一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

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ずっと憧れていたもの~木星の輪でパレードを~

 

 モニターには今は46人全員が揃っており、オープニングの全体曲を歌っているようだ。流石に男性アイドルというべきか、女性からの黄色い声援がとても多い。だが、客席が映れば男性のファンもやはり少なからずはいるのが伺える。

 

「いやー……すごいっすねー。アタシらと違って動きがやっぱ派手っすね。それに女性のファンの数がすごいっす」

「またまたー。女性ファンの数じゃあうちの事務所でも上から数えた方が早い人が何をおっしゃるやら」

「そ、それとこれとは別っすよ!!」

「あ、みりあ達と同じくらいの子もいるんだー!」

「うさぎの……衣装……?」

「その子たちは『もふもふえん』っていうユニットでね。うちの最年少のユニットで、それぞれウサギ、羊、狼のイメージの衣装を着てるんだ」

「楽しそー!!ねぇねぇ!薫もあぁいうのやってみたい!!」

「私も……ペロみたいな……黒猫……」

 

 そんな風に思い思いのことを話すうちに、どうやら1曲目が終了したらしい。人数が多いためか、自己紹介は先ほどの曲の間にテロップで表示されていたようだ。そして軽いMCを挟み、そのまま次の曲へと映っていく。次は順番にユニット曲を歌っていくようだ。会場は今、黄緑色のサイリウムの光で染まっている。

 

「あっ!Jupiterじゃん!」

「お?よく知ってたな、友紀。そう、こいつらはJupiterって言って、うちの中では一番古い……というより、うちで一番最初に入って来たユニットだな。元は別の事務所で活動してたそうだが、わけ有りでうちに来たそうだ。ま、深くは詮索しないでやってくれ」

「人それぞれ事情はあるものさ。過去に縛られるなんて生き方をしない彼らの生き様は、素直に尊敬に値するね」

「ところで、友紀さんはなんれこの人たちのことを知ってたんれすか?」

「ん~?いや~。知り合いにすっごいJupiterの……特に、天ヶ瀬冬馬君のファンがいてさ~。それで少し、ね」

「あれ?友紀さんにそんなお友達がいたなんて初耳ですね。まぁ、そのお友達も、ボクを見れば必ずボクのファンになるでしょうけどね!」

「大丈夫。その子、もう幸子ちゃんのファンだからね」

「フフーン!当然ですね!!その人も、見る目はありますねぇ!」

 

 楽しげな会話をしているうちに曲も終盤に差し掛かっている。モニターに映るJupiterの3人もエンジンが掛かってきたのか、動きがより一層大きく、激しくなっていく。そんな姿を、とても熱心な目で、少し頬を赤らめながら見ている人物がいたのだが、それには誰も……いや、友紀一人を除いて気付かなかったようだ。

 

 時間は進み、今は5曲目あたりまで進んだだろうか。拍手と歓声とともに今舞台にいたユニットが暗転とともに姿を消し、次に照明が点いた時には、楽しげな音楽とともに、4人の男性と一人の女性……もとい、5人の男性の姿があり、会場は赤紫のサイリウムで染まった。

 

「この音楽、なんだか聞いてるだけですごく楽しくなってきますね!」

「歌ってる人達の衣装、なんだか喫茶店とかのウェイターさんみたい」

「お、流石志保だな。実際にそれをモチーフにして作られた衣装なんだ。こいつらはCafe Paradeっていうユニットで、さっき少しだけ話したけど、元カフェの経営をしてたユニットなんだ」

「なるほどね~。ところでさ、さっきからすっごく気になってて、多分皆も気になってると思うんだけど、一人女の子がいるように見えるのはシューコちゃんの気のせいかな~?って」

「あ!唯もそれ思った!あの子めちゃくちゃかわいいじゃん!」

「あれ?でもさっき、315プロダクションは男性だけって……」

「そうだな。女の子がいるように見えるのは気のせいだ。ここに映ってるのはれっきとした男だからな」

「マジで!?そこらの女の子より余裕でかわいいじゃん!」

「こいつは水嶋咲って言ってな。元からそういうのに興味があったんだが、踏み出すきっかけが無かったんだ。だけど、テレビでさっき言ってた涼のことを見て、自分もそんな風になりたいって、あんな風に女装をするようになったんだ。勿論、ファンの皆はそれを知った上で応援してくれてるから、安心してくれよ?」

「なりたい自分になるために、自分から一歩を踏み出すこと。それは、とても勇気のいることです……」

「あぁ。だからあいつは、人一倍頑張ってるし、人一倍の勇気を持ってると俺は思うよ。それに、あいつの目指してるものは『世界一かわいいアイドル』だからな」

「世界一かぁ。大きく出たねぇ」

「目指すならなんでも一番。良い心がけですね!ですが!ボクがアイドルでい続ける限り、一番はボクですからね!」

「はいはい、幸子はんはほんにかいらしな~」

「トーゼンです!なんてったってボクですからね!」

 

 皮肉がここまで通じないと、京の人間としては面白みに欠けるだろうか。とは言うものの、幸子をかわいいと思っているのは嘘ではないので、まぁええかと流してしまうのが紗枝のいつもの流れである。と、そんな流れを見ているうちに、気付けば曲も終盤に差し掛かる。

 

「っ!!今のサビに入るところのハモリ!!あれさっき言ってた水嶋さんですよね!?すごいです!!」

「男性でありながら、あのような高音での歌えるというのはすごいですわね。私も見習うようにしませんと」

「瞳を持つ者よ!先刻より映りしかの封じられし瞳を持つ者はもしや……!」

「そう。あの者こそサタンのしもべにして光の民を導きし闇の化身。名をアスラン=ベルゼビュートⅡ世。かの地にて至高の詠唱術を極めしもの」

「みりあちゃーん」

「えっとね、蘭子ちゃんは、プロデューサーさん!さっきから見ていたけど、あの片方の目を隠してる人ってもしかして?って言って、プロデューサーさんは、その通り、あれがさっき言ってたサタンのお友達でファンの中でも人気が高いアスラン=ベルゼビュートⅡ世さん。あのユニットの中でも、一番歌が上手いんだよ。だって」

「詠唱は歌のことだったんだね。てっきりゲームの呪文のことかと思ったのに」

「ゲーム脳的にはやっぱりそっちっすよね~」

「それにしても、5人のユニットでありながら、ここまで個性を出した上でその全部を壊さずに、より活かしあう。並大抵のことではないよね」

「あたしたちフリスクも頑張ってるけど、まだまだここまでではないもんね~」

「目指せ!カフェパレード大作戦だね!」

「じゃあ!まずは人数を合わせるために5人目のメンバーに私を是非……」

「仲良しグループの邪魔をしないように。気にせず続けてくれたまえ」

 

 またこの流れか……。などと何人かが呆れる中、あいの手の先でジタバタと暴れる愛海。だが、数秒で諦めたのか大人しくなった。そんなコントのようなやり取りの間に曲は終わったらしく、今はMCの時間のようだ。

 

「千枝、まだMC慣れてなくて……いっつも、何を言えばいいのか分からなくて、つい下がり気味になっちゃいます……」

「じゃあ今度のライブは、千枝ちゃんも一緒に前に出ようね!!薫からいーっぱい話しかけるからね!」

「えぇっ!?う、うん。ありがとう」

「みりあも一緒にやる~!!」

「MCといえば、こないだの飛鳥ちゃん!面白かったよね~」

「や、止めてくれないか……あれはあんまりいい思い出じゃないんだ……」

「私は楽しかったですよっ!」

「ほら~年下の子がこんな風に言ってるのに、いつまで拗ねてるのかにゃ~?」

「うるさい!苦手なものは苦手なんだ!!大体、ボクよりも適任の人ならいくらでもいただろうに、なんでボクが選ばれたんだ」

「ん?そりゃ~志希ちゃんがプロデューサーにお願いしたからだけど?」

「なっ!?この自由奔放娘!!なんで君はそうやっていつも……」

「はい、そろそろストップだ。今はケンカする時じゃなくて、皆で映像を見る時だろう?飛鳥、君は早く大人になりたいというなら、理不尽を余裕の笑みで流せるのも、大人にとっては必要なスキルだ。志希も、たまになら煽ったりするのはいいが、度が過ぎると嫌われるぞ?本当に相手のことを気に入ってるなら、ちゃんと相手のことも考えてあげないとな」

「っ!ボクとしたことが、つい熱くなってしまってたみたいだね。すまない皆」

「志希ちゃん的にはこんなんじゃ嫌われないってわかってるんだけどにゃ~。ま、飛鳥ちゃんが謝っちゃったんなら仕方ないよね~」

「へ~。上手くまとめるものね。私たちでも志希の扱いには苦戦させられるのに」

「まぁ、こっちにもまた違った意味で尖ったやつがいるからな。どっちがマシかってのはノーコメントって感じで」

 

 何それ~。などと笑いが生まれるが、その間も映像は途切れていない。MCでは上手く会場を盛り上げているらしく、歓声や笑い声が定期的に聞こえてくる。と、盛り上がったところでどうやら次の曲に入るらしい。そして舞台のライトが落ち、数秒の後、音楽と共に舞台の一番上にスポットライトが照らされ、一人の男が映し出される。その瞬間、客席からは歓声が上がると同時に、見ているアイドル達の中の一人からも大きな声が上がる。

 

「ああああああああ!!!」

「っ!!うっさいわね!!隣で急に叫ぶんじゃ……」

「天道さんだ!!皆!これがいつも言ってる天道さんだよ!!」

「ちょ!分かったから落ち着きなさいって!」

「あ、ご、ごめん!でもそっか。このライブで歌ってたんだっけ……あぁ~、やっぱカッコイイな~」

「まさかそこまでアイツのファンだったなんてな。少し驚いたよ」

「あぁ!天道さんはアタシのヒーローなんだ!アタシに、アイドルって道でもヒーローになれるって教えてくれた人なんだよ!」

「そうか……その言葉、ちゃんと伝えといてやるからな」

「でも、確かに中々様になっとるのぉ。男としてのあるべき姿って感じじゃな」

「大人の男性という感じですね……とても凛々しいです」

「これで中身がもっとちゃんとしてりゃあなぁ……」

「ちゃんとしてらっしゃらないんですか?」

「まぁ、簡単に言えば、こちらの楓さんからお酒好きってのを抜いて熱血を足したって感じですかね……」

「「えっ?」」

 

 彼の言葉に、美優、瑞樹の二人が同時に驚きの声を上げる。というのも、彼女たちからすれば楓とはとても身近な存在であり、その彼女からお酒好きを取った場合残るもの。それを考えた時、残ったものは一つしかなかったのだ……。

 

「あら?私と似てるということは、言葉遊びが好きな方なんですか?」

「あなたのはそんないいものじゃないでしょ?素直にダジャレって言いなさい」

「まぁ、その通りなんですけどね……そう、あいつテレビとかでもちょくちょくダジャレ言ったりしてて、滑った回数だってかなりのものですよ」

「そんな風な方には見えないのですが……」

「う~ん。アタシは別に面白いと思ってるわけじゃないけど、天道さんなりの個性の出し方なんじゃないかなって思うよ」

「今さらっとひでぇこと言ったよな」

「でもほんと、この曲の前向きな姿勢は見習いたいもんだな。アタシらみたいな尖ったやつでも、前向いて行けばなんとかなりそうな気がするぜ」

「そう思わせてくれるのが天道さんなんだ!!あの人は本当にカッコイイんだよ!!」

「あぁ。中々にロックな人みたいだな」

「そのうち皆ロックになっちゃいそうだね」

「アタシをだりーと一緒にするなよ?ちゃんとロックかそうじゃないかの区切りは付けてるさ」

「じゃあじゃあ!ナターリアはロックか?」

「そうだなぁ……熱いハートは持ってると思うが、まだロックにはなってねぇな。これから頑張れば、ロックになれるかもな」

「そっカ!ならナターリア、頑張ってロックになるゾ!」

「ライラさんもロックになるですよ~」

 

 褐色二人が謎の決意表明をしたところで、曲も終盤に入っている。そこからは皆もどうやら聞き入ったらしく、そのまま大歓声のままに終わりを迎えた。歌いきって一人、その舞台に立つその姿は、まさしくヒーローそのものといった感じだろうか。そして舞台は暗転し、彼は静かに舞台から姿を消していく。が、次の瞬間にはまた別の音楽が鳴り始め、また別の場所から現れた人が次の曲を歌い始める。この余韻と次の曲の重なりも、ライブの醍醐味の一つとも言える。彼女たちもまた、それを与える側になっているのだが、今は純粋に、目の前で行われるライブに目を奪われている。アイドルとは等しく人の目を引きつける力を持っているのかもしれない。

 そして4曲ほどが過ぎ、暗転から開けた時、立っていたのは頬に絆創膏をつけた一人の男性。この直前、彼は後ろで見ていた少女……ほたるを出来るだけ前に連れてきて一言、彼のライブをよく見ていてほしいと告げた。よく分からないながらも見ていたが、画面に映る男性の最初の一言で全て理解した。

 

「さぁ!悪い事は考えないぜ!行くぞ!!」

 


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