ぬらりひょんが幻想入り   作:破壊王子

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この小説はぬらりひょんの孫と東方Projectの二次創作です。

1ヶ月以上間が空いちゃいました。12月です。
今年もあと1ヶ月、皆さん楽しく過ごしましょう。


【第40話】過去の思い出

 

 

 

 

「下賤で惨めな妖怪よ、美しく残酷にこの大地から往ね!」

 

 

ぬらりひょん以上に殺気のこもった眼をした紫が、鬼に向かってそう言い放った。

誰がどう見ても怒っている。その場にいた鬼、にとり以外はいつもの紫を知っているが、ここまで怒った紫を見るのは全員初めてだった。

 

 

「貴様も妖怪か。とんだ邪魔をしてくれる…失せよッ!!!」

 

 

鬼は瞬く間に紫との間を詰める。小さな小屋ほどある巨体にしては非常に疾い。

そして棍棒を頭目掛けてまっすぐ振り下ろした。驚く事に紫は全く動こうとしない。

 

 

「紫!?」

 

 

永琳が声を上げて驚く。それもその筈だ。紫があの鬼の一撃を受け止めきれるわけないと思っているからだ。永琳だけではなく、他の全員がそう思っていた。

ただ1人を除いて(・・・・・・・・)

 

 

 

 

ズドォォォンッ!

 

 

 

 

 

当たり前のように、棍棒は紫の頭に命中した。

 

 

 

 

 

 

ように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……ガハッ……!」

 

 

突然鬼が膝をつき、口から血を吐き出す。

紫は鬼の吐いた血にかからないように、スッと後ろへ下がった。

そして怒りのこもった眼は変わらないまま、薄笑いで鬼を見下す。

 

 

 

「どうしたの。お腹でも痛いのかしら?」

 

 

「(今のは…〝畏〟)」

 

 

ぬらりひょんはしかと感じ取っていた。今の一瞬だけじゃまだよくわからないが、紫の〝畏〟は質、濃さともに他の妖怪の比ではなかった。

 

 

「おッ……おのれ…!!!」

 

 

鬼は腹を抑えながら悶えている。先程ぬらりひょんに左腕を落とされてしまったので、今は片腕だ。なので棍棒を地面に置き、右腕で抑えていた。どんな攻撃をしたのかはぬらりひょんにもわからない。

 

 

「哀れね」

 

 

 

ズズズ…

 

 

 

紫の〝鬼發(はつ)〟に鬼が驚く。鬼はようやく自分が勝てる相手では無いということに気づいた…が、それはあまりにも遅すぎた。

 

 

 

「う…うおおおおおおおお!!!!!」

 

 

しかし鬼もここでみすみすと殺される訳にはいかない。最後の抵抗と言わんばかりに殴りかかった。痛む腹部を我慢しながら、恐らく格上であろう紫へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬ァ鹿。だからお前は弱いんだよ」

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

 

 

ザンッ!

 

 

 

 

 

 

「ッ…!」

 

 

急に何処からか何者かの声が聴こえたかと思えば、それ(・・)は鬼攻撃を遮るように前に出て、代わりと言わんばかりに紫へと斬りかかった。

咄嗟のことだったが紫は何とか相手の攻撃を躱し、一度距離をとった。

 

 

 

「て、てめえは…」

 

 

「クソ虫がこんな所にもでるとはなぁ…」

 

 

急に現れた男は先程の鬼とは違い、大きさは人並みだった。

が、確実に人間ではないと永琳たちは気づいていた。それもその筈、男の顔半分が鬼の顔だったからだ。

小柄の鬼は着物を着ていて右手には刀が握られている。纏っている〝畏〟は大柄の鬼とは比べ物にならないほど大きく、暗い。

 

 

 

「い、茨木童子(いばらきどうじ)!何故貴様がここに…」

 

 

「こっちの台詞だぜ。なんでお前が生きている?凱郎太(がいろうた)

 

 

この2人のやりとりでわかったことがある。

まず、この2人の鬼は面識があるということ。そしてそれぞれの名前が、大きい鬼が凱郎太。小さい鬼が茨木童子という名だということ。

 

 

 

「(まずい…茨木童子まで…!これは少々分が悪いかしら…)」

 

 

紫は元々この2人の鬼を知っていた。それは能力を使ってぬらりひょん達の世界を永きに渡って覗き見していたからだ。

その中で、茨木童子は単体では大分強い方の妖怪に入る。フラン達を守りながら戦うのはそう簡単ではないだろう。

 

 

 

 

永琳、輝夜はこの幻想郷では確かに強い。それもトップクラスに。

だが〝畏〟を使える(いにしえ)(あやかし)と戦うにはまだ早い(・・)。千、あるいは億と生きる月の民といえどそれは絶対なのだ。なので今ここで戦力として数えるわけにはいかない。

フラン、ウドンゲ、にとりはそもそも論外。後はぬらりひょんなのだが、怪力を誇る鬼の一撃を腹部に食らっている。ぬらりひょんの表情を見る限り、先程より痛みが増しているのは確かだ。恐らく肋が折れているのだろう。

 

 

 

「(私がやるしかない)」

 

 

意を決めた紫は一歩前に出る。この幻想郷で紫が本気を出して戦う姿を見たものなどすでに存在しないだろう。

 

 

「ぬらりひょん様、下がっていてくださいませ。ここは私が」

 

 

「…任せるぜ」

 

 

ぬらりひょんは紫に全てを任せた。これが最善だと考えたからだ。

紫の〝畏〟は茨木童子相手にも決して劣っていない。だからこそ紫を信じることができた。

託された紫は、小さく頷き茨木童子の眼をジッと見ていた。

 

 

「…ククク…」

 

 

しかし肝心の茨木童子は、まるで可笑しなものを見るように薄気味悪く笑っていた。勿論〝畏〟を解いて油断したりすることない。

 

 

「…何が可笑しいのかしら」

 

 

紫が尋ねると、茨木童子はゆっくりと刀を鞘に収めながら口を開いた。

 

 

「そうか…お前らには聴こえねェんだな(・・・・・・・・)

 

 

「…え?」

 

 

意味深なことを言い出した茨木童子は急に歩き出した。それに警戒する紫達だったが、その歩み寄った先は誰かの元ではなく、先程ぬらりひょんに斬り落とされた凱郎太の左腕の元へだった。

 

 

「チッ…無駄に重てェな…」

 

 

するとその大きな腕を持ち上げた。一体その行動が何を意味するのかは、その場にいた誰もがわからなかった。

 

 

「凱郎太!…行くぜ。今はこいつらに用はねェ」

 

 

「な…!」

 

 

茨木童子は紫達に背中を向け、何処かへ行こうとする。

そう言いながらの不意打ちもあるかと考えたが、それすらしてきそうな雰囲気もない。

 

 

「ま、待て茨木童子!我はぬらりひょんに…!」

 

 

「来ねェなら…この腕ぶった斬るぜ?持って帰りゃあまだ引っ付く可能性もあるのになァ」

 

 

「…!」

 

 

茨木童子は冗談を言う奴ではない。それはこの場に居る凱郎太が1番よくわかっている。

 

 

「ぐ………わかった…」

 

 

色んな気持ちを押し殺した凱郎太は、右手で棍棒を持ちながら茨木童子に着いて行く。

しかしすぐさまその2人に「待ちなさい!」と紫が声をかける。

 

 

「まさか逃げる気?京妖怪ともあろうものが!」

 

 

紫の挑発にピクッと凱郎太が反応した。一方、茨木童子はまた薄気味悪く笑っている。

 

 

「あんまり寝ぼけんなよ。ゴミを大勢抱えたお前らなんて簡単に殺せるぜ?」

 

 

「くっ…!」

 

 

実際は茨木童子の言う通りに簡単に殺されたりはしないだろう。しかし仲間達を無傷でこの場を凌ぐことはかなりキツいことは確かだ。

 

 

「じゃあ…なんで退くんだい?」

 

 

ずっと黙っていたぬらりひょんが口を開く。茨木童子はぬらりひょんの顔を見た時に一瞬真顔になったが、またすぐに笑い出した。

 

 

「次会った時に教えてやるよ」

 

 

そう言いながら茨木童子は不敵に笑った。

 

 

「ぐ…ぐおおおおおおおッ!!!ぬらりひょんッ!!!

貴様は必ずやこの凱郎太が殺すッ!!!首を洗って待っておけッ!!!」

 

 

「じゃあなクソ虫」

 

 

 

 

 

2人の鬼はそう言い残して去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

集中の糸を切らした紫が地べたに座り込む。その紫の元へみんなが集まってきた。

 

 

「大丈夫かい紫」

 

 

「ええ…でも、〝畏〟を使う殺意ある敵と対峙するのは久し振りでして…多少疲れましたわ」

 

 

紫はニコッと笑うが、少し無理をした笑い方だった。

 

 

「私も神経張り詰めすぎて疲れたわ…鈴仙、おんぶして〜」

 

 

「わ、私も足がガクガクするんですよー!」

 

 

輝夜の裸足だったため、足の裏に砂がいっぱいついてしまったが、そんな事を気にする余裕はなかった。

 

 

「あ、あはは…ホントにあんた達は一体なんなんだ?」

 

 

久し振りににとりは声を出した。茨木童子の〝畏〟で気圧されすぎて身動きどころか口を開くのもままならなかったのだ。

 

 

「まあそれはともかく…一旦永遠亭に帰りましょう。話はそれからよ。

…あらあらバスケットが粉々だわ」

 

 

とりあえず永遠亭に帰って、話をするのはそれからと言う形になった。皆、それぞれ帰り支度をする。

 

 

 

 

「フラン」

 

 

フランも皆と同じように帰り支度をしようとすると、後ろからぬらりひょんに声をかけられた。その声になんだかホッとしたフランは笑顔で振り向く。

 

 

「ぬらり…ひょん?」

 

 

しかしそこに居たぬらりひょんは、自分の想像とはかけ離れた表情をしていた。

 

 

「フラン、デケェ方の鬼とワシが戦ってる時…なぜ邪魔をした」

 

 

ぬらりひょんは眉間にシワを寄せ、茶色の瞳でジッとフランを見つめながら問う。誰がどう見ても怒っていた。

 

 

「その…邪魔をするつもりはなかったんだけど…」

 

 

「お前にそのつもりがなくても邪魔には変わりなかった。一歩間違えてたらお前は死んでたんじゃ…何故急に出てきた。ワシが追い込まれていた訳でもなかったじゃろう」

 

 

あの時、恐らく紫がタイミングよく現れなければ恐らくフランは重症、あるいは命を落としていただろう。勿論フラン自身もよくわかっている。

 

 

「ぬらりひょんに…殺しをして欲しくなかったから」

 

 

「…!」

 

 

思わぬ答えが返ってきた。妖怪であるぬらりひょんに殺しをして欲しくないと…フランはそう思っていたのだ。しかしぬらりひょんはその答えに対し顔を歪める。

 

 

 

「フラン、ワシは〝妖〟じゃ。昔っから気に食わねえ奴は叩っ斬ってきた。何百と妖を殺してきた…だからワシに綺麗なイメージを持つな。

妖怪ってのは…〝悪〟なんだよ」

 

 

「………」

 

 

「ぬらりひょん様、ですが貴方様は弱き妖怪、人間を救ってきました」

 

 

見ていられなかった紫がフォローをしにきた。もちろん紫の言うことも正しい。

 

 

「さぁ…どうじゃろうな。フラン、こんなワシに幻滅したかい?」

 

 

なんとも意地悪な聞き方である。フランはずっと俯いていたが、しばらくすると顔を上げ、ブンブンと首を横に振った。

 

 

「しないよ。だってぬらりひょんは…私を救ってくれた。外に連れ出してくれた。一生外へ出れないと思ってた私を…」

 

 

「…!」

 

 

「悪人でも…私にとっては大切な人だから…」

 

 

「……」

 

変に考えず、思ったことをそのまま口に出した。その想いはぬらりひょんにもしっかりと届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈なあ珱姫(ようひめ)…〉

 

 

〈はい、なんですか妖様〉

 

 

〈ワシは…正義の戦士でも味方でもない。只の妖…それもそこらの悪〜い奴らを集めたヤクザの総大将じゃ〉

 

 

〈はい〉

 

 

〈そんなワシでも…愛してくれるのかい?〉

 

 

奴良組本家にある縁側にぬらりひょんと珱姫は並んで座っていた。

もういつの事だか憶えてはいない。ただあの日は、庭の桜がいつもより綺麗に感じた事だけは鮮明に憶えていた。

ぬらりひょんは不意に珱姫にそんな質問をしてみた。

 

 

〈妖様は私を救ってくださりました。籠の鳥だった私を。人である私を。人を選んで(・・・)救ってきたような私を…命を賭けて。奴良組の総大将としてでは無く、1人の男〝ぬらりひょん〟として〉

 

 

〈……〉

 

 

〈私は嬉しゅうございました。貴方様についていきたいと…これが愛するという事なのでしょうか。私にはまだわかりません…〉

 

 

〈…ハッ!〉

 

 

なんだか恥ずかしくなってしまったぬらりひょんは、珱姫の手を取り立ち上がった。珱姫は急な事だったので〈わっ!〉と声を出して驚く。

 

 

〈いずれわかるさ!それより珱姫、でぇとに行こう!〉

 

 

〈…はい!〉

 

 

 

 

 

手を繋いだ2人は、外へと歩んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去の事を思い出していた。今のフランの言葉はあの時の珱姫の言葉と少しだけ重なる

 

 

「…ワシだってお前が大切さ。だからこそ無茶はして欲しくねえ。約束してくれねえか?もう無茶はしないって」

 

 

「うん…! ごめんなさいぬらりひょん」

 

 

頭を下げてフランは謝る。そのフランの頭をぬらりひょんは優しく撫でてあげた。

 

 

「ワシこそ悪かった。少し意地悪じゃったな……いッ!?」

 

 

「! どうしたのぬらりひょん!」

 

 

「いや…腹が痛むだけじゃ。さあ帰ろう」

 

 

ぬらりひょんはフランの手を握り、紫の開いたスキマの中へ歩んでいった。

 




はい、第40話でした。

この小説ももう40話。早いですね〜…

場面に登場人物が多い場合、どのような会話にすればいいのかなど、やはり難しいなと再認識しましたね。

ではお疲れ様でした。

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