内容は11巻よりかなり先。
アインズ・ウール・ゴウン魔導国。
腐敗した王国を滅ぼし、かつての帝国・聖王国・ドワーフ王国・都市国家連合・竜王国を属国化した。
魔導王の属国としての"旨み"を知った各国に「属国という形より魔導国の一部、つまり魔導国の都市になるとさらに美味しいよ」と甘い甘い話を持ちかけて、それぞれ国を魔導国の都市とすることに成功。
都市化の際には名称を変更させ──例えばバハルス帝国はバハルス領域となり、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは皇帝から領域守護者へと名称を変えた──、慈悲深い統治をした。
因みに
魔導国の庇護下では人間、ゴブリン、リザードマン、エルフなどの種族の壁だけではなく、さらには生者とアンデッドの壁も超えてなお平和であった。
人類──もちろん亜人種も含め──は恐らくかつて無いほどの繁栄を見せた。
しかし人間至上主義である法国は魔導国の姿勢を批判。
繰り返された批判により、アインズ・ウール・ゴウン魔導王その人の怒りを買い、全面戦争に発展。法国は各聖典も駆り出すが、魔導国に全く歯が立たなかった。
神人なるぷれいやーの血を継ぐ者も在籍する漆黒聖典も戦争に参加することになったが、たまたま前線にて戦争を楽しんでいた魔導王に
ワールドアイテム所有者の魔導王に効くはずもなく、シャルティアを洗脳した犯人もその時特定。魔導王のさらなる怒りを買った。
まず魔導王は軍の多くを滅ぼし、傾城傾国を強奪。相手の切り札の一枚を略奪した。
続く局面において、法国では「絶死絶命」という神人ならば魔導王に勝てるか…という望みもあった。だがリベンジも兼ねて、本気を出したフル装備のシャルティアが相手では分が悪く、結果はシャルティアの圧勝。
法国の神人がみな殺され、本当に切り札の全てを失った法国はなす術なく魔導国に滅ぼされた。
魔導国は属国の力に一切頼らずとも圧倒的な国力を見せつけ戦争に勝利。
無論、アインズ・ウール・ゴウン魔導王は慈悲深い王であるため、戦に無関係である民間人には危害を加えず──ただし敗戦国なので増税などは行った──、かつての法国を支配した。
彼らから他種族が流れ込んだ事に対しての批判が上がったりなどはあったが、それも初めだけであった。
これはどこの国も同じ傾向であった。
初めては特にアンデッドに恐怖を覚えるが徐々に慣れ、利便性に富むことに気づくのだ。
────そして種族問わない繁栄が約束された大国家が安定期に入ったと言っても過言ではない。」
「………アインズ様?」
「あぁすまない、デミウルゴス。
魔導国の浅い…が、 "深い" 歴史を少しばかり思い出していただけだ。」
ここはアインズ・ウール・ゴウン魔導国の首都エ・ランテルの政務室である。
今ではもう慣れたアインズ当番の一般メイド、今でも継続して行っているスクロールの実験に関する報告に来たデミウルゴス、天井に不可視化した
「アインズ様の御言葉こそがまさに真理です。
アインズ様の今までの覇道は至高の41人のまとめ役に相応しいものかと思われます。」
「そうかも知れないな。(ほとんどの計画はデミウルゴスが立案だったりするんだけどなー。)
まあ私の独り言は聞かなかったことにしてくれ。」
「はっ。畏まりました。
それで…今日のあの件はどうなさるおつもりですか?」
「蒼の薔薇の事か。
うむ、今日は久しぶりにモモンとして外に出たい気分だ。私が直接会おう。
それはそうと、そろそろモモン=アインズ・ウール・ゴウンである事を世に明かしても良い気がするな。
よし。デミウルゴスよ。今から私が言うことを守護者や下僕各員に伝えろ。
少し言い訳のように聞こえるが、デミウルゴスの姿が広まればヤルダバオトとの関係性に気づく奴がいるかもしれん。ヤルダバオトと我々の関係性は──」
♣
魔導国首都 メインストリート。多くの店が並んでいる。売られている品はどれも一級品でそして安い。低くても銀級であるならば届きそうな金額である。
魔導国首都 メインストリート。多くの店が並んでいる。売られている品はどれも一級品でそして安い。冒険者のクラスが低くても銀級であるならば届きそうな金額である。
ドワーフ製のルーン文字が刻まれている剣が、常識の1/5~1/10程の価格で販売されている。
これは魔導王がドワーフのルーン工匠を魔導国のもとで研究させ、大きな成果をあげたためである。
例えばマジックアイテム。
帝国属国化から数年経った現在、神話の領域である第7階位までの魔法が扱えるようになったフールーダ・パラダインが主導の元、魔法やマジックアイテムが研究・開発された。
そして庶民から見れば高価であったマジックアイテムも大量生産できる技術も開発された。
例えばポーション。
魔導国最高の薬師、ンフィーレア・バレアレは神の血に色が近い赤紫色のポーションを開発し、回復力が以前よりも増した。
バレアレ製のポーションと言えばそれだけで高級さが保証されたようなものである。
加えて魔導国の施設の一つである冒険者育成ダンジョンもあり、さらにはそれなりの金銭──もちろん以前から考えると破格である──を支払うと魔導王の配下により蘇生なども行われた。
とどのつまり、魔導王の過去の宣言通り、装備面やアイテム面などあらゆる側面で「想像もできない様な力」が"冒険者"を後押しして、今まで多くの"冒険者"が未知を探索するために旅立った。
そして数多の"冒険者"が憧れ、目標にする「不動の伝説を持つ英雄」もまた、当然健在である。
「ももんさまーももんさまー♪♪♪ルンルン♪」
「…イビルアイうるさい」
「…イビルアイ静かに」
「だーいすきな人と会えて興奮するのは分かるけどよ、静かにしろ、イビルアイ。
あいつは童貞じゃないから俺は手を出さないからよ。」
「今日は蒼の薔薇として、南方の海上都市の探索をモモンさんと共同で行わないか?っていうお話をしに行くんだからね?」
蒼の薔薇は2年前に活動拠点を元リ・エステーゼ王国の王都から魔導国首都エ・ランテルに変更した。アイテムなどの豊富さなども考え変更したのだが、特にイビルアイが
「王国は魔導国に戦争で負けて王都も魔導国の一部になるから、これを機にモモンさまと同じ街を拠点にしたいいいいいい」
と主張を繰り返したのが大きな理由だ。
つい最近まで"冒険"に出ていたため蒼の薔薇はエ・ランテルにいるのは久しぶりであった。
これからモモンに会う理由は南方に存在する海上都市の探索にある。未だ生還者は少なく、アダマンタイト級である蒼の薔薇だけでは心もとないとラキュースは判断した。
なので英雄モモンに「共同での探索」の依頼をしに来たのだ。
そして必然と言えば必然だが、MAXテンションのイビルアイが仲間から文句を言われていたところだった。
「分かってるよ!分かってるけど、久しぶりに会えるから嬉しいんだよ!!5ヶ月と4日ぶりだ!
今日こそ2人でモモンさまとデート…じゃなくてアダマンタイト級として親交を深めたい…」
「あちゃー。発情期の雌の声しやがって。」
「ところで待ち合わせって確か……黄金の輝き亭だっけ?」
終わりそうにないイビルアイのモモンさまトークに終止符を打つためラキュースは待ち合わせ場所を確認する。ティナから「さすがリーダー」と聞こえた気がした。
そして黄金の輝き亭へ蒼の薔薇一行は向かう。
黄金の輝き亭に入ると漆黒の英雄モモンと美姫ナーベが座っていた。
モモンを見たイビルアイは一目散にかけていく。
「モモンさま!お久しぶりです!」
「蒼の薔薇のみなさん、お久しぶりです。
イビルアイも久しぶり。」
モモンは礼儀正しく立ち上がり蒼の薔薇に礼をする。そして満面の笑みを浮かべるイビルアイを撫でる。彼女を子供と見ての行動であろう。容姿が約12歳だから仕方が無い。
モモンが座っていたテーブルへ蒼の薔薇全員が集まり、挨拶を交わす。
♧
「──それで、ラキュースさん、お話とは一体なんですか?」
「はい。
では単刀直入にお話します。モモンさんはここから南方に『海上都市』があるのはご存知ですよね。」
「えぇ、もちろん。」
モモンはひとつ相槌を打つ。
「そこに我々、蒼の薔薇は探索に行こうと思っております。
しかし生還者がほぼいない『海上都市』へ我々のみでの捜索は少し不安が残ります。
なので漆黒の英雄、モモンさんの助力を願いたく、お会いしに来ました。」
「ふむ…なるほど。ナーベ、お前はどう考える?」
「私はモモンさ──んが決定したことが正しいと思います。」
「うむ。分かりました、いいでしょう。
私も、じき『海上都市』へ手を伸ばそうと考えていたところです。ですので、こちらとしても、とても魅力的な提案です。」
生還者がほとんどいない『海上都市』への遠征すら、ほとんどひとつ返事で承諾するモモンはやはり自らが圧倒的強者であるという自信があるのだろう。
「モモンさま!ほんとか!」
「ああ。もちろん。ラキュースさん、それでは私達"漆黒"と蒼の薔薇の皆さんで『海上都市』まで遠征をする、という事でよろしいでしょうか?」
「モモンさん、賛成していただき感謝を申し上げます。
…もう一つあるのですがよろしいですか?」
ラキュースはイビルアイをちらちら見ながら、モモンへ頼み事を言う。
「何でしょうか?」
「海上都市への遠征にあたって、イビルアイがモモンさんと2人きりでアダマンタイト級冒険者として親交を深めたい、と言っているのですがよろしいでしょうか?」
「なっ!!な、な、なんて事を言うんだ、ラキュース!!
違います違います!ももんさま違います!こ、これは手違いで!!」
ラキュースの突然の発言にイビルアイはオドオドし始める。ガガーランとティナティアは顔を伏せ、肩を震わせながら笑っている。
「ふっ。そうか…なら、イビルアイ。2人でエ・ランテルを回ろうか?」
「えっ…よろしいのですか?」
モモンの予想外の返答にイビルアイは硬直した。
「ああ、私は構わないさ。
ナーベ、お前は先に戻っていろ。分かったな?」
「はい、モモンさん。」
「では蒼の薔薇の皆さん、また後ほど。
イビルアイ、行くか。」
「は、ひゃいっ!」
嬉しさのあまり「はい!」と言えなかったイビルアイであった。