【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜   作:藻介

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 オルレアン編、これにて完結です。
 自己解釈多めですが、楽しんでもらえると嬉しいです。

 次回からは少し飛んで監獄塔編になります。
 また、遅くなりましたが新年のご挨拶を。今年もよろしくお願いします。


邪竜百年戦争オルレアン21~25

―21― sideルーラー(ぐだ男)

 

 外のサーヴァントたちの相手を終えた後、ファフニール含めた竜種たちの相手をジークフリートたちに任せて、城内へと侵入する。

 二度目のオルレアン城内は、一言で言うなら悪趣味だった。

 ロビーからひたすらに螺旋階段を駆け上がり、最上階へ。一際目立つ大きな扉を開ければ、そこには長く長く続く廊下。

 まばらに配置された竜種、屍者(ゾンビ)、竜骨兵が時間間隔を狂わせていく。

 その一方で、次の区画へとつながる扉は比較的等間隔に設置されている。だがもちろんこれも悪趣味な嫌がらせに満ちていて、ドアノブを飾る逆さ十字には器用に紐で腐敗した肉片がつるされている。――――無論、人間の首だ。見るものが見れば、例えば(正直本気で見せる気はないが)サンソンやジャックが見れば、小児のものだとわかるだろう。

「清姫、エリザベート。耳を貸せ」

 廊下を走りながら、マスターとマシュに気づかれないよう、二人にそっと耳打ちする。

「この先、エネミーと同時に扉の方も壊してほしい。できれば、あの二人が見ないように」

「どうしてそんな面倒なこと……、え、この匂い、まさか」

「そのまさかだ。お願いできるか」

「……分かったわよ」

 さすがは、と言ったところか。

「清姫も大丈夫か」

「ええ、問題ありません。ただ、その場合魔力の温存は少し難しいですよ」

「そこは心配いらない。こちらに策がある、まかせてほしい」

「わかりました」

 こちらもどうにかなったか。

「しかし、まさか君が二つ返事で聞いてくれるとは思わなかった」

「勘違いもほどほどに。私はそれが旦那様のためだと感じ取ったから、お受けしただけのことです」

「……驚いたな。そこまで見抜かれていたとは。参考までに、どうして分かったのか聞かせてもらえるか?」

 扇子の奥で口をほころばせる清姫。

「女の勘ですよ。あなたも気を付けた方がいいのでは?」

「…………ご忠告、感謝する」

 やはり、死んでも女の人が怖いのは治らないらしい。

 爆音が響く。見れば、数体の竜が串刺しのまま扉へと投げつけられ、瓦礫の生き埋めになっている。その体は扉に括りつけられた死体ごと、灰になって消えた。

 

 そうして、いくらかの扉をこじ開けた後。

「魔力反応です。おそらく、次の扉の向こうに聖杯があります!」

 マシュがそう伝えた。

「ならば、そこにはジル・ド・レェ元帥、それと、黒いジャンヌ・ダルクもいるだろう。みんな、これがこの特異点の最後の戦いだ。覚悟はいいかい」

 こちらを慮るドクターの声に、マスターが答える。

「……行こう」

 

 

―22― sideぐだ子

 

 剣戟が広いホールに響く。

 ルーラーの呼び出したセイバーと黒いジャンヌが戦っている。状況は五分五分。いや、ややセイバー優勢と言ったところか。押されているジャンヌを支援しようとジル・ド・レェが海魔を召喚するが、それもマシュとこちらのジャンヌで抑えている。エリザと清姫も扉から入ろうとしてくる竜種を食い止めている。

 尚も、剣と剣がぶつかり合う。

 それを私は見ていた。

「どうした突撃女、火力が落ちているぞ」

「うるっ……さい! あんたこそ、それ本気じゃないでしょうに」

「ほう、その状態でも分かるか。確かに、今の私はステータスが若干落ちている。何せイレギュラーな召喚だからな、これくらいは当然だ。だが」

 一度互いに距離を取りセイバーが剣を一振りする。わずかに魔力を放出しただけの風圧、それだけで彼女の周りの炎が消し飛んだ。

「今の貴様相手ならば、この程度、ハンデにもならん」

「こンの……、血の通っていない蝋燭風情が。アンタも、あのルーラーも、そっちの聖女様も、そして何よりもあの生意気なマスターもいい加減、目障りなのよ!」

 叫ぶように吐き出されたその言葉と同時に、黒いジャンヌの周りから出た炎が、彼女ごと燃やさんばかりに猛る。それすらも、セイバーはまるでないもののように進み、またジャンヌと切り結ぶ。

「ぬるい!」

「ぐっ…………」

「あまりにも弱い! 貴様、持ち前の威勢の良さはどこに置いてきた。これでは、蹂躙するこちらが先に萎えてしまうぞ!」

「うるさいっつってんのよアンタ。聞こえてないの? さっさととその口閉じなさいよ、もう!」

「…………ねえ、もしかして、二人って実は仲良かったり」

「「しない!!」」

 まったく同じタイミングでこちらを一睨み。それに合わせて魔力の風圧に乗った熱風も発生し、強制的に二人を引きはがす。

「しかし、貴様と切り結ぶのもこれで何度目か分らんな」

「なんの話よ」

「いや、こちらの話だ。結局、知らず知らずのうちに縁というやつができていたのかもしれんな、と思っただけのこと」

「なにそれ、そんな腐れ縁初めっからいらないわ」

「だな。不満だが、それには同意見だ。ゆえに」

 辺りの魔力が急速にセイバーへと、正確にはその手に持つ剣へと収束していく。明らかに以前ルーラーに撃っていたとき以上の量、いや、それが可愛く見えてしまうほどの密度。

「――今ここで、その縁も斬り潰しておこうとは思わないか?」

「……………………フッ、何よそれ。ずっと思っていたんだけど、貴女相当な脳筋ね。頭にマッシュポテトでも詰まっているんじゃないんですか? まあ、でも、気に入ったわ。上等よ、お望み通り、ここで燃えカスにしてあげる!」

 同じように密集していく魔力。次第に辺りの大源(マナ)まで食い散らかしていき、魔力を自ら生産する術を持たない海魔からも奪っていく。私も体内で最低限の魔力を生産して立っているのがやっとだ。こういう時の対処を教えてくれていたメディアさんに後で感謝しなければ。

「――――卑王鉄鎚、極光は反転する」

「――――これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮」

 一点に集められた力が、暴風となって放たれる。

「『|約束された勝利の剣《エクスカリバー・モルガ――――――――――――――――――ン》』!!!!!」

「『吼えたてよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュヘイン)!!!!!」

 

 

―23―

 

「うたかたの夢、という言葉を知っているか、マスター。

「本来であれば儚い夢や希望のことを意味し、その多くが叶わない。

「これがサーヴァントについての話になると、多少意味が変わってくるんだが、早い話夢や幻とは違い実体を伴ってくるんだ。

「けれど、いつまでもは続かない。

「夢である以上、いつまでも世界には認められない。

「それこそ泡沫(ほうまつ)のように、いつかはあっさりとその姿を消すだろう。

「そんなことは認められない、か。まあ、マスターならばそういうだろうと思っていた。何、手はある。

「もし、君が彼女に消えることを許さないなら、彼女のことを認めてやればいい。誰でもない、世界でもない、君がだぞ。

「そして彼女の願いも認めてやれ。彼女の願い、そして、彼女を生み出したジル元帥が本当に願ったこと、それは――――

 

「……っぐ」

 暴風が止んだ。城の外壁は崩れ、野ざらしになった城内に風が吹き抜けている。

「無事ですか? 先輩」

「うん、かすり傷。ありがとうマシュ」

 二つの強烈なエネルギーの塊がぶつかり合う寸前、魔力を吸いつくされた海魔の対処から解放されたマシュが私の方に滑り込んできて、その余波から守ってくれた。そのおかげであれほどの衝撃にも関わらず、目立った傷は一つもない。

「あの二人は、どうなった?」

「わかりません。まだ土煙が晴れていなくて、サーヴァントの視力でも。……っ!」

 その土煙の中から、ようやく彼女たちの姿が出てきた。

 その片方、セイバーの足元に赤い花が咲いていた。

 ――セイバーの血だ。見れば、彼女の胸には一本の黒槍が鎧を貫通して突き立っている。

「フッ。すべて蹴散らしたつもりだったが、……今一つ、足りなかったか」

 血が、いや血液というべき量の赤色が口から吹き散らされる。そのうちの一滴が宙に浮いた。そこから徐々に実体が出来上がっていき、ただ服の一片についていただけなのだとわかる。ルーラーだった。セイバーの白い体がルーラーに寄り掛かる。

「セイバー、休んでくれ。さすがにその傷ではサーヴァントといえども霊核に響く」

「そのようだ。あれにとどめを刺せないのは、少し物足りんが、まあ、良しとしよう。ああ、それにしても」

 ルーラーの腕の中で、セイバーがどこか焦点の定まらない瞳をして、

「縁を斬る、か。まさか、こんなにも、難しいことだった、とわな。全く、いつまでも、無茶、ばかり、するんですから、シロウ、は」

 そう、ここにいない誰かへの言葉を残して座へ帰っていった。

 そのかけらを無言で、とても尊く思いながらルーラーは最後の一つまで見つめていた。けれど、やがてすべてが空気に溶けるの確認すると、立ち上がって一点を見つめる。その先にいたのは、先ほどのエネルギーの片方を担っていた黒いジャンヌ。

 服の半分が蒸発し、体のあちらこちらが焼け焦げている。旗を地面に突き立て、それに寄り掛かってやっとのことで立って居られている、そんな風に見える。

「ク、クク、クハッ。やっと、やっと消えたわ、あの蝋燭女」

 その彼女に歩み寄る影が一つ。

「ジャンヌ、貴女もお休みください。先ほどの一撃、わざとその身で攻撃を受けながら、必死の一手で敵将に一矢報いたように見えました。であれば、御身はもはや限界のはず。お早く」

「バカを言わないでちょうだい!! 私は、まだ、このフランスを滅ぼせていません。復讐を果たせていません。それなのに、休むですって? そんなことをしてしまえば、私は、……私は」

「無論、消えてしまうだろうな」

 唐突にルーラーが口を挟んだ。

「なんですって」

「言った通りの意味だ。君の行動は全て、他者、自身を魔女と呼んだすべてへの憎悪によって成り立っている。君の存在すらもだ。故にこその復讐者(アヴェンジャー)。それだけに、その憎悪、またはそれに起因する行動をやめてしまった時点で、君は消滅する」

「…………本当なの? ジル」

「……………………」

 ジル・ド・レェ元帥は黙ったままだ。しかし、その顔には気持ち悪いくらい穏やかな笑みが貼り付いている。

「その男は当然、そのことを知っている。なぜなら、君を生み出したのはそこの元帥なのだからな」

「じゃ、じゃあ」

「ああ、君は彼がそうあれかしと聖杯に望んで作られた存在。だから、

 ――きみは、ジャンヌ・ダルクではない」

 その言葉が、とどめだった。

 つかんでいた旗を手放し、派手な音を立てて地面に崩れ落ちる。その瞳から溢れるのは大粒の涙。口から零れるのは呪詛ではなく、

「そん、な。私、私は、私こそが、ジャンヌ・ダルク。かつて、私を火刑に処したこのフランスに、この世界に、復讐する者。……その、はずだ。じゃあ、私は、何? 私は、どうして? ああ、消える。消えていく。私のなにもかもが。イヤ、イヤだ。イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ。私は、まだ」

「消えたくない?」

「誰?」

「また、自分の足で歩きたい? 走りたい? いろんな物を見てみたい? おいしいものを食べてみたい? 友達を作って、おしゃべりしてみたい?」

「私、は」

「貴女は?」

「生きて、いたい」

 彼女の、本当の願いだ。

「自分の足で立って、歩きたい。いろんな物を、フランスの外を、見てみたい。おいしいものを食べてみたい。イングランドの食べ物は……食べたくない。アイツにやり返したい。そして、何よりも」

「何よりも?」

「友達が、欲しい」

「うん。分かった。その願い、叶えるよ」

 右手の甲が熱い。やることはわかっている。呪文もしっかりと覚えている。

「――――告げる。

 汝の身は我がもとに、我が命運は汝の剣に」

 

 

―24― side???

 

 ここに、彼女がいる。

 人の善性を信じ続けた、優しい彼女が。

「待て、どこへ行く!」

 邪竜を退ける黄昏。その光が狂化に覆われていた自我を叩き起こした。

 なら、行かなくては。

 ――すまない。今は、行くべき場所がある。

「……ッ! そうか、そういうこともあるのだな。であれば、行け」

 ――ありがとう。貴方に最上の感謝を。

 翼を広げる。痛みはある。それでも、そこに彼女がいるのなら。

 邪竜は、かくして城へと飛び立った。

 

 

―25― sideぐだ男

 

「させてたまるものかあああああ!」

 マスターが詠唱を完了をしていない中、ジル・ド・レェ元帥が襲い掛かった。

 今、ジャンヌ・オルタの存在は彼女の中にある聖杯によって保たれている。それをマスター(を通じてカルデア)に繋ぎなおしているところだ。もちろん、その中で妨害されてしまえば、ジャンヌの存在の不可は聖杯の所有者である元帥の物。すぐに元帥は彼女をリセットするだろう。

「もちろん、それができればの話だが」

 元帥がジャンヌ・オルタに触れるか触れないか、というところで、突然風が巻き起こった。

「何が」

 それを認識する間もなく元帥はその風の中心にいた黒い巨体の足に踏みつけられ、身動きが取れなくなる。

「あれは……ファフニール? 主人を守ろうというのですか?」

「半分正解で半分外れだ、聖女」

 オレの言葉なんて聞いているとは思えないが、間違いを正したくなるのはこの霊基(探偵)の性だ。一応、補足しておく。

「あれは竜の魔女を守ろうとしているのではない。ただ君に会いに来ただけだ。ジャンヌ・ダルク」

「私に会いに」

 聞いてくれていたらしい。内心よかったと思ってしまう自分がいるのがなんとも言えないが、まあ、良しとしよう。

「それでも、ごめんなさい。私、貴方のことは覚えていないんです。けれど、どうしてでしょうね。覚えていなくて、その記憶に触ろうとしても何も感じないのに、どうして、胸がこんなにも暖かくなるんでしょう」

 ジャンヌが胸の前で何かを握りしめ、そして歩きだす。

「ジル」

「アア、アアア、アアアアアアアああああああ!!」

「もう、いいんですよ。そんなに苦しまなくても。確かに私は頑固でした。周りが見えてなくて、自分のことしか考えていなくて、後に残った者がどんな思いをするのか想像することすらしなかった」

「ア、アああああ、じゃんぬ、ジャンヌ」

「はい、私はここにいます」

「ジャンヌ、私は、貴方に、ただ一人の少女としての幸せを……」

「はい、分かっています。けれど、それは当分叶いそうにありませんね。ですが、大丈夫。私に無理でも、きっとあの子が。それに私だって、いつかきっと。ですから」

 固く握りしめた手のひらが開かれ、元帥の手をしっかりと包んだ。そうしてひとしきり彼に伝わったら、その手を腰の剣へ。

「一緒に行きましょう。ここは、彼女たちの世界です。私たちは退場しなければ」

 柄の先で一輪の花が咲いた。

「――――主よ、この身を捧げます」

 そして、咲き誇る炎。激しくそれでいて苛烈ではなく、ただ包み込むように優しい。

「ルーラー、ありがとうございました」

「いや、オレは何もしていない。すべてマスターが決めたこと。オレはただ提案しただけだ」

「それでも、彼女には道になったと思いますよ」

「…………」

「ですが、導きすぎるのもほどほどに。彼女は、貴方ほど強くはないんですから」

「善処しよう」

 その返しをどう思ったのか、彼女は微笑み、視線をマスターの方へ向ける。

「立花さん、マシュさん、私の友達になってくれてありがとうございます。どうか、あなたたちの旅に主のご加護があらん事を。そして、できれば、その子を、妹をよろしくお願いします」

 再契約はすでに終わっている。今は、魔力を使い果たして眠る二人の傍らにマシュが控えている。

「後は、やはり貴方でしょうね」

 最後に、傍らのファフニールに声をかけた。

「ごめんなさい。こんなやり方で貴方を帰すことになってしまって。熱いでしょう?」

「                」

 誰にも聞き取ることのできない低い音が、竜の口から洩れた。

「そう、ですか。いつか、きっと、貴方に会いに、行きますから」

 こうして、一つ目の特異点は無事修復された




ルーラーのマテリアルが更新されました。

・うたかたの夢(―)
 個人の願望、幻想から生まれた存在であることを示すスキル。
 それゆえに強い生命力を有するが、同時に世界から永遠に認められることはない。
 彼の場合、英霊になった直後は所持していたが、ある事情から、それと同時に失われている。

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