一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

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苦手を超えてこそ漢~成長は一日にして成らず~

 

 

 今、彼女は考えている。数分前にも似たような状況が無かっただろうかと……。この、自分の目の前で、3人の男性が頭を下げているという状況が……。話は先ほどの事故の時まで巻き戻る。

 

「あ、あの……怪我は無いっすか?」

「は、はい……」

「ちょっ!すごい音がしたけど大丈……ぶ……」

「うーん、これは麗さんの目には毒だね」

「きゃーっ!こないだ読んだ少女マンガみたい!」

「マジでこんな漫画みたいなことってあるんだな」

「あ~らら、大変なことになっちゃってるみたいね~」

「とりあえず、そろそろ離れてはどうですか?」

 

 各々が勝手な意見を言う中、翼の一言により急いで立ち上がって、顔を真っ赤にしながらもすぐに離れる男性。と、その後ろから二人の男性が事務所に入り、掛け声もなく同時にその男性の頭を叩いた。パーンというとてもいい音が事務所に響き、何人かは見てられないと目を逸らす。

 

「いっだ!!ご、ごめんなさい!本当にただの事故で!決してそういう下心なんかがあったりしたわけじゃなくって……」

「わざとじゃなくったって許されないことだってあるんだよ!俺が現役なら即行で逮捕してるぞ!」

「はぁ……お前の不幸癖も今に始まったことじゃないが……今回ばっかりはどう言われてもフォロー出来ないぞ。すいません、うちのメンバーが失礼なことを……」

「俺からも、本当にすいません。警察に突き出してやってもいいですから」

「あ、あの!本当にごめんなさい!こんな言葉だけじゃ誠意とか伝わらないかもしれないですけど!悪気はこれっぽっちも無くて!」

 

 そして話は今に戻る。それぞれの特徴だが、最初に入ってきた……というより事故にあった男性が短く少し跳ねた黒髪で、頬に絆創膏が貼られた男性。どうも他の男性の言葉の通り、不幸体質のようだ。次に話したのが、こちらもまた短め髪で、前髪が少し目が隠れるほどの長さになっており、どことなく怖い顔といった印象を受ける男性。現役なら逮捕している、という言葉がその通りなら、元警官なのだろう。そして最後に話したのが、こちらも短い髪だが、3人の中で一番短く、癖の無い髪で、とてもガッチリとした体形している。発言から大人びた雰囲気を感じるところ、彼が3人のリーダー格だと思われる。彼ら3人の謝罪を受け、彼女がようやく喋りだす。

 

「あはは……まぁ、事故は仕方ないよね。私もちょっと恥ずかしかったけど、こればっかりはね。それに、今から一緒に仕事して行くんだから、こんなことでいざこざ作ってもしょうがないもの。そうでしょ?『FRAME』の皆さん?」

「え?一緒に仕事って……」

「もしかして、貴女が今回の企画の?」

「はい、346プロから来たプロデューサーです。私だったから良かったですけど、他の人にはくれぐれも注意してくださいね。木村龍さん?」

「は、はい!」

「握野英雄さんに、信玄誠司さんも、彼には注意してあげてくださいね。勿論、どうしようもない時だってありますから、そんなに責任を感じたりせず、少し気にしておくくらいで大丈夫ですから」

「分かりました」

「それにしても、まだ自己紹介もしてなかったのに、よく分かりましたね。自分達は、こう言ったらなんですけど、この315プロの中でも華があるわけじゃない……というより、真逆に位置してますし……」

「信玄さん。そういうことを自分達で言っちゃダメですよ。私が分かったのはそちらのプロデューサーさんの資料があったからですが、逆に言えば、たったそれだけのことでも分かるほどに、貴方たちには魅力があるんです。たとえ華々しさが無くったって、そんな不器用で無骨なカッコ良さが好きな人だってたくさんいますよ」

「はは、そこまで言われちゃ照れくさいのを通り越して自信も付きますね。これは期待に応えられるようにしないとな。龍!英雄!」

「そうですね!ポジティブさが俺の武器なんだから、頑張ります!」

「全く……人を乗せるのが上手い人ってのはこれだから……これでやる気出すなって方が無理でしょうね」

 

 先ほどのおかしな空気は何処へやら。気付けばまた一組、彼女の言葉に助けられている。彼女のこういう言葉を飾らずに言うところが、彼女の周りに人の輪を作っていく理由である。

 

「FRAMEの皆も上手く丸め込まれたっす!プロデューサーさすがっすね!メガヤバっす!」

「人聞きの悪いこと言わないの。先生方、どうぞ遠慮なく勉強の続きを、みっちりとしてあげてくださいね」

「おい四季!お前のせいでこっちまでとばっちりじゃねぇか!」

「あ、あはは……じょ、冗談っす……よね……?」

「本当はそんなつもりは無かったんだが、プロデューサーからのお願いとあれば仕方ない。High×Jokerの諸君には特別コースで勉強を教えよう」

「か、勘弁してよ~!」

「んじゃ、おじさん達はまた奥に戻るから、皆はゆっくりしててね~」

「ほら、ハリーハリー!楽しくスタディをエンジョイだよ!」

「んじゃ、俺達も向こうで今度の収録の打ち合わせでもしとくか」

「そうですね。次はゲストも呼んでって話ですし、どんな感じにするのか、しっかり考えておかないとですね」

「言いだしっぺのお前が何も意見を出さない、なんてことは止めてくれよ?」

「あのなぁ!俺だってちゃんと考えてるっての!」

「どうだかな。ま、いざとなれば頼れる人間が近くにいるんだ。しっかりと案をもらおうじゃないか」

「ったく。ま、それもそうだな。んじゃ、もしもの時はよろしくな、プロデューサー!」

「え?私のことだったの!?」

「二人とも、プロデューサーさんのことを信頼してるんですよ。勿論、俺も信頼してますよ」

「なんか面と向かって言われると照れるわね……。まぁでも、悪い気はしないわね。いいわ!もし何かあったらいつでも来なさい!」

「おっし!そんじゃ行くぞ二人とも!」

 

 部屋を離れる者達が各々言いたいことを言いながら部屋を後にする。残ったのはCafe Parade、Altessimo、FRAMEの3ユニットとプロデューサーだけとなった。それでも十分に多いのだが。

 

「ねぇねぇ、プロデューサーさんって、向こうの事務所でもこんな感じなの?」

「こんな感じって?」

「ん~っと……なんだろ、皆のお母さんみたいな感じ?」

 

 その一言に部屋にいる数人が吹き出す。

 

「お、お母さんって……」

「でもさ?さっきのFRAMEの皆への言い方とか、アタシやレイなんかにはすっごく優しく接してくれるし」

「む……確かに、わたしも都築さんに対しては似たようなことをしたりはしているが」

「麗さん。そこで私を引き合いに出すのは……」

「だが、貴殿からはどうもそれよりも暖かい……母親に近い何かを感じるな」

「なんだろう……喜んでいいのかな……」

「いいんじゃないですか?まずもって悪いイメージじゃないですし」

「そうだな……ですね。自分達もさっきのでずいぶん気分が楽になったしな……なりました」

「誠司さん、なんか喋り方変だぜ?」

「じ、自分でも分かってる!だけどどうも前の仕事の関係上女性と接する機会ってのが無かったのもあって、緊張してな……」

「ふふ、そんなこと気にせず、いつも通りでいいんですよ?」

「はい。いや、あぁ……わかり……分かった。出来る限りでいつも通り話そう」

「あの誠司さんがタジタジだな。中々見れない光景じゃないか?」

「うんうん、そんな感じでいろんな表情が出るのは新しい発見や成長に繋がるのよ。人間はいくつになっても成長するもの。いい事じゃない」

「そうですなぁ。私もまだまだ成長せんとあきませんね」

「東雲が成長っていうと、もっと洋菓子作りの幅を増やすとかか?」

「そういう神谷は、迷子にならないように、やね」

「我らの漆黒の翼はためかせし時は今にあらず。時を重ね、定められし運命の時をもって、その翼にて漆黒の闇を翔ける」

「すぐには成長なんて出来ないから、時間をかけて、今を頑張って、その先に成長が付いてくるんだ。って言ってます」

「おお~!アスランいいこと言うね!」

「アーッハッハッハ!当然であろう。何故なら我はサタンのシモベ!天地創造に至るまで我が手中にある!」

「僕だってたくさん勉強して頑張ってるんだ。って言ってます」

「……」

「確かに、アスランさんは勉強熱心な方ですものね。都築さんもこれからは成長してもっときちんとした生活を……都築さん?」

「ん?あぁ、なんでもないよ」

 

 それぞれが成長について、という少し難しい話をしていた中、圭だけがどこか他所を見ていたようだ。が、特にその方向に何かあるようにも見えない。特に気にも留めること無く話は進んで行く。と、ここでまた部屋をノックする音が鳴る。また誰か来たようだ。幸広の返事の後、扉が開かれ。二人の男性……と、一匹の猫が入ってくる。

 

「おう!おめーら!今日も元気にやってっか!?バーニンッ!」

「よお、今日も騒がしそうだな。おはようさんよ」

「にゃあ~」

「二人ともおっはよ~。それにニャコも、おはよう」

「にゃあ!」

「にしても今日は朝から大勢集まってやがんな!なんか企画で新しいプロデューサーさんが来るって話だ……が……」

「346プロからって話だったから予想はしてたが……朱雀、これは腹をくくるしか無さそうだな」

「えーっと……よろしくね」

「お、女じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 男の絶叫が部屋中に響いた。だが、今回は半分予想されていたのか奥から人が出てくるには至らなかったようだ。叫んだ男は全体的に赤い髪をリーゼントのように巻き上げ、左右の髪は横に跳ね上げ、翼のような形になっている。朱雀と呼ばれたとおり、それを意識しているのか、ちょうどその内側の辺りを黄色で染めており、見事な色合いになっている。もう一人の男性は、綺麗な黒髪をオールバックにして、群青色の眼鏡が似合う、どこか知的な印象を受けるとても背高い男性だ。どちらも服装は学ランで、猫は前者の頭の上でおとなしくしている。

 

「あの……なんか、ごめんね?」

「ああ!いや!アンタが悪いわけじゃなくて!俺が!その……」

「悪いな、許してやってくれ。コイツは女が苦手なんだ。おっと、自己紹介が遅れたな。俺は……」

「氷刃の玄武こと、黒野玄武。座右の銘は威風堂々。全国一斉テスト・統一模試で全科目1位を取った実績もある頭脳明晰の元不良アイドル。一緒に来たのが、爆炎の朱雀こと、紅井朱雀。座右の銘は漢の中の漢。こっちも元不良だけど、不良だった理由は悪人という存在が許せなくて、それを正すため。頭の上の猫はにゃこ。朱雀君によく懐いてるわね。二人はユニットを組んでおり、ユニット名は『神速一魂』。デビュー曲はバーニンクールに輝いて。こんなところでいいかしら?」

「ほぉ……アンタ、中々すごいじゃないか。事前に情報はもらってたんだろうけど、それをしっかりと覚え切れてる。相当な切れ者だな」

「これでも向こうで50人プロデュースしてるのよ。このくらい出来なきゃ、向こうの皆に笑われちゃうわ」

「なるほど、そりゃあすげぇわけだ。っつうわけだ朱雀。この人はそんじゃそこらの女なんかとは違う。筋の通った信頼できる人だろうよ。そんな人に、お前はずっとそんなうじうじしたままか?」

「くっ……なぁ……アンタ、そこまでしっかり覚えて来たんだから、俺が女が苦手だってことも知ってるんだよな?」

「えぇ、勿論知ってるわ。でも、それでも貴方をプロデュースしたいと思ってる」

「っ!理由を……聞かせてもらってもいいか?」

「簡単よ。貴方なら、それを乗り越えられると信じてるから。私から信じないで、信じてもらうことなんて出来ないから。それを乗り越えた貴方は、きっと今よりも、もっと強く輝けるって信じてるからよ」

 

 この言葉は、完全に決め手になったのだろう。少し顔を俯かせていた朱雀は、少しの間をおいてその顔を勢いよく上げる。

 

「おおおおっし!!や、やってやろうじゃねぇか!!さ、流石にまだすぐには無理だろうけど、目標は、アンタと自分から肩でも組んで写真を撮ることだ!そのくらい出来るようになってやる!バーニンッ!」

「ふっ、乗り気になったみたいだな。アンタ。人を乗せるのも上手いみたいだ。本当にすげえ人だな」

「私は本当に思ったことしか言わないよ。じゃないと、信頼なんてもらえないでしょ?」

「あっははは!そりゃあそうだな!アンタがこの企画を任されたのも納得ってやつだ!これから短いけどよろしくな!番長さん!」

「ば、番長って……ま、それも悪くないかもね」

「玄武、お前やっぱすげぇな……」

「当たり前だろ?なんてったって、あの紅井朱雀のユニット仲間で、兄貴分だぜ?」

「はっ!言ってくれるじゃねぇか!」

「うんうん、切磋琢磨するのは良い事だね」

 

 何故か幸広がその場を締め、話は上手くまとまったようだ。とても単純に、あっけなくことが進んでるように見えるが、誰しもがやはり様々な悩みや葛藤を抱えている。彼女はそれを知らず知らずの内に少しずつ軽くしているのだろう。彼らとて、軽い言葉で流れるような簡単な人間ではない。だが、彼女の言葉には、不思議と釣られてしまうような何かがあるのかもしれない。勿論、それを彼女が意識することは無いのだが。

 

「今でちょうど半分くらいかな~?み~んなプロデューサーさんに言いくるめられちゃってるね」

「もう!そういう言い方しないでってば。そんなつもり全然無いんだから」

「は~い。ごめんなさい。でも、ほんとすごいな~って思っちゃって」

「これもある種の才能だな。うちのプロデューサーも似たようなところはあったけど、あれともまた違った感じだ」

「そうだよな。さっきも言ってたけど、なんか優しく包みこんでるって感じでさ!」

「う~ん……それなんだけど、一つ思い当たるとしたら、うちの事務所の平均年齢の問題かしら。基本的に未成年がかなり多いから、どうしても保護者的な視点になっちゃうのよね。それもあって、接する時にどうしてもそんな感じになるのかもしれないわ」

「環境は人を変えるものだからな。貴殿もなるべくしてそうなったのだろう」

「それもそうかもね。だったら、なるべくして麗君を子ども扱いしても、文句は無いよね?」

「なっ!?そ、それは遠慮して欲しいんだが!」

「珍しく慌ててるね、麗さん」

「つ、都築さんも笑ってないで助けてください!」

 

 一同の中に笑いが起こる。とても和やかな雰囲気だ。と、ここでまたノックが響く。返事から数秒後、扉が勢いよく開き、ジャジャーンと効果音でも出そうな勢いで、小柄な男性がポーズを取っている。

 

「じゃんじゃじゃーん!皆々様お待ちかね、猫柳亭きりのじの登場でにゃんす!朝の挨拶はお済ですか?お済の方はもう一回。お済でないならご唱和を。おはようございにゃんす!今日も一日、よろしくお願いしますでにゃんすよ~!」

 

 あぁ……うちにも似たのがいるなぁ……。そんなことを考えながら、彼女はまた増えた個性豊かな面々を迎えるのだった。

 


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