ぬらりひょんが幻想入り   作:破壊王子

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この小説はぬらりひょんの孫と東方Projectの二次創作です。

気づけばもう31話。皆様いつもありがとうございます。


【第31話】怒り

「海…か」

 

永琳との話が終わった後、ぬらりひょんは時間を潰すために外で散歩をしていた。時間はまだ昼頃、ジリジリと暑い陽が照っていた。

 

幻想郷(ここ)の連中は海を見たこと無いのか」

 

海がなければ見たこと無いのも当然である。

 

「わかっちゃいるが…やはりワシらの世界とは違うみたいじゃな」

 

なぜ海が無いのか、とは考えなかった。そんなものはぬらりひょんが考えたところでわかりようのないことだからだ。

それよりぬらりひょんはあることを思い出し、考えていた。

 

それはこの幻想郷は、自分がいた世界とは明らかに文明が遅れていることだった。

 

ぬらりひょんがいた世界の今は、辺りを見渡せばビルやタワーなどで囲まれている。奴良組本家自体は都市部では無いにしろ、少し散歩するだけで現代的な建物が多かった。

 

一方この幻想郷はビルなどは無く、木でできた建物が多い。ぬらりひょんから言わせてみたら、なんとなくこの雰囲気は〝懐かしい〟と思えるほどだった。

 

そしてもう1つ気になることがある。

 

「…妖は人より強い。それはこの世界でも同じ話じゃ。基本的にはのう」

 

「もちろん強い人間も存在する。霊夢や魔理沙などか」

 

博麗神社で宴会をした際に、酔った魔理沙が色々話してくれた。霊夢と自分は力を持っている、と。だが、それは言わずともぬらりひょんにはわかっていた。

 

 

「例えその2人が他の人間を妖怪から守ろうとしても、たった2人じゃ間に合わんじゃろう」

 

妹紅や慧音なども人里にいるが、その2人を加えても手が届く範囲などたかが知れている。

 

 

ぬらりひょんが何について具体的に考えていたのかというと、それは幻想郷が自分たちのいた世界と比べ、〝共生〟ができているかということである。

 

こう比べてはいるが、ぬらりひょんのいた世界も決して褒められたものでは無い。相変わらず人は妖を〝恐れている〟

魑魅魍魎の主になったのはいいが、ぬらりひょんさえも〝共生〟という道を確立することはできていない。一部の妖や人をぬらりひょんの魅力で〝畏れ〟を抱かせてはいたが、それを全国へと広める事はできなかった。

 

 

しかし孫のリクオならば…人と妖、両方の血が入っているリクオならば、全ての妖の頂点に立ち、きっと〝人と妖を護る〟ことが出来ると信じている。

 

「…問題は幻想郷(こっち)じゃな」

 

 

一方幻想郷はどうだろうか。こちらの妖はぬらりひょん達の世界の妖とは違い、〝畏〟を知らない。なので純粋に力で人を〝恐〟れさせる。霊夢や魔理沙といった力のある人間が退治し、威嚇しても、一部の妖からしたら逆効果にしかならないかもしれない。

 

 

考えても考えてもわからないことは増えるばかりである。ぬらりひょんは頭を悩ませながら竹林へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー少し前ー

 

フランとウドンゲ、てゐの3人は永琳がくるまで海についての話をしていた。

 

 

「へぇ〜塩を含んだ水ね…じゃあ塩が取り放題ってことかな?」

 

「鈴仙現金すぎウサ」

 

若干目を輝かせながら言ったウドンゲにすかさずてゐがツッコむ。

 

「別にそういうこと考えてたわけじゃないわよ!」

 

「そーやって必死に言い訳するのが怪しいウサー!」

 

また2人はいつものように口喧嘩をする。どっちかといえばてゐの方が口は上手い方なので、ウドンゲがいつもムキになっている。

 

そんな2人を見てフランはモヤモヤした気持ちになった。なんとも言葉には出しづらい。〝羨ましい〟というのが1番近いかもしれない。

 

 

「仲…良いんだね。2人とも」

 

思わず口に出してしまった。急なことだったのでウドンゲとてゐは「え?」と聞き返した。

 

 

「違うウサ。犬猿の仲なだけウサ」

 

ウドンゲと目が合い、なんとなく少し照れてしまったてゐが咄嗟に言う。

 

 

 

「喧嘩するほど仲がいい…ってことよ」

 

「あ、師匠」

 

3人の話を聞いていた永琳がそう呟きながら歩いてきた。確かに〝犬猿の仲〟というよりは正しい。

 

「さ、待たせたわねフランちゃん。じゃあ今からお姉さんがちょっと貴女を診てみるわね」

 

吸血鬼に薬を処方した事はさすがの永琳でもまだ無い。なのでフランに合う、合わない薬を確かめるために診るのだ。

 

「お師匠様。海って塩が含まれていて、飲んだらしょっぱいと感じるらしいけど、フランは大丈夫ウサ?」

 

「馬鹿ねてゐ。血液にだって塩分は含まれてるんだから大丈夫に決まってるでしょ。吸血鬼は血を吸うんだから」

 

てゐの質問に対し、永琳ではなくウドンゲが答える。胸を張って自信を持ちながら答えたが、その答えに対し永琳はため息を吐きながら答える。

 

「しょっぱく感じるほど塩が含まれている海水と、血のわずかな塩分を同じに考えるのは違うわ」

 

「え?でも血も多少しょっぱいような…」

 

「血がしょっぱく感じるのは人それぞれね。でもその場合は血に含まれている塩分ではなく、鉄分をしょっぱく感じているだけよ」

 

「………」

 

完全に論破されてしまい、ウドンゲは顔を真っ赤にしてうつむく。そのウドンゲをてゐは当然見逃さない。

 

 

「あははッ!馬鹿は鈴仙の方ウサー!!!」

 

拳をぶるぶるさせながらウドンゲは黙っていた。てゐの笑い声は診察室に大きく響いており、さすがにウドンゲが可哀想と感じた永琳がてゐを注意しようとした。

 

しかし、永琳より先にフランが口を開いた。

 

「いつまで笑ってるの!ウドンゲちゃんが可哀想でしょ!」

 

 

と、永琳より先にフランがてゐを注意した。てゐは「ごめんウサ」と軽く謝った。

 

「フフフフフ…」

 

そんなフランが愛らしく思った永琳は不気味に笑う。笑顔を止めようとしている表情が余計に不気味だった。

 

「お師匠様…怖いウサ」

 

「うるさい。ウドンゲ、貴女は私の手伝いをして。てゐは井戸から水を汲んできて頂戴」

 

すぐに冷静さを取り戻した永琳は、素早く2人に指示を出した。2人とも「はーい」と返事をし、早速診断が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てゐは水を汲みに外に出てきた。正直面倒くさかったが、永琳に言われた事はしなければいけない。

 

テンションを下げつつも井戸に向かっていたが、前方に何か頭を悩ましながら歩いているぬらりひょんを見つけた。

 

「…へへ!」

 

悪知恵を思いついたてゐは、水を汲みに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、簡単な事じゃあねーわな」

 

先ほどからずっと同じようなことを考えていたぬらりひょん。竹林に入ってから意味もなくとことこ歩いていて、そろそろ帰ろうかなと思った刹那。

 

「あの!」

 

「あん?」

 

見知らぬ少女が現れた。耳や尻尾が生えており、明らかに人間ではない。

 

「私はゆかーーーーー」

 

 

 

話している途中に、頭の上に違和感を覚えた。雨が降ってきたのだ。先程まで雲1つないくらいの天気であったが、気づくと空は曇っていた。

 

「…雨か」

 

「す、すいません!屋内に移動してもいいですか!?」

 

「え?ああ…」

 

雨が強くなりそうなことを察し少女は言う。やけに強い口調だった。

 

「じゃあ永遠亭に戻るか。派手に濡れる前に急ごうかのう」

 

「はい!」

 

雨はドンドン強くなる。ぬらりひょん達は永遠亭に向かって走っていく。

 

あまり離れていなかったので、すぐに永遠亭は見えてきた。すると少女はぬらりひょんを追い抜き、すごいスピードで走っていく。きっと何か理由があるのだろう。

 

「なんじゃあいつ………ん?」

 

「おい!止まれ!」

 

何かに気づいたぬらりひょんが叫ぶ。少女は「え?」と振り返るが遅かった。

 

 

ズボッ!

 

 

「きゃあッ!?」

 

 

少女は〝誰か〟が仕掛けたと思われる落とし穴に引っかかり、落ちてしまった。落とし穴の中には大量の水が入っており、バチャンッ!という水の音も聞こえた。

 

「ちょっと言うのが遅かったな…てゐ!お主の仕業じゃろう!」

 

ぬらりひょんは竹に隠れているてゐに向かって叫ぶ。それを聞いたてゐはひょこっと体を出した。

 

「引っかかる方が悪いウサー!!!」

 

てゐはそうケラケラと笑いながら永遠亭に戻って行った。

 

 

「確かにワシもそう言ったがな…まあいいか」

 

とりあえず少女に手を貸すのが先と思ったぬらりひょんは落とし穴の中を見る。

 

「見えずらいがそこまで深くないようじゃな。おーい、お主大丈夫か?」

 

「……」

 

返事は聞こえない。

 

 

「やれやれ…」

 

 

ぬらりひょんは少女を助けようと自ら落とし穴の中に入ろうとする。すると背後から声が聞こえた。

 

 

「おい」

 

聞き覚えのない声だった。間違いなくてゐではないだろうと思いつつも振り返ってみた。

 

「なんじゃ?」

 

「……」

 

ぬらりひょんの目の前には女性が立っていた。その女性も耳や尻尾が生えており、確実に人間ではなかった。

 

 

「(羽衣狐…ではなさそうじゃな)」

 

なぜそう思ったかというと、女性には狐の耳と尻尾が生えていたからだ。だが、ぬらりひょんはなんとなく羽衣狐とは無関係だと本能的に感じた。

 

女性はぬらりひょんのことをジロジロとみた後、口を開いた。

 

「貴様は…妖怪か?まあいい。貴様に聞きたいことがある」

 

「…なんじゃ」

 

なんとなく鼻に付く言い方だった。ぬらりひょんは自分が見下されているような気がした。

 

「この辺りに(ちぇん)という私の大事な家族が来ている。何処かで見かけなかったか?」

 

「……」

 

ぬらりひょんはそーっと落とし穴の方を見る。そのぬらりひょんの行動を見て、女性は察した。

 

「まさか…どけっ!」

 

ぬらりひょんの肩を突き飛ばし、女性は落とし穴の中を見る。

 

「橙ッ!」

 

ぬらりひょんの思った通りに、先ほどの少女こそが『橙』だった。女性はすぐさま橙を助け出した。

橙は顔が真っ青になっていて、明らかに先ほどより元気がない。何故そうなったのか考えられることは1つしかない。

 

「そいつ…水に弱かったのか」

 

こう考えると合点がいく。雨を嫌い、屋内へ入ろうとしたのも水に弱かったからだ。そしててゐが仕掛けた落とし穴には水が大量に入っていたので、橙は弱ってしまったのだ。

 

「よし、とりあえず永遠亭へ…」

 

そう伝えながら女性の肩を掴む。すると急に女性が自らの尻尾でぬらりひょんを突き飛ばした。

 

 

「がはッ…!」

 

不意を突かれたのでぬらりひょんは、受け身を取れずに木へ背中からぶつかった。

 

 

「…なにしやがる」

 

ぬらりひょんは鋭い目で女性を睨む。しかし、女性はぬらりひょん以上に鋭い目で睨んできた。

 

 

「白々しい…貴様であろう、橙をこんな目に遭わせたのは」

 

「なんじゃと…?」

 

「つまらん嘘は通用しないぞ。先ほどはこの場には貴様しかいなかった。橙をとって食おうとでもしたのか…下級妖怪め」

 

先ほどからずっと上からものを言ってくる女性に、ぬらりひょんはもう我慢できなかった。

 

 

「女…今すぐ謝れば痛い目をみないで済むぞ」

 

 

ぬらりひょんは普段は割と温厚である。しかし奴良組の総大将であり、魑魅魍魎の主でもある。ナメてかかられて黙っている筈はない。

 

 

「黙れ。 …橙、少し待っていろ。すぐにあいつを懲らしめてくる」

 

「……」

 

幻想郷にやってきて、これほどまでぬらりひょんの顔が険しかったことはないだろう。

 

 

ぬらりひょんはゆっくりと刀を抜き、右肩の上に乗せた。




はい、第31話でした。

実際はスペルカードルールがある以上、幻想郷の方がよっぽど〝共生〟できていると思います。

ではお疲れ様でした。

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