一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~ 作:シンP@ナターリア担当
一言でそのステージを表すのなら?そう聞かれれば、大半の人が口を揃えて『和』だと答えるだろう。それほどまでに彼らのそのステージは分かりやすく、また、見た人の心を引き付ける何かを持っているようだ。衣装、モニターによる演出、そして歌い踊る姿そのものから、『和』を見事にアイドルという形で演出した見事な姿だった。同じく和を一つの特徴としている彼女たちから見ても、それは同じだったようだ。
「こらまた、えらい雅なお兄はんらが出て来やはりましたなぁ」
「あんなにはっちゃけてるのに、しっかり和風な感じに出来るのってもはや才能って感じだよね~。シューコちゃんには無いところだよ」
「着物の着こなしもさることながら~、節々にある所作からも、和を大切と思う心が見えます~。とてもよきことかと~」
「346プロが誇る和風アイドル達からそんな風に言ってもらえるなら、あいつらも喜ぶだろうさ。あいつらは『彩』ってユニットでな。ま、文字通りというか見たとおりというか、『和』をモチーフにしたユニットだ」
「私たちが言うのもおかしいかもですが、そちらのプロダクションの皆さんは、本当にいろんな方がいらっしゃるんですね」
「なになに~?ありすちゃんも男の人が気になっちゃうお年頃かな~?」
「そ、そんなんじゃありません!それから、橘です!!」
「フレデリカ、あんまりからかったりしないようにね。まぁ、ここはそういうメンツが集まってるところだから、特に和をイメージした紗枝、周子、芳乃の3人は組みやすいんじゃないか?」
その言葉に3人は思案する。その間も映像は進んでおり、今はちょうど曲が終盤に差しかかる手前、といったところだろうか。3人以外の皆は画面に集中しており、それぞれに楽しんでいるようだ。と、ここで3人からそれぞれ声が上がる。
「うちはせやな~……あの金髪の一番雅なお兄はんと一緒に歌うてみたいどすな~。あの人、朝方言うたはった歌舞伎の女形のお兄はんですやろ?」
「お、よく気付いたな。って、そりゃああんなメイクしてあんな大見得切ってたら気付くよな。あいつはその言ってた元歌舞伎役者だ。うちの中でも年長側だな」
「お化粧もお上手やろうし、うちの曲にもうまいこと合わしてくれはるやろなぁ思うんやけど、どないやろか?」
「あぁ、あいつなら問題ないだろうな。女性の曲も問題なく出来るだろう」
「わたくしは~、もう一人の背の高い方の所作が気になりまして~。あの動きや言葉には、和の心が備わっております~」
「こっちも流石だな。こっちは出身が茶道の名家でな。小さい頃からそういうのをしっかりとやってきたらしい。染み付いた癖みたいなもんなんだそうだ」
「なるほど~。あの所作はやはり幼き頃からの賜物でしたか~。とても素晴らしいことでして~」
「でさ~、シューコちゃんはどうなの?残ってるのはあのすっごい髪したちっちゃい子だけみたいだけど」
「うーん。今の見てた感じ、あの子って落語かなんかやってた?」
「その通り。元落語家で、志望動機は、アイドルの小噺を思いついたから、自分で体感してみたいから。っていう、ちょっと変わったやつだな。誰にでもフレンドリーだし、面白いやつではあるんだけどな」
「いやー、シューコちゃんも和風アイドルではあるんだけどさ、今言ってたみたいな伝統ある和の系譜って感じではないんだよね~。うちの場合、和って言っても和菓子だし、多分だけど合わないんじゃないかな~」
「あーらら。見えないところで振られてしまったねぇ少年クン。でも、見てた感じすっごい面白そうだし、さっき歌ってたソロ曲も楽しそうだし。アタシはちょっと気になるな~」
「それならフレちゃんも気になる~。紗枝ちゃんのやってるこんちきちんみたいなの、一回やってみたかったんだ~」
「ははっ。確かにあの曲を、あえて日本人以外が歌うっていうのも面白いかもしれないな。よし、候補として入れておこう」
「「ヤッター!!」」
なんとも面白い方向に動いたな……。などと彼が考えている間にも、時間はどんどん過ぎていく。皆が思い思いに意見を出し合い、あーでもない、こーでもないと考える姿は、いつかの自分を見ているかのようだと。そんな彼の考えをよそに、気付けば最後の曲が終わりを迎えようとしていた。外はもうすぐ日が暮れるかという頃合。このまま全員の意見をまとめて、今日は解散となるだろう。そして、数分の後、歓声と拍手に包まれながら、その舞台は幕を閉じた。ブルーレイも動作を停止し、最初の画面に戻っている。
「さて、ここまで全部を見てもらったわけなんだが、単刀直入に聞きたい。この中で、まだしっかりと『この人と組みたい』とか『ちょっと組んでみたい』っていう意見が無い人は、手を挙げて欲しい」
彼のこの言葉に各々は少し思案し、半数とまではいかないが、20人ほどは手を挙げただろうか。やはり慣れない男性との合同ライブというのもあり、大きく出られないというのもあるのだろう。だが、これに関しては彼も予想はしており、よし分かった。と一言話し、手を下ろさせる。
「これだけの人数がいて、たったこれだけの資料でここまでの人数が組んでみたいと思う相手がいてくれたんだ。それだけで十分すぎるくらいだよ。それじゃあ、時間も遅いから、一人ずつ聞いてると暗くなっちゃうな。この紙に、自分の名前と、組みたいと思う相手を書いて私に渡して欲しい。いない子は、どういう子と組んでみたいか、とかでもいいし、何も書かなくてもいいからね。名前が分からないなら、特徴だけ書いてくれても、まぁ大体分かると思うから」
そう言いながら配られた紙に各々が名前を書いていく。決まっているものはすんなりと、それ以外の子も、いろいろと悩みながらも何かしらは書いたようだ。少しはしゃいでいたのもあってか、小さい子たちは少し眠そうにしているが、ここで声をかけても「眠くない!」と帰ってくるのは目に見えていたので、彼は少し微笑ましく見ていた。そして数分後、書かれた紙の回収が完了し、今日のメインの仕事は終わりを迎える。
「よし。皆、今日はお疲れ様。皆の協力のおかげで、スムーズにレッスンに移行していけそうだ。明日からは普通のお仕事と平行して、オフで時間のある子には、積極的に練習をしていってもらおうと思ってる。もちろん、もし時間が合えば、こっちの連中とも合同で練習できるように調整もしてみるつもりだ」
「お、男の人と一緒に……ですか?」
「あぁ。最終的には同じステージに立ってもらうんだ。いきなり本番で緊張するよりも、少しずつ慣らしておいた方がいいかと思ってね。勿論、ちょうどその時に気が乗らなければ、別の日に改めたりはするから安心していいよ」
「は、はい……」
「さて、こんな大掛かりな企画になって、慣れないこともここからたくさん起こると思う。だけど、最初に言ったとおり、君たちならそれを乗り越え、さらに成長できると信じてる。この一週間だけでいい。俺を信じて着いてきて欲しい!」
そう言って、彼女たち一人ひとりの目を見る男性。彼女たちもそれを真剣に見つめ返し、少し周りを見回して、全員が少し笑みを浮かべる。彼女たちの答えは、もう決まっていたようだ。
「「「「はい!よろしくお願いします!プロデューサー(さん)(君)!」」」」
彼女たちの答えと笑顔を見て、自分のこの企画への参加は、間違っていなかったのだと再確認する。これもひとえに、彼の仕事に対する熱意や、一人ひとりに真剣に向き合う姿勢から来るものなのだが、彼がそれを自覚することは当分無いだろう。
数分経ち、今は元の事務所内。時間も遅いので、荷物を持って急いで帰る仕度をしている。ほとんどの者はすでに出ており、残っているのは自宅から通っている年少組と、他数人だ。彼の今日の事務所での最後の仕事は、彼女たちを送り届けることらしい。
「さぁ、薫ちゃんに千枝ちゃん、みりあちゃんに雪美ちゃん、準備は出来たかな?」
「「「「はーーい!!!(はい……)」」」」
「橘さんは346プロの用意してる女子寮に住んでるんだっけ。本当に送らなくて大丈夫?」
「子供扱いしないでください。それに、文香さんもいるから大丈夫です」
「はい。ここから距離もありませんし、私がしっかりと送り届けますので、ご心配には及びませんので」
「分かった。そこまで言うなら大丈夫だね。でも、文香も女の子なんだ。本当に気をつけてね」
「は、はい……ありがとう、ございます」
「あれ~?ふみふみったら、顔赤くなってな~い?」
「も、もう!唯ちゃん!」
「あっはは!ごめんごめ~ん。そんじゃ、おっさき~!プロデューサーちゃん。まったね~」
「気をつけるんだぞー!さて、それじゃあ私たちも行こうか。私は先に車の貸し出し許可をもらって来るから、文香はこの子たちと一緒にゆっくり来てくれ。あ、それから、事務所の施錠も頼む」
「はい、分かりました」
文香に鍵を渡し、一足先に下に降り、ちひろに社用車の貸し出し許可をもらう。理由を説明するとすんなりと貸し出してくれるあたり、案外ここの規約なんかはゆるいんじゃないかと彼は考える。勿論そんなことは無いのだが。そうこうしてる内にちょうど手続きが終わる頃、文香たちが降りてきたようだ。文香から鍵を受け取り、ちひろにその鍵と入れ替わりで社用車の鍵とナンバーの書かれたカードを借りる。
「鍵とカードの返却は、社用車の駐車スペースの近くに用務員の方がいらっしゃいますので、そちらにお願いしますね」
「分かりました。それじゃ、返し終わったらそのまま帰りますので、お先に失礼します。お疲れ様です」
「はい。お疲れ様でした。明日もよろしくお願いしますね」
事務的なやり取りを終え、事務所の入り口に皆を待たせ、すぐに社用車を取りに行く。途中、明かりの点いた小さな建物があったので、それが先ほど言っていた用務員用のスペースだろう。確認も済ませ、すぐに彼女たちの元に戻る。車を近くに止めると、薫、みりあの二人はわーいなどと言いながら後ろに乗り、雪美も控えめに後ろの車に、一番遠く、最後に降りる千枝は助手席に乗るようだ。彼は一度車から降り、文香とありすに向かい合う。
「改めて、今日一日お疲れ様。橘さんも文香も、慣れない状況なのによく頑張ってくれたね」
「と、当然です。私はプロのアイドルなんです。このくらいなんてことありません」
「ふふっ。私は、少し驚きました。どんな方が来られるのか、とても不安もありました。ですが……」
「来たのはこんな優男だった。かな?」
「いーえ。そんな風に自分を過小評価しちゃう人には、教えてあげません」
「あらら。困ったな。それじゃ、最終日に答えを教えてくれないか?」
「はい。分かりました」
「もう!二人して私を放っておかないでください!さぁ文香さん!門限もあるんですから早く行きますよ!」
「ごめんなさいね、ありすちゃん。それじゃあ失礼します。また明日からも、よろしくお願いしますね」
「あぁ、こちらこそよろしくな。橘さんも、よろしくお願いします」
「ま、まぁ……貴方の事は少しは信頼しても良さそうですからね……」
どこか素直になれないありすを見ながら、微笑ましく笑う文香と男性。完全に打ち解けるのはもう少し先になりそうだが、そう遠くは無いんじゃないかと、文香は思っていた。そしてそのまま男性は車に乗り込み、最後にもう一度二人に挨拶をしてから車を出す。
「皆、待たせてごめんね。それじゃ、近い所から順番に回っていこうか。最初は誰かな?」
「えっとねー!薫のうちが一番近いよ!」
「よっし!それじゃあ案内お願いしてもいいかな?」
「はーい!」
車を使ったものの、彼女たちのご両親が、彼女らが歩きでも通えるようにと、近場に引越しをしていてくれたそうだ。車でならほんの数分で着いてしまう。だが、そのほんの数分でも、彼女たちからしてみれば、今までにない大きな出来事なのだろう。あんなことがあった。こんな仕事をした。そんないろんな話を頑張って彼に聞かせている。楽しそうにはしゃぐ彼女たちを見て、自分ももっと頑張らないとと気持ちを新たにする男性。そして、楽しい時間は終わるのが早いと言うべきか、気付けば最初の目的地、薫の家に到着していた。
「あ!せんせぇ!ここだよ!」
「お、了解。っと、よし、ここが薫ちゃんの家だね?」
「うん!せんせぇ!送ってくれてありがと!」
「どういたしまして。それじゃあ薫ちゃん。また明日ね」
「はーい!明日もお仕事!頑張りまーっ!」
そう言って薫は元気に家の中へと入っていく。そうして、次はみりあ、その次は雪美と、順番に家に送っていく、どこも車で数分圏内なので、すぐに着いてしまう。みりあなんかは、全然喋りたりないと文句を言っていた程だ。だが、彼からまた明日と言われると、すぐに笑顔で返すあたりが、やはり元気な子供のいい所だろう。そうして最後に、千枝の家の前まで着いた。
「はい、千枝ちゃんはここでよかったかな?」
「はい!ありがとうございます」
「まだ少し、大人の男は苦手かな?」
「い、いえ!そうじゃないんですけど……」
「何か言いにくいことかい?」
「あ、そ、その……えっと……」
「無理して言わなくても大丈夫だよ。まだまだ時間はあるんだからね」
「は、はい……あの。送ってくれて、ありがとうございました。また、明日、ですね」
「うん。また明日。ゆっくり休むんだよ」
その言葉にしっかり頷いたのを確認し、彼は車を出す。それを見送る千枝は、大きく息を吐いて考える。なんで『自分も膝の上に乗ってみたい』という一言を言うのが、こんなにも難しいんだろう。と……。冬でもないのに、彼女の顔は少し赤らんでいたのは、本人すらも気付かないことだった。
そんなことを知らない彼はそのまますぐに会社に戻り、言われたとおり用務員に鍵とカードを返却する。ご苦労様ですと一言交わし、そのまま会社を後にする。長かった一日がようやく終わりを迎えるのだ。だが、これは本当に長い一週間の本当の始まりであり、これからもっと大変なのだということは、彼もとっくにわかっているだろう。そんなことを考えながら、明日からも頑張ろうと気合を入れなおし、帰路に着く。彼の一週間は、まだまだこれからだ。