一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~ 作:シンP@ナターリア担当
沈黙のまま8秒間が経過した。この後すぐにリアクションが起きるのだが、ここで一度時間を止めて、全員の様子を見てみよう。まずは見てる側、彩の3人は、キリオは驚いた猫の如く目をまん丸に、翔真は少し唇を噛んで、噴出しそうになるのをこらえているように見える。そして九郎だが、もはやこの時点で今回のロケの過酷さに気付いたのか、すでに頭を抱えている。次に見られている側、金髪二人に銀髪一人の様子。金髪の片方ことキャシーは、それはもう見事な満面の笑み。まるで『さぁ!笑え!』といわんばかりである。金髪二人目ことフレデリカは、まさかの真顔。ある意味最大級の破壊力だ。そして最後に銀髪こと周子だが、ここで今一度彼女の容姿について説明を少し、彼女は綺麗な銀髪の短めの髪に、かなり白めの肌がとても似合っている女の子だ。そう、彼女の肌はとても白いのだ。『本来は』。今、彼女の思考は一つで埋め尽くされているのだろう。普段からは考えられないほど顔は赤く火照り、目は正面よりも下を向いている。今は時間を止めているから分からないが、2秒ほど前からプルプルと小刻みに震え始めているので、もはや限界なのは目に見えている。そして最後。この鉢合わせの現場になるのを知ってて、わざと双方に伝えなかった彼女だが、それはもうにこやかな笑顔でこの両者を見ている。さて、そろそろ時間を進めよう。そこから2秒・・・合計で10秒経過した瞬間だった。
「なんで!?なんでプロデューサーさんがおるん!?」
「あっははははははは。ちょっとプロデューサーちゃん!何よこのカワイイ子たち!」
「あ~シューコちゃん動いちゃった~。シューコちゃんの負けね~」
「にゃんと!今のは動いたら負けというげぇむだったでにゃんすか!危なかったでにゃんす・・・」
「お~スタッフさんにも大うけだね~。こりゃあ今回はもらったぜい!」
「はぁ・・・頭が痛い・・・」
その場は気付けば両者(一部を除く)とスタッフたちの笑いで埋め尽くされていた。彼女達(一部を除く)の思惑通り、掴みは間違いなくバッチリだと言える。彩の3人(一部を除く)も、彼女達のことを気に入ったのか、とても仲良さそうに話している。プロデューサーも大体こうなることを予測していたのか、うんうんと頷きながらその様子を眺める。だが、そうは問屋がおろさないと言うかの如く、先ほどから除かれていた一部側が彼女に詰め寄った。
「ちょっと!ほんまに聞いてなかったんやけど!?なんでおるんやさ!」
「そういう企画だからね」
「無理です。諦めさせてください。今回のロケは辞退させてください」
「だめです。緊急性の無い個人的な判断での辞退は認めません」
「企画やからってそういうのはちゃんと言っとくもんと違う!?それに相手の人らもここの人って聞いてないんやけど!!」
「そりゃあロケ番組のゲストとしか私も聞いてなかったんだもの。こんな風に動くのが決まったのも企画がスタートしてからだしね」
「私では絶対この皆さんを制御できません。制御しなかったら絶対に収拾がつかなくなって破綻します。無理です」
「制御しきれなくても大丈夫。本当によっぽどさえなければ今回は大目に見るとチーフスタッフさんからも許可はいただいてます」
「「・・・はぁ・・・」」
「あら、息ぴったり。じゃ、その調子でそれぞれのまとめ役、よろしくね?」
そう言って二人からの恨みのこもった目を見てみぬ振りをして、残りの4人の元へと向かう。どうやらこっちで話している間にも話は進み、ほんのちょっと時間でも十分に仲良くなれているようだ。翔真はフレデリカの突拍子も無い言葉にも上手く言葉を返し、キリオはキャシーに先ほどのポーズの経緯を聞いている。実際の所かいつまんで説明すると、到着する少し前に、キャシーがせっかくだから最初に何か面白いことをしようと提案したのがきっかけだったらしい。そこからいろいろと案が出された結果、あのポーズとなったとのこと。ちなみに動いたら負けというのはフレデリカが勝手に追加した冗談だった。そんな話をしている内に周子の顔がいつもの白さを取り戻し、九郎も渋々だが納得したのか諦め顔で合流し、改めての自己紹介となった。
「それじゃ、れでぃーふぁあすとってもので、そちらの皆さんからどうぞでにゃんす」
「いやいや、ここは男性の皆さんからバシッっとかっこよく決めていただきたいでございますねぇ」
「せっかくあんなに面白いのを見せてもらったんだ。そのまま自己紹介が見たいじゃないのさ」
「うちはもう絶対あんなんやらんけどもね」
「でもでも、それ言ったらそういうのやってない側からやるのもいいんじゃな~い?」
「もう誰からでもいいでしょう」
「「「「「じゃあどうぞどうぞ」」」」」
「・・・皆さん本当は打ち合わせしてたでしょう?」
「そんなことあらへんよ~」
「「ね~?」」
「はぁ・・・もういいですよ・・・じゃ、私から順に左回りでいきますよ」
どこかで見たようなネタを交えつつ、そこからは順次自己紹介をしていく。周子の時には翔真から『さっきの可愛かったわよ』という言葉が飛んで、また危うく発熱モードになりかけたが、今回はなんとか抑えたようだ。そしてグルリと一周終わったところで、そういえばとキリオが声を上げる。
「もしかして、そちらの金髪のお二人さん、合同ライブでワガハイとご一緒するお二人にゃのでは?」
「ええーそうだったのー?」
「いや、さっき見て来たとこでしょ。そう!何を隠そう、猫柳キリオさんとご一緒させていただくお二人ってのは、あっしら二人のことでござぁい」
「どこのお国の方ですかね?」
「ビックリだけどあれでも生粋の平成の日本生まれ日本育ちなんよね~」
「いやぁ、まさかそこが組むことになるとは私も予想してなかったからね~。面白いこともあるものね」
「ほんとに楽しそうね、プロデューサーちゃん」
「えぇ勿論。私の好きな事は、アイドルの可能性をいろんな方向に広げることだもの。こんなにいいチャンスは早々無いですからね」
「ふふ、ボウヤも九郎ちゃんも、新しい刺激でいい成長が出来そうね」
「あら、勿論翔真さんも、ですよ?」
「おっと、アタシとしたことが。勿論アタシだって頑張らないとね」
「ちょっとちょっとプロデューサー?なぁに内緒話してんのさ」
「なんでもないわよ。さ、そろそろスタッフさんに挨拶して、撮影の準備に入りましょう」
その言葉に各々が返事を返し、一同はスタッフへと挨拶をする。その際に、今回はどういった場所を回るのかという話になったところで、金髪一号ことキャシーが口を開いた。
「ふっふっふ・・・今回のロケ地であるここ浅草・・・何を隠そう、このキャシーちゃんの生まれ育った町よ!あっちの端からこっちの端まで、浅草の中はまるっと全部キャシーちゃんの庭ってもんよ!」
「そりゃあ心強いねぇ。それで、どんなところを紹介してくれるんだい?」
「そいつは行ってのお楽しみってもんさ!テレビで有名なあのお店から、ご近所さんでも知らないような秘密のお店まで、おいしいところは残さず出すつもりで行こうじゃないさ!」
「それはにゃんとも楽しみでにゃんすね~」
「ねぇねぇシューコちゃん。食べ物以外のお店ってどのくらい紹介されると思う?」
「多くて2個くらいじゃない?」
「期待して・・・いいんでしょうか・・・?」
なんとも不安になりそうな雰囲気だが、とにもかくにも今回の案内人はキャシーで決まったようだ。果たしてこの決定が吉と出るか凶と出るかは、始まってみなければ分からないだろう。そして数分後、撮影の準備も無事に完了し、後はメインメンバーさえ動けばいつでも撮影可能という状態にまでなったようだ。とは言うものの、ゲスト側は後での参加になるので、まずは彩の3人が準備を進める。
「さて、もうすぐ開始だけど、準備は大丈夫?」
「ワガハイはいつでもおーけいでにゃんす!」
「アタシも大丈夫だよ」
「はぁ・・・。私も、大丈夫です」
「も~。クローくんもそろそろしゃきっとするでにゃんすよ~。そんなんじゃ、かわいこちゃんたちに笑われちゃうでにゃんすよ?」
「分かってますよ。もう吹っ切れました。いつもどおりやらせていただきます」
「その意気だよ九郎ちゃん。さて、いつでもオッケーよ」
「ん、了解です。それじゃあスタッフさん、準備できたら始めてください!」
「「「はーい!!」」」
周りからは大勢の返事が飛び、カメラやその他の機材なんかがあわただしく動く。そして、ついに収録はスタートした。
「んにゃっほほ~い!今回も始まったでにゃんすよ~!」
「アタシたち彩の3人が、日本のいろんな場所を巡る旅番組」
「今回は2度目になりますが、東京は浅草に参りました」
「ではでは、笑顔を探しに東へ西へ」
「彩り広げて浮世を歩き」
「届けてみせます、日本の心」
「「「『ワンダフル日本、笑顔の景色』スタートです(だよ)(でにゃんす)!!」
「・・・いや、少しは合わせーや」