この『ぬらりひょんが幻想入り』も先日ついに1周年を向かえました。
第1話の頃は、まさかここまで続くとは思っていませんでした(笑)
皆さま、これからもよろしくお願いします。
ぬらりひょんが元に存在していた世界。その世界と今居る幻想郷は、相違する点が多い。
まず時代。
そして人・妖。
元の世界にも
一方
他にも『博麗霊夢』や『霧雨魔理沙』らも他の人間からは考えられないような能力を持っているらしい。
しかし、それは陰陽師のように組織化され生み出された能力ではなく、元々持っていた力をただ発揮しているだけだと訊いた。
『魂魄妖夢』のような〝半人半霊〟なら解らなくもないが、純粋な人間が指導も無しにそのような能力をここまで発揮できるとは考えづらい。ぬらりひょんは偶にこんな事を考えているが、勿論よく解らない。しかし解らないなりに考え出した事は、
妖怪は生まれて間もない頃から、自分自身の能力を認識している。頭ではまだ解っていないかもしれないが、自分の〝器〟が理解できているのだ。
ぬらりひょんの子である『
しかしだからといって咲夜達を妖怪と疑っているわけではない。彼女らは人間だ。それは出逢ってすぐにぬらりひょん自身が気付いていた。
にしても興味深い、とぬらりひょんは思っている。人でありながら妖怪に近い彼女らに対してだ。
鯉伴やリクオのようにどちらの血も混ざっているわけでもないのに、どうやってそのような〝在り方〟でいるのかと。
それにまだまだ能力を持った人間は探せばいるだろう。その未だ見ぬ者達にぬらりひょんは好奇心を持っていた。
そして一方で変わらない部分もあった。それは空だ。
『太陽の畑』に居た時から思っていた。いつ見ても高く、手を届かせようとしても勿論届く事はない。
太陽と月という2つの光を放っている空は、誰もが見たことがある…と思っていた。しかし、
それはフランドール・スカーレットだ。今、彼女は初めて太陽を見ている。どんな気持ちなのだろうか、どんな気分なんだろうかと訊きたいことは山ほどあったが、ぬらりひょんはあえて黙って見守っていた。目の前の彼女が余りにも集中していることによって、自分の声が彼女の耳に届かないだろうと思ったからだ。
何かを見る。その動作でこれ程の集中力をみせるのは、外にある殆どの物を初めて見るフランにとって当然の事だ。
「どう?フランちゃん」
ずっと太陽を見続けるフランを抱っこしていた永琳がそう訊いた。一緒に太陽を見ていたのだが、フランより先に眩しくなって目線を外してしまったのだ。
フランも暫くしたら流石に眩しいと思ったのか、目線を外して目を擦った。
「えへへ…太陽ってすっごく眩しいんだね」
「…そりゃあそうさ。なんたって太陽だからな!」
太陽をずっと見続けていたため、フランの目から涙が出る。その涙が目が痛いからだったのか、感動したからなのかは誰も解らないし、誰も問わなかった。
「それにしても師匠、まさか今の薬は…?」
「ええ、徹夜で作ったのよ。
もっとも、昨日あげた薬を改良して作ったものだけどね。水に耐えることができても、太陽の光に弱かったから不便でしょう?だから〝太陽の光に耐える効果〟も付与した薬を新たに作成したわ」
ウドンゲの言葉に永琳が冷静に答える。言葉で言うのは簡単だが、やってる事はとんでもない。ぬらりひょんは彼女には頭が上がらない。
「効果は24時間。でも、そうね…念の為に朝と夜、起きてからと寝る前に1錠ずつ飲ませた方がいいわ。飲み忘れると大変な事になるから…ね?ぬらりひょん?」
真面目な顔をして永琳がぬらりひょんに伝える。それもその筈。これは命に関わる問題なのだ。
ぬらりひょんも永琳と同様真面目な顔をしながらコクリと小さく頷いた。
そしてニコッと笑った後、永琳は小さな袋に入っている薬をぬらりひょんに手渡した。
「薬はいっぱいあるから大丈夫よ。もし無くなりそうになったら戻ってらっしゃい。予備の薬を作っておくから」
「うん!ありがとうえーりん!」
純粋な感謝。
その真っ直ぐでなんの屈託もない笑顔のフランは、地下で初めて会った時とはまるで別人のようだ。
生きる環境というものはこれほどまでに大事なものなのか、とぬらりひょんは改めて実感した。
「んじゃ、ワシらはそろそろ行くぞ。また世話になっちまったな」
永遠亭で色々してくれたにも関わらず、その上旅に必要な物まで揃えてくれた。大量には持ちきれないが、その一部をぬらりひょんは風呂敷の中に入れて持ち歩くことにした。
あくまで一部なので、食材も少ししか入っていない。結局は現地調達になるだろう。しかしぬらりひょんには『明鏡止水』がある。その気になれば人里でいくらでも〝ご馳走〟になる事ができるので問題ない。
「ちょーーーっと待ってくれ!」
「あん?」
ドタドタドタと足音を立てながら誰かが中から走ってきた。そう、にとりだ。
にとりの手には何か得体の知れないカプセルのような機械があり、フランはそれに興味を示していた。
「そういえばにとり、お主はまだ
「はぁ…はぁ…あ、ああ。
にとりはそのカプセルのような機械をぬらりひょんに渡した。ぬらりひょんは機械に詳しくないので、手に取ったそれを色んな角度から眺めていた。
フランも「貸して貸して!」とぬらりひょんから貰い、同じ様にして眺めていたが、依然それが何なのかはわからない。
「コレなぁに?コレも薬なの?」
フランがそれを口に入れようとする動作を見せると、にとりは慌てて止めようとする。
「いやいや薬じゃあないよ!間違っても飲まない様に!
これはね… いや、今はやめとこうかな」
「はあ?なんじゃそれ」
「寝る場所が無かったら使ってみなよ!すごく驚くと思うな〜!
…その驚いた顔が見れないのは残念だけどね」
使用法がわからないと使い道がないので、ぬらりひょんは不思議に思った。が、にとりのこの言い方的に大体の予想はついたので、ぬらりひょんはまあ良しと考えた。
「よくわからねえが…ありがとよ。 またなお前ら!」
「絶対また来るからね〜!バイバーイ!」
そして2人は去って行った。何処へ?もちろん山へだ。
ぬらりひょんとフラン。2人とも次はどんな人・妖怪と逢えるのかと胸を高鳴らせていたのだった。
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「行っちゃったわね〜」
「行っちゃったウサ」
見送りをしたウドンゲとてゐは、何か変な虚無感を覚えていた。あの2人と一緒に居た時間は短かったが、彼らの温かさは幻想郷にはあまりないモノだった。
「さて…じゃあ私達も早速取り掛かるわよ、にとり」
ウドンゲとてゐが先に屋敷の中へ入ったことを確認すると、小さな声で永琳がにとりに話しかけた。
「う、うん… でも本当に造る気なのかい?海ってやつを」
「勿論。正直私だけじゃ不安だったわ…でも貴方と一緒なら造れる。
…そんな気がするの」
そもそも『海』など造るものではない。にとりも初め聞いた時は耳を疑ったが、永琳の真剣さとあまりにもワクワクする様な試みだったため、自ら 手伝うと言い出したのだ。
何から始め、どのようにするのかなど、それすらわからない。雲を掴むことより難しく頭の痛くなるようなものだが、それ故にとりの研究者としての血が騒いだのだろう。
「…ふふっ。やっぱりアンタは凄いな。私も出来るだけ頑張るから、ぬらりひょん達が
「ええ。頼むわよ
2人の天才が手を取り合い、『海の制作』へ取り掛かった。
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永遠亭から出発して5分後。
ぬらりひょんとフランは、どの方向へ向かうのか意見が分かれていた。
「こっちじゃこっち!ワシの勘がそう言ってるんじゃ!」
「こっちだよこっち!私の勘がそう言ってるんだもん!」
ただの二本道でこの調子だと、山へ辿り着くのはいつになる事やら。このままじゃ山の頂上どころか、遠目で山を見る事すら出来ない。
「…ここは譲れないわ。ぬらりひょん、これで白黒つけるわよ!」
絶対に自分が指差している方向に山があると確信しているフランは、ポケットの中から何かを取り出した。
取り出したのはコインで、これの表か裏か当てた方の道へ進むという事だ。
「ほう…ワシとやろうってのか。後悔すんなよ?」
「行くわよ…!」
威勢のいい声と共に、フランが親指で空高くコインを弾き飛ばした。勢いよく回るコインは、流石のぬらりひょんとフランでも表か裏を判断するのは難しく、勘で言うしかなさそうである。
「表じゃッ!」
「裏よッ!」
コインが上まで上りきった所で2人はそう宣言した。
そして後は回りながら落ちてくるコインをフランが受け止めるだけ…なのであったが。
「ぬらり…あいたッ!」
「……」
「……」
急にスキマから出てきた紫の頭にコツンとぶつかり、コインはフランの手に収まることはなかった。
はい、第43話でした。
空気読んでください紫様…でもそんな所も好きですよ。
ではお疲れ様でした。