最近雨がすごいですね…皆様大丈夫でしょうか?
───初めての経験だった。
誰かに、結婚を申し込まれたことなど。
確かにぬらりひょんは〝畏〟により色々な妖怪達を従わせ、その中でぬらりひょんに異性として好意を持つ者も山程いた。雪女の雪羅などがそうなのだが、それでもぬらりひょんに対しストレートに結婚を申し込んだことは一度もない。
それどころか妻である珱姫すらもなかった。珱姫には逆にぬらりひょんからプロポーズしたからだ。
したがってぬらりひょんは初めての経験に驚きを隠せない様子だ。声すらも出ない。
「どうしました?」
そう訊きたいのはぬらりひょんの方だ。会って間もない男に急に結婚を申し込む。その意図がぬらりひょんには全くわからない。恐らく衣玖はぬらりひょんに一目惚れしたとかそういう訳ではないだろう。
「急…なんてもんじゃないのう。ワシのお主は会って1時間も経っておらんじゃろう」
「そうですね。しかし、私は〝貴方がいい〟 そう感じました。
それに────
そんなに時間が必要ですか?」
「…何?」
彼女は被っていた帽子をとり、机の上に置いた。そしてまた一呼吸置いてから口を開く。
「確かに時間は大切です。〝時は金なり〟という言葉ができるほどですから。しかし誰かが誰かを好きになる事に時間は要らないと思います。その気持ちが本物なら、すぐに『この人しかいない』と感じる筈だと思いませんか?」
確かに、ぬらりひょんも珱姫と結婚するまでにかかった時間は雀の涙ほどだ。しかし何かおかしい。何か引っかかる。衣玖が言っている言葉は正しくはあるが、本心ではない、そうぬらりひょんは感じた。
「だから私は貴方に結婚を申し込みました」
怪しいというよりは〝妖しい〟と言った方が正しいのだろうか。ぬらりひょんはまるで狐に化かされている気分だ。
「お主が何を考えてるのかわからんが……ワシには奥さんがいんだぜ?まあずっと前に亡くなっちまったがな」
「それは……失礼を」
ぬらりひょんは表情は笑っていたが目は笑っていなかった。何年、何十年、何百年経とうとも最愛の人を失った哀しみを忘れることは無い。いや忘れてはいけない。
珱姫と過ごした時間、それは妖怪であるぬらりひょんにとっては決して永い時間ではなかった。しかしその時間の全てはぬらりひょんに一生消えない思い出として残っていた。
衣玖はぬらりひょんの心情を感じ取ったのか、黙り込んでしばらくお茶を啜っている。
「……なんか訳ありかい?」
「……」
衣玖は下を向いて
そうとしか考えられない。多少の好意があろうともそれがその場で結婚を申し込ませるほどには思えない。先程言っていた〝急いでいる〟というのがぬらりひょんには何か関係があるように思えた。
「その……実は────」
限界だと思ったのか、彼女はようやくぬらりひょんに本心を告げようと顔を上げた。
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「ケホ…!ケホ…!」
土煙が舞う。
辺りの木はなぎ倒され、地面は不自然に凸凹と崩れている。フランは土煙を手で払いながら空を見ると、自分と同じくらいの大きさであろう先の尖った要石が、自分めがけて襲いかかってきた。
間一髪でそれを躱すも、また第2第3の要石がとんでくる
「しつこい…よッ!」
躱すのがキツイと思ったフランは、両手で2本の要石を受け止めた。要石はドリル回転しながらしばらく回っていたが、すぐにフランの握力により止まった。フランの手からは摩擦によって生じた煙が出ている。
「へぇ〜今のを素手で止めるんだ。面白いわね貴方」
「…貴方は全く面白くないけどね」
フランは皮肉交じりの言葉を放ちながらニヤリと笑っている。両手を見ると先程までとは違い、鋭利な爪を露わにさせていた。爪だけではなく、歯茎も露わにしている。ようやく『吸血鬼』としてのフランを青髪の少女へ見せていた。
「そう言わないでよ、私は貴方のこと好きよ。そうねえ…私専用のオモチャにしてあげてもいいわよ?下界の者には大き過ぎる待遇だとは思わない?」
「……」
それが本音なのか皮肉の冗談なのかはわからないが、それがフランにとって不愉快であることは変わりない。
青髪の少女はイライラしているフランをみて愉しんでいる。悪趣味にも。
そして気になることもある。今、青髪の少女は〝地上の者〟と言った。フランはパチュリーの本で見たことがある。それは、〝遠い彼方には天界と呼ばれる桃源郷が存在する〟という内容だ。そしてその天界とやらには〝天人〟という者が存在している。もしかするとあの少女がその天人ではないか?と思っているのだ。
しかしその本には〝厳しい修行を乗り越えた者だけが天人となりえる〟とも書かれており、どうもあの我儘女がそれを乗り越えたようには見えない。
「さーてと、ウォーミングアップはおしまい。じゃあそろそろ…本気で行くわよ」
「…!!」
少女の顔つきが変わった。ヘラヘラとしていたふざけ顔から、本気の顔へと。殺意は感じ取れないので、恐らく〝本気の遊び〟ということだろう。
先程から地面にいるフランを見下ろしていた少女だったが、更に上へと飛び上がり、大きく息を吸って吐いた。
「さあ!止められるものなら止めてみなさい!【要石「天地開闢プレス」】」
両手を上げた少女の上に、馬鹿でかい要石が出現した。その大きさは先程の村にあった小屋くらいである。依然少女からは殺意を感じ取れないが、こんなものをまともに食らったらたとえフランであろうとも紙のようにぺしゃんこになるだろう。
避けなければならないとは思っているが、あまりの大きさに面を食らったフランは中々その場から動けない。
「そりゃッ!」
少女の威勢のいい声と共にロケットのような要石は放たれた。そして凄いスピードを維持したままフランのいた地面へと轟音と共に突き刺さった。
あまりの威力に凄まじいほどの土煙が舞い、上空にいた少女もむせていた。
「ゴホッ…! …あら?この程度も避けられなかったの?」
手で煙を払いながら少女は目を凝らして地面を見た。すると煙の隙間から2つの大穴が空いていたのが見えた。もちろん疑問に思う。自分が放り投げた要石は1つだけだ。なのに何故2つ大穴が空いている?
そんな事を考えていると急に弾幕が飛んできた。焦った少女は間一髪で躱すも次々と迫る弾幕にいくつか直撃し、地面に落下してしまう。
「痛っっっ……な、なに!?」
地面に落ちた拍子に更に土煙が舞うが、それは唐突に出現した炎の剣の一振りによりかき消された。
その剣を持ち、尻餅をついている少女の前に堂々と立ち尽くしているのはもちろん────
「あら、女の子が人様の前で尻餅をつくものじゃなくてよ?」
灼熱の炎のような瞳を真っ直ぐに向けたフランドール・スカーレットだ。意図したのかそうでないのかはわからないが、口調がほんの少しだけ姉、レミリアのようだ。
フランは巨大な要石が直撃する寸前に【禁忌「レーヴァテイン」】を出現させ、一瞬で要石を真っ二つに切り裂いた。要石はフランの左右に突き刺さったので、無論フランにダメージはない。
少女は弾幕を食らっていたがダメージは殆どないように見える。しかし何も言わないし、動こうともしない。ただ歯を食いしばり地面だけを睨んでいる。今度はフランが少女を見下ろす形になった。
「ふーーー………いい度胸ねアンタ。妖怪なんかにここまでの屈辱を味わうなんて2度目だわ…!」
少女は肩を震わせながら立ち上がる。そして全身全霊でフランを睨みつけた。ここからは遊びではない、フランはそう直感した。
少女が右手を前に出すと、真っ赤な剣が出現した。その剣の禍々しさはフランのレーヴァテインにも劣るとも勝らない。
「決めた!アンタは何があっても……許さない!!!」
はい、第47話でした。
私はほのぼのストーリーを書くのが苦手なのですぐにバトルものに発展しちゃいます。最初はほのぼのを目指していたのにどうしてこうなった……
ではお疲れ様でした。