最近暑くなってきましたね…半袖!おめえの出番だぞ!
「…あれ?」
怖くて瞑っていた目をフランはそっと開けた。
「何も…見えない」
辺りは薄暗くて気味の悪い目玉がそこかしこにあった。〝此処〟は明らかに異質な場所であった。
「……」
フランはこの空間が自分の部屋と重なって見えた。せっかく外に出られたのに、結局私はこうなるんだ、と思わず口に出そうとした瞬間…
「よっ、大丈夫か?」
いつの間にぬらりひょんが横にいた。全体的に薄暗かったが、自分の姿とぬらりひょんの姿ははっきりと視えていた。
「ぬらりひょん、ここどこ?」
「ワシにもわからねぇ…」
当然ぬらりひょんに聞いても答えはわからない。
「ただ…」
「ただ?」
「誰かによって〝意図的〟にワシらはここに閉じ込められているということは確かじゃ」
ぬらりひょん周囲を見渡す。しかし四方八方同じような眺めである。
「なんでわかるの?」
フランはその理由を聞いた。
「気配がするからじゃ。 勘の鋭いやつならわかるはず…」
シュウン…
「「!!」」
ぬらりひょんが言いかけている途中にまた1つ空間が現れた。
「フン、ここに入れということか」
「なんか気持ち悪い…」
鳥肌が立つような寒気がガンガン伝わる。
「行くぞフラン!」
ぬらりひょんはフランの手を握り、その空間へ足を踏み入れた。
「ここは…?」
辺りは先ほどとはうって変わって明るい。そしてぬらりひょんたちの視線の先には、永遠に続いてるのではないかとまで思わせるほど長い長い階段があった。
「ここも幻想郷の一部なのか?よくわかんねえけど上ってみるしかないのう」
「えっ! ここを上るの!?」
フランは驚いた。それも無理はない。頂上など毛ほども見えないくらい長い階段なのだから。
「当たり前じゃ。永遠亭へ行こうにも此処がどこかわからん以上は動けねぇからな。」
「ぶー…」
フランは理解はしたが納得はできないという顔をしている。
「さっ!上がるぞい!」
「長い!!!」
フランが叫ぶ。日傘を差していても汗がダラダラと出ている。
「本当に長えな…年寄りには結構きついぞ…」
今のぬらりひょんは若返っているので年寄りではない。ただの言い訳である。
「あ!そうだ!」
「あん?」
「ほらっ!」
フランがふわっと浮いた。そして空を自在に飛び回っている。
「なんだ、お前空飛べたのか。そういえば羽も生えとるしのう」
「私も久し振りだったから忘れてた!」
てへぺろと言わんばかりに舌をチョロッと出して笑う。
「なんじゃそりゃ」
「じゃあ私先に上まで行ってくる!ぬらりひょんも遅れないでね!」
そう言うと凄いスピードで上へ飛んで行った。ぬらりひょんの「おい!」という声もまったく届かない。
「くぅー…あいつワシが飛べねぇからって置いていきやがった」
文句を垂れても仕方がない。ぬらりひょんは自分のペースでゆっくり上がることにした。
「はぁ…はぁ…蛇ニョロがいれば楽だったな…」
蛇ニョロというのはぬらりひょんやリクオが散歩用に使っている下僕妖怪である。400年前、京妖怪に攫われた珱姫を救いに、大阪城に行く際に乗って行った。
「鴉天狗も他の側近たちもいねーし久々に伸び伸びできると思ったんじゃが…」
ぬらりひょんの周りには常に百鬼がいた。それはぬらりひょんが長い年月を重ねて作り上げた百鬼である。普段はたまに鬱陶しいこともあるが、やはりぬらりひょんにとって必要不可欠な存在である事には変わりない。
「まぁ違う世界であいつらを求めても仕方ねぇ。 …そうか」
上りながらぬらりひょんは何かを思いついた。
「そうじゃそうじゃ!〝幻想郷で百鬼をつくれば〟いいんじゃ!」
ぬらりひょんはとんでもないことを言い出した。
「なんじゃ簡単なことじゃねえか…なんか楽しくなってきたな!へへへッ!」
そう喜んでいると階段の頂上が見えてきた。
「おっ、あそこが頂上か。 …ん?」
頂上から何か音が聞こえる。騒音といった感じである。
「少し悪い予感がする…っていうか悪い予感しかしねえ…」
それはフランが先に頂上へ飛んでいったからである。何があっているのかわからないが、十中八九フランが関係しているだろう。
「急ぐかッ!」シュンッ
何が起こっているか確認するために、ぬらりひょんは急いで階段を駆け上がった。
ー少し前ー
「はぁ…はぁ…」
フランはなんとか頂上に辿り着いた。長距離を空飛ぶことなど初めてだったため、歩いて上るより疲れてしまった。
「やっとついた…もーダメ!」
バタンッ!と仰向けにフランは倒れた。陽は差してないが、疲れたので汗がさっきより出ていた。
「白玉楼に何用ですか」
「ほえ?」
急に声が聞こえた。フランは仰向けのまま声の方向へ顔を向けた。
「貴女…だれ?」
フランの前には刀を二本持った銀髪の少女が立っていた。表情を見る限りどうやら歓迎してくれるわけではないようだ。
「そっくりそのままお返しします。 …いえ、名前なんてどうでも良かったですね」
少女はふぅ…と息を吐いた。
「見る限り何か用があってきたわけじゃないんでしょ?だったらさっさとお引き取り願えるかしら」
少女は急に態度を変える。それを聞いてフランはピクっと反応する。
「…お客様にはおもてなしをするのが普通じゃない?貴女、咲夜に教育されたほうがいいんじゃないの?」
フランは皮肉を込めて返した。
「お客様にはもちろんおもてなしするわよ。 …だけど貴女は〝招かれざる客〟だから関係ない」
「へぇ……じゃ、わからせてあげるわ。私達はとっても大切なお客様ってことをね!」
フランは立ちがってニヤリと笑う。
「(…達?)まぁなんでもいいわ」
少女も刀を一本抜き、臨戦態勢に入った。
2人の間に沈黙が走る。風の音だけが周りに響いていた。
「…きなさいッ!」
「言われなくてもッ!」
フランは紅色の弾幕を少女に撃ち込む。スピードだけはかなりのものだ。
「(速いッ! …でも!)」
少女は最小限の動きで弾幕をかわす。
「フン!じゃあこれよ!」
「《禁忌「クランベリートラップ」》」
今度は紫と青色の弾幕を放ってきた。先ほどよりも量が多く、紫と青の色が交互に飛び交い不気味な雰囲気を醸し出している。
「無駄よ…!」
先ほどと同じように最小限の動きで弾幕をかわす。先ほどよりも量がやっぱり多いため、かわしきれない弾幕は刀で斬り落とす。
「なんで当たら…なッ!?」
油断しているフランに少女は斬りかかった。フランはなんとかかわしたが、左頬にかすり、血が出てきた。
「貴女戦い慣れてないでしょ?弾幕も穴が多いし、撃った後の隙も大きいわ」
その通りである。フランは身体能力はすごく高いのだが、ずっと地下に1人でいた為、戦い慣れていない。
「悪いことは言わないからさっさと帰りなさい」
「……」
フランは血が出ている左頬に触れる。指に血がつき、フランはその指を舐めた。
「……」
そしてブツブツと何かを1人で呟いている。
「(何か様子が…)これ以上やると貴女本当に痛い目を見るわよ。はやく……っ!」
少女が何かに気づく。
「…何がおかしいのかしら?」
それはフランが笑っていることだった。
「楽しいね」
「…楽しい?」
「ええ…外ってとっても…」
「楽 し い わ !」
ゾクッ!
「な、なにこいつ…」
フランの不気味な笑いに、少女はすこし後退りした。
「もっと一緒に楽しみましょう………あれ?貴女の名前はなんだったかしら……まあなんでもいいわ!」
フランは右腕を前に出す。
「《禁忌「レーヴァテイン」》!!!」
「っ!!?」
フランの手には炎剣が出現した。その禍々しさはさっきの二種類の弾幕の比ではない。
「目には目を、歯には歯を、剣には剣を…ね!」
「(なんて禍々しさなの!?)」
その剣によってより一層フランの不気味さが増す。
「こいつ…絶対に幽々子様に会わすわけにはいかない!」
「ここで…斬るッ!!!」
少女も今日一番の集中力で刀を構える。
「もっともっと…私を楽しませてッ!!!」
灼熱の炎剣を手にし、フランは少女に向かっていった。
はい、第25話でした。
一体この少女は誰なんでしょうね…(笑)
ではここで終わります、お疲れ様でした。