一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

5 / 36
DRAMATICな教師達~誰かのヒーロー~

 

 机を挟んで片側に女性が一人、反対側には男性が三人座っている。この状況はなんだ……?女性は考える。どう良い方向に見ようとしても会社の面接。少し下げて人数比を間違えた合コン。酷い言い方をすれば、味方のいない四者面談である。彼女はもう一度考える。この状況はなんだ……?

 時間は先ほどの直後。三人の男性が部屋に入った時にまで遡る。

 

「おはよ~ちゃ~ん。今日も皆ちゃんと元気してる~?」

「グッモーニンエブリワン!」

「おはようございます。おや?見かけない方がいらっしゃいますね」

「あぁ、おはようございます。私は……」

「High×Jokerの諸君、君達はお客様にお茶も出さないどころか立たせたままとはどういうことだ?山下君、コーヒーを頼む。舞田君、彼女を机に」

「おろ、ずいぶん美人さんじゃないの~これはおじさん、腕によりをかけてコーヒー淹れなきゃね~。市販のだけど」

「オッケーだよミスター!さぁさぁ、こっちの椅子にシッダウンだよ!」

「あ、あの……」

「失礼、自己紹介が遅れましたね。私はここの事務所に所属するアイドルの一人、硲道夫と申します。うちの若いユニット達がしっかりとした対応を出来ず、申し訳ありませんでした」

「い、いえ。ですから……」

「君達もしっかり謝るんだ。学生とはいえ社会に出ている人間だ。礼節の大事さもしっかり学びなさい」

「硲先生。この人は今日から代理で来られたプロデューサーですよ」

「プロデューサー……?あぁ、昨日話していた企画のことですか。なるほど、これは失礼しました。てっきりお客様なのかと。いや、お客様であること自体は間違いではないのか……?」

「あはは……皆さんなんというか、個性が強いですね……」

「ソーリー、ミスプロデューサー。ミスターも、悪気は無いんだ」

「なになに?おじさんがコーヒー淹れてる間になんか話進んじゃってんの?おじさんも混ぜてよ~」

「ほんとこの先生たちと来たら……」

「まぁいいんじゃない?丸く収まったわけだしさ」

「見てて、疲れるね……」

 

 話すに話せずいたところを、なんとか旬の手助けにより自分の事を伝えられた女性。しかし、この後である。

 

「では、改めて、自己紹介なんかをしましょうか。山下君、舞田君。君達も席に着きましょう」

「え?」

「はいは~い」

「オーケー!」

「あれ……?」

「な、なんすかあの超面白い状況は」

「この絵面だけで3分は笑えるな」

「完全に流されてますね」

 

 そして冒頭のこの状態へと移ったのである。彼女の失敗点といえば、言われるがままに座ってしまい、そのまま立ち上がらなかったことだろうか。あれよあれよ流され、気付けばこれだ。そして彼女は決心する。とりあえず、このままでは良くない。まずは流れを自分の方向に持って行こうと。

 

「そんじゃ、硲先生はさっき自己紹介したみたいだし、次はおじさんかね?おじさんは……」

「山下次郎先生、ですよね?」

「ほう」

「おろ?おじさんのこと知ってるの?」

「はい、前任、というか、こちらのプロデューサーさんから情報はいただいておりますので。そちらの金髪の方が舞田類先生で、硲道夫先生と合わせて元教師ユニット、S.E.Mで間違いないはずです」

「ベリーグッド!パーフェクトなアンサーだよミスプロデューサー!」

「うむ。素晴らしい予習ですね。若く見えるのにしっかりとしている。君達も見習うように」

「うっわ、完全な流れ弾じゃん……」

「あ、でもでも!俺プロデューサーさんの年齢気になる!」

「隼人……女性にそういう話題は禁句だよ……」

「あぁ、別に大丈夫よ。そんなに気にするようなものでも無いしね。中には私より年上でアイドルやってる女の人だっているんだから。あ、ちなみに私は24ね」

「ワオ!俺より一つ上だったんだ!これは失礼しました!」

「そんなに若いのにしっかりしてるのね~おじさん感心しちゃうよ」

「ふふ、山下先生だってまだまだお若いですよ。男性の魅力っていうのは、そのくらいから出始めるんですから」

「っか~。プロデューサーちゃん。おじさんの乗せ方分かってるね~。そんな風に言われちゃ、頑張らないわけにもいかないじゃない?」

「コミュニケーション能力もしっかりと持っている。とても優秀な人材のようだ。彼も見習ってくれればいいのだがね……」

「え?彼ってプロデューサーさんですか?お会いした印象ではしっかりした人のように思いましたが……」

「あぁ、違いますよ。プロデューサーはしっかりとやってくれている。私が言っているのはうちの事務員の方です」

「あ、敬語は結構ですよ。私の方が年下ですので。それより、事務員さんですか。確かにまだ見ていないですね」

「あぁ~賢ちゃんはね~。頑張ってるっすけど、毎度どこかでポカやっちゃってるんすよね~」

「前は編集中のうちの事務所のホームページのデータを全部吹き飛ばしかけましたね。あの時はプロデューサーの機転で無事修復できましたけど……」

「他にも、栄養ドリンクとただの炭酸飲料を間違えて渡したり、事務所の鍵を失くしかけたり」

「とにかく、ミスが多いのだよ彼は」

「なるほど……こちらのプロデューサーさんは大変だったんですね……」

 

 それを考えれば自分のところはアシスタントの皆さん、特にチーフに関しては文句の付けようも無いほどに素晴らしい人材だったんだなと再確認する。たまーに笑顔が怖いときもあるのだが、などと思案する中、春名からこんな声が上がる。

 

「ところでさ、プロデューサーが受け持ってるアイドルってどんな人たちなの?ていうか何人くらい?」

「う~ん、いろいろいるしな~。受け持ってる人数そのものは50人ね」

「ご……」

「50人って……やべーっす!!マジでメガヤバっす!!うち以上っすよ!!」

「あはは、まぁ男所帯とはまた勝手が違うからね」

「いや、それは十分誇っていいことだろう。やはりプロデューサー君は素晴らしい人材のようだ」

「んで、話を戻しちゃうんだけども、そっちにはどんな子がいるわけ?」

「そうですねぇ……そうだ。ちょうど平均年齢的には君達と同じくらいになるかな?まぁそのくらいの仲良し4人組のユニットがいるよ」

「へぇ、やっぱりそっちにもしっかり決まったユニットがあるんですね」

「その子たちと、他何人かが特別なだけで、普段はあんまりユニット活動って形にはしてないんだけどね。一度組ませたら、お互いにすごく波長があったみたいでさ、プライベートでも仲良くしてるみたいで、今では完全な仲良し組って感じ」

「おお!俺らも似たようなものだし、仲良く出来そう!」

「そう……かな……?」

「他にはねぇ……あぁ、先生方みたいにしっかりとした元教師ってわけじゃないけど、先生ってポジションがすごく似合う人はいるかな~」

「ふむ、中々に興味深い」

「結構博識な人で、音楽とかも好きな人だし、普段の仕草がどことなくカッコイイから、女性にモテるタイプの女性って感じの人ですね」

「もしかして!その人を真似したら俺もモテるかな!?」

「はいはい、ちょっと黙ってような」

「後は、そうですねぇ……。そういえば、舞田先生とある意味で真逆な感じの子がいますね」

「俺と?」

「はい。舞田先生は日本人ですけど元英語教師で、普段の言葉にも英語を入れたりしてるんですよね?」

「そうなんすよ!だからたまーに舞田先生の言葉が分かりにくいっす!」

「それは君の勉強不足だ」

「まぁまぁ……。で、逆にこっちには、生まれは外国で、両親ともに外国人、名前だって外国人の名前のくせに、英語がからっきし喋れないのがいるんですよ」

「あっはっははは!!何その子!すっごい面白いじゃないの!おじさんそういう子大好きよ!」

「これはビックリだね。是非トークしてみたいよ!」

 

 同じアイドルというのもあってか、皆興味深げに聞いている。どちらがより濃いアイドルがいるのだろうか……。などと誰かが考えている内に、扉からノックの音がする。道夫のどうぞ、という答えを聞き、扉が開かれ、数人の男性が部屋に入る。

 

「おはよーう!今日も張り切って行こうぜ!」

「天道、朝からそのボリュームは止めろと何回言えば分かるんだ……。おはようございます」

「まぁまぁ、元気なのは良いことじゃないですか。あ、皆さんおはようございます」

「グッモーニン!さぁさぁ!今日はスペシャルなゲストが来てくれてるよ!」

「スペシャルなゲスト?」

「察しの悪いやつだな。昨日言っていた代理のプロデューサーのことだろう」

「なんだよその言い方!それに!もしかしたら違うかもしれないだろ!そしたらお前相当失礼だからな!」

「この朝早くから来て、High×Jokerのメンツが同じ場にいるんだ。普通のお客なら硲さんがあいつらを下がらせるだろ」

「ちょ!そんな言い方ないっすよ!!」

「あはは……それで、そのゲストさんっていうのは、そちらの女性の方ですか?」

「あ、はい。お察しの通り、今回企画でこちらでお世話になる、346プロの者です。皆さんはDRAMATIC STARSの皆さんで、赤みがかった髪の貴方が天道輝さん、眼鏡の貴方が桜庭薫さん、背の高い貴方が柏木翼さんですね?」

「おお!すげーぞ!しっかり合ってる!」

「だから少しは考えろ。大方うちのプロデューサーが、覚えやすいように特徴なんかと一緒に資料を渡したんだろう」

「じゃあお前はその資料とかを使ってほとんど知らない人間を50人近く覚えて、それ見ないでちゃんと言えるのかよ!」

「多分な。だが、試す機会も無ければ試そうとも思わん。俺には必要のないことだからな」

「そういうことじゃないだろ!これをやってきたプロデューサーさんがすごいって話をだな!」

「ちょ、ちょっと落ちついてくださいよ二人とも!ごめんなさい、いっつもこんな調子で」

 

 完全に置いてきぼりである。彼女が喋ったのは名前を言い当てた部分のみで、後の大半は彼らでの会話のみ。なんというか……どうして男所帯はこんなに皆ケンカ腰なんだろうか……。そんな風に思いながらも、このままではよろしくないと、彼女は話を切り出す。

 

「はい、一旦ストップしましょう。年上である貴方たちがそんなんじゃ、High×Jokerの皆に悪影響です。天道さん。貴方は正義のヒーローになりたいんでしたよね?」

「ん?ああ。なんか、笑われちまうかもしれないけどな」

「いえ、貴方は本当に、誰かのヒーローになれるんです。少なくとも、私の受け持っているアイドルの一人は、貴方を理想のヒーローだと、カッコイイ人だと言っています」

「え……?」

「テレビの中で歌い、踊り、真っ直ぐに自分の夢に向かう貴方の姿が、とってもカッコイイんだと、私に語ってくれました。そんな貴方が今、仲間とこんな風にしていたら、どう思いますか?」

「そっか……ヒーローに、なれてたのか……っ!桜庭!さっきは悪かった!お前の言うとおり、もっと考えてから言うべきだった!」

「な、なんだよ……。ちっ、これで謝らなかったら俺が子供だな。こっちこそ、言葉が過ぎたようだ。次からはもう少し言葉を選ぼう」

「す、すごいです!あの輝さんと薫さんがお互いに謝りましたよ!それも自分から!こんなの滅多に見ないことですよ!」

「う、うるさい!こんな小さなことでいつまでもうだうだと言ってること自体が間違いだと分かっただけだ!」

「ふふ、そうですね。プロデューサーさん、ありがとうございます」

「こっちにも数人ケンカっ早いのがいるからね。さてと、仲直りもしたことだし、さっきの続きでも話す?」

「お、待ってました!」

「さっきって、何の話だったんだ?」

「さっきも少し出たけど、こっちで受け持ってるアイドルの子達の話ですよ。そうだなぁ……あ、桜庭さんと同じ漢字で、薫って名前の子がいますよ」

「お、やったな桜庭!その子と結婚したらどっちも同姓同名だぞ!」

「どうしてそういうしょうもないことばかり考えるんだお前は」

「あぁ~、でも確かにそれは無理なのよね~」

「ん?何か問題でもあるっすか?」

「いやぁ、年齢差がね」

「愛には年齢も性別も関係ないよ……ね、旬?」

「そうかもしれないけど言い方を考えてね」

「あ、年齢差ってよりも年齢って言うべきだったかな。だってその子9歳だもの……」

「っ!ゲホッ!ゲホッ!」

「あっはっはっは!桜庭慌てすぎだって!」

「年齢差実に17歳。明らかにアウトだな」

「それは流石に許容できないですね……」

「そういうこと。まぁ、無邪気な子だから、同じ名前って知ったら面白いくらいに話しかけてくると思うけどね」

「子どもってそういうのすごく面白がるのよね~。いやぁ、無邪気っていいねぇ~」

 

 険悪なムードから一変し、先ほどまでの渦中の人物をネタにするという見事な采配で場の空気を和ませることに成功した。やはりこの辺りも彼女の実力の一つというものだろう。そのまま話は続いていく。

 

「他にはねぇ……いるだけで場の空気が和んで、体感時間が一気にゆっくりになる子がいるかな」

「どういうこと?」

「う~ん……例えばさ、リラックスできるような空間とかってあるじゃない?カフェとか自分の部屋みたいな。その子がいるだけで、何故か周りがそんな感じの空間になってね?ゆ~ったりした空気になって、気付いたら時間がすごい過ぎてたりするのよ」

「うわ~すごいですね。是非そんな人ともお喋りしてみたいですね~」

「翼、お前も似たようなもんだけどな……」

「あぁ、柏木さんも確かに近いとは思うけど、うちの子の方は完全にそれ以上なのよねぇ……。一回あったのが、自分の持ってるラジオ番組で、1枚の手紙だけで気付いたら15分も使ってて、それに視聴者はおろか、番組構成スタッフすら気付かなかったってくらいね」

「ワオ!それはアメイジングだね!」

「なんか、見てるだけで癒されそう」

「癒されるのは間違いないよ。さて、他にはそうだなぁ……あ、そうだ。春名とすごく合いそうな子がいるよ」

「え?それってもしかして……椎名法子ちゃん!?」

「そ、その通りだけど……知ってたの?」

「勿論!ドーナツ好きアイドルとして、同じドーナツ好きアイドルのチェックは欠かしてないぜ!ねぇねぇ!どうなの!?やっぱり法子ちゃんも普段からドーナツ好きって言ってるの!?」

「は、春名!ちょっと落ち着きなって!」

「これが落ち着いてられるかよ!」

「気持ちは分かるわ。そうね、一つ言わせてもらうなら、明らかに貴方よりもドーナツが好きね。あの子にとっては世界がドーナツみたいなものだもの」

「世界がドーナツ……?どういうことだ……?」

「私にも分からないわ。あの子の言うことは基本ドーナツばっかりだし。全ての道がドーナツに通ずってくらいにはドーナツだもの」

「わ、わけが分からない……」

「すげぇ!俺でもまだそこまでは行ってないのに!」

「待って。そこまで行こうとしないでくださいね。もしそんなこと言い出したら俺はユニット抜けますんで」

「旬が抜けるなら……俺も……」

「はいはい、こんなことでユニット解散の危機にならないの」

 

 約一名のテンションがおかしなことにはなったが、場の空気も和やかになり、コミュニケーションもしっかりと取れている。まさに理想的な流れである。と、ここでまた廊下から足音がする。だが今度はどうも足音の数が多い。4人……5人だろうか?そして数秒後、ノックの音の後に扉が開かれ、第一声が飛び出す。

 

「んなぁーーっはっはっは!!我が同胞達よ!此度もまた、闇の世界への一歩を踏み出すべく!共に邁進しようぞ!」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。