一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~ 作:シンP@ナターリア担当
モニターの中で、歌い、踊り、時にはウィンクなんかのファンサービスもしていくアイドル達。そんな姿を、こちらの男性アイドル達も揃って見ている。今はオープニングの全体曲を歌っているところだ。
「やっぱり男と女じゃあ全然違うよなぁ。なんかこう……華があるって感じか?うちには無い感じだよな」
「当たり前のことではあるが、確かにその通りだな。演出、ダンス、声質、どれをとってもうちとは違うものだ」
「皆キラキラしてて、かわいいですね~」
「ありがとう翼。うちの自慢の子たちだもの、かわいいに決まってるわ」
「うむ、教え子の成長を見届けるようなものだろう。気持ちはとてもよく分かる」
「キュートなエンジェルちゃんから素敵なレディまで、素敵な子ばかりだね」
「北斗、わかってるだろうけど相手の子を口説こうとしたりするなよ……?」
「冬馬君ってば心配性だな~。そのくらい北斗君なら分かってるって」
「お?オレたちくらいちっちゃいのもいるんだな!」
「元気いっぱいでかわいいね」
「大人しそうな子もいるんだ」
「あの子達はうちの中でも年少組ね。他の所属の子とも合わせてだけど、リトルマーチングバンドガールズっていうユニットもあるの」
「わふー!それ、たのしそう!」
「ピエールなら似合うかもね」
そんな話をしている内に、最初の一曲目は終わりを向かえる。色鮮やかなサイリウムに照らされながら、少女達はステージに集まり、挨拶をする。人数が多いため、一人ひとりの挨拶とはいかないので、簡易的な挨拶と、少しのMCを挟み、早速次の曲へと向かうようだ。そして、照明が落ち、人影が一人、また一人と舞台から降り、最後に一人の影が真ん中に残った。そして照明が一気に明るく照らし、綺麗な金髪をポニーテールにした少女が、バックダンサー達と共にパフォーマンスを始める。
「あ、この曲前にうちのラジオで流してなかったっけ?」
「あぁ!確かにあったっす!スッゲーテンション上がる曲だったっすね!」
「確か……大槻唯ちゃん……だっけ?」
「はい。夏来正解!唯はうちの中でも切り込み隊長ってイメージの子でね。皆を先導して一気に盛り上げてくれるの。この時だって、最初は少し緊張してたのかもだけど、ライブ前になったら『早く歌いたい!』って、うずうずしてたくらいだもの」
「すっごく元気でパワフルだし、イングリッシュの発音もパーフェクトだね!」
「これは会場が盛り上がるのも頷けるよな」
「そういえば、うちとは違ってあんまり固定化されたユニットってのが無いんだっけ?」
「はい。正確には、固定のユニットもあったりするんですが、それは基本的に他の所属とのユニットで、うちでは出来るだけいろんな子との可能性を広げるために、固定化はしないようにしてるんです」
「いい心がけじゃないか。うちの子達も一回同じようにしてみるかい?」
「おお!面白そうでにゃんすね!!まずは試しに、かのんクンとピエールクンの間にクロークンを入れてみるでにゃんす!」
「え!?くろうさんをかわいくしてもいいの!?」
「勿論でにゃんす!ありったけ可愛く……」
「しません。やりません。やらせません」
「ふふっ。ここの皆はうちと違って、ユニットだからこそ得られるものを大事にしてるみたいだから、今のままの方がいいんじゃないかしら?」
「そうかもしれないねぇ。ほらボーヤ。いつまでも騒いでないで、今は一緒にこの子達のライブを見ようじゃないのさ」
「おっと!そうだったでにゃんす!もう!クロークンが駄々こねるからでにゃんすよ?」
「はぁ……そうですね。私が悪かったです」
そんな風に盛り上がりながらもライブの鑑賞は続き、気付けば4曲目が終わろうかというところ。各々がいろいろな感想を言い合いながら、誰と組むのがいいだろうかと考えているようだ。中でも女性が苦手な朱雀は、どうすればいいんだと言った表情をしながら見ている。が、その不安は次の曲と共に吹き飛ばされることになる。曲が始まる前に舞台の中央に一人の女性が現れる。が、その姿は先ほどの全員共通の衣装にアレンジを加え、白の長い羽織に漢字の刺繍の入った服……いわゆる特攻服であった。
「おいオメーら!!もっと盛り上がる準備は出来てんだろうなぁ!?」
「「「いえええええええい!!!!」」」
「声が足りねぇぞ!!!本当に準備できてんのかぁ!??」
「「「「「いええええええええええええええい!!!!!」」」」」
「オッケー!!それじゃあ行くぜ!!夏樹!沙紀!」
「「了解!(っす!)」」
「「「純情Midnight伝説!」」」
このような前フリから曲がスタートし、会場の熱量は一気に跳ね上がる。煽られた客も、煽ったアイドルも、全力をぶつけあうかのようにステージを熱狂させる。そんな姿を見て、先ほどまで悩んでいた朱雀は一気に目を輝かせる。
「か、かっけぇじゃねぇか!向こうにもこんなアイドルがいたのかよ!」
「驚いたぜ……。番長さん、この人たちについて教えて欲しいんだが」
「えぇ、勿論。歌ってるのは、センターが向井拓海、右側が木村夏樹、左側が吉岡沙紀ね。元々この曲は、さっき言ったとおり別事務所との合同ユニットの曲なんだけど、そのユニットのリーダーが拓海でね。私たちの公演で歌うことになったの。あ、沙紀はユニットメンバーじゃないけど、似合うからって推薦されて歌ってるわ」
「向井拓海に、木村夏樹……。玄武!オレは決めたぜ!組むならこの人たちしかいねぇ!」
「そう言うだろうと思ったよ。番長さん、俺らはここから特に無ければ、できればこの人たちと組ませてもらいたい。大丈夫かい?」
「えぇ、向こうも多分、同じようになるでしょうからね。ちなみに、拓海も元暴走族って感じだから、上下関係しっかりしなきゃ、怖いわよ?拓海は今18だから、貴方たちより年上だからね?」
「「お、おっす!!」」
神速一魂の二人は、どうやらこの中の二人……拓海と夏樹と組むのを決めたようだ。実はほぼ同じくらいのタイミングで向こう側も神速一魂の二人に目を付けていたとかなんとか……。思いのほかすんなり決まったこともあってか、朱雀は食い入るようにしてその曲を見ている。だが、たまに女性の身体のラインがアップになるようなタイミングでは目を逸らしている辺り、まだまだ免疫力は足りないようだ。そして、興奮冷めやらぬ中曲は終わり、ここからは一度MCを挟むようだ。
「MCもライブの中では大事なんだから、しっかり見ておいてね。男性同士、女性同士と違って難しいでしょうけど、MC無しのライブなんて流石に体力持たないんだから」
「うん。MCだってライブの一部だからね。ファンの皆の休憩する時間だって必要だし、何よりこういう話をすることで、もっといろんなことを知れるからね!」
「あぁ、俺達ももっと上手くMCできるようにしないとな」
「MCといえば、こないだのツアーの時にやってた替え歌企画。あれ面白かったよね~」
「そうそう!皆その時の開催場所に合わせていろいろ考えてたもんな!」
「皆は良いよな。普通に歌詞があるところだったんだから。俺なんて感想部分を上手く繋げって言われたんだぞ?」
「でもカミヤ、すっごい上手に繋いでたよ!」
「うむ!流石は我等Cafe Paradeを統べる者!」
「あはは、ありがとう。やっぱりこういうのもいい思い出って感じかな」
「そうね。曲だけじゃなく、そういうのも含めてお客さんとコミュニケーションを取って、笑顔の思い出を作る。大事なことよね」
良い具合にまとまったところで画面を見ると、画面内でも会場に笑顔が溢れているようだ。それを微笑ましく見ながらも、やはりどこか浮かない顔をしている人物が一人。先ほどの電話以降、何やら気が気でないようだ。そんな涼を心配しながらも、自分達には何も出来ないことを知っており、声をかけることも出来ない同ユニットの二人。そんな中MCが終わり、舞台は暗転。次の曲が始まるようだ。
「お?この曲カッコイイな」
「なんか、独特な世界観って感じだな」
「おお!今の演出すげぇな!」
「こっちも中々だけど、やっぱり演出の手の込み具合が違うって感じだな」
各々が思ったように感想を言いながらも曲が進んで行く中、涼はただじっと、その曲を聞き、眺めていた。何か……何かありそうな気がする……そんな風な自分の中の直感を信じて……。そして、曲は終盤へと差し掛かり、ラスサビに入っていく。そしてその場面は唐突に訪れた。
「っ!!」
「おわっ!ど、どうしたんじゃ?涼?」
「……何か、あった?」
「プロデューサーさん!この人と、この曲を歌わせてください!」
「りょ、涼君?まぁ、今はまだ意見を出し合うタイミングだから、涼君の意見の一つとして……」
「違うんです!僕は……この曲を歌いたい……いえ、歌わなくちゃいけないんです!」
「歌わなくちゃいけない?それってどういう……」
「涼……。ボス!オレからもお願いじゃ!涼のわがままを、通してやってくれんか!」
「……俺からも、お願いします」
「大吾君に一希まで……。分かったわ。必ずとは約束できないかもしれないけど、出来るだけ意見を通せるようにしてみる」
「あ、ありがとうございます!」
「しっかし、突然どうしたんじゃ?涼らしくもない」
「……ラスサビに入ってから、だよね?」
「うん。これが、今僕が出来る精一杯だから」
そんな決意の言葉に、周りの人間はそれ以上何も言えなかった。その後は、突然すいませんでした。と謝りながら涼は座り直し、続きを見ていくこととなった。涼の言葉を皮切りに、この人と組みたいという言葉が積極的に出てきたようだ。かなり唐突なことではあったが、涼の発言はどうやらプラスの方向に働いたらしい。彼女もどこか嬉しそうにこの場を眺めながら、誰が誰と組みたいと言ったかをメモしていく。
また数曲が過ぎた後、舞台の上には二人の女性がいる。手には普通のマイクではなく、長さ40センチほどの足の付いていないスタンドマイクとでも言おうか、そんなものを持っている。女性二人はとても美しく、まさに清楚な美人という言葉を体現したような姿をしている。だが、この曲で何人かは、一気にイメージを変えることになるだろう。音楽が鳴り始め、テロップはその曲名を画面に映した
『Nocturne』