一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

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かわいいボクのキャラ設定~打ち上げはお洒落なカフェで~

 

 元気な声と共に入ってきたのは3人の少女。一人は長い黒髪に着物を着た和風美人といった風貌の少女。一人はオレンジの帽子を被り、こちらも腰付近まで延びる長い髪をした活発そうな少女。そして最後に、自分のことを『ボク』と呼びながら先ほどの挨拶をしたかなり背の低い少女である。だが、その少女の挨拶により、場は沈黙している。

 

「皆さん、おはようさんどす~」

「おっはよ~!今日も張り切っていこうね~!」

「お二人ともおはようございます。お二人でなんてめずら……」

「ちょっと!露骨にスルーしないでくださいよ!このかわいいボクが挨拶したんですから!忍さんも悪ノリしない!」

「あら幸子はん、いつからいやはったんどす?気ぃつきまへんでしたわぁ」

「まさかの続行!?止めてくださいよ!こんなの今日から来る人に見られたら、ボクがそういうキャラみたいな扱いになっちゃうじゃないですか!」

「それは大変でございますですね~。ところでプロデューサー、そういうキャラってなんでございますか?」

「今のあの子みたいに、皆から愛される子って意味だよ」

「サチコモテモテだナー!」

「うるさいですよ!……って、プロデューサー……?」

「あっちゃ~。幸子ちゃん、やっちゃったね~」

 

 なんとも言えない微妙な空気が流れる。あるものはニコニコと、あるものはオロオロと、あるものはニヤニヤと、それぞれが思い思いの表情を顔に浮かべている。と、ここで最初に動くものが現れた。

 

「ふ、ふふーん!このかわいいボクにかかれば、もうプロデューサーさんがいるのなんて知ってましたとも!ですが!あえて!こういう姿を見せることによって、ボクのことを印象付けようとしたまでです。まぁ、このかわいいボクに限って言えば、こんなことをしなくても忘れるはずもないのですが、少しマイナスの面を見せることで皆さんへのハンデにしてあげてるんです。あぁ、ボクってなんて優しいんでしょう……」

「着物の君が小早川紗枝で、帽子の君が姫川友紀だね?お察しの通り、私が今回の企画で1週間お世話になるプロデューサーだ。二人とも、よろしく頼むよ」

「おお~!私達のことちゃんと勉強してきてくれたんだ!さっすが~!こっちこそ、よろしくね!」

「ふふ、プロデューサーはんも、中々お人が悪いどすなぁ~。ほなら、これからよろしゅうお願いします」

「い、いい加減に……」

「っと、冗談はここまで、ごめんね、カワイイカワイイ輿水幸子ちゃん」

「っ!わ、分かってるならいいんです!それより!かわいいのは分かりますが、ちゃん付けでは子どもっぽ過ぎます!」

「よし、分かったよ幸子。さて、これでようやく半分ってとこか……うちも大概だが、やっぱり多いな……」

「うちはこの346プロの中でも一番多いですので……他の所は大体10人もいれば多いくらいですから」

「あの人の有能さがよく分かるな。あいつら迷惑かけたりしねぇだろうな……」

「ねぇねぇせんせぇ!そっちってどんな人がいるの!?」

「私も、聞いてみたいです」

「そうだな。時間つぶしにちょうどいいか」

 

 よいしょ、と椅子に座り直し、話す体勢に入る。もちろん、そこが特等席と言うかのように、薫はまた彼の膝の上である。千枝がそれを少し羨ましそうに眺めていたが、それに気付いた彼が少し顔を向けるも、恥ずかしいのか急いで逸らされてしまう。仕方ないと少し苦笑いしながら、さて、と一息おいて話を始める。

 

「そうだな……さっき言ってないやつだと……そうだ、こっちにいない珍しいのとして、双子がいるな」

「双子ですか。テレビなんかでは結構見たりしますけど、実物は見たことないので、少し見てみたいですね」

「プロデューサーは見分けられたりするの?」

「一応な、あいつらがそういうイタズラさえしてなければ、普段は見分けられるよ」

「目利き大作戦って感じ?」

「そんな大層なもんじゃないさ。ちなみに、そいつらはサッカーが好きでな、たまに運動がてら相手するけど、これがまた上手いんだよ」

「サッカーかぁ……ねぇ!野球やってる子はいないの!?」

「う~ん……野球が好きな子もいた……というか、いるかもしれなかった。かな?」

「ん?どういうことですか?」

「結構前に、次の企画のためにって一般からオーディションの募集をかけたんだ。そして、その最終選考の段階に、その野球好きな子がいたってことさ。残念ながら、その子は惜しくも落選したしまったけどね」

「そっか~。残念……」

「まぁでも、同じスポーツ好き同士、仲良くはなれるんじゃないかな?」

「うん。そうだね!」

 

 あれがもう結構前の話なのか、と彼が勝手に懐かしんでいるが、周りからは次は無いのか。と催促の声や目線が飛んでくる。やはり、同じアイドルとして、そういうのも気になるのだろう。……何人かは完全に興味本位なのだろうが……。

 

「分かった分かった。そうだな……あ、女の子としてはそういうのが気になる子もいるだろうってことで、元歌舞伎の女形がいるな」

「カブキのオンナガタ?」

「歌舞伎というのは、日本に昔からある舞台演劇の一つです。その中でも女形というのは、男性がやる女性の役、簡単に言えばこうですね」

「説明ありがとう、文香さん。まぁそういうわけで、そいつは仕草や口調なんかが女性そのものって感じでな。でも、かと言って全部女性かって言ったらそうでもなくて、時折見せる男らしさってのもある。多分うちの中でもTOP5に入る頼っていい人間だ」

「なんやその人のこと、えろう信頼したはるみたいやなぁ。それに、うちらかて、女性らしさやったら負けてまへんえ?」

「アタシはその人には勝てねぇかもな。こんな性格だし、何より女性らしくやろうって気がねぇんだから」

「でも、こないだロケでリーナと一緒になった時、リーナが『なつきちは普段はカッコイイけど、時折見せる女性としての面がすごく素敵でカワイイ』って言ってたゾ」

「なっ!あいつ……!!今度会ったら覚えてろよ……」

「夏樹ちゃんのギャップでイチコロ大作戦だね!」

「私も今度、かわいいところ教えてもらおっ!」

「だぁぁぁもう!今はアタシじゃなくてあっちの話だろ!?もう知らねぇ!アタシは向こう行ってるからな!」

「あぁっ!ごめんなさいっ!そんな怒らせるつもじゃなくって!」

「では、私共も向こうへ行ってるのでして~」

「俺からも、こんな話題にしちゃってごめんなって謝っといてくれ」

 

 話の流れがいろいろと飛んでいき、数人が奥へと入って行った。まぁ実際ここからまだ人数が増えることを考えればそうした方がいいのも事実なのだから仕方ないが。さて次は……と言い出そうとしたところで、外からケンカ……というほどでも無いが、軽い論争のようなものが聞こえてくる。そのまま声はドンドン近付き、ノックもなく扉が開かれる。

 

「だから!『超常学園』で一番いいのは麗司の覚醒と仲間を守るっていう覚悟だろ!」

「分かってないわね~。丞の悪のカリスマと、後ろに隠れたいろんなものがいいんじゃないの」

「確かにあいつにもいろいろあったんだろうけど、だからって周りを巻き込んでめちゃくちゃにするのがいいわけない!」

「そうでもしないとあの世界の人間は変わらなかったわ。世界観全体を見ないのはアンタの悪いところよ」

「何を~!!」

「はい、すと~~っぷ!二人とも一旦落ち着いて」

「え?あ、もう事務所着いてたのか!おはようございます!」

「良かったわね、逃げる口実が出来て」

「なんだと!?」

「超常学園か・・・そういやこないだからようやく映画で公開されたんだったな。あの撮影の時は骨が折れたよ……」

「そう!その超常学園で……ってあれ?」

「ん?アンタ誰よ」

「こらレイナ!すいません!コイツが失礼なことを……」

「ははは、元気があっていいね。私は今日から企画で来たプロデューサーだ。いつもどおりの話し方で大丈夫だよ。南条光に、小関麗菜だね」

「スゲー!アタシ達の名前ちゃんと知ってくれてる!」

「はん。これからこのレイナ様の手伝いをするんだもの。それくらい当然よ」

 

 勢いよく話しながら入ってきたのは二人。どちらも慎重が低く、とても綺麗な青い目をした、見た感じの印象が少年といった感じの子が光。茶髪にロングで、いかにも悪ガキですといった感じの子が麗菜と呼ばれた。どうもこの二人、普段からこんな調子らしく、仲良く話していたかと思えば、気付けば今のように口ケンカをしてるらしい。だが、やはり波長は似ているというものだろうか、この事務所の中でもかなりの仲良し組だと言われている。

 

「それにしても、超常学園ねぇ。ここまで熱く語ってくれるなんて、あいつらが喜びそうだ」

「そうだ!さっきも思ったんだけど、プロデューサーってあれの関係者なの?」

「あぁ、関係者も何も、あれの主演の5人はうちのアイドルだからな」

「ええっ!?そうなの!?」

「へぇ~。あれ今かなり大人気らしいし、アンタ中々凄腕みたいね」

「なぁなぁ!今度その人達も紹介してよ!一回会っていろいろ聞いてみたいんだ!」

「あぁ、機会があればな。でも、君の場合、もっと会いたい人がいるんじゃないか?」

「っ!あぁっ!勿論!!一度でいい……本当に一度でもいいから、会ってお礼が言いたいんだ……あの人は……天道輝さんは、アタシのヒーローだからな!」

「またそれ?ったく、あんなのの何がいいんだか……」

「はいはい、またケンカになるわよ。その辺にしときなさい」

 

 忍が仲裁に入り、ケンカは起きることなく穏便に終わる。やれやれ、一息ついたところで、また外から声が聞こえる。今度は論争ではなく、女性らしいはしゃぐ声だ。そして、今度はしっかりノックの音が鳴り、扉が開き、3人の女性が入ってくる。

 

「あの新しく出来たお店、とってもいいですよ。あ、おはようございます」

「いいですね~。今度皆で行きましょう~。あ、おはようございま~す」

「ねぇねぇ!そこってドーナツもあった?あ、おっはよ~」

「うん、ちゃんとあったよ。今度プロデューサーさんも……って、あ、そっか!今日から急な企画だって!」

「あぁ、慌てなくて大丈夫だよ。3人とも、おはようございます。私がその企画で来たプロデューサーだ。よろしくお願いするよ」

「は~い。よろしくお願いしま~す」

「よろしく~!あ、ねぇねぇ!ドーナツ好き?さっき来る途中に買ってきたんだ~!」

「あ、あの!普段はそんなにいろいろ食べたりとかはしてなくてですね!?食生活とかもしっかりしてますし!だからその……」

 

 三者三様の挨拶である。それぞれ、栗色の背中までの髪を後ろに軽くまとめているのが、慌てながら弁明しようとしている子。少し薄着で、肩くらいまでの茶髪をツインテールにしているのが、少しおっとりとした喋り方をしている子。天然のピンクっぽい髪をポニーテールにしており、やたらとドーナツを推してくる子の3人である。

 

「そんなに気にしなくてもいいよ。えっと……最初の君が牧原志保、次の君が十時愛梨、そんで最後が椎名法子ちゃんであってるよね?」

「わ~すごいです~。どうして分かったんですか~?」

「はっ!もしかして、これもドーナツの力で、私のドーナツアイドルとしての知名度がドーナツの輪のように広がったからなんじゃ!」

「た、多分違うと思うな……あ!ごめんなさい、感心してばっかりじゃなくて、今日からよろしくお願いします!」

「はい、よろしくね。さっき話してたのは、この間オープンした新しいカフェのことかな?」

「そうなんです~。志保ちゃんが昨日行ってきたみたいで。その感想を聞いてたんですよ~」

「あ、あの!さっきも言いましたけど、普段はそんなに行ったりしないんですよ!?たまたま通りかかって、新しいお店だなって思ってふらっと入っただけで!」

「さっきから何慌ててるの?」

「うんうん、乙女心ってやつだね~」

「男の人の前だもんね~。分かる分かる」

「そんなこと……なんて言っちゃったら女性に失礼だよね。でも、少なくとも私はそれは気にしないから、いつも通りでいてほしいな」

「は、はい……」

「っと、話が逸れたね。そのお店なんだけど、うちの元カフェ営業者の一人も行ったらしくて、とても美味しかったって聞いたんだ。また今度是非行きたいなって思ってて、今度一緒に行って、オススメとか教えてくれる子がいたらな~なんて思ってたんだけど……どうかな?」

「わ、私でよければ是非!」

「プロデューサーさん、その言い方だと、なんかデートに誘ってるみたいに聞こえますよ?」

「で……!」

「違う違う!って、そんな強く否定しちゃ悪いんだけど、そういうのじゃないから。それに、こんなおっさんが未成年をデートに誘うって、流石にきつすぎるでしょ」

「あの、プロデューサーさんって、おいくつなんですか?」

「今が28、今年で29になるところだったかな?もう三十路も目の前ってとこだしさ」

「「「ええっ!?」」」

「ど、どうしたんだよ……」

 

 プロデューサーが年齢を言った途端、周りの数人が驚きの声を上げる。それもそのはずで、そこまで若く見えるというわけでもないが、老け込んだ顔にも見えない。普通に見れば24か25、どう上に見ても26くらいに見えるだろう。だが、蓋を開ければ28である。それも今年で29になるというのだ。彼女達からすれば驚かない方が嘘である。

 

「い、いえ……想像してたよりもいくつか上だったもので……」

「は、はい。てっきり、24か25くらいかと……」

「その誤差でそんなに驚くか?というか、そんなに若く見えるような顔してるわけでもないんだけどな……」

「ライラさんもびっくりですよ~」

「あんまりびっくりしてなさそうなんですけど……」

「アリスもびっくりしたカ?」

「わ、私は別に……」

「またまた~ありすちゃんもそう思ってたんでしょ~?」

「思ってませんし橘です」

「うわっ!ナターリアちゃんは良くて私はダメなんだ。プロデューサー、ありすちゃんがいじめるよ~」

「はいはい、かわいそうにね~」

「うっわ、扱い雑だな~。ひっど~い」

「扱い方を分かってきたって言ってほしいな。さてと、この話はこの辺でいいだろう。にしても、やっぱりこうして女所帯の中に一人で入ると、なんとも言えないな」

「いいじゃんいいじゃん。皆プロデューサーのこと気に入ってるみたいだしさ。なんなら胴上げでもしてみる?」

「止めてくれ、出来るかどうかは別として、恥ずかしさで死ぬ」

 

 そんな風に他愛のない話で打ち解けているところに、またノックの音がする。話し声が聞こえなかったので、今度は一人だろうか?などと考えてる間に今までどおり文香が返事をし扉が開かれる。と、同時に、突然一人の女性が、目をキラキラと輝かせながらプロデューサーに、正確にはプロデューサーの胸元目掛けて飛び込んで来た。

 

「プロデューサーちゃーん!今日も朝一の元気のために私のそのお山を登らせ……て……」

「……」

 

 少女の言うお山へと辿り着いた時、少女の目から輝きが消えたのが分かった。

 


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