前半はぬらりひょんの孫の原作終盤部分を多少付け加えたくらいで、あまり大きな違いはないです。
現世でぬらりひょんが倒れ、幻想郷へと辿り着いて間もなくの頃。
ー現世ー
〔なんだ…これ…〕
〔あんたの想いが…伝わってくるーーーーーー〕
ドクン!
〝ぬらりひょんの孫〟こと奴良組三代目奴良リクオの百鬼と、〝千年前の最強の妖〟安倍晴明こと
「母を…」
晴明は自分の母である羽衣狐を
「諸共に灰となれ…!」
しかし晴明にはもはや母の命などどうでもよかった。母ごとリクオを葬り去ろうとしていた。
「『
無数の円状の手を内包した破壊球を作り出し、球体の直線上を通る物体を全て〝削り取る〟 晴明の最恐の技である。
その晴明の技に対し、リクオは軽く刀を振り下ろした。
シュンッ
ドバァ!
「!!!」
リクオの振り下ろした刀『
「晴明…還ってもらうぞ」
『
『鬼纏』とはリクオの父である奴良鯉伴があみだしたものである。自分自身の〝畏〟と仲間の〝畏〟を重ね合わることによって発動でき、強力な力を引き出すことができる業である。
リクオが
「この世はお前にふさわしくねぇ」
鋭い目つきでリクオは晴明を睨む。
「小妖怪が群れおって…鵺の歩みは止められぬ!!」
リクオの強大な〝畏〟を感じ取った晴明も本気になった。先ほどの『永劫輪廻』と広範囲で重力を操り、普通の妖や人間だとそこにいるだけで押しつぶされるほどの禍々しい術である『天文操作』を同時に繰り出したのだ。
2つの術は凄まじい威力であり、晴明を止めなければそこにいる人や妖だけでなく、町もろとも滅んでしまう。
「おおおおおおッ!!!」
晴明を止めるべく、リクオは羽衣狐、いや百鬼の〝畏〟を全て背負い、斬りかかった。しかし…
「フッ…何も変わっていないな…」
バキンッ!
「!!」
晴明の技により、リクオの祢々切丸がバキバキと砕かれはじめる。
「クッ……だめ…なのか」
「滅びよッ!ぬらりひょんッ!」
完全に祢々切丸が砕かれる…そう思った瞬間、リクオは思い出した。自分は1人ではない…自分は百鬼を背負っている〝百鬼夜行の主〟だということを。
〈全ての運命を断つッ!!!!!〉
「因縁も…これで終わりだッ!!!」
全てを背負ったリクオの一撃は、晴明を斬り裂いた。因縁も、運命も〝ぬらりひょんの孫〟であるリクオが晴明ごと断ち切ったのだ。
その一撃で晴明は滅びた。そしてリクオは新たな
ー白玉楼ー
「…これがあの戦いの結末になります」
「……」
結末を映像でみたぬらりひょんはふぅ…と息を吐き、黙って目を瞑った。あれからずっと気になっていた結末をやっと知ることができ満足した。
「そうか…リクオ。お前の〝百鬼〟しかと見させてもらったぞい」
「さすが貴方様の孫ですわ。最強の妖である安倍晴明こと鵺すら倒すなんて…」
紫は少し前からこの結末を知っていたのだが、リクオに対しては驚いていた。ぬらりひょんの孫とはいえ、まだまだ若いリクオが安倍晴明を葬り去ったからである。
「リクオだけの力じゃねえさ。リクオだけなら鵺には勝てんかった…あいつの百鬼が鵺の力を上回ったのさ」
「へぇ〜ぬらりひょんの孫ね〜本当にぬらりひょんとそっくりなのね。フランちゃんは似てないのにね♪」
幽々子は笑いながらぬらりひょんを見る。
「…お主知っててあん時何も言わなかったのか。見た目とは裏腹に性悪女のようじゃのう」
「おほほほほ!黙ってた方が面白いかなーって思っただけよ」
扇子を口に当て、笑いながらぬらりひょんをからかう。その幽々子に対し、やれやれとぬらりひょんは首を振った。
「ぬらりひょん様。確かに奴良組は安倍晴明率いる
「ふむ…ということはこの肉体はワシの本当の肉体ではないってことか?」
元の世界にもぬらりひょんの肉体はある。そして今も若い姿とはいえ肉体をもっている。2つの肉体が存在することなどあり得ない。
「いえ…恐らくは逆だと思われます。あちらの世界のぬらりひょん様の肉体は…失礼ですけど抜け殻のようなものでしょう」
「ほう。抜け殻…ね」
「どうかされましたか?」
ぬらりひょんの言い方がなぜか引っかかるものだったので紫はそう言った。
「八雲紫…お主、やけに詳しすぎねえか?」
「私が…ですか?」
「ああ。それとお主は言ったな。なぜワシが幻想郷に来たのかはわからない…と」
「…申しましたわ」
「あれは嘘だな?」
え?と幽々子は紫の方を見た。
「なぜそう思」
「答えろ」
ぬらりひょんは真剣な眼差しで紫を見る。睨んでいる、といわれても何もおかしくない。
「紫…」
幽々子は紫を心配して見つめる。
「……はい」
下を向き黙っていた紫は小さく答えた。
「はぁ〜…なんでいちいち嘘をついたんじゃ?」
「…あの戦いを私はスキマの中から見ていました。ぬらりひょん様が若い頃のお姿に戻られて奴良組本家で戦っておられていたところも」
「ほう」
「私も興奮して見ていました。あの頃の力溢れた貴方様が帰ってきたと。 …しかし貴方様は術の副作用により血を吐き、地面に倒れ込んでしまいました。その時私はみただけで…わかりました」
「ぬらりひょん様…貴方様はここで死ぬ、と」
「……」
「なので私は…誠に勝手ながら、能力を使い貴方様をこの幻想郷へ連れてきました。幻想郷に連れてくれば貴方様の身体にこれ以上副作用がでないことを信じて」
「そうか。ワシを幻想郷に連れてきたのはお主じゃったか」
あのままにしていたらぬらりひょんを間違いなく死ぬ。そう思った紫は『境界を操る程度の能力』を使い、ぬらりひょんを幻想郷へ運んだのだ。
「申し訳ありません…貴方様をこんなところで死なせたくないと思い勝手に…こちらへ連れてくれば助かるという保証も全くなかったのにです」
「先ほどぬらりひょん様が映像でご覧になったご自身はダミーで、本当はあちらの世界ではぬらりひょん様は行方不明となっております。…これだけでも酷い上、嘘までつき貴方様を騙そうとしました」
紫は淡々と喋っているように見えるが、ところどころ言葉を詰まらせていた。
「ふーん…」
適当な返事をしてぬらりひょんを空を見る。
「ぬらりひょん…」
「八雲紫…言葉って難しいよなぁ…」
不意にぬらりひょんはそう言った。
「…え?」
「お主が嘘をついとるってこたぁワシはすぐにわかった。同時にもう1つわかったことがある。それはお主のワシへの敬意は本物ってことじゃ」
「ワシを騙したとお主は言ったがな…それは逆にお主がワシを気遣ったんじゃろ?」
「……」
「どういうこと?ぬらりひょん」
話についていけない幽々子をぬらりひょんに問う。
「ようするにこいつはワシの命を救ったってことだぜ?つまりワシの命の恩人じゃ。それをワシが知れば自分に対する接し方が変わってしまうとでも思ったんじゃろう。変にワシが気を遣わないようにしたってことさ」
「それがいけないの?」
「こいつはワシに〝畏〟を抱いてるらしいからな。ありのままのワシに会いたかったってところじゃねえか?どうだ八雲紫」
「…おっしゃる通りでございます。しかし気遣ったなどと…」
「いいんじゃ。それとワシは幻想郷に来た後、身体に何の異常もなかった。おかしいよなぁ…運ばれる前から血を吐くくらい副作用が出ておったというのに」
ぬらりひょんは幻想郷に来る前からすでに副作用は起こっていた。幻想郷に着けば副作用は止まったが、全く身体に異常がないというのは考えられない。
「恐らく…此処に着いてすぐお主が治療かなにかをしたんじゃろう。そして念のために永琳のいる永遠亭の近くに運んだ。 違うか?」
「……」
勘が鋭い、なんていうレベルではない。心を読まれているのではないかと思うほど、ぬらりひょんが言っていることは当たっていた。
「全て…おっしゃる通りです」
「フハハ!自分のことじゃが…今日はやけに頭がキレるのう。レミリアに刺激を受けたのかもしれんな!」
ぬらりひょんが大声で笑うと、それを見て幽々子も紫も笑った。
「本当に流石です…やはり私にとっての魑魅魍魎の主はぬらりひょん様、貴方様でございます」
「堅苦しいのう。お主元からそんなキャラなのか?」
「違うわぁ。紫はぬらりひょん以外には割とさっぱりとした性格でーーー」
幽々子!と紫はプンプンしながら怒る。
「もうっ!…しかしぬらりひょん様。私が貴方様を助かる保証もなく此処へ呼んだのは事実。そして永遠亭の薬師のように、元の世界へ無事に戻れるかわからないというのもまだ事実でございます」
「それがどうしたんじゃ?」
「え?」
あまりに軽く返すぬらりひょんに紫はどう反応すればいいのかわからなかった。
「それがどうしたって聞いとるんじゃ」
「いや…私からはぬらりひょん様を元の世界へ帰すことは出来ないということなのですが…」
「なんだそんなことか」
ハハハッ!とぬらりひょんは笑う。
「別にお主がワシを元の世界へ帰すことができんからって、ワシが元の世界へ帰れる可能性が0ってことではないじゃろ?」
「それはそうですが…」
「まぁ…たとえ0だったとしても…その『運命』を変えればいいだけじゃ。簡単なことだろ?」
「「………」」
紫だけでなく、幽々子すらも言葉が出なかった。器の大きさ、心の広さが他の妖や人とは比べ物にならない。
「ぬらりひょん様…」
「ハハ!口で言うなら簡単だよな。問題はそれをーーー」
バタバタバタ!
「ぬらりひょーーーん!!!」
バタバタバタと寝間着を来た女の子が走って来た。風呂に入っていたフランである。
「おいおいフラン。お前少し早いんじゃねえか?それじゃあ鴉天狗の行水だぜ?」
「なに?鴉天狗って。 というかその女の人は?」
フランは紫を指差して言う。
「こいつか?こいつはな…ワシの百鬼じゃ」
「ぬ、ぬらりひょん様!?」
「なんじゃ、嫌なのか?」
「いえ!むしろ…光栄でございます!」
口をパクパクさせながら言う紫が可笑しくて、3人とも笑った。
「な、なによぅ…」
バタバタバタ!
「こらフランッ!まだ髪乾かしてないのに!…あれ?紫様こんな時間にどうしたんですか?」
走ってきた妖夢が紫に気づいて問う。その問いになんでもないわ…と顔を赤くした紫は言った。
「フフフ…さて、ワシも風呂に入らせてもらおうかのう」
「それがいいわぁ。 …紫もそろそろ帰らないと2人が待ってるんじゃない?」
あ、と紫は思い出した。
「そうね、そろそろ帰ろうかしら。 ではぬらりひょん様…私はそろそろ…」
「ちょっと待て紫。お主に明日頼みたいことがあるんじゃ」
ぬらりひょんは紫を呼び止める
「はい、何なりと」
「明日ワシらは此処を去る。道がわからんからお主にはワシらを運んでほしいんじゃ」
「お安い御用でございます。場所はやはり…?」
「ああ、『永遠亭』にな」
はい、第28話でした。
今回からルビを振ってみたのですが…なぜこんな便利なものをもっと早く使わなかったのかと後悔しています…
ではお疲れ様でした。