一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

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一日の終わりに~ずっと見てたい笑顔のために~

 

 明かりの点いた小ざっぱりした部屋の中に、カタカタとキーボードを打つ音が響く。机の前に座る彼は、どうやら今日一日の簡易的なまとめを作成し、彼女に報告するようだ。忘れてはいけないのが、これはあくまで企画として行っているものであり、本来はそれぞれの相手の管理する部分だ。重要なことから些細なことまで、報告するのは大事な業務ということだ。と、ここでひと段落したのか、マウスを操作し、送信ボタンをクリックした。ふぅ……と一息つき、今伝えたばかりの今日あった出来事を思い返す。今までの自分のプロデュースと大きく勝手が違う女性、女の子へのプロデュースということもあり、まだ一日目なのがずいぶんと疲れているように見える。

 

「いやはや、うちのやつらも元気だけど、こっちは元気の質が違うなぁ。完全に振り回されたって感じだ」

 

 と、独り言まで出る始末だ。だが、これに関しては彼の癖でもあり、一人で何か考えたり、物思いに耽ったりする際には、それが口に出たりすることがあるらしい。彼も勿論自覚しているが、どうせ誰も聞いてないんだし、大丈夫だろうと放っておいているそうだ。と、そんな風に考えていると、

 

『You got a mail』

 

 とても機械的だが流暢な英語でのメール着信を知らせる音声が鳴る。どうやら向こうも同じタイミングでまとめ資料を作成しており、ほぼ入れ違いくらいになったようだ。彼としても早く自分の育てたアイドル達が、自分のいないところで変なことをしていないか確認したかったので、ほっとしたような心配なような、複雑な表情だ。そして何が書かれているのかと不安になりながらも、そのメールを開いた……。

 

 時間を少し戻し、所も変わってここは女性側の部屋。同じく散らかった様子もない綺麗な部屋で、彼女もまた机の上のパソコンに向かいキーボードを鳴らしている。と、ここで『ピロンッ』と、小さな音がパソコンから鳴る。どうやら向こうからの報告の方が先に来たらしい。内容が気になるところだが、今は自分のこの報告を早く相手に送ることを優先することに決めたのか、そのままキーボードを叩き続ける。

 

「『以上が今日一日の報告になります』……と。さて、打ち間違いは……」

 

 打ち終わったのかキーボードを打つ手を止め、今まで打っていた文字を確認するために画面とにらめっこをしている。目を左から右、また左に戻って右に流すという動作を数回繰り返し、よし、と小さく言うと、そのまま送信ボタンを押した。う~んと大きく伸びをして、一息つき、スマホの画面を見る。時計は22:30を差しており、普段ならば明日の準備を済ませて寝る体勢に入る時間だが、今日はそういうわけにも行かない。まずは先ほど来た報告を確認し、次にライブの組み合わせもしっかりと決めなければいけないのだ。明日が少し心配ではあるが、これも大事なアイドルのためと、気持ちを切り替えてメールを開く。

 

『業務報告:一日目。内容が多いため、箇条書きにて失礼します。

 

・緒方智絵里さんとの最初の会話で、少し驚かせてしまいました。その後はなんとか話せるようになりましたが、距離感がとても難しく、今後はいっそう注意を払いたいと思います。

 

・注意不足により、市ノ瀬志希さんに、何かしらの薬を服用させられました。本人曰く、数日後に効力が表れるそうですが、状況次第では大変なことになり兼ねませんので、事前に報告を。

 

・小学生以下の子達はとても懐いてくれています。むしろおもちゃにされているという状況でしょうか。就業時も家まで送り届けましたので心配はありません。

 

・神埼蘭子さん、二宮飛鳥さんとは上手くコミュニケーションを取れたと思います。確かに少し難しい喋り方をされますが、意味をしっかり理解しようと聞けば大丈夫かと。

 

・白菊ほたるさんとは、最初に少しだけアクシデントは起きました。たいした問題では無かったのですが、彼女は想像通り、自分のせいだととても謝っておりました。ですが、うちの木村龍の話をして、少しは前向きになってくれたようです。

 

・向井拓海さん、木村夏樹さん両名と少しいざこざのような物が起きましたが、本人達によるただの冗談で、遊び半分だったそうなので一応報告のみとしておきます。彼女達とも、今は打ち解けています。

 

・今は鷺沢文香さんのお陰で控えめになりましたが、ナターリアさんからのスキンシップが男という立場上とても心臓に悪いです。もしよければ、そちらからも注意をしていただければ幸いです。

 

・南条光さんは、どうやらうちのアイドルの数人にとても興味を持っているようで、特に天道輝と話したがっています。今度時間を取って話をさせてあげたいと思うのですが、いかがでしょうか?

 

・槙原志保さんと、今度新しく出来たカフェに行くことになったのですが、1対1では問題なので、他にも数名来てもらい、こちらからもスイーツが好きな者を出そうと思うのですがどうでしょうか?よろしければ、情報交換も兼ねて、プロデューサー様にも来ていただければと。

 

・棟方愛海さんに関してですが、事後承諾で申し訳ありませんが、彼女のやる気を出すために、あなたのことを少し話題として使わせていただきました。この企画が終わりましたら、彼女を存分に褒めてあげてください。

 

・事前にお話していた通り、こちらの兜大吾のことを、そちらの村上巴さんに話させていただきました。当初はとても驚かれておりましたが、今はとても興味を持っているらしく、タイミングがあれば会って見たいとのことです。こちらの大吾の方はどうでしたでしょうか?

 

・予想していた通り、キャシー・グラハムさん、宮本フレデリカさんとの顔合わせでは、向こうから悪戯を仕掛けて来ました。それをきっかけに彼女達とも仲良くなれましたので、今後も問題は無いかと思われます。

 

・高垣楓さん、三船美優さん、川島瑞樹さんの年長者3名とも、問題なく打ち解けることが出来たかと思います。少し心配事はありますが、とても限定的な状況なのでこれに関しては大丈夫かと思われます。

 

・特記はしませんが他のアイドルの皆さんとも、友好的な関係を持てたかと思います。今後も各アイドルの皆さんに特記すべきことがあれば報告します。

 

・ライブに関してですが、最初こそは全員驚き、心配などの声も大きかったものの、事情・内容の説明などを行うと、ほぼ全員が前向きな考えとなり、組み合わせの決定に向けても、意欲的に意見を出してくれています。別途添付するファイルに、現段階での全員の組み合わせの希望をまとめましたので、確認のほう、よろしくお願いします。

 

こちらからの報告は以上となります。何か不明な点や、確認したい事項等ありましたら、連絡をいただければすぐにお答えします。また、組み合わせ希望に関しては、お互いのアイドルの要望を出来る限り通した上で、可能な限り違和感や無理の無い組み合わせに出来ればと考えておりますので、確認が完了しましたら、さらに密に決めていければと思います。お時間をおかけすることになるかもしれませんが、よろしくお願いします。

 

315プロダクションプロデューサー』

 

『 報告が遅くなりまして申し訳ありません。今日一日の業務報告をさせていただきます。

 まず最初にお会いしたのはTHE 虎牙道の皆さんでした。なんでも朝のトレーニングをされていたそうです。そこで今日一番大きなトラブルが起きたのですが、牙崎漣さんが、私からのプロデュースを拒否されました。ですが、それに関してしっかりと理由を聞き、対策を講じ、なんとか説得することは出来ましたので、ご安心ください。

 他の皆さんも、やはりいきなりの女性と近しく接するというのに戸惑いがあるのか、とてもぎこちない様子でしたが、話す内に皆さん少しずつ慣れてきていただけていると思います。特に、水島咲ちゃんに関しては、最初からとても親しく接していただけて、その場の雰囲気をとても良くしていただけました。とても感謝しています。

 ですが、いくつか気がかりな事がありました。まずは一つ目は、F-LAGSの秋月涼さんに関してです。顔合わせの後、どこかから電話があったようなのですが、その電話以降、どうにも表情が優れませんでした。同じユニットのお二人が聞いても「これは自分、そして相手のことだから」と、内容を話していただくことは出来ませんでした。これに関してもう一つ気になる点が、ライブの映像確認中に、ある楽曲にとても興味を持たれており、その楽曲を是非歌いたいとの希望がありました。添付する資料に、他の皆さんとまとめてありますので、確認をお願いします。

 次に、神速一魂の紅井朱雀さんに関して。こちらは涼さんのように深刻ではないのですが、女性が苦手とのことですので、距離感がとても難しくなるかと思われます。最大限注意を払い、悪化させるようなことだけは無いよう気をつけますが、本当に万が一のことがあった場合はなんとお詫びすればいいのか分かりませんので、あらかじめ謝罪の言葉を送らせていただきます。

 最後にアスランさんの言葉についてなんですが、やっぱりうちの蘭子や飛鳥と違って、全部を把握するのは少々時間が掛かりそうです。ただ、彼は彼なりに、私達に言葉を精一杯伝えようとしてくれていますので、時間は掛かるかもしれませんが、しっかりと向き合っていきたいと思います。

 最初に報告しました牙崎漣さんとのやり取り以外では、アイドルの皆さんとのトラブルなどはありませんでしたので、ここからも短い期間ではありますが、良好な関係を築けるのではと考えております。

 ライブに関しては、ほとんどの人が初の女性とのライブでの共演ということもあり、緊張や驚きが大きいようですが、拒否の方向の意見はほとんど出ていませんでしたので、皆さん前向きに取り組んでいただけています。ほとんど、という所に関しても、すでに納得していただけましたので、添付する資料で少し補足だけさせていただきます。

 組み合わせや楽曲の指定に関しては、先ほど言いました添付する資料にまとめてありますので、確認をよろしくお願いします。本人達の意見を最大限考慮したものと、個人的に相性がいいだろうと思う組み合わせも考えてみましたので、良ければそちらもご一考していただければと。

 今回の報告は以上となります。今回の企画、最初はどうなることかと思いましたが、皆さんと直接触れ合ってみて、いつも通り、アイドルの皆を輝かせたい。この子達と一緒に成長したいと思えました。短い期間かもしれませんが、任せてください。きっと今より、成長した彼らの姿を見せてみせますので。

 346プロダクションプロデューサー』

 

「ったく!漣のやつ、あんだけ言うことはちゃんと聞けって言っといたのに、結局困らせやがったな!!でも、あの漣を丸め込むとは、あの人もやっぱり凄い人だ。それに、報告内容もきっちり文章化して送ってくれてるしな。箇条書きだなんてやっぱり子供っぽ過ぎたか?」

 

「志希ったら!あれだけそういうのしちゃダメって言ったのに!!でもほんと、うちの子のことちゃんと見てくれてるのね……。あの社長さんの会社だけあって、あの人も案外熱血なタイプだったりするのかしら?それに、報告も箇条書きで、一つひとつが凄く分かりやすいし。ダラダラと長い文章より、こっちの方が良かったかしら?」

 

 それぞれがそれぞれに、相手からの報告を読み、思った感想を口にしている。人はこれを無いものねだり。もしくは隣の竹は青いなどと言ったりするが、関係ない人からすれば、どちらも十分に凄いのだというのは明白だろう。そこからお互いに添付されたファイルに目を通し、お互いのアイドルの、誰と組みたいかという意見を確認していく。確認作業だけを終えた段階で、時計の短針は11時の目前だったが、彼らの作業はここからが本番だ。男性側の直通連絡用のスマホに着信の音声が響き、受け取ると電話口から数日前に聞いた女性の声が聞こえてくる。お互いにお疲れ様ですの定型文を言い終えた後、すぐに本題へと入っていく。企画とはいえかなりの規模のライブになるのだ。失敗は許されない。ああでもない、こうでもないと、二人して意見を出し合う。それもひとえに、この二人がアイドルの皆が大好きだからだろう。一度決まった所でも、他に良さそうな所があれば一度考え直す。組み合わせが決まれば、曲を。そして曲が決まれば今度はその順番も決めなければならない。だけど二人の顔には嫌な空気は一つもない。それが、二人の一番大好きな仕事なのだから。

 

 その日、この二人がそれぞれのベッドに入った時、時計の短針は2時を越えていたそうだ。

 


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