今回少し短いです。
「下級妖怪め…逃がしはせんぞ!」
恐らく狐の妖怪であろう女性はまたぬらりひょんを静かに睨む。誰がどう見ても敵意むき出しといった表情だ。
「……」
一方ぬらりひょんは口を開かない。刀を右肩にのせたままジッと前だけをまっすぐ見つめていた。
「行くぞ!」
女性は弾幕ではなく肉弾戦でぬらりひょんに迫って来た。手には何も武器らしきものは持っていなかった。尻尾自体を武器として戦うのだろう。
「フン…」
ぬらりひょんは刀で尻尾攻撃を防ぐ。刀の刃が尻尾にダイレクトに当たっているが、全く斬れていない。恐らく妖力で尻尾を強化しているのではないかとぬらりひょんは考えた。
ガキィン!ガキィン!
鉄と鉄がぶつかる金属音が響く。とても刀と尻尾が擦れ合う音とは思えない。
「思ったよりはできるようだな」
女性は攻撃をしながら言う。だが表情にはまだまだ余裕がある。
「…チッ」
逆にぬらりひょんの顔には余裕はあまりない。女性の尻尾攻撃が絶え間なく襲ってくるので息つく暇もないからだ。
ヒュンッ
このまま相手のペースにハマるとマズイと思ったぬらりひょんは後方へ飛んだ。
「フン!逃げてばかりではーーーーー」
グンッ
「!!」
後方に下がり一度呼吸を整えるかと思ったが、下がった瞬間膝に体重をかけ女性に向かって迫っていった。
「くッ!」
ぬらりひょんの突きをギリギリで女性は躱した。しかし追撃の蹴りを背中に受けた。
「貴様…ちょこまかと!」
女性は怒り、反撃をしてくる。しかし先ほどとは違い、ぬらりひょんは余裕の表情で躱す。
「くっ…くそ!」
「動きに無駄がある。先程まではなかったものじゃ…お前は感情により動きのばらつきがデカイんじゃ」
ぬらりひょんは冷静に女性の動きを分析する。その冷静さが女性をさらに苛々させる。
「貴様ごときが…私を分析したつもりか!」
「!!」
女性は尻尾での攻撃をやめ、今度は弾幕でぬらりひょんに攻撃をする。女性の頭の中はぬらりひょんへの怒りで一杯なのは見ただけでわかる。
「当たらねえよ」
しかしぬらりひょんには当たらない。弾幕に無駄がありすぎるからである。
「これで…どうだ!」
「《式神「十二神将の宴」》!!!」
女性は12人の式神のようなものを出現させる。その式神から、ぬらりひょんへ弾幕が繰り出された。
「……」
「《明鏡止水〝桜〟》」
女性の弾幕にぬらりひょんも奥義で迎え撃つ。この技は以前紅魔館でパチュリーにも使った技だ。
ぬらりひょんの手には盃があり、その盃に桜がヒラヒラと落ちる。すると炎が弾幕から守るように広がった。
ゴォォォォ!
弾幕と炎がぶつかり凄まじい音が響く。
周りは煙で何も視えない。
「(…女は?)」
ぬらりひょんは周りを見渡す。すると後方から殺気を感じ、すぐさま振り返った。
「《式輝「狐狸妖怪レーザー》!!!」
先程の弾幕とはわけが違う。いくらぬらりひょんとはいえ、食らったら致命傷になりゆる攻撃が襲ってきた。
先程までの攻撃はぬらりひょんの隙を作るためのエサだったのだ。
「終わりだッ!」
女性は確実に当たると確信した。ぬらりひょん自身もさすがに避けるのはきついと感じた。
「…避けられねえな」
ニヤッ
「!!!?」ビクッ!
ズドドドンッ!
レーザーはぬらりひょんに命中した…が、女性は油断しなかった。むしろ今日一番の警戒をした。その訳は…
「(なんだ…なんだあの〝笑み〟はッ!)」
攻撃が当たる瞬間、ぬらりひょんはニヤッと笑っていた。見間違えではない。確実に笑っていたのだ。
「(絶望してもう笑うしかないという表情ではなかった…あの妖怪、まさか今の一撃を…)」
「ッ!!」
再び煙が舞い前がよく見えない…が、影だけ見えていた。確実に今の一撃で殺したと思った1人の〝シルエット〟 女性は驚きを隠せないといった表情だ。
「言った筈じゃ。〝当たらねえ〟とな」
そこには案の定ぬらりひょんが立っていた。戦いが始まる前と全く一緒の格好、立ち方だった。
「貴様ァ…!」
女性は歯をギリッと食いしばる。なぜ攻撃が当たらなかったのかわからない自分への苛立ちと、目の前のぬらりひょんへの怒りで周りが見えなくなっていた。
「どうした…?終わりか?」
「下級妖怪めがッ!」
また弾幕を飛ばす。が、ぬらりひょんには当たりそうにはない。
「くぅ…!」
「………やめだ」
ぬらりひょんは急にそう呟き、刀を鞘に収めた。
「…何のつもりだ?」
女性は多少驚きつつも、納得できない様子だ。
「いくらやったところでお主ではワシを殺す事はできん。 …ワシへの無礼は許してやる。だから早くあいつを永遠亭に連れていけ」
ぬらりひょんは横たわっている橙を顎でしめす。先程より橙の顔は青白くなっており、状態は悪化しているようだった。
「何を言うかと思えば…逃げたいがために橙を使うとはな。同じ妖怪として恥すら覚えるぞ!」
「そうじゃない。早くしないと間に合わねえぞ」
「問答無用ッ!」
「!?」
一本の尻尾でぬらりひょんを攻撃しようとしたが、ぬらりひょんに当たる寸前で女性は自分から尻尾を引っ込めてしまった。
「(なんだ…今のは!?)」
先程と同じような感覚だった。言葉にするなら〝触れてはならない〟というべきだろうか。
「…教えてやろう。今のお主はだだワシへの怒りで頭が一杯になっているだけじゃ。
雨はますます強くなる。まるでぬらりひょんの感情と比例しているようだ。
「なにを…」
「自分の怒りをぶつけたいばっかりに
「だッ…黙れェッ!!!」
シュンッ
女性の怒りが爆発すると同時に、ぬらりひょんの姿は消えた。そして再び現れた瞬間には手を伸ばせば届きそうなくらいの距離にきており、ゆっくりと刀を抜いている途中だった。
「(なんだ…尻尾が……反応しないッ!)」
ブンッ
ぬらりひょんは女性の顔に向かって刀を振り下ろした。依然女性の身体はぬらりひょんに〝反応できない〟。
「やられッ…」
「…え?」
やられると思った瞬間女性は目を瞑った。そして暫くして目を開けると、あと数センチという距離に刀の刃が見えた。
「てめえは弱い。だから今回は見逃してやる…さっさと行け」
ぬらりひょんは振り下ろした刀を女性に当たる寸前で止めた。ハナから女性をどうこうしようという気はなかったからだ。
「……」
女性は言葉が出なかった。ぬらりひょんの言葉に対してではなく、1つの疑念が頭に浮かんでいたからであった。
「(今のは…〝畏〟!?なぜこいつが………まさか…!!!」
ヒュウン…
女性が頭で色々と考えている最中に、スキマが出現した。このスキマには2人とも見覚えしかない。
ザッ…
中からは案の定紫が出てきた。紫の表情は真剣…というより何かに怒っているという感じだった。
「紫…様…」
「ぬらりひょん様。どうか…どうか罰は私へ…」
そう言いながら、紫は雨でベチャベチャになっている地面に両膝をつき、頭を下げた。
はい、第32話でした。
藍様って知的なイメージなのですが、この戦いではそういうシーンを入れることができなかったのが残念です。
ではお疲れ様でした。