一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

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いい物探し勝負開始!~『普通』は彼女の褒め言葉~

 

「嫌な予感がします。この場を離れましょう。いますぐ」

「うちもさんせー。これ以上はもう無理やって」

「およ?あそこににゃにやら見目麗しいお嬢さんがお二人もいらっしゃるでにゃんす。お話を聞いてみるでにゃんすよ!」

「スタッフさ~ん。カットお願いしま~す。流石にこれは良くないです」

 

 九郎と周子の願いもむなしく、キリオと気付けばフレデリカまで先ほどの声の方へと向かっていた。キャシーは入ろうとしていたお店の人に挨拶をしており、翔真はスタッフの方に動いて何やら確認をしている。

 声がした方にいたのは二人の少女。一人は赤い短めの髪が外側に跳ねており、身長はやや低め。クリクリとした目がどこか特徴的で、全体的にかわいらしいといった表現が出来るだろうか。そしてもう一人は青いロングヘアーをツインテールにしており、こちらは逆に身長がやや高め。とてもにこにことした笑顔をしており、すらっとしたスタイルで美人といった形容詞が合うだろうか。そしてその彼女達から少し離れた場所に、カメラやマイクなどの機材を持ったスタッフがおり、あちら側も何かしらの撮影を行っているのが伺える。プロデューサーこと彼女がどうしたものかと悩んでいると、横から翔真が声をかける。

 

「プロデューサーちゃん。今確認してきたけど、あちらさんは765プロさんの子達みたいだねぇ」

「ですね。赤い髪の子が野々原茜ちゃんで、青い髪の子が北上麗花ちゃん。あの二人がセットって事は、二人が看板の旅番組の収録でしょう。被っちゃうなんて珍しい」

「流石、ものしりだねぇ。ところで、アレ止めなくていいのかい?」

「止めようとして止まるなら、九郎も周子もとっくに行動してますね」

「言えてるね」

「プロデューサーさん、お願いです。今からでも遅くないですから場所を変えましょう」

「シューコちゃん的にはもう手遅れやと思うけどね~。明らかに絡んだらあかんの目に見えてるやん」

「う~ん。確かに他所の番組とブッキングしちゃうのは良くないわね。でもこの日に合わせてスタッフさんも調整してくださってるし、違う場所ってのも急には難しいのも事実だしね」

「あの子達と早い内に離れて、何事もなかったかのように再開できるのが一番なんだろうけど……」

 

 煮え切らない言葉の行き先を翔真、そして残り3人が見やると、そこはもはや混沌(カオス)と呼ぶべき状態となっていた……。

 

「にゃにゃ!?茜クンも猫キャラでにゃんすか!?ワガハイと被ってしまうでにゃんすよ!」

「ふっふっふ~。この茜ちゃんを、そんじゃそこらの猫キャラと一緒にしてもらっちゃあ困るよキリオ君!何しろ茜ちゃんは、誰よりさいっこーにキューートな猫ちゃんなんだから!」

「にゃんと!?それならワガハイは、さいっこーーーにぱわふるな猫ちゃんになるでにゃんす!!」

「レイカちゃんってすごいふわ~ってしてるよね。どうしたらそんなふわ~ってなれるの?」

「普通にしてたらなれますよ~。そういうフレデリカちゃんもふふ~んってしてて、ナイスふふ~んですね~」

「いやいや~それほどでもあるよ~。フレちゃんにかかればみ~んなふふ~んだからね~。よくわかんないけど」

「茜ちゃんもこういうとこ見習って欲しいな~。だからプリンがすぐ食べられちゃうんだよ」

「それ茜ちゃん関係なくない!?っていうか食べてるの麗花ちゃんだからね!?」

「もう、茜ちゃんってばおこりんぼなんだから~。もっとキリオ君みたいに笑ってなきゃダメだよ~」

「んにゃっはっは~それほどでもあるでにゃんす!」

 

「どうするん、あれ。いくらシューコちゃんでもあれは無理やて」

「同じく無理ですね。ただでさえギリギリだと言うのに……」

「ほんとどうしましょうね」

「えらく弱気だねぇ」

「他所様のアイドルってのもあって、かなりデリケートな部分ですからね。それに、向こうだって収録のはずですし、こっちに場所を譲ってくれって言うのも気が引けますし」

「プロデューサーって立場は大変だねぇ」

 

 そんな風に話している間にも、4人はさらにカオス空間を展開していく。向こう側の止めに来たスタッフも見事に巻き込まれ、中々の惨事となっている。こちら側からも誰か行くかと相談している最中、渦中の一人、麗花がこちらに興味を示したのかふら~っと歩いてくる。

 

「こんにちは~。皆さん元気にラジオ体操してきましたか~?」

「あ~、今朝はしてへんかったかな~」

「奇遇ですね!私もです!」

「じゃあなんで聞いたんですか……」

「何かを聞くのに理由っているんですか?」

「い、いえ、別にそういうわけでは……」

「あらら、一本取られちゃったね九郎ちゃん。それで、何か面白いものでも見つけたのかい?」

「はい!」

「?」

 

 翔真の問いに元気よく返事した麗花は、今度はちょこちょこと周りを動きながら、彼女……プロデューサーの事をじっくりと見ている。何がなにやら分からない彼女は、ただただ黙ってそれを見ているしか出来ない。麗花からの先制パンチをもらって若干ぐったりしていた二人も、何事かと見ていたが、正面に戻ってきた麗花は、何か分かったのか、うんうんと頷き、彼女に向けて親指を立て、綺麗なサムズアップでこう言った。

 

「そちらのプロデューサーさん。いい感じにやや普通ですね!とってもナイスです!」

「えっと……褒められてるの……?」

「??褒めてるように聞こえませんか?」

「一般的に見ると、すごく微妙なラインかな?」

「その反応、やっぱりいい感じにやや普通ですね!うちのプロデューサーさんソックリです!」

「プロデューサーさん。シューコちゃん、考えたら負けやって思う」

「同感です。猫柳さんと同じ……いえ、それ以上のものを感じます」

「アタシも同意見だねぇ。ま、それはともかくとして、そろそろ方向性を決めないと、いつまで経っても撮影が出来ないんじゃないかい?」

「そ、それもそうですね。あの~北上さん、向こうから来たってことは、そのまま今私達が来てた方向に向かうんですよね?」

「え、そうなんですか?」

「え?」

「いっつもスタッフさんから好きにしていいって言われてるから、そういうの考えたこと無いんですよね」

「これがいわゆる天才型ってやつなんやろね」

「猫柳さんも似たようなものではありますけどね」

 

 これが天然最上級素材……などと彼女が呆気に取られてる内に、今度はスタッフを引き連れて茜もこちらへと合流する。

 

「もう!麗花ちゃん勝手に別の事務所の人のとこに行っちゃダメだって!」

「え~?でも楽しそうだったし」

「麗花ちゃんは良くてもスタッフさんとプロちゃんが大変なの!ほら!あっちでお互いにすっごい頭下げ合っちゃってるじゃん!」

「うわ~。赤ベコさんみたいでかわいいですね~」

「そうじゃにゃ~~い!!」

「あ、あの、野乃原さん。少しいいですか?」

「んにゃ?あ、うっかりしちゃってた!ご挨拶が遅れてごめんにゃさい!」

「あぁ!それは大丈夫です。それより、偶然こうして撮影が被っちゃったわけだけど、やっぱりそのままってわけにはいかないと思うんです」

「そうだよね~。茜ちゃん的にはおいしいからいいけど、事務所的にはわかんにゃいからね~」

「こちらも似たようなものですね。で、もし良かったらなんですけど、そちらがこれからどっち方面に向かうか教えてもらえませんか?こちらはそこと被らないように動こうかと思いますので」

「ん~~。そうしたいのは山々にゃんだけど、うちってほんとに台本なくて、麗花ちゃんが好き勝手動いて転がっていく番組だからさ~」

「うわ、ほんまに台本無いんや」

「これは流石に驚きだねぇ」

「麗花ちゃん次第ではどうなるかわかんにゃいんだよね~」

「困りものだよね~」

「本人がそれ言うんか~い」

 

 話が進みそうで進まない状態が数分か続き、スタッフ間でもどうしようかという空気が出てき始めた頃、場を動かしたのは先ほどまでお店の人と話していたキャシーだった。

 

「ふむふむ、話は聞かせていただきやした。ここはいっちょ、勝負をしてみるのはいかがかね?」

「「「「勝負?(でにゃんす?)」」」」

「そ!よーいドンで撮影再開して、この浅草でおいしい物、素敵な物、珍しいものをそれぞれ探してきて、収録後に見せ合いっこしてみようじゃありませんかと!」

「へぇ~面白そうじゃないか」

「収録後ということは、お互いの収録は普通にして、ここで会ったのは放送では使わないという事になりますかね?」

「その方がお互いにいいんじゃな~い?ねぇスタッフさん?」

「「是非それでお願いします!!」」

「大変やなぁ上の人も……」

「それで、勝ち負け決めるのは誰~?」

「そりゃあ中立で見てくれる人がいいんだけど、今いるのは全員どっちかのスタッフだもんね~」

「じゃ、そっちのプロデューサーさんが良いと思いま~す」

「え、私?」

「いやいや麗花ちゃん話聞いてた?向こうの人なんだから……」

「大丈夫。あの人、プロデューサーさんに似てていい感じにやや普通だから、ちゃんと見てくれるよ」

「ぷっ……あっははははは!!」

「お、プロデューサーがこの笑い方するのめっずらし~い」

「まぁ確かに、これは笑っちゃうのも仕方ないねぇ」

「……は~笑った。いいわ!そんな風に言ってくれたんだもの、私がしっかりと公平に見てあげようじゃないの!」

「にゃにゃ!プロデューサークンもノリノリでにゃんすねぇ!」

「ついに止める人がいなくなってしまうんですね」

「九郎さん、最初から分かってたことやん。あの人、うちらを纏めてる人なんやで?」

「その通りですね。そんな人がお祭りが嫌いなわけありませんよね」

「「はぁ……」」

 

 二人のため息は突如として決まった浅草いい物探し勝負の喧騒の中に消え、そんな二人を余所にルールが決定されていく。そうして最終的に決められたルールが、『浅草を大通りから東西に分けて探すこと』『お店で販売されている物にすること』『探すのに必死になって、収録を中途半端にしないこと』という3つのルールとなった。とても単純であり、それ以外は周りの人に聞いたりするのも自由で、むしろそういったコミュニケーション能力も勝負の肝となるようだ。スタッフ達もDVDに収録する舞台裏映像に使うつもりなのだろう。しっかりとその様子も映しており、相手スタッフや上の者に使用許可を得ようと相談や連絡をしている者もいる。

 

「さぁさぁ、決まったことだしそろそろ撮影を再開しようじゃないか。このまんまだと勝負どころか日が暮れちゃうよ」

「それもそうですね。勝負はともかく、収録はしっかりしませんと」

「くろちゃんってば、実は内心ワクワクしちゃってるんじゃな~い?」

「してません」

「くろークンは恥ずかしがり屋さんでにゃんすからねぇ」

「よし!そうと決まれば頑張ろうね麗花ちゃん!」

「は~い。あ、ねぇねぇあのお店何かな~?」

「んにゃ!?ちょちょっと麗花ちゃん!まだカメラ回ってないから~!」

「行ってしもたな」

「さ、こっちも再開しましょう。さっきの続きとして、このお煎餅屋さんからがいいかしら?」

「そうでにゃんす!まだワガハイおせんべい食べてないでにゃんす!」

「入ってすらいませんからね」

「はい。じゃあおせんべい屋さんに入るところから再開で、1分後からカメラ回しま~す。準備お願いしま~す」

 

 ようやく動くと言うべきか、スタッフからの声が飛び、彼女も慌ててスタッフ側へと戻って画面側から外れる。気付けばもう麗花や茜の姿は無く、スタッフの数人も挨拶を済ませ、急ぎ後を追いかけていった。あっちも大変そうだと苦笑いしながらも、今はこちらに集中しようとしっかりと6人の姿を見つめる。突如として始まった勝負もあるが、何より今は収録が大事なのだ。彼女の目はプロデューサーの目に戻り、6人も気を取り直して乱入前の調子に戻ったようだ。

 

「5秒前、4、3……」

「ここがそのおせんべい屋さんでにゃんすね?早速おじゃまさせていただくでにゃんす!ごめんくださ~い!」

「猫柳さん、あんまり大声は周りに迷惑ですから」

「おっと、これは失礼でにゃんす」

「あ!おいしそうなデザート発見!フレちゃんあれ食べた~い」

「いいねぇ、後でいただこうか」

「浅草のど真ん中に金髪のビジュアル値高い男女二人がおったら目立つなぁ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。後であんみつ奢ってあげるよ」

「ええの?さっすが翔真さん。男前~」

「あ、おっちゃん久しぶり~!そうそう!今テレビの収録でこっち来てんの!また応援よろしくね~」

 

 戻った、というよりは、悪化したというべきだろうか?そんな風に考えながらも、これもまた彼ら彼女らの良さとも言える所だと考え、暖かな目で見守る彼女やスタッフ達。まだまだ始まったばかりの収録。ここからどんな展開が起こるのかは、ここにいる誰にもまだ分からないことだろう。ちなみに余談だが、こちらから離れて5分ほどで、麗花の頭から勝負の事が消えかけていたそうだ(収録後の茜談)

 


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