今回こそ早く投稿しようと思ってすぐに取りかかろうとしたんですが、結局1つの話が出来終わって投稿しようとしたら一ヶ月が経ってるの本当に謎です。調子に乗って3つも連載するから…
「はぁ…ッ!」
フランは全力で駆けていた。無論、無意味にではない。吸血鬼の勘というものが働き、先ほど起きた地震の震源地を感じ取ったのだ。
そう、あの地震は自然現象ではなく、誰かが故意に起こしたものだとフランは気づいていた。
感じたものは場所、そして悪意。悪意といってもこの村を滅ぼすとまではいかない。ほんの小さなものだ。
例えるのなら、子供の〝悪戯〟 退屈凌ぎに誰かに構ってもらいたいが為に起こしたのだろう。
何処の誰かは知らないが、フランにはそれが許せない。相手にとっては面白半分かもしれないが、村の人々にとっては恐怖であるという事実には変わらないからだ。さっきの子供の泣き声、それがフランの頭から離れない。
「うあッ…!」
フランは転んだ。大きな石に躓いてしまったのだ。こんなに異常なスピードで山を登っていたら転けるのも無理はない。
転けた拍子に先ほどぬらりひょんから羽織られた着物がハラハラと地面に落ちてしまったが、フランはそれに気付かずにすぐ起き上がってまた〝震源地〟の元へと向かった。
「はぁ〜〜〜……… ヒマね。衣玖は何処まで行ったのかしら」
山の2合目ほどだろうか。まだまだ山頂までは程遠いそこにも見晴らしのいい場所が存在した。周りの木々もそれ程邪魔にはなっていなく、地面も1合目から2合目までの様な凸凹道ではなくなっていた。
そんな場所のど真ん中に〝要石〟が挿さっていた。高さは成人女性程だが、横幅はまるで力士の様に力強く存在感を出している。
その要石に1人の少女が座っていた。少女は腰にかかるほどの長い青髪に、真紅の瞳。格好は村人というよりも、先程ぬらりひょんが出会った永江衣玖に近い。そして何故か被っている帽子の上に桃が飾ってあった。
少女は空を仰ぎながら足をバタつかせている。見るからにヒマを持て余していた。
「天界も此処も結局ヒマなのは変わらないのね。なら……ん?」
彼女が独りでブツブツと空に語りかける様に呟いていると、何かに気が付いたのか急に黙り込んで目を瞑った。
「何か……来るわね」
瞑っていた目を開け、何かを感じた方向へ向いた。すると数秒後に金髪で不気味な羽の生えた少女が現れた。そう、フランだ。
青髪の少女は、フランを見た瞬間にこう思った。
『ああ……ヒマを潰せそうね────』と。
「はぁ…はぁ……貴方ね」
「質問の意味がわからないわよ、妖怪さん」
要石から降り、息切れしたフランに対し少々煽る様な表情と口調で話す少女。フランが睨む様に見ている事に気付いているが、それでも尚、鼻で笑うように見下していた。
「地震、起こしたの貴方でしょう?私の勘がそういってるわ」
フランは確信があって走っていたわけではないのだが、今此処で確信ができた。先程の地震はこの青髪の少女が起こしたものだと。
本当にただの勘なのだが、少女の表情を見る限りそれは疑惑から確信へと変わった。
フランにそう問われると、少女はニヤニヤしながら要石の周りをぐるぐると歩き出した。それもフランの全身をジロジロと眺めながら。そして、まるで小さな子供が新しい玩具を貰ったように嬉しそうにしている。
「へぇ〜…それって妖怪の勘ってヤツ?」
「…私は吸血鬼よ」
「同じ事でしょう?私から見たら変わんないわ」
確かに大きく見れば吸血鬼も妖怪という括りになるのかもしれないが、フランは吸血鬼という存在に誇りを持っている。なので妖怪とはまた別物と考えているのだ。なので少女の、その吸血鬼の誇りを穢すかのような発言に苛々が募る。
しかし手は出さない。それは相手を怖がっているわけではなく、ぬらりひょんに迷惑をかけたくないからである。怒られたくないというよりも心配をかけたくない。つい感情に任せて此処まで来てしまったが、穏便に事が済めばそれでいいのだ。
──────などと思っていた。
しかし現実は、そのまま青髪の少女へと殴りかかってしまったのだ。決して我を失っているわけではない。失っているわけではないのだが、フランもこのまま黙っているわけにはいかなかった。
殴りかかって来たフランを見た青髪の少女は、待ってましたと言わんばかりに臨戦態勢に入った。さっきの挑発ともとれる言葉は退屈凌ぎにフランと戦うためだったのだ。
フランの全力パンチは少女に当たることはなく、少女の後ろにあった要石の真ん中に直撃した。白く細い腕から繰り出されたパンチとは思えない程の威力であり、要石にヒビを入れるほどにまで至った。
少女は空中に浮かんでその一撃を見ていたのだが、自分が思っていた以上の威力に生唾を飲んでいた。が、すぐにまたニヤニヤと笑い出した。
「ほう!凄い威力ね!」
少女はさらに高く舞いがると、パチンッ!と指を鳴らした。すると急に地面が揺れ動く。地震だ。
これで全てが確定した。数分前の地震はこの少女が引き起こしたものであると。
「…!」
しかし先程迄の地震とはわけが違う。何かに掴まってないとまともに立つことすらままならなく、遂にフランは四つん這いの体勢になった。そんなフランを、少女は文字通りに上から見下ろしながら嘲笑っている。
「あはははは!ひれ伏すが良い!」
顔をしかめるフラン。地震を必死に耐えながら、この場をなんとか打開出来る策がないかと考えていた。そしてすぐに考えついた。
背中に少し力を入れると、七色の羽が左右に怪しく広がった。そして一回羽ばたくとすぐに青髪の少女の目の前まで飛び上がった。
自分は地震を受けているのに何故あの少女は受けていない?そう考えてからの結果だった。答えは簡単、空中に浮いているからだ。
ならば私も、とフランは空へ飛んで見事地震から抜け出したのである。そして色々と考えたことによって少し頭も冷えたようだ。
「地震を止めて。
「……」
少女はやけにあっさりと地震を止めた。しかしそれでもいやらしい笑みは消えておらず、まだ何か企んでいることはフランにも容易に想像できていた。
すると突然少女が両手を挙げた。降伏のポーズ、ではないだろう。フランはそれが何のことかわからなかったが、すぐにその意味がわかった。
「村の人間なんてどうでもいいわ。それより…アンタ、私を楽しませて?ヒマでヒマで仕方がないの」
少女は話しながら、自らの頭くらいの大きさの要石を無数に出現させ、その尖った先をフランに向けている。
間違いない、この少女はフランと戦うことによってヒマを潰そうとしているのだ。
「このぉ……!」
フランはギリッと歯を食いしばり、迎撃の態勢へと移った。
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「さあ、では頂きましょうか」
「……」
ぬらりひょんと衣玖は村まで戻り、この辺では美味しいと評判の団子屋へとやってきた。店内にはお客さんがいっぱいで満員状態だが、なんとか2人はテーブル席へと座ることができた。
ぬらりひょんの目の前には一皿に2串のっている団子が何皿か並べられており、さらにその先には衣玖がお茶をすすりながらくつろいでいた。
とりあえずは話しだす前に1つ団子を口にしてみた。確かに人気店だけあって、絶妙な味だなと感じていた。
「うん…美味いけどよ…それよりお主のことをワシは聞きたいんじゃが」
ぬらりひょんがそう言うと、衣玖は皿にのっている団子を手に取り、口にしようとした瞬間に手を止めた。しかし止めたのはほんの一瞬であり、すぐに大きく口を開けて団子を食べ始めた。非常に幸せそうな表情をしている。
串に刺さっている4個の団子を全て食べた後、衣玖はまたお茶をすすって「ふぅ〜」と息を吐く。
「奇遇ですね。私も貴方の事を知りたかったんです」
「へっ…さっきはすぐに立ち去ろうとしたくせに、なんの心境の変化だい?」
「それは…」
衣玖は何かを言おうとしたが、寸前で口に手を当てて止めた。ぬらりひょんに対し何か思うことがあるというのは確実だろう。
「まあ…なんでもいいけどよ。ワシの事じゃったな、詳しく聞かせてやるよ」
自分に対し興味津々といった顔をしていた衣玖に、ぬらりひょんは何故幻想郷に来たのかなど、何から何までわかりやすく自分の事を説明してあげた。しかしそれはあくまで『幻想郷でのぬらりひょん』であり、元の世界の『奴良組総大将ぬらりひょん』の話は一切しなかった。
「へぇ〜 やっぱり妖怪…しかも外の世界から…」
ぬらりひょんの話を全て聞き終えると、衣玖は何やら顎に手をつけて考え込んでいる。まるで探偵が事件を推理するように。
「お主本当に何を考えてるかわかんねえ奴じゃな…まあいい、次はお主の事を聞かせてくれるかい?まずはそうだな…なぜ此処にきた?お主は村の住民じゃあないだろう?」
ずっと下を向いて何かを考えていた衣玖だったが、ぬらりひょんが問うとすぐに顔を上げてニッコリと笑った。その笑みの理由がぬらりひょんにはよくわからない。
「人探しです。それなりに急いでて…」
人探し、と衣玖は答える。急いでいる者がこんな所で団子を食べてていいのかとぬらりひょんは思ったが、衣玖のマイペースさは既にわかっていたので何を口にしない。
「人探し…か。なんなら手伝ってやろうか?」
もちろんフランを見つけた後でだ。これ以上フランを放っておくわけにはいかない。この団子を食べ切ったら探しに行くつもりだったので、衣玖の『探し人』もついでに、と思ったのだ。
しかし衣玖は首を横に振る。その必要はないと言う事だ。
「いえ、いま見つかったので大丈夫です」
「……え?」
衣玖は〝今〟見つかったと言った。そんな筈はない。今彼女は団子を食べながらぬらりひょんと話しているのだから。
いや、あり得る可能性が1つだけある。
それは──────
「見つけましたよ。ぬらりひょんさん、私と結婚して下さいますか?」
あまりに意味がわからなく、そして急な話であったためぬらりひょんの頭は真っ白となった。
はい、第46話でした。
こんな小説を真面目に楽しんで読んでいる方は殆ど居ないと思いますが、それでもたった1人でも居るのであれば最後まで書き続けるので安心してほしいです。
ではお疲れ様でした。