一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~ 作:シンP@ナターリア担当
空気が、固まった。
「おはようございます。あ、今のは『おはよう皆、今日も頑張って行こうね』って言ってます」
「おっはよー皆っ!今日もパピッと、元気に行こうね!」
「皆さんおはようございます。今日も皆さんお元気そうですね」
「おはよう皆!今日からは企画が始まるから、頑張って行こうな!」
「その企画の主要人物はすでに来てるんだけだけどね~」
「え?あ、もしかしてその女性が……」
「はい、その通り。私が今日からお世話になるプロデューサーよ。よろしくね『Cafe Parade』の皆」
ようやく気付いてもらえたと言わんばかりに挨拶をする。入ってきたのは5人の男性……一人男性と言っていいのか分かりにくいが、れっきとした男性である。最初に喋ったのが肩にぬいぐるみを乗せ、片目に眼帯を付けた癖毛の男性。それを解説したのが、髪の片側に編みこみを入れた薄緑色の髪の童顔な少年。その次に喋ったのが、先ほど言っていた分かりにくい子、なんとメイドを来ており、どこから見ても美少女にしか見えない。髪型もツインテールでとても似合っている。その次に喋ったのは、大人びた雰囲気で、しかし喋りに関西の訛りを感じる男性。糸目というのだろうか?目が開いてるのかパッと見では分かり辛いが、しっかり見えているのだろう。最後に喋ったのが、これまた大人っぽい雰囲気のお洒落な男性。こちらはハキハキとした印象を受け、どうやら彼がこの5人、『Cafe Parade』のまとめ役だろうと思われる。
「おお!我らが名を既に看破したか。我が闇の同胞を導く者として相応しき力よ!」
「『僕達の名前を知ってくれてるんですね!さすがプロデューサーさんです』って言ってます。あ、自己紹介がまだでしたね。俺は……」
「卯月巻緒君。Cafe Paradeのメンバーで、18歳、ケーキが大好きで、ケーキの良さを広めるためにアイドルになった。よね?」
「すっごーい!ロールの事しっかり覚えて来たんだ!ねぇねぇ、あたしのことは?」
「えぇ、もちろん覚えてきてるわよ、水嶋咲ちゃん。同じユニットのメンバーで、世界一かわいいアイドルを目指してて、巻緒君の親友ね」
「すごいすごい!あ!よく見たらプロデューサーさんめっちゃくちゃかわいいし綺麗!ねぇねぇ!後でお化粧の事とかいろいろ教えて!?」
「うふふ、分かったわ。バッチリ教えちゃうんだから!さて、さっきの難しい言葉で話してたのは、アスラン=BBⅡ世(ベルゼビュートにせい)さんね。それで、その肩の上にいるのがサタンで、いつも一緒にいるのよね」
「うむ!我はサタンの眷属なれば、常に付き従うは当然の理よ」
「『サタンが大好きだから、いつも一緒なのは当たり前だよ』って言ってますね」
「本当にサタンが好きなのね。さて、糸目の貴方は東雲荘一郎さん。今度美味しい洋菓子の作り方を教えてくれないかしら?」
「私なんかで良かったらええですよ。そのかわり、餡子だけは簡便してくださいね」
「えぇ、気をつけるわ。最後になってごめんなさい。貴方は神谷幸広さんで、この『Cafe Parade』のリーダーね。このメンバーをまとめられる貴方の力、頼りにしてるわ」
「はは、買い被り過ぎですよ。俺が何もしなくたって、ここの皆はきちんとやってくれます。むしろ俺が支えられてるくらいですから」
「謙遜しなくてもいいのに。でも、そういうところも良さの一つなんでしょうね。それにしても、気付いたらもう結構な人数になっちゃったわね。そろそろ狭いかしら?」
全員と挨拶が終わり、一段落した所で回りを見回す。テーブルには先ほど同様『S.E.M』の3人。反対側の空いた席は『DRAMATIC STARS』の3人がそれぞれ座っている。『High×Joker』の5人はテレビの前のスペースで何やらワイワイと話している。そして今入ってきた『Cafe Parade』の5人も合わせ、現在17人が同じ部屋にいるのだ。少し狭くも感じよう。
「ふむ、確かにこの人数では少々手狭だな。では、後は若い皆に任せ、我々は奥の談話室にでも行くとしようか」
「ラジャーだよミスター!プロデューサー!また後でトークしましょうね!」
「ま、むさ苦しいのがいても仕方ないものね。おじさんは一足先に退散させてもらいますよ~っと」
「お?じゃあ俺達も動くか?」
「いや、ドラスタの3人はそのままでいい。それよりも、High×Jokerの5人だ」
「え?俺達?」
「ちょうどいい時間が出来たんだ。我々が勉強を見てあげよう」
「うぇっ!?い、いや!いいって先生!せっかく休みなのにそんな無理しなくてたって」
「そ、そうっすよ!それに、今は勉強の気分じゃないっていうか……」
「ノープロブレム!僕たちは、君達が勉強する姿を見るのが好きなんだ。休みまでその姿が見れるなんてベリーハッピーだよ!」
「まぁ、僕は別に良いんですけどね。少し聞いておきたいところもありましたし」
「旬が行くなら、俺も行くよ。勉強も大事だからね」
「こっち二人は勉強熱心ね~。素晴らしいじゃないの」
「よし、決まりだな。ではプロデューサー、後をお願いします」
「あ、はい。頑張ってくださいね」
「「「い、いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
叫び声も空しく、他の5人に引っ張られるように全員が奥へと消えていく。幸広や翼なんかは苦笑いでそれを見送っている。だが、おかげでずいぶんとスペースが空き、話しやすくなったようだ。と、何かを話そうとした矢先に、急いで走ってくる足音が聞こえる。だが今回は一人分しか無いようだ。そして扉の前に着いたが、しっかりとノックをしてきた。どうやらとても丁寧な人のようだ。どうぞの声の後に扉が開かれ、パッツンの髪型、少し痩せ型で、年は15歳前後と思わしき男の子が入ってくる。どうやら相当走っていたのだろう、息が少し上がっており、綺麗に整えられた髪も少し乱れている。
「お、おはようございます。突然ですみませんが、都築さんを見ませんでしたか?」
「いや、俺たちが来た時にはまだいなかったと思うけど。なぁ?」
「あぁ、見てないな。プロデューサーさんはどうです?」
「う~ん。私が来た時にいたのは虎牙道の3人だけだったのよね。で、その3人も走りに行っちゃったし」
「そうですか……って、プロデューサーさん?もしかして、貴殿が今回の企画のプロデューサーですか?」
「えぇ、そうよ。よろしくね、神楽麗君」
「まだ名乗っていないのに……貴殿はきっと素晴らしい手腕の方なのでしょうね」
「大げさよ。それに、喋り方も普段通りでいいわ。さて、さっき探してるって言ったのは、貴方のユニットのもう一人、都築圭さんね。残念だけどさっき言ったとおり、私達は見ていないわ。というより、いつも麗君が連れてくるの?」
「そうです……そうだな。基本的にはわたしが迎えに行かないと部屋から出ませんから。ただ、今日はわたしが行った時にはすでにいなかったんだ。もしかしたらもう事務所に来てるのでは、と」
「そうだったんですねぇ。でも、そしたらどこに……」
「うわぁぁっ!!!」
「きゃっ!なになに!?」
「奥の部屋からみたいですね。俺、見てきます」
突然の叫び声に全員が驚くも、こんな叫びは日常茶飯事なのか数名以外は平然としている。薫に至っては、またか……とでも言いたげに頭を抑えている。と、待つこと数秒、見に行った巻緒が小走りで戻ってくる。
「麗君、都築さん、奥の談話室にいたみたいです」
「「ええっ!?」」
「よかった……何事もなかったのか……」
「い、いつからいたんだろう……」
「やっぱり都築さんは、狐みたいに神出鬼没ですねぇ」
「と、とにかく呼んできます!」
奥の談話室へと走っていく麗。その後少し遠くで会話する声が聞こえたかと思うと、またすぐに、今度は二人で戻ってきた。連れられて来た男性は、パッと見だとハーフに見えないこともない、少しウェーブが掛かった肩甲骨くらいまでの綺麗な金髪。その髪の先には青い小さな髪飾りが付いている。どうもさっきまで寝ていたのか、ずいぶんと眠そうである。
「すいません、お騒がせしました。ほら、都築さんも!」
「そんなに気にしなくてもいいんじゃない?皆もいつものことだって思ってるだろうし」
「だから!今日はそのいつものっていうのとは違って臨時のプロデューサーさんが来てるんですよ!」
「ん?あぁ、この人ですね。初めまして、都築圭と言います」
「あ、ご丁寧にありがとうございます。ってそうじゃなくて。圭さん、貴方奥の談話室にいたって聞きましたけど、いつからいたんですか?」
「えっと……昨日の夜ですね」
「「はぁ!?」」
「これはまた予想外な答えが……」
「我にも予想しかねる自由の魂よ」
「『僕もこの自由さは予想できませんでした』って」
「都築さん!あの後はちゃんと家に帰ってくださいねって言ったじゃないですか!」
「いやぁ、ぼーっとしてたらついね」
「ついじゃないですよ!ほんとに貴方は……」
「まぁまぁ!大事にならなかったんだし良かったじゃない!ね?」
「む……貴殿がそう言うのであれば……」
「都築さんも、そういうのはちゃんと一言くらい連絡入れてあげてくださいね?大切なユニットなんですから」
「そうだね。気をつけるよ。ごめんね、麗さん」
「いえ、こっちこそ、キツイ言葉ですいませんでした」
「よし!これで一件落着だね!」
「うわぁ!すごい!しっかりまとめちゃった!」
「お見事!って感じだね」
一時はどうなるかと思われたが、すぐに解決したようだ。このユニットはこの二人で構成されおり、ユニット名は『Altessimo』。圭の年齢は不明だが麗よりは上だと思われる。が、どちらかと言えば麗の方がユニットを引っ張っている節がある。
ちなみに、先ほどの通り圭は奥の談話室で寝ていたわけだが、見つかるのに少しかかったのは訳があり、なんとこの人、ソファーなどではなく、その後ろの床の上で寝ていたのだ。若干陰になり見え辛く、春名がその後ろを通ろうとした時に発見したようだ。なんとも人騒がせな人である。
「なぁプロデューサーさん、さっきの続きって言ったらなんだけど、他にどんな子がいるんだ?」
「お、その話俺も気になるね。どんな子がいるんだ?」
「そうねぇ……そうだ。巻緒君はケーキが好きだけど、こっちにはパフェがすごく好きな子がいるわね」
「パフェってなんか女の子っぽくていいよね!あたしも大好き!」
「それで面白いのが、その子、元ファミレスのウェイトレスさんだったのよ。どことなく、Cafe Paradeの皆に似てるなって思ってね」
「甘いもの好きでウェイトレス。確かにあってるかもね」
「他にはねぇ……すっごく自由な子がいるわね」
「自由って、都築さんみたいな?」
「いや、都築さんとはまたタイプが違って、なんていうかこう……本当に文字通り何考えてるか分からないのよ。それでいっつも楽しそうで、気分がいい時には鼻歌とか自作の歌とか口ずさんだりね」
「ほんまに自由な人なんですねぇ」
「うちにはそこまでのはいないか……?」
「近いとしたら、ピエールかキリオ辺りか」
「我と波長の合う闇の者は?」
「『僕と話の合いそうな人はいる?』って聞いてます」
「う~ん……限りなく近いのはいるんだけどねぇ……私が思うに、なんか違う気がするのよね……」
「アスランと似たようなのがいるの?すっごい面白そう!」
「いろんな人がいるんですね。そちらも楽しそうです」
「えぇ、もちろん毎日楽しいですよ!他にはそうですね……あ、魚がすごい好きな子とかがいますね」
「魚、ですか……」
「魚か……」
「え?何?どうしたの?」
その前までは楽しそうに談笑していたが、彼女が魚が好きな子を話題に上げた途端に、全員が一斉に口をつぐんだ。
「何?皆魚が嫌いとか?」
「いや、そういうのじゃ無いんですよ。俺は食べるの大好きですし」
「ただ、魚……っていうか、それに関連するワードで、ちょっとな」
「え?関連って……あぁ、分かった。あの人のことね」
「勉強してきてはるから察しがよくて助かります。その人のことであっとりますよ」
「好きなものを好きというのは大事だけど、彼の場合は少し……いや、かなり特殊だからね」
「よし、この話は一旦ここで止めとこうか。う~ん他には、野球がすごく好きな子がいるかな」
「野球かぁ。こっちにはサッカーはいるんだけどね」
「案外波長は合うかもしれない。同じ身体を動かすスポーツだし」
「でもこっちの子はそれでいて20歳だからなぁ。若干年の差でギャップが出るかもだし……まぁ、そんなの気にする子でもないとは思うけど」
「やっぱりそっちの事務所もすごいな!是非合同でなんか企画とかやってみたいな!」
「馬鹿か、今現にこうしてやってるだろうが」
「いや、こういうのじゃなくて、もっとアイドル同士でやるような企画をだよ!」
「あぁ、それに関してだけど、ちゃんと今回の企画中にいくつかそういうのもやってもらうつもりだからね」
「え~!ほんとに!?やっばい!あの346プロのアイドル達と共演出来るんだ!!すっごい楽しみ!」
「頑張ろうね、咲ちゃん」
「うん、意欲的でよろしい」
そんなこんなで会話が続く中、また数人、事務所へと近付いてくる人影があった。その数は3つ。全員中々がたいがよく、一人はかなり鍛え上げられている。軽い話をしながらその3人が歩を進め、事務所前に到着。いつもどおりノックし、返事が聞こえ、扉を開こうとする。が、何故か扉が開かない。あれ~?などと言いながら押すも、開かない。
「お~い!そっち側になんか置いてあったりしないか~?」
「いえ、特に何もないですね」
「あっれ~?どうなってんだ?」
「ちょっと見てみますね」
「あ、プロデューサー!ちょっと待っ……」
「どわっ!?」
「へ!?」
バターン!と大きな音と共に扉が思いっきり開き、外側にいた扉を開けようとした男性が勢いに釣られて転がりこんでくる。その扉の少し前には彼女がいた。そして一瞬の後、その二人の体制は、完全に男性側が女性側を押し倒したような状態になっていた。
「あ、あの……怪我は無いっすか?」
「は、はい……」
空気が、固まった。