一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

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惹かれあう音楽と音楽~別名:世紀末歌姫~

 

 蒼い……それがこの曲を見て、聞いた者大多数の感想だろう。それほどに、この曲は鋭く、何かを解き放つような曲だった。自然に乗れるリズムでありながら、有無を言わさぬような圧倒するほどの歌声。まるで相反するような物が、そこに混在するという矛盾。しかし、不思議とそれが心地よく、曲が終盤を迎える時には、見ている者のほとんどが、もうその世界に引き込まれていた。そんな中、曲が始まる前には少し眠そうにしていたその瞳を、今や大きく見開きそれを見ている者がいる。そして、その人物から声が上がり、彼をよく知る同じユニットのもう一人は驚かされることになる。

 

「プロデューサー。このお二人と、僕たちAltessimoを合わせた4人で、この曲を歌わせてもらえないだろうか」

「つ、都築さん!?」

「ごめんね、麗さん。でも、僕はどうしても、彼女たちと歌ってみたい。この『Nocturne』という曲と、彼女たちの歌声は、きっと今の僕では届かない所へと連れて行ってくれる。そんな気がするんだ」

「まぁ、今の段階だとまだ決定とはいかないので、第一希望って形になっちゃいますけど、良かったですか?それに、麗君まだ決定してませんし」

「いや、わたしは都築さんの意見に従おう。これは自分の意見を言ってないわけじゃなく、わたしだって都築さんと同じ意見なんだ。あの二人の歌声は、どこか引き込まれるものがある。それをもっと間近で聞き、それに自分たちの音を合わせてみたいんだ。」

「そっか。分かった。それなら出来るだけ組めるように意見を通してみるわ。都築さんも、それでいいですか?」

「はい。無理を言ってすいません」

「ふふっ。そのくらい大丈夫ですよ。でも、彼女たちの歌がこれだけだなんて思わないでくださいね?もうすぐこの曲は終わりますが、この後続けて左の人が歌います。彼女にはある呼ばれ方があるんです」

「呼ばれ方……?」

「それは、いったい……?」

「彼女の異名は『シンデレラの歌姫』」

 

 彼女のその言葉に続くかのように曲は終わり、そのまま一人を残し、会場の明かりのほとんどが消える。会場は静まり返り、スポットライトに照らされる彼女がモニターに大きく映される。そこに映る彼女は静かに目を瞑り、『その時』を待ちわびているようだった。その数秒後、ついに『その時』は訪れた。曲が流れ始め、それに合わせ、彼女の口は、その歌を紡いでいく。会場は、一面の緑で埋め尽くされていた……。

 

 その歌声は、先ほどとは違う……ただ、圧巻の一言だった。見ていたアイドル達も……あの漣ですら、声を上げることが出来ない。それほどまでに、彼女の歌声は全てを引き込んだ。ある者は、初めて聞くはずのこの曲に涙を流していた。会場も、割れんばかりの大きな拍手が巻き起こっている。映像はここでMCに入るようで、会場に一気に明かりが灯る。ここで、彼女は見ていた圭、麗の二人、そして他の皆にも声をかける。

 

「どうかしら?うちの歌姫様の実力は?」

「ここまでとは……まさに、歌姫……ですね」

「わたしも、歌にはいくばくかの自信はありましたが、これを聞くと、その自信も折れてしまうな」

「音楽に精通してる二人にそう言ってもらえるのは、私のことでは無いけど鼻が高いわ。他の皆はどう?」

「噂では聞いていたが、正直なところ、これほどとは思わなかったな」

「この人と一緒に歌う自信は……ちょっとまだ無いかな」

「けっ!ダンスありならオレ様の方が100倍スゲーからな!!」

「歌で負けてることは認めるんだな。お前にしては素直じゃないか」

「あぁ!?てめぇは歌でもオレ様以下だろうがよ!」

「お前さんたち、その辺にしとかないと、また怒られちまうぜ?にしても本当にいい声持ってる人だ。うちの古論もかなり上手いはずなんだが、やっぱりこれが男と女の違いってやつかねぇ」

「ぐすっ……すごいよね……アタシ、この人のことほとんど知らないのに、なんでか涙が止まんないんだもん」

「……文字や言葉もそうだけど、歌にだって……魂は宿る。……とても、心が震えた……」

「ふふ、皆ありがとう。はぁ……ほんと、歌とビジュアルの面に関しては本当に言うこと無いどころか完璧なんだけどなぁ……」

「何々?なんか問題でもあるの?」

「それに関してはいくつかあるんだけど、その内の一つは……うん。もうすぐだから見てくれた方が早いわね」

「「??」」

 

 皆が頭にクエスチョンマークを浮かべる中、画面の中ではアイドル達が集まりMCを続けている。だが、話を振られた件の女性は先ほどの歌の感想を求められ、少しだけ「そうですね~」などと時間を空けた後、こう言った。

 

「とても素敵な景色をありがとうございます。このライトの景色は、最後まで『消し切』らないようにお願いしますね」

 

 画面の中も含めて、2秒ほど周囲から声が消えた……。その後、画面の中は待ってましたかのような大歓声が起きたが、こちら側は今もまだ頭が追いついていないようだ。

 

「い、今のは……?」

「お、親父ギャグ……?」

「そ、これが彼女の悪い癖っていうかなんていうか……。そういうのが大好きなのよね、あの人。あんなに美人なのにもったいない……」

「なんか、急に彼女に親近感が湧いてきた」

「お前と一緒にするんじゃない。彼女はもっとまともだ」

「お前なぁ!!言い方ってもんがあるだろ!!」

「あはは……あ、そういえば、その内の一つって言ってましたけど、まだ何かあるんですか?」

「うん。というか、場合によってはこっちの方が問題だったりするのよね……」

「あぁ~、なんとな~く察しはついたかな~、おじさん」

「山下君もか。実は私も、この手の話で問題になりそうなことと言われて、ピンと来るものがある」

「えっ?先生たちわかんの?」

「アタシもその手の業界ってのは多少なりとも知識はあるからねぇ。大方の予想はつくってもんさね」

「にゃんと!!ちょうちょさんも分かるんでにゃんすか!?」

「さすが、大人組の皆さんは察しがいいですね。ま、隠すようなことでも無いから言っちゃうけど、要はあの人、お酒が大好きなのよね」

 

 大人の面々は、やっぱりと言いたげな表情だ。未成年組もその答えを聞いて、なるほどと頷いたりしている。だが、そういう一面も大人っぽさと考えるのだろう。何人かは逆に女性でお酒好きなんてカッコイイと目を輝かせている。

 

「さ、あの人の話はこのくらいにして、そろそろこのMCも終わるわ。こっから先も、じゃんじゃん意見出していってね!」

「「「はーい(でにゃんす!)」」」

 

 元気な返事とともに、ちょうど画面は暗転し、次の曲が始まるようだ。こちらもこの調子で行けば決まるのもそう遠くないだろう。

 

 そして時は流れ、こちらも今はお昼。前半分を見終わったので、ちょうどいいので休憩に入ったようだ。この利用しているジムは設備も整っており、個人で持ち込んだ食事を食べるのももちろん大丈夫だが、食堂も用意されているので休憩などもしやすい。何人かは外に食べに行ったようだが、大多数はここに残っている。今、彼女の周りには翔太、冬馬、想楽、翼、九郎の5人がいる。なんとも珍しい集まり方だが、これには少しわけがあった。

 

「いや~、ここのご飯ってほんとおいしいよね~!たるき亭にも負けないくらいなんじゃないかな?」

「あそこは定食屋なんだから、味よりも値段だろ。それに、あそこはあんまり行きたくねぇからな……」

「そこのお店、何か問題でもあるの?」

「あぁ~、違う違う。問題があるのは冬馬君の方。っていうか、そのお店のすぐ上の方って感じかな~」

「ばっ!!翔太!!余計なこと言うんじゃねぇ!!んなことよりも!今はもっと大事な話があるんじゃなかったのかよ!!」

「そうだよね~。もちろんそっちも気になるけど、決めることしっかり決めないと、大変なことになっちゃうからね~」

「そうですね。ここまで半分見てきましたが、私たちは、どうにも合いそうなところが見当たりません。もちろん、入ろうと思えば入れるかもしれませんが、それではこの企画としての良さを消してしまうのでは、と」

「そうね。翔太君の場合は、元気な子と組み合わせると映えるでしょうけど、今見てきた中だと、元気というより少し子供っぽ過ぎるのよね」

「そうだね~。流石に10歳とかの中に入るのは抵抗あるかな~。せめて13歳か14歳くらいだったら良いんだけどね~」

「冬馬は逆に、同じ世代にしては周りの元気が強すぎる感じね。大人っぽいとまで行き過ぎると、合わせるのもまた感じが変わってきちゃうかもだし」

「別に俺は大人っぽいって方向でもかまわねぇ。……って言いてぇけど、今回は大事な企画だ。焦らずにしっかり考えるぜ」

「ありがとう。そして他の3人も、やっぱり同じ世代に合わせようとすると、どうにもバランスが取りにくい、って感じね」

「俺の場合は、年齢よりも子供っぽ過ぎるってよく言われちゃうんですよね。主に輝さんと薫さんに」

「私の場合は、年齢の割りに落ち着き過ぎている、と」

「僕は掴みどころが無さ過ぎるってよく言われるね~。言ってるのが掴みどころしかない人だから参考にならないんだけどさ~」

 

 と、このようにこのメンバーはここまで見てきた中でも、どうにも合わせるのに難がありそうなメンバーだ。もちろん、彼らも言ったように合わせようと思えば合わせられる実力は持っているが、それでは彼らの本質……要は良さを潰してしまうのでは無いか、ということで、こうして集まって話し合いの場を設けたようだ。

 

「そうねぇ……まぁ、翔太君に関しては、合う相手がまだ出てきてないってだけで、間違いなく合う相手はいると思うわ」

「え、そうなの?」

「うん。年もさっき言ってたくらいだし、元気な感じの子だし。その子の歌う曲だって、多分翔太君にも似合うと思うわ」

「そっか!じゃあその子の番が来たら教えてね!」

「えぇ。それから冬馬だけど、この企画って、要はお互いに相手の方に何人かを派遣するって考えなわけだけど、逆に言えば、全員が行くわけにはいかないのよね」

「ってことは、俺は俺の歌ってる曲を、向こうの誰かに来てもらって歌う……ってことか?」

「うん。幸い、冬馬が歌ってる曲は、ユニット曲もソロ曲も、いろんな方向に幅が広いわ。きっとピッタリ合う子はいるはずだから、いろいろ考えてみましょう」

「そうか……あんたがそう言うなら、そっちの方が良さそうだな。それじゃあ俺は、自分と一緒に歌えそうな相手を見つけることに集中させてもらうぜ」

「お願いね。それで、残りの3人だけど、こっちもちょうどいい案があるのよ」

「いい案、ですか?」

「知っての通り、うちの事務所はあんまり決まったユニットってのを用意していないの。だから、いっそのこと3人を同じチームにして、こっち側からの何人かと合わせて歌うのはどうかなって」

「僕たち3人が同じチーム?なんだかずいぶんと個性的だよね~。悪い言い方をすると、大雑把っていうか」

「あぁっ!ごめん!!別に適当にしようってことじゃないからね?本当に、ちょうどいい曲があるのよ」

「大丈夫ですよ、プロデューサーさん。想楽君だって、本気で言ったりしてませんから。それで、ちょうどいい曲ってなんなんですか?」

「簡単に言えば、うちの中でも同系列の子集めたユニットじゃなくて、無作為に選ばれた子達で歌った曲があるの。本当に個性的な集まりになって、最初は大丈夫かなって心配になっちゃったけど、これが凄いいい曲に仕上がったのよ」

「すっごい!!うちのメンバーでそんなんやったら、絶対上手くいかないよね!!」

「自慢げに言うことじゃないと思うんだけどね~」

「あはは……まぁ、そんな曲があるから、きっとあなたたち3人が入っても良いものに仕上がると思うの!確かその曲も後半部分に入ってるはずだから、一回聞いて見てくれないかしら?」

「そうですね。まずは聞いてみないことには、話も進められないでしょう」

「ですね。あ、すいませ~ん。こっちおかわりお願いしま~す」

「相変わらずよく食べるよね、翼君」

 

 指摘されながら頭を掻く翼を見て笑みを浮かべながらも、彼女は頭の中で思案を続ける。こちら側である程度まとめたとしても、向こうで出た意見だって考えなければならないのだ。意見を多く用意しておくことに越したことはないだろうと、さらに頭の中で組み合わせの案を考えていく。が、そこで隣に座っていた想楽から肩を軽く叩かれ、そちらを向くと、想楽はテーブルの上を指差している。今度はそちらに顔を向けると、もうすぐ冷めてしまいそうな料理がまだ半分は残っていた。「やっちゃった……」とでも言いたげな顔をしながら、急いで料理を口に運ぶ。そんな彼女を見た皆も、彼女が自分たちのために頑張ってくれているのだということを理解しているのだろう。どことなく顔を綻ばせながら、残っている料理を口にし始める。食べ終わったのは、そこから数分後の話だ。

 

 そして休憩が終わり、今はまた同じ部屋に全員が集合している。すでに映像は再開されており、今は曲の真っ最中のようだ。先ほどまでもそうだったが、休憩を挟んだことで皆が集中力を取り戻したのか、しっかりと見ているようだ。流れている曲が終わり、歌っていた子がステージ場から降りていく。そして次の曲がイントロが流れ始めたのだが、ここで見ていた中から声が上がる。

 

「えっ!?この曲ってもしかして!!輿水幸子ちゃんの曲!?」

「そうだけど……幸子のこと知ってるの?咲ちゃん」

「知ってるも何も!アタシが目標にしてるアイドルの一人なんだもん!」

「あ、そういえばこの前話してたっけ。そっか、それがこの子なんだね」

「なるほどね。かわいいを目指す咲ちゃんだからこそ、自分のことを堂々とカワイイって言ってる幸子のことが目標ってわけで」

「うん!あぁ~やっぱり幸子ちゃんかわいいな~」

 

 どうやら、咲の相方はこのまま決まりそうだ。そんな風に思いながら、彼女は画面の中で歌い、踊る彼女を見て……。

 

「大丈夫……かな……?」

 

 少し、不安になったようだ。

 


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