一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

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さぁお仕事を始めましょう~和洋混ざってブラリ旅?~

 

「おおおおおお!!これはすごいでにゃんす!!」

 

 まだ人数の少ない事務所の中にキリオの驚きの声が響く。が、

 

「いや、まだ見てませんから、フライングしないでくださいよ」

「ボウヤはこっちで抑えてるから、プロデューサーちゃんは気にせず作業続けてちょうだいね」

「あはは、ありがとうございます。でも、もうすぐですからね」

「やふー!ボクも楽しみ!」

「ああ~誰と組むことになるんだろう……楽しみな反面怖いなぁ……」

「みのりさんなら大体の人と問題なく組めるっすよ。むしろ俺の方がどうなるか」

「っしょ……と。よし、もう見てもオッケーよ!」

「「待ってました!(でにゃんす!)」」

 

 彼女の声に飛びついたのはキリオとピエールの二人。他のメンバーもゾロゾロと壁に貼られた紙へと向かう。時刻は現在7時半を過ぎた頃。向こうと同じく、こちらでも同じやり方にしたのだろう。昨日遅くまで起きていた疲れを見せないよう気をつけながら、昨日と変わらない笑顔で朝早くから行動している。が、そんな彼女も、それに唯一気付いた翔真に耳元でこっそり「あんまり無茶するんじゃあないよ?」と言われた時は、耳が赤くなってしまっていた。と、そんな回想をしている内に、どうやら一通り見終わったらしい皆が彼女の元へと集まる。

 

「やふー!ボクが一番年上だ!とっても楽しみ!」

「なんとなくそうなるだろうとは思ってたけど、やっぱりあいつと組むのか……。嫌ってわけじゃないけど、複雑だな」

「ほほ~う。ワガハイは中々に面白い組み合わせになったでにゃんすねぇ……」

「でも、見てた限りじゃあ一番ピッタリなんじゃないかい?」

「私は予定通りになりましたね」

「俺は恭二と同じところだけど、良かったのかい?なんなら、もっと別のところでも大丈夫だよ?」

「いや、みのりさんお願いです。一緒に歌ってください。正直あいつと二人っていうのは少し距離感が難しいです」

「わ、分かったよ。でも、そこまで言うなんて珍しいね」

「ま、まぁ……」

「どうする?どうしてもって言うならまだ変更は出来るけど」

「ああ、いや。そこまで我が侭は言わないっすよ。ただ、久しぶりに会うことになるから、心配ってだけで」

 

 恭二はどことなく難しい顔をしていたが、どうやら自分の中で何かのふんぎりが付いたのか、それとも諦めたのかは定かではないが、これ以上文句は言わないようだ。他のメンバーも、驚いたり喜んだりと、いろんな表情を見せているが、恭二も含め、やはりこのように形として見ることで、ライブが出来るという実感が湧いてきているのか、気分は良さそうに見える。そんな皆の表情を見ながらも、そろそろ切り替えるために彼女が声をかけようとする直前、その声は別の場所から上がった。

 

「はいはい。それじゃあそろそろ準備をしましょうか。ライブも大事だけど、お仕事だって大事なんだから」

「そうだね。本当は早く346プロのアイドルの皆に会いたいところだけど、俺たちだって立派なアイドルなんだ。ファンをがっかりさせないためにも頑張らないとだね」

「みのりさん……本音ダダ漏れっすよ……。ま、確かに二人の言う通りだよな。これで仕事が中途半端になったら、それこそ会わせる顔がねぇ」

「やふー!ボクもがんばる!」

「そうと決まれば、早速準備するでにゃんすよくろークン!」

「自分の事はご自分でお願いしますね」

 

 なるほど……。と、彼女は一人納得していた。何かと言えば、315プロのプロデューサーの、見ていてどこか安心できる姿に、であった。きっと彼も最初からああだったのでは無いのだろう。だが、彼が見てきた……一緒に歩いてきたアイドル達の中には、このように率先して場を動かしてくれる人間が多いのだ。アイドルとしてのことを彼らに教えると同時に、彼もまた、このアイドル達から様々なものを与えられていただろう。だからこそ、彼はあんなにも頼れる人となったのだろう。そんな風に考えながら、彼女もまた準備を始める。ここから始まる本当のこの企画のために。

 

「それじゃ、今日の予定を改めて確認するけど、Beitの皆はゲーム番組の収録、彩の皆は町を散策するロケ番組の収録で間違いなかったわね?」

「ゲーム!楽しみ!」

「こちらの方は、久しぶりのゲストさんを交えての散策とのことなので、少々心配ではありますが……」

「大丈夫でにゃんすよ~。ほんとーにくろークンは心配性でにゃんすね~」

「誰のせいだと……」

「まぁまぁ。今日はそういうのもあって、私は彩の現場の方に出ることになってるんだけど、そっちは大丈夫そうですか?」

「問題ないよ。あの番組には何度かゲストで出させてもらってるから、もう勝手もある程度分かってるからね」

「そっすね。毎回面白いゲーム持ってきてくれるんで、やり応えがあるんだよな。今回も楽しみだ」

「ふふっ。なんか、普段は大人っぽい恭二が、急に子供っぽく見えちゃうわね。でも、そういう一面に、女性って案外弱かったりするものよ?」

「か、からかわないでください!ほら!みのりさん!ピエール!そろそろ行こう!」

「ふふ、恭二もそんなので照れない照れない」

「てれないてれな~い」

「じゃ、アタシたちもそろそろ動こうか」

「そうですね。ゲストさんをお待たせするわけにもいきませんから」

「にゃっはは~。どんな人が来るか楽しみでにゃんすね~」

 

 そんな風に楽しげに話す全員を見ながら準備をしていると、ガチャリと音を立て、入り口の扉が開いた。もしかしたら、誰かが見に来たのかと思い、そちらを向こうとした瞬間だった。

 

「おはようございまぁぁぁぁぁ!?」

 

 なんとも情けない悲鳴と、誰かが転んだような音が事務所の中に響いた。悲鳴とほぼ同時に振り向いたため、彼女は見てしまった。今しがた部屋に入ってきたであろう人物が、それは見事に入り口の扉の段差に引っかかり転ぶ瞬間を……。

 

「あ、あの!大丈夫、ですか?」

「いったた……あ、僕なら大丈夫です。驚かせちゃって申し訳ありません」

「も~、けんクンは朝っぱらから騒がしいでにゃんすな~」

「ボウヤにだけは言われたくないだろうねぇ」

「おはよう、賢君。賢君本人もそうだけど、持ち物とかも大丈夫かい?」

「はい!書類はカバンの中ですし、手に持ってたのはお昼ご飯に買ったおにぎりくらいですから」

「その……さっき転んだ時、ガッツリ下敷きになってたっすけど」

「へ?あ、ああああ!ぼ、僕のお昼ご飯が……」

 

 入って早々、謝ったり笑ったり悲しんだりと、なんとも忙しいこの青年。彼の名前は山村賢。昨日は出会っていなかったが、この315プロダクションの事務員をしている。緑色の髪に、額の上に付けている赤い眼鏡が特徴的だ。先述の通り、315プロのプロデューサーが、あえて昨日は会わないように時間を調整し、今日が初対面となった。が、これである。彼の愛されるべきポイントでもあり、弱点でもあるのが、このドジさだ。彼も彼なりに気をつけてはいるようだが、わざとやっているのかと疑われるほどに毎度の如く何かをしでかしている。これも文字通り、ほんの挨拶程度のドジだと言えるだろう。

 

「あ、もしかして、事務員の山村賢さんですか?」

「はい。申し遅れてすみません。そちらは346プロダクションのプロデューサーさんですね。昨日はお会いできずごめんなさい」

「いえ、そちらのプロデューサーさんからお話は伺っていますので大丈夫です。改めましてですが、これから一週間、よろしくお願いしますね」

「はい!よろしくお願いします!」

「さて、賢君との挨拶も終わったことだし、そろそろ行こう。これで遅刻してたんじゃ、それこそ賢君に笑われちゃうよ」

「だね。それじゃ、お留守番はよろしくね、賢ちゃん」

「行ってらっしゃい!気をつけてくださいね~」

 

 そんな賢の純粋な言葉と笑顔に見送られながら、彼らは事務所の外に出た。Beitの3人は近くのタクシーを捕まえて、残りの4人は、ロケのスタッフがすでに待機してくれていたので、それに乗り込んですぐに出発となった。向こうにはしっかり者のみのりさんもいるし、何よりこの企画の関係上、信頼できる人がいるのだ。そう考え、彼女は何も心配していなかった。そんな彼女の期待を、みのりは見事に受け流すことになるのだが、この時の彼女にはその考えは浮かばなかったようだ。

 

「いやはや、月に二回の番組とはいえ、こんな風に看板番組を持たせてもらえるなんて、嬉しい限りだねぇ」

「毎度猫柳さんがどこかにいなくならないかを見張らないといけないのが大変なこと以外、とても楽しい番組ですからね」

「そんな人を猫みたいに言うなんて酷いでにゃんすよ~」

「人の言葉を喋って、身体も声も数倍大きい分、猫より性質が悪いです」

「いや~それほどでもないでにゃんす」

「褒めてない褒めてない」

「それで、今回の目的地でもあるロケ地は浅草だっけ?前にも一回行ったことあったと思うけど、大丈夫なのかい?」

「そこを上手くやるのがワガハイ達の仕事でにゃんすよちょうちょさん。それに、げすとさんも来てくれるでにゃんす。3人寄れば文殊の知恵なら、そこから増えれば文殊さんにだって勝てるでにゃんすよ」

「流石キリオ君。期待してるわね」

「任されたでにゃんす!」

「心配です……」

 

 そんな会話を車の中ですること数十分、少し開けた場所に、何台もの車が停まっており、そこにこの車も停まった。どうやら目的地へと到着したようだ。車から降りて、ん~~と長く伸びをするキリオを尻目に、彼女はキョロキョロと辺りを見回す。まるで、誰か知っている人を探すかのような素振りだ。

 

「どうかしたかい?プロデューサーちゃん?」

「いえ、今回のゲストさんがもう来られてるなら、ご挨拶をしようと思ったんですが、まだみたいですね」

「そうですね。まぁ時間にも余裕はありますし、焦ることも無いかと」

「挨拶は大事でにゃんすね!何よりも第一印象っていうのは大事なものでにゃんす!だからここは出会い頭にワガハイが一席を……」

「やめてくださいね?芸人集団かと思われちゃいますからね?」

「そうだよボウヤ、やるなら歌舞伎の大見得を……」

「違いますから。華村さんも悪ノリしないでくださいよ」

「ふふっ、この調子なら、どんな方が来てもすぐ仲良くなれそうですね」

「どんな人でもどんとこいでにゃんすよ!」

「3番駐車場、ゲストさん入りまーす!」

「「「はーーい!」」」

「っと、話してる間に来たみたいだねぇ。それじゃ、挨拶に行きましょうかね」

 

 スタッフさんの声や動きを見ていると、どうやらちょうど今入ってきた車がゲストの乗っている車のようだ。車が停まったのを確認し、彩の3人と彼女は車の元へと向かう。が、肝心のゲストが中々出てこない。彩の3人は不思議に思っていたが、彼女だけは、3人には見えないように、なるほどっと言いたげな顔をしていた。

 

「ん~?何かあったでにゃんすかねぇ?」

「でも、それにしてはスタッフさんも落ち着いているような……」

「遠くから来てくれたゲストさんで、移動中に寝てた。とかかもしれないねぇ」

「ぷろでゅーさークンはどう思うでにゃんすか?」

「んん?そうねぇ……第一印象って、大事なんじゃないかと思うの」

「それはワガハイがさっき言ってたでにゃんすよ~」

「プロデューサーさん?」

「ん?スタッフさんが扉を開けるのかい?」

 

 4人が扉の前で話してる最中、運転席から降りたスタッフが、後部座席の扉の前に立った。そして、それを勢いよくガラッっと開けると、どこからともなく『ババーン!』とでも聞こえてきそうな……いや、実際に何かしらでその音を鳴らしながら、車の中という狭い環境で、見事にポーズを決めた、金髪二人、銀髪一人、合計3人の女性の姿がそこにあった……。

 


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