【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜   作:藻介

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こんにちは。サマモちゃん引けなかったエクシエです。
傷心のあまりキャットに慰めてもらう小説書いてましたが、イマイチ面白くなかったので消しました。着物に麦藁帽かぶって縁側に座るキャットの膝の上で庭に実った夏野菜を眺めながら扇風機の風を受けたい一週間だった………。
そんなことはさておき、4話目、お楽しみいただけたら幸いです。


4 失せモノ探し(前)

Boost(強化). Right leg,and Left leg(右足、左足)

 素人の私にもできる程度の簡易的な強化魔術をかけた両足で、一気にルーラーのもとへと駆け抜けた。そのまま、強化先を変更。なんて、器用なことはできないから、

Fin(強制終了). Boost(強化再開). Right arm(右腕).」

 一度両足の強化を切って、改めて右腕に強化をかけなおす。

「くらえ——」

「下がれ! マスター!」

 アベンジャーの叫ぶ声が聞こえた。

 いきなりいわれても、一度放った拳が止められるわけがない。そう結論を出すまでもなく、ルーラーに当たった拳から帰ってきた嫌な音が、如実に真実を語っていた。

 腕の中に鉛を流されたような感覚。冷たいと思ったすぐ後に、血が沸騰したように熱が内側から溢れる。維持できなくなった強化が解け、その反動による痛みも相乗された。その場に膝から崩れ落ち、腕をおさえる。

「……がはっ、はっ、はっ」

(いまのが、サーヴァントの肉体? 布数枚を生身に巻いただけで、あんな、鎧を殴ったみたいに)

 痛みの片隅でそんなことを考えていた。その頭を持ち上げ、上を見上げる。そこには、

「…………」

 無言で私の首に剣を向ける黒い死神の姿が——ルーラーの最も頼りにするサーヴァント、セイバー、アルトリア・ペンドラゴン・オルタがそこにいた。

 鎧を殴ったような? 当たり前だ。なぜなら本当に私は鎧を殴っていたのだから。

 おそらく、『スケープゴート』によるものだろう。以前、ルーラーにサーヴァント戦における戦術を叩きこまれた際に聞いたことがある。端的にいえば敵意を一か所に集中させるスキルだったか。その際私が、ルーラーも使えたりするのか、なんて質問した時、彼は明らかに話題をそらそうと無理して作り笑いを浮かべていた。

(ランクによっては集団さえもだませるとは聞いていたけど、まさかここまでうまく引っかかるなんて。これじゃまるで幻術かなにかだ!)

 逡巡の間にも、聖剣から遠慮なしに向けられる無言の殺意が、首元へと近づいてくる。何度目かの死の覚悟をしようとした時。ぐいっと、後ろへと引っ張られる浮遊感と、視界を透明な幕が覆っていく不思議な光景。瞬間、鼻の先数センチを聖剣が切り裂いた。

 見開かれるセイバーの瞳。聖剣が辺り一帯を蹂躙し、小規模の嵐を起こした。

 その突然の変化に戸惑う。あれではまるでこちらが見えていないよう。

(無事か。我が仮初めのマスター)

 念話。声とその特徴的なしゃべり方からして、アベンジャーだとすぐにわかった。

「ア——」

(声を出すな。できるなら、息も止めておけ。このまま距離をとりつつ念話に集中する)

 通っているかどうかさえも怪しい微細な魔術回路に意識を集中。アベンジャーに合わせて足を動かしながら、頭痛に耐えつつ念話を開始。

(……わかった)

(それでいい。さて、何よりもまず、単身で特攻したことについて、申し開きの有無を問い正したいところではあるが)

 うぐ。これ後で説教ルートだ。

(そ、それよりも今は、状況の確認からじゃない? とりあえず、今は安全に作戦会議できるんでしょ?)

(その通り。俺の宝具『巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)』によるものだ。情報の隠ぺいと改竄が主だが、応用すればこのような使い方もできる)

(なにそれ便利)

 ハリー〇ッターの透明マントかなにかなのかそれ。

(ではまず初めに、あのサーヴァント、かなりの出力で魔力をまき散らしているが、アレが何か知っているか?)

(うん。アーサー王。クラスはセイバーで超高火力の宝具と魔力放出で強化された重い一撃一撃、それに、直感で致命傷をギリギリのところで回避する。まさに、最優のサーヴァント)

(なるほど、正面からやり合うには向かんな)

(あー、えっと、それを承知で一つ頼まれてほしいんだけどさ)

 これからいわんとしていることを察してか、アベンジャーの顔が曇った。

(まさか、アレと一対一で戦ってこい、などとはいわないだろうな)

(ごめん。そのまさか)

 渋面のまま、黙り込むアベンジャー。けれどここで折れるわけにはいかない。

(……その間、おまえはどうする)

 アベンジャーが再び念話を始めた。即答で返す。

(ルーラーを探して今度こそ殴る)

(どうあれ、そこは譲る気はないのだな)

(当然)

 もし私には変えられないのだとしても、私はフジマルリツカが変わってしまった理由を知るべきだと思うのだ。それはやっぱり、自分のこれからに関わることなのだろうし。

 アベンジャーが溜息をついた気がした。彼が自分で、息まで止めておけといったのだからもちろん、そんなことはないのだろうけど。

(いいだろう。すでに約定は交わした身だ。その上でおまえがこの監獄塔を生きて抜け出せるかどうか、見極めることにしよう)

(ありがと)

(だが、これだけは心に刻んでおけ。お前は一人では、どこまでも無力だ。それでも今のまま、わがままであるのが一番いいのだと)

 それはこれまでと同じようにどこか核心をついた言葉だったのだろう。けれど、目で殺す真の英雄しかり、たいていの場合がそうであるように、言葉足らずでよくわかりにくい指摘だった。

(なにそれ)

 それゆえに、心からのつぶやきが漏れた。

 

 

 

 作戦会議は一分で終了した。

「Boost. Right leg and Left leg」

 巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)の範囲内から出るとともに両足の脚力を強化。戦線からの離脱を試みる。が。

「逃がさん」

 当然、みすみすそれを許すセイバーじゃない。魔力のジェット噴射が容易く強化魔術を追い抜く。再び迫る凶刃。だけどそれも想定済み。

 ぐあん。と、金属と別の硬い何かがぶつかる音。

 予定通りに事が進んでいるのなら、今のはアベンジャーがその鋼の拳で聖剣をパリィした音だろう。どうやら、幸運なことにその通りだったようで、背後から頼もしい、高らかな笑い声が聞こえた。

「ありきたりで悪いがな騎士王。ここから先は通行止めだ。通りたくば、その聖剣で押し通るがいい!」

(頼んだよ、アベンジャー!)

(ああ! ここは俺に任せて先に行け、マスター!)

 身体強化で走り出した勢いのまま、私は外周のテラスへと飛び乗った。

 

 

 

 テラスの上は何とも不思議な空間だった。

 博物館のように何かの画像が額縁に入れられ、いくつも飾られている。そのどれもが悲惨な地獄ばかりを映している。妙な静けさに背筋が震えた。なぜか、今も交戦中のはずの、アベンジャーの笑い声も聞こえてこない。

 その光景につい動揺し、身体強化が解けた。軽い反動に足が止まる。

 ふと、そばにあった額縁を見やった。

「え、これ……!」

 映っていたのは燃える街並み。それだけなら、他のいくつかに埋もれていたかもしれない。けれど、その地獄を私はよく知っていた。

「これ、まさかオルレアンなの?」

 町を燃やしていたのは一体の大きな黒い竜とその上に乗り旗と剣を振るう少女。まぎれもなく、ファブニールとオルタ。

 もしかしてと思い。さらにいくつか先まで手を伸ばした。

「ローマ、オケアノス、それにこれは、ロンドン。間違いない、これは、特異点」

Exactly(その通り)!」

 突然アベンジャーとは別の意味で高らかな声が響いた。声の方へ振り向く。

「シェイクスピア?」

「ええ、不肖シェイクスピア。特別ゲスト枠でまかりこしております。あ、ついでにアンデルセン殿もいますぞ」

「ついでというな、ついでと」

 シェイクスピアの背後から現れたアンデルセンは、そう開幕ざま弱めに毒を吐く。

「ルーラーに呼ばれたんだよね?」

「ええ理解が早いようで何より。しかし、物語を動かすための駒を配置したことは何度もありましたが、まさか創作者たる我々が、逆にその駒として配置され、動かされるというのは、何とも新鮮なものです」

「……は?」

 ぶっちゃけ何をいっているのか分からない。

「メタ発言は止めろ。というか、むしろ貴様の場合本望だろうが、役者志望。ああ、そこ。今のは気にするな。でないと消されるぞ、(オレたち)に」

「う、うん」

 よくわからないが、この二人はどこまで行ってもこんな感じなのだろうなと、なんか逆に安心した。

 そしてこうもいわなければならない気がした。

 閑話休題。

「さて、話を戻しましょうか。先ほどあなたはこれらの展示品に映る地獄を、特異点における一幕と理解したと思います」

 指で軽く額縁の内側をたたいて、シェイクスピアが語った。首肯を返す。

「そして、吾輩はそれを肯定した」

 これも頷く。

「ですが、それでは正解とはいえません。正確には、それだけでは正解ではないのです」

「どういうこと?」

「おい劇作家、遠回しな表現は止めろ。こいつにはストレートな方が響く」

「なるほど。ではここからはアンデルセン殿に譲りましょうか」

 青髪の少年がいい声で溜息をついた。

「おい、俺たちとは別のカルデアのマスター。額縁はそれだけではない。続きまでしっかり目を通せ」

 いわれた通り、先ほど見た4つの、となりのいくつかを手に取る。

 一つ目、槍を持った大勢の古風な戦士たちと、それに相対するこれまた大量の機械化歩兵。その抗争に巻き込まれ血を流す住民。

 二つ目、荒れた大地で希望を求めさまよったあげく、聖抜と評して焼き殺される行商人たち。

 三つ目、吐き気を催すほどに不気味な異形の怪物の腕に貫かれ、苦悶の表情を浮かべながら足の先から骨を噛み砕かれる祭司。

「うっ…………」

「まだだ。さっさと続きを見ろ」

 限界は近かった。胃がむかむかして、口の中が苦い。いつ吐き出してもおかしくない。

「それ、これが最後だ。そして始まりだ」

「え、これは」

 差し出されたそれは、これまでとは毛色の違う画像だった。

 どこかの戦場跡だろうか。雲間からのぞく青空の下の大地がきれいに抉れている。その対比は一種の荘厳ささえ感じさせた。特に、真ん中に立つ十字架がより一層神聖さを際立たせている。

 だが、その十字架はよくよく見てみれば、非常に見覚えのあるものだった。

「これ、マシュの盾?」

「ああ。そしてそれが立っていることから、予想がつくだろう? あえてその絵に題名をつけるなら」

 ——それはきっと、大切な人の喪失。とつぶやいていた。

「そうだ。タイトルとしては少し長く押しが弱いが、今は関係ない。重要なのは、これらはすべて、お前と無関係ではないということだ」

「つまり、ここに飾られている地獄は全部」

「そうです。これらはすべて、貴女がルーラーと呼ぶ男、我らがマスターの辿った地獄」

 シェイクスピアがついに明かした。

「これから、あなたが辿るであろう地獄そのものなのです」

 足がすくむ思いだった。

 アベンジャーの言う通りだ。私は、一人だとどこまでも弱い。隣に誰かがいたからこそ、これまで四つの特異点を越えられてきた。

 その誰かが、もしいなくなってしまったら。一番隣で見守っていたいと思える、あの後輩を失ってしまったら。私は、どうなってしまうのだろう。

「ねえ、アンデルセン。シェイクスピア。ルーラーは、その地獄を越えて、どうなったの?」

 俯いた顔を上げて、見えた二人の表情は笑顔だった。

「気になりますかな?」

「うん。知りたいよ。だって何も知らないままでルーラーを殴りたくはないしね。それに、何かを失うのも怖いし」

「わかりました。ではアンデルセン殿」

「いいだろう。仕上げと行こうか」

 二人の手元にどこからともなく一冊の本が取り出される。それは自分から開いて、自身を切り分けるように、辺りにページをばらまいた。

「ではお気をつけて行ってらっしゃいませ。どうか、実りある旅であらんことを」

「これから貴様が見るのは一つの生涯、その延長。心してかかれよ。でなければ飲まれるぞ。貪欲であれ。我がままであれ。自分のつかみたい未来を忘れるな」

 ばらまかれたページは一つの群れのように周囲の空間を泳ぐ。やがて一つの渦となって、視界を埋め尽くした。

「「少年の話をするとしよう。『貴方の為の物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)』」『開演の刻は来たれり、此処に万来の喝采を(ファースト・フォリオ)』」

 




設定:ぐだ子の魔術

・装備している礼装や道具の補助なしでは使えない。
・詠唱はシンプルに。
 ※参考:ロード・エルメロイ二世の事件簿、空の境界 矛盾螺旋(前)、Fate/EXTRAのコードキャスト
・解除後に軽く反動がある。

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