥じた。いつか、永遠に続く時間の中でなら、きっと彼女を守れるような自分になれるのだと思っていたよ」

「なれなかったの?」

「ああ、まだ、そこにはほど遠い」

 

 スクリーンには今も、遠い国の悲劇が映し出されている。誰かの泣き叫ぶ声が聞こえる。けれど、それを見ているのは私一人だけ。

 

「フジマルリツカ」

 

 青年がポツリと、私の名を呼んだ。

 

「改めて聞く。ここで、死んでいく気はないか?」

 

 考えるまでもなかった。

 

「ない」

「そうか」

「そもそも、そんなやる気のなさそうな声で言われても」

「はっ。確かに」

 

 青年はくつくつと笑う。心底おかしなものでも見たというように。

 私には、青年が自分自身の在り方さへも笑っているように見えた。

 

「もう行くよ。いつまでも、アヴェンジャーを待たせるわけにはいかない」

「いいだろう。だが、その前に一つ聞かせろ」

 

 私が席を立つ前に、彼はそう言った。

 

「お前の戦う理由はなんだ?」

「そんな決まり切ったこと、聞く?」

「ああ」

 

 客席には、灯りがともりつつあった。そろそろ、閉館時間なのかもしれない。

 

「生きるためだ。マシュもドクターもダヴィンチちゃんも、カルデアのみんなも、そして、私も。みんなで生きること。それが、私の戦う理由だ」

「……合格だ」

 

 彼のその言葉を待っていたように、突如、劇場が崩れだした。

 慌てて、席を立つ。

 

「自身の運命を見て、それでもそう言いきれるのなら。これから何があろうと大丈夫だろう」

 

 出口にたどり着き、ふと、振り返ってみる。

 落ちてくる瓦礫の中で、青年は尚も、席に座ったままだった。

 

「行くがいい。そして、ただの殺意ごときに負けるなよ。マスター」

 

 劇場の扉が完全に閉まった。そのうち、扉も光の中に消えていく。

 あまりのまぶしさに目をつむる。

 

 

 次に目を開けた時、そこはほの暗い監獄。どこかからか、鋼と鋼が打ち合う音。そして——

 

「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ、カルデアのマスター」

 

 その青い瞳に爛々と殺意を巡らせた、もう一人の私、ルーラー、フジマルリツカ。

 

「さて、お目覚めのところわるいが、手短に死んでくれ。マシュ・キリエライトを守れないフジマルリツカに意味はない。マシュ・キリエライトに守られるだけのフジマルリツカに価値などない。故に——————

 (オレ)が、ここでおまえを殺す」

 

 もはやその狂気は、復讐者と呼んでも過言ではないほど。大切な人を守れなかった自分が憎い。大切な人に守られてばかりだった自分が憎い。どこまで行っても、自己完結していた憎悪が、今だけは、こちらに向いている。

 なら、それを全力で叩き潰すほかない。

 

「悪いけど、そういうわけにはいかないんだ」

 

 根性を叩き直す。なんて偉そうなことを言ってしまったけれど、その正体を知った今は、はっきりと分かる。

 あれは、私の手には負えない。

 それでも、一度は自分にできることだと信じたなら、せめて、やれるだけのことはやってみよう。それに。

 

「貴方と約束してしまったんだ。最後まで、生きるって」

 

 暗闇の中で、二つの赤い光が瞬いた。 

 

 


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