厄神様は幻想郷が大好き【完結】   作:ファンネル

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第二話

「なるほど……そう言う事だったんですね」

 

 

 事情を聞いた早苗はあらかた理解した。

 初め自分も巻き込まれている等と聞いた時は何事だと思ったが、事情を聞いて納得した。

 雛が事情を説明し終えた後、にとりは改めて尋ねた。

 

 

「早苗。どうしたら雛は元に戻れるか……何か知ってるかい?」

「……申し訳ありません。私にもどうすれば良いか」

「そうか。早苗でも分からないか……」

 

 

 二人の――特に雛の表情が沈んでいく様を見て、早苗は軽い罪悪感を感じていた。

 得意げに聞いてみたのは良いものの、結局何も解決策を見出す事が出来なかったのだから。

 

 

「力になれなくて本当に申し訳ありません。しかし、神奈子様ならば何か知っているやもしれません」

「そうだね。まずは八坂様を待とう。雛もそれで良いね?」

「ええ。勿論です。」

「それじゃこれからどうしよっか?」

 

 

 結局、八坂神奈子に何か手掛かりを聞くと言う最初の提案に戻る形になった。

 だが、神奈子がいつ戻って来るのかは分からない。二人はその間にどうしようかと提案し合っていたが、二人の間に入って早苗はこう提案した。

 

 

「八坂様がお戻りになるまで、この屋敷にてお寛ぎ下さい。そう時間もかからないと思われますから」

「ふえ? い、良いのかい? 早苗」

「ええ。勿論ですとも」

「さ、早苗ちゃん。気持ちは嬉しいけど、私がここにいたら早苗ちゃんにも……」

 

 

 雛の側に居れば何かしらの災難が起きる。そのため雛は八坂神奈子が帰って来るまで、しばらくの間ここから離れていようと思っていた。そしてそれはにとりも同じだ。雛を連れてどこかで時間を潰してようと思っていた。

 だが、早苗は自信満々のしたり顔で言い放った。

 

 

「御心配には及びません! 失礼ながらこの現人神。たかだか厄ごときでどうこうされる様な存在では無いと自負しております。ですのでお二方。どうぞ安心して滞在なさってください」

「早苗……」

「早苗ちゃん……」

 

 

 体中から神々しいような覇気を出しながら、早苗は自信満々に言った。

 二人も、そう言う事ならお邪魔させてもらおうという形で決着がついたのだった。

 

 

「すでにお茶が無くなってしまいましたね。入れ直してまいりますので、しばらくお待ちください」

 

 

 そう言って早苗は二人のお茶を片づけながら席を外した。

 残されたにとりと雛は、早苗の言葉通り、部屋で寛ぐ事にしていた。

 にとりはだらりと仰向けに倒れ込んで、こう呟いた。

 

 

「いやぁ、早苗は話の分かる人だな。やっぱ守矢神社に相談に来て良かったね、雛」

「ええ。本当に……」

 

 

 誰だって不幸になるのは嫌だろう。しかし雛が側にいれば不幸がやって来ると言っているようなモノだ。誰でも雛の事を内心良いようには思わないだろう。誰だって不幸にはなりたくないのだから。雛自身、それが厄神としての宿命だと半分諦めていた。

 しかし早苗は違っていた。雛を一人の神様として、そして相談者として真摯に向き合ってくれている。

 雛はそんな早苗の行為に感謝しつつ、心のどこかで自分はエンガチョな存在では無いのかもしれないと少しだけ思っていた。

 そしてにとりもまた雛の心情を読み取っていた。少しはにかんだような笑顔の雛を見ていて心のどこかが暖かくなってくるのを感じた。

 しばらくして、ふすまの向こう側から足音が聞こえてきた。早苗が戻ってきたのだろう。

 にとりは起き上がって早苗を待った。そしてふすまが開いて、早苗がやってきた。

 

 

「にとりさん、雛様。お待たせ致しました。お茶菓子も持ってき―――」

「ッ!?」

「ッ!?」

 

 

 早苗がやってきたその瞬間、三人の耳に酷く耳触りと言うか、気持ちの悪い音が聞こえてきた。

 その音はグシャリッと酷く鈍い音を出した。そしてその音の発生源は早苗に在った。

 早苗はその音が何の音か判断、認識出来なかった。

 だがにとりと雛はそれを見た。その瞬間を見た。

 早苗の左足の小指がダイレクトに柱に激突する様を……。

 

 

「みぎゃああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」

 

 

 早苗の断末魔が境内を駆け巡った。

 ほんの数瞬ほど遅れて早苗もようやく事態が飲み込めた。

 己の左足に走る激痛。

 それは言葉では表現できるようなものではなが、しいて表現するならば、足の小指と爪の間に太い針金を突っ込まれているような、そんな感覚を早苗は感じた。

 

 

「早苗ッ!!」

 

 

 反射的ににとりが叫んだ。

 早苗が足の小指をぶつけてからにとりが叫ぶまで、まだ1秒も経っていない。しかし、にとりは瞬間的に事の重大さに気付いていた。それは生物としての本能なのだろう。足の小指を強く強打する事を恐れるのは……

 

 そしてその数瞬後、早苗は倒れ込むように悶絶した。

 だが悲劇はまだ続いていた。早苗は倒れ込む際、お茶と菓子を乗せていた盆を放り投げていたのだ。

 その盆は綺麗に弧を描き、まるで計算されたかのようににとりの頭上へと落下した。

 

 

「おわぁッ! アッつッ! 熱づううぅぅッッ!!!」

 

 

 にとりは帽子を被っていたため、お椀は割れずに済んだのだ。だが代わりに、湯気が立ち込めるお茶をにとりは頭から被るように煽ってしまったのだ。

頭皮に感じる凄まじい激痛。にとりは倒れ込み、体をゴロゴロと転がり畳に擦りつけるように悶絶していた。

 だが、にとりのその行為が彼女にとってさらに不幸な出来事を呼び起こす事になった。

 右へ左へと転がった拍子に、先ほどから腰かけていた座卓に足の向う脛を強打したのだ。

 

 

「ぬがあああぁぁッッッ!!  弁慶の泣き所がぁぁッッ!!!」

 

 

 まるで、運命に決められていたかのような綺麗な連鎖だった。

 早苗から始まったこの連鎖、はたして本当に偶然なのだろうか?

 偶然だろう。一連の流れはただの偶然。早苗の不注意から起きたただの事故だ。ただ単に早苗もにとりも運が無かっただけだ。

 だが、この中でそれを偶然と信じられない人物が一人だけいた。

 

 

「あ……あぁ……」

 

 

 雛は顔面蒼白になりながら、その場から後ずさりした。

 この惨事は自分のせいだ。雛はそう思い込んでいた。雛は目に涙を浮かべながら一歩、二歩とその場をさらに後ずさりした。

 にとりと早苗は朦朧とする意識の中で、そんな雛を見てしまった。そして叫ぼうとした。『これは雛のせいじゃないッ』と。

 だが、その言葉を発する前に、雛は半狂乱で叫んだ。

 

 

「あ、あああぁぁッッッ!!!ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!ごめんなさいッッ!」

 

 

 雛は許しをこうように、その場から飛びだして行ってしまった。

雛が出て行く瞬間、にとりが何か叫んだが、それは雛には届かなかったようだ。そして そんな狂乱してしまった雛を見てしまった二人はとんでもない事をしでかしたと内心焦った。自分たちのせいで誤解させてしまったと……

 

 

「さ、早苗……。う、動けるかいッ!?」

「う……ぐぅッ……あぅ……」

 

 

 にとりの問いに、早苗は嗚咽で返した。どうやら想像以上にダメージが大きかったらしい。

 

 

「わ、私は雛を追うからッ! 早苗はそこで待っててくれッ!」

 

 

 多少、痛みの引いてきたにとりは足を引きずるように立ち上がり、守矢神社から出ようとした。

 そんなにとりを早苗は渾身の力を振り絞って声を出した。

 

 

「に、にとりさん……ほ、本当に、申し訳ありません、。ひ、雛様に謝罪を……」

「全くだよッ! 全部早苗のせいだからねッ!」

「か、返す言葉もありません……」

「雛は必ず連れ戻すから。戻ったらきちんと雛に謝ってよッ!」

「も、もちろんです。 誠心誠意謝らせていただきます。だから、だから雛様を……!」

「ああ分かってる! それじゃ、行ってくるよッ!」

 

 

 必ず連れ戻すと約束したにとりは大急ぎで守矢神社から飛び出して行った。

 そして早苗は、足の局部に走る激痛と己の余りにも情けない姿に泣きそうになりながらその場にうずくまっていた。

 

 

 

 ………………………………

 

 

 

 守矢神社を飛び出した雛は、息切れを起こしている己の体を休ませるために一度地上に降り立った。

 

 

「はぁ……はぁ……ッ」

 

 

 体はとても火照っていると言うのに、頭は何故か非常に冷え切っていると、雛はそう感じた。

 そしてその冷静な頭は、次から次へと雛に負の念を起こさせる。

 

 

(わ、私のせいだ……私のせいで早苗ちゃんもにとりも……)

 

 

 何も考えずに飛び出したものだから、ここが何処だか分からない。

 一度空に上がれば場所を把握できるのだろうが、そんな事をする気にもならない。今はただ誰も居ない所でじっとしていたい。今は何もしたくない。

 雛はその場にうずくまったまま、自責の念に捕らわれていた。

 その結果、雛の回りに大量の厄が集まってくるとも知らずに……。

 




 足の小指の骨折は、ギャグではよくある表現ですが、実際はガチでヤヴァイです。
 作者は、小指の骨折で二週間はまともに歩けませんでした。

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