一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~ 作:シンP@ナターリア担当
先ほどの騒動から1分が経ち、とりあえず、と小さい子4人と保護者も兼ねて智絵里が別の部屋へと移動した。その際1名が、まだ膝に乗ってなーい!と怒っていたが、また後で、と約束して渋々移動していたとかなんとか。で、事の発端である女性はというと、先ほどと変わらぬキラキラとした目を男へと向けている。はぁ、と何度目か分からない溜め息を吐きながら、男が切り出す。
「まずは事実の確認からだな……。君はここの所属アイドルの一人である一ノ瀬志希、で間違いないね?」
「にゅっふふ~正解せいか~い。ねぇねぇ、うちのプロデューサーは志希にゃんのことなんて言ってたの~?」
「そうだな、赤みがかったセミロングに青い目をしていて、事務所にいる時は上に白衣なんかを着てることが多くて分かりやすい見た目をしてる。事務所内の要注意人物の一人で……君の出した食べ物、飲み物は口にしない方がいい……とのことだけども、さっきの飲み物は、君が用意してくれたものかな……?」
「あっはは~!そっちもせいか~い!ねぇねぇ!美味しかった?志希にゃん特製、魔法のスパイス入りのジュース~」
「あぁ、すごく美味しかったとも。これで人体に何も影響が無いならおかわりまで欲しいくらいだな」
「志希が用意したものに影響が無かったことなんて無いって……。まぁ、諦めるしかないんじゃない?」
「そうね。今回はあまりにも急すぎたわ。それこそ、私達の悪乗りが過ぎてたせいもあるもの、それに関してはごめんなさいね」
「も~、二人とも言い方ひっど~い。志希にゃん泣いちゃいそ~。プロデューサー、慰めて~?」
こめかみを抑えて軽くうずくまる彼の背中を文香が軽くさする。こういう時、下手な慰めは意味がないと察しているのだろう。
「それで、さっきのにはいったいどんな副作用が出てくるんだい?」
「ん~?聞きたい聞きたい~?それはね~……まだ、秘密で~す!」
「まだ……?」
「そ、まだ。志希にゃんってばすっごいから、わざと効果が出るのを少し後に出来ちゃったんだよね~。だから、今日とか明日なんかにはまだ効果は出ないんだ~」
「それを良かったと考えていいのか分からないけど、これから初めて顔をつき合わせる相手に変な状態で会うことがなくて何よりだ」
「その辺も考えてあげる志希にゃんってばほんとやっさし~。効果は楽しみにしててね~。きっと楽しいから~」
「嫌な予感しかしないけど、過ぎたことはどうしようもないか……皆、もしかしたら数日後に迷惑をかけるかもしれないが、その時は可能な限りフォローをしてくれると助かる」
「あたしはオッケーだよ。志希にはいっつも苦労かけさせられてるし、同じ被害者として、ね」
「まぁ、私にできることがあれば手伝うわ。うちのユニットの後二人は、どうか分からないけど」
「私もフォローに回りますね。ここの皆さんはその……個性的な方が多いですから、いろいろと大変ですので」
ありがとう。と彼が3人へとお礼を述べてるのを横目に当の本人は大きなあくびをしている。これは後から聞く話だが、彼女はなんと初めから、それこそ文香が事務所に入るその前から事務所の中にいたのだ。というのも、単純明快な話、彼女が昨日この事務所の中で泊まって寝ていたからである。勿論、重要な書類などもあるので本来は全くもってよろしく無いことではあるが、これもある種の信頼というものだろうか。とにもかくにも、そういう事情で、彼女は誰にも気付かれることなくこの作戦を成功させたのだった。
と、そうこう話している内に外から元気な声が聞こえてくる。どうやら別の子が来たようだ。彼も気持ちを切り替え、そちらへと意識を向ける。そしてノックの音が鳴り、またも文香が返す。
「おっはよーございまーす!」
「皆さん、おはようございますわ」
「おはようございます」
「あれ~?見たこと無い人~。あ!もしかして~!」
「プロデューサー様の言ってらした、臨時のプロデューサー様でしたでしょうか?」
「えぇ、そうです。元気の良い君は、赤城みりあちゃんだね。元気な挨拶を聞けてこっちも元気になれそうだよ」
「えぇ~!?すっご~い!!どうして分かったの~!?」
「みりあちゃんは分かりやすいからね~」
とても分かりやすく驚くツインテールの小柄な少女……みりあを見て、やっぱり子どもは素直で良いなぁなどと考えつつも、今度は視線をもう一人の女性へと向ける
「貴女は西園寺琴歌さんですね。ご令嬢として扱いましょうか?」
「まぁ、意地の悪い殿方は嫌われましてよ?」
「よし、分かった。それじゃあ改めて、そのピンクの髪がとても似合ってるね。これからよろしく、琴歌」
「よろしくお願いしますわ。……ふふっ、なんだか、家族以外の男性の方に呼び捨てにされるのは初めてなので、少し変な気持ちになってしまいますね」
「恥ずかしいなら止めようか?」
「いいえ、これも一つの経験ですわ。このままでお願いします」
どことなく優雅な雰囲気を思わせる女性、琴歌がほんの少し頬を染めながらも、これまた優雅にお辞儀を一つする。普通のワンピースがドレスに見えるのは、彼女の生まれ持っての、そしてこれまでの人生で培われてきた物の賜物だろう。
「それにしても珍しいわね。みりあちゃんと琴歌が一緒に来るだなんて」
「はい。実は来る途中でばったりと出会いまして。そこから一緒に来ましたの。朝からみりあちゃんを見れて、とても元気が出ましたわ」
「えへへ~ほめられちゃった~。あ、そうだ!プロデューサー!プロデューサーって、違う事務所のプロデューサーさんなんでしょ?そっちのお話してよ~!みりあ聞いてみた~い!」
「あら、それは私も気になるわね。315プロダクションと言えば、今大人気の男性アイドル達が多数所属してる事務所ですもの、参考になることもあるんじゃないかしら?」
「こっちのやつらのことか……あぁ、そういえば、琴歌」
「はい、なんでしょう?」
「少し聞きたいんだけども、鷹城って家知ってるか?」
「えぇ、西園寺家とも仲の良いお家の一つですわ」
「それなら知ってるかもな。そこの息子である鷹城恭二がいるぞ」
「まぁ!恭兄様が!?」
「琴歌さんのお知り合いということは……そういった家柄の方なんでしょうが、琴歌さんといい、すごい行動力ですね」
文香がどこか感心したように琴歌を見やる。だが、驚いているのは周りや当人だけでなく、話を切り出した彼もまた驚いていた。もしかすれば知り合いかも程度に思っていたが、まさか『恭兄様』とまで呼ぶほどに仲が良かったとは思わなかったのだ。
「恭兄様は昔からお家のことをあまり良く思っていらっしゃらなかったですものね。それで突然アイドルなどをされはじめたんですね」
「ちなみに言っておくと、俺がアイドルに誘う前はそこらのコンビニでバイトしてやがったからな、あいつ」
「まぁ!?」
「くっ、ふふっ……今アイドルしてる男性が……元コンビニ店員って……ふふっ」
「あっはは!おっもしろ~い!ねぇねぇ!他には?他には面白い人いたりしないの!?」
「う~んそうだな~……。面白いっていうか、ほんとにそれでいいのか?って思ったのが、アイドルになった理由が『ケーキの奥深さを、もっともっと、いろんな人に知ってほしいから』ってやつがいるな」
「まぁまぁ!?」
「ちょ!マジで!?やっばい!面白すぎるんだけど!!その子すっごい見てみたい!」
「美嘉は年齢はいくつだっけか?」
「ん?17だけど?」
「そいつはそんなこと言ってるけど18だから美嘉より年上だぞ」
「うっそ!!年上!?それこそ見たいんだけど!!」
「いろんな方がいるのですね……」
「そうですね。他にも、文香さんが今読んでるその小説、それを書いてるやつも……」
「本当ですか!!??」
全員が今まで見たことがないような表情を見せた文香に驚く。だが、そんな周りの目など知らないかのようにまくし立てる。
「本当なんですか!?この本を書いた方がいらっしゃるって!」
「ちょ、お、落ちついてください!近いですって!」
「あの文香がここまで反応するなんて……よっぽどなのね」
「そうなんです!この小説はとても素晴らしくて、言葉で説明するのも憚られるくらいです!是非読んでください!」
「え、ええ……今度貸してもらうわ」
「それで、プロデューサーさん!本当にいらっしゃるんですか!?」
「はい!います!いますからちょっと離れてください!」
「え……?あ……!す、すいません!私ったらつい……!」
「い、いえ。で、その作者ですけど、少し事情がありましてね、著者の名義とは違うんですよ」
「それって……」
「これ以上は個人情報で、私から話すことではありません。でも、文香さんのその作品への熱意は、彼に届くと思いますよ」
「は、はい……」
「文香ちゃん、今度一緒にプロデューサーさんのとこに遊びに行こう!私もいろんな人と会ってみたい!」
「ふふ、そうですね……プロデューサーさん、お願いしてもよろしいですか?」
「あぁ、もちろん。喜んで歓迎しよう」
その言葉にみりあも、わーい!とおおはしゃぎである。さっきから黙っていた志希も、先ほどの文香の大声で驚いたのか、興味ありげに聞いていたようだ。やはり皆、同じアイドルというのが気になるらしい。
と、話が落ち着いたところでまたノックの音が響く。先ほどまでと同じ流れで文香が応答すると、扉が開かれ、現れたのは黒と白のゴシックドレスに身を包んだ少女と、黒を基調としたシックな服に、茶髪で黄色がかったエクステを付けた少女であった。
「アーッハッハッハ!我が同胞達よ、闇に飲まれよ!」
「あいも変わらず君達は朝から元気だね。外まで声が聞こえていたよ」
「あ、すいません。少し、はしゃぎすぎてしまいましたか……」
「いや、たまにはそういうのも悪くないんじゃないかな?君は少しおとなしすぎるからね。さて、騒ぎの中心にいるのは君かな?」
「む?おお!そなたはもしや、新たなる瞳を持つ者!」
「あぁ、我がかの地にて志同じくする者達を束ねし者。そなたの真名は神崎蘭子にて間違いあるまい?」
「はぁ……!!うむ!!!よくぞ見抜いた!そう、我が名は神崎蘭子!新たなる瞳を持つ者よ!共に参ろうぞ!」
「うむ。刻は短し、されどその身に刻みしは永きモノを」
「ごめん、みりあちゃん、なんて言ったか分かる?」
「え~っとね。蘭子ちゃんから順番に、貴方が新しいプロデューサーなの?って聞いて、そう、別の事務所のプロデューサー代理だよ。君は神埼蘭子ちゃんであってる?って聞き返して、そうです、プロデューサーさん、よろしくお願いします!って言って、こちらこそ、期間は短いけど頑張ろうね、だって」
「なるほど……あのプロデューサー、すごいわね……」
入ってきてからの数秒の会話で、周りの数人以外を置いていった二人。ゴシックの少女……蘭子に至っては、当たり前のように自分の会話に着いてきてくれた彼にとても感動しているようだ。それを、どことなく、やれやれ……とでも言いたげに眺めていたもう一人の少女が口を開いた。
「なるほどね、君はこちら側、いや……そちら側の人間だったわけだ。蘭子にも良き理解者が出来そうだ」
「あちら側。こちら側。そんな境界なんてものは周りの人間が勝手に言い始めたことであって、俺たちは最初からずっと、同じ世界の上に立っている。ただ、他の人と見てる方向、見てる角度、見ようとするものが違うだけだ。そうだろう?二宮飛鳥」
「驚いたね……まさかこっちにも着いてこれるだなんて。まったく……君はもしかして、相当イタイ奴なんじゃないかい?」
「かもしれないね。だけど、俺はそれをカッコ悪いだなんて思わないな。新しいモノを見つけるのは何時の時代でも少数派の、独特な感性を持つ人間だ。俺はこの感性のおかげで今ここにいると自負している。だから、俺は俺の中の『この一面』だって大事にしているのさ」
「そうかい。ふふっ、なんだか安心したよ。僕みたいな人間でも、道さえ見えれば君みたいな人間になれるのかもしれないんだ。今の自分の道が間違いじゃないって言われたようだよ」
「もちろん、それだけじゃあどうしようもない時だって必ず来るだろう。だが『みたいな』だなんて蔑んだ言い方をするんじゃないよ?それは間違いなく君の人生という道のプラスになるものだ。君はそのままに、自信を持って歩き続けるんだ」
「まったく……君は本当に、イタイ奴だな……僕を見つけた彼女も相当なものだったけど、君は間違いなくそれ以上だ」
「褒め言葉と受け取っておくよ」
「にゃっはは~良かったね~飛鳥ちゃ~ん」
「うるさいぞ万年家出娘」
「照れない照れな~い」
これまた回りのポカンとした目を気にせず会話を続けた二人。志希にからかわれるエクステの少女……飛鳥は、心底うっとおしそうに彼女を払いのける。どことなく頬が緩んでいるのは誰も気付かなかったようだ。蘭子に至っては、自分だけでなく飛鳥ともしっかり会話をやってのけたプロデューサーにもっと感動したのか、キラキラとした目線を向けている。そんな彼はこの状況を、子犬に懐かれたようだ……などと思っているのだが、これはまた内緒のお話である。
「それにしてもプロデューサーさん、よくお二人の会話にそのまま合わせられますね。うちの事務所の中でも、あのお二人にしっかり合わせられる人は限られていますのに……」
「まぁ、それに関してはあれですよ。一言で言ってしまえば、男の性ってやつですよ」
「性……ですか?」
「男は誰だって、生まれてから死ぬまでの間に、絶対にその道を通るんですよ。その記憶は消そうとしたって消えるものじゃないし、今日みたいに役に立つ時だってあるってことです」
「はぁ……殿方とは、そういうものなんですね……」
「全員がそうとうは限らないとは思うのだけど、まぁいいわ」
「ねぇねぇプロデューサー!さっきの続き話してよ~!他にどんな人がいるの~?」
「んー?そうだなぁ……これは面白いってわけじゃないけど、内のアイドル達は基本的にユニットで活動してるんだけども、その中に元教師ばっかりで構成されてるユニットがあってな」
「教師からアイドルって、それも何気にヤバイじゃん!で、その人達に何かあるの?」
「いや、その人達、というより、その中の一人に、だな。元科学の教師なんだが、その人の志望動機が、同じくユニットのリーダーになった人に誘われたから、なんだが、その後ろにもう一個理由があってな」
「もう一つ……ですか?」
「あぁ、それもとびっきりくだらない。なんてったって、アイドルって、儲かりそうだから、だってさ」
「それは……教師の発言じゃないわね……」
「ん?ねぇねぇプロデューサーちゃん。その教師ってもしかして次郎ちゃん?」
「ん?あぁ、そうだけども、もしかして知ってるのか?」
「あはっ!やっぱり!次郎ちゃんはね~、志希にゃんが一時期気まぐれで参加してた化学研究のプロジェクトのメンバーだったんだよね~。でも、その中でも二人とも全然やる気なくて、意気投合しちゃったんだ~」
にゃっはは~などと気楽に笑う志希を、周りの数人が、やる気がなくて意気投合って……とでも言いたげな目で見ていたとかなんとか。
「そんな繋がりがあったとはな……下手したらうちの全員と何かしら繋がりがあったり、共通点とかがあるかもな……」
「では瞳を持つ者よ、我と通じ合いし力を持つ者はいるか?」
「うむ、同じではないが、サタンの僕(しもべ)を冠する者が一人。その者はゲヘナの言葉を使い、我とて全てを解する物ではない」
「なんと!かの瞳を持つ者ですら解せぬ言葉と!?一度合間見える他ないか。いや、まごうことなく、邂逅する運命にある!」
「みりあちゃん」
「あのね、私に似てる人はいるの?って聞いて、ちょっと違うけど似たような人はいるよって。ただ、少し分からないことも言ったりするんだって。で、蘭子ちゃんも是非その人に会ってみたいんだって」
「ありがと」
「君でも理解し得ないこともあるんだね。少し驚いたよ」
「全てを知り得る人間なんていないってことだよ。いくら知恵を付けたとて、決して世界の全てを知るなんてことは人間という小さい身では出来はしないのさ」
「はいはい。これ以上そっちに持っていかないでね、聞く側だって大変なんだから」
話し始めたところで奏が割って入る。このままではまた先ほどのように長く回りくどい話になるだろうと思った故の行動だった。飛鳥は少し面白く無さそうな顔をしていたが、志希がすかさず拗ねない拗ねない~とからかいにいったため、それもすぐに終わった。
「それで、他にはどんな方がいらっしゃるんですの?」
「そうだな……ものすごく運が悪いやつ」
「「「あ」」」
「やること成すことが全部空回ったり、そんなことあるのか?って思うくらいベタな不運に見舞われまくるようなやつがいるな」
「それでしたら……」
「うちにも、ねぇ?」
「あはは、あの子はねぇ……」
「ん?どうしたん……」
「きゃあ!」
「っ!誰だ!?何かあったのか!?」
「廊下の外からだよ!」
「よし!」
「あ、ちょっと!」
突然の悲鳴に話はストップして、彼は急いでドアへと駆け寄る。もしかしたら大変なことになってるかもしれない、そう思い、急いでドアノブに手を伸ばすも……直後、ゴンッ!という鈍い音が部屋中に響いた……。
「ぐっ、うぉぉぉぉ……」
「あっちゃ~。遅かったかぁ……」
「きゃっ!す、すいません!大丈夫ですか!?あぁ!ごめんなさい!私がいたばっかりに!!」
「あのっ!大丈夫ですか!?」
「大丈夫~。この方は、とても頑丈な方なのでして~」
「あ、あぁ。本当に大丈夫だ。びっくりさせてすまない……」
「あの、本当にごめんなさい!私のせいで……」
「いえっ!元は私が転んじゃったのが原因なんです!」
「あくまで運が悪かっただけなので~、誰のせいというわけではないのでして~」
「とりあえず落ち着きましょ。このままじゃ話が進まないわ」
何が起きたのか端的に説明すると、彼が扉を開けようと手を伸ばした直後、突然扉が勢いよく開き、彼の頭に直撃した。開かれた扉の先には3人の少女がおり、一人は少し青みがかった黒髪のショートカットで、ふわりとした服を着たどこか儚げな少女。一人はこちらは少し灰色がかった黒髪のショートカットで、動きやすそうなショートパンツで少し背の高い少女。そしてもう一人は、腰まで届く程の長い髪を一つに束ねて、和服を着た背の小さな少女。儚げな少女は扉に前のめりに倒れこみ、背の高い少女はそれを見て慌てており、和服の少女は少し後ろでそれを眺めている状況である。
そしてそのごたごたから30秒後……。
「あの……本当にすいませんでした……」
「いや、怪我が無かったのならいいんだよ。そっちも大丈夫かな?」
「はいっ!私は元々勝手に転んでしまっただけなので」
「むしろそなたが一番痛い目を見ているのでして~」
「こっちもそこまで痛くないから大丈夫だよ」
「さっきあんなに頭抱えてたじゃ~ん」
「黙ってないか放浪娘」
「やっぱり私のせいで……」
「大丈夫だって。気にしないでいいよ。白菊ほたるちゃん」
「へ……?」
「あれ?違ったかな?」
「い、いえ!あってます!……けど、どうして……」
「君のプロデューサーさんから聞いたんだよ。悪いことはなんでもかんでも自分のせいにしちゃう子がいるってね。というわけで改めまして、今日からここで1週間お世話になるプロデューサーだ。よろしく頼む」
「やはりそなたでしたか~。そなたの纏う空気が、そのように感じさせるのでして~」
「そういう君は、依田芳乃ちゃんだね。聞いてた通り、その長い髪に和服がとても似合ってるよ」
「褒められるのは、嬉しいものですね~」
「あの、私は……」
「大丈夫、忘れてないよ。乙倉悠貴ちゃんだね?その健康的な姿に少し高めの背、とってもいいと思うよ」
「は、はいっ!乙倉悠貴ですっ!あの、ありがとうございます!」
儚げな少女……ほたるはただただ驚き、和服の少女……芳乃はどことなく納得した表情を浮かべ、背の高い少女……悠貴は褒めてもらえたのが嬉しいのか、嬉しそうに笑顔を浮かべている。さてと、と一息付いたところで話を続ける。
「まずはさっきのことを改めて、あれはただの事故だから、ほたるちゃんのせいじゃない、いいね?」
「い、いえ!あれは私がいたせいであんなことに……」
「じゃあ仮にそうだったとしよう。でも、それのおかげでとってもいい事もあった」
「いいこと、ですか?」
「あぁ。だってさっきのおかげで、こうやってすぐに3人と打ち解けられただろ?」
「あ……」
「ふふ、そなたはやはり、面白い方でして~」
「そんな考え方も出来るんですね」
「そう、何事も考え方次第だよ。たとえどんなに運が悪くたって、それから何かいい事があれば、その悪いことがあったからこのいい事があったんだって思える。そう考えられれば、どんなことだってハッピーに繋がるんだよ」
「で、でも……私は……」
「なんて、これはうちのとんでもなく運が悪いやつの受け売りなんだけどな」
「運が悪い人の……?」
「あぁ、そいつはほんとに運が悪くてな。でもな、それでどんなに酷い目にあったって、最後にはいっつも笑ってるんだよ。俺が運が悪かったから、代わりに他の皆が酷い目に遭わなくて済む。ってな」
「す、すごいですっ!そんなに優しい人がいるんですね!」
「運気というのは知らずの内に集まるものでして~。ですが、その後の気持ちは、その人次第なのでして~」
「で、でも……」
「大丈夫、君にもそうするようにってことじゃないよ。君はもしかしたら、そんな風には思えないのかもしれないけど、きっと周りの皆は……少なくとも俺は、君が悪いだなんて思ったりしないよ」
「っ!!」
「ひゅー!かっこいいじゃん、プロデューサー!」
「殿方として素晴らしいお言葉ですわ」
「ちゃ、茶化さんでくれ!言い終わって少し恥ずかしいんだ」
「ふ、っふふ……」
「お?ようやく笑ったな?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「うむ!まさしく天使の微笑みか!かくも儚き薄幸の乙女の微笑み、しかと見届けたぞ!」
「ほたるちゃんの笑顔、すっごくかわいいねって!」
「今のは私達にも分かるわね。だって、とっても可愛かったもの」
「あ、えと……あぅ……」
「ふふふ、プロデューサーさんも、なかなか意地悪な人ですね」
「ですが、本当にいい笑顔なのでして~」
「はいっ!とっても可愛いです!」
今日初めて見せたほたるの笑顔に、皆が口々にかわいいかわいいと言うので、彼女は恥ずかしさから顔を真っ赤にして伏せてしまった。そんな姿もまた愛らしく、先ほどよりもかわいいと言われる結果となってしまうのだが、彼女にとっては今顔を見られることの方が我慢できないらしい。彼はそんな一連の流れを見て、やっぱり不運は幸運に繋がるほんの少しの我慢の時間なんだと思っていた。
と、皆がそんな風にほたるをちやほやとしていると、外から足音が聞こえる。先ほどまでと違い、どうも乱暴に歩いているように感じる。そして数秒後、ノックもされることもなく扉が勢いよく開かれ、二人の女性が入ってくる。茶髪の短めの髪をリーゼントのように整えた男勝りのように見える女性と、背中辺りまで黒髪をそのまま流し、さらしに特攻服といういかにもといった服装の女性である。
「おうこら!今日から来るっつう新しいプロデューサーってのはもう来てんのか!?」
あぁ……厄介なことになりそうだ……。過半数の人間がそう思った。横のもう一人も、やれやれ、といった表情を浮かべる。そして彼は、一つ溜め息を吐きながらも、一歩足を進めるのだった……。