一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~ 作:シンP@ナターリア担当
「さーて。次に決めなきゃいけないことだけど、皆の呼び方を決めようかなって思うの」
「呼び方……ですか?」
「うん。ちゃんと決めておかないと、毎回ころころと呼び方が変わっちゃうと分かりにくいじゃない?」
「優先すべき事柄かどうかは分からないが、必要なことではあるだろうな」
「お前はなんでそういう棘のある言い方ばっかり……」
「お二人とも、ケンカは後で。それで、具体的にどうするんですか?」
「簡単よ。呼び方は大きく分けて6つ。苗字、名前の呼び捨てか、それぞれにさん、か君、を付けるって感じね。出来るだけ皆の意見は取り入れるつもりだけど、よっぽどの場合は変えますからね」
「ねーねー!あたしはちゃん付けがいいんだけど、だめ?」
「あ、それも今言おうとしてたの。咲ちゃんだけは特別。ね?」
「ホント!?やったー!!」
「良かったね。咲ちゃん」
「それじゃ、聞いていくわね。まず最初に、苗字の呼び捨てがいい人は手を挙げて?」
ある意味予想通りとでも言おうか、ここで手を挙げるものは誰もいなかった。
「ま、流石に女性から苗字呼び捨てってのもね。それじゃあ次、苗字にさん付けの人は?」
こちらは先ほどと違い手が挙がる。挙げたのは、道夫、次郎、類、輝、薫、圭、誠司、幸広、荘一郎の合計9名だった。
「先生方三人は、先生って呼んでもいいんですけど、やっぱりアイドルとしては、先生呼びよりもさん付けの方がいいですよね?」
「うむ。我々も同意見だ。公私混同を避ける意味でも、この呼び方が一番だろう。
「おじさんは咲ちゃんみたく『ジローちゃん』って呼んでくれても大丈夫だけど……ほら、よそ様の目、ってのがあるじゃない?」
「俺はプロデューサーちゃんよりもヤングだけど、他の二人がさん付けなんだし、同じのがいいんじゃない?」
「確かにそうね。他の6人も、さん付けで違和感無さそうだし、大丈夫そうね?」
「自分は女性と触れ合う機会もないですから、距離感というのがよくわからなくて……。このくらいがちょうどいいかなと」
「うちは名前のほうが長いさかい、こっちのが楽やろ思いますので」
「ふふっ、ありがとう。それじゃ次、苗字に君付けの人、いるかしら?」
こちらも苗字の呼び捨てと同じく誰もいない。
「ま、予想はしてたけどね。じゃあ次、名前の呼び捨ては?」
これにはかなりの人数が手を挙げる。漣、タケル、隼人、旬、夏来、春菜、四季、翼、アスラン、龍、朱雀、玄武、一希、ピエール、恭二、悠介、亨介、想楽、冬馬、北斗と、合計20人。ほぼ半数である。
「おい!呼び捨てってのは一人前の男として認められた証なんだよ!お前らみたいな半人前にもなってねぇのが呼ばれるもんじゃねぇ!!」
「お前、それまだ信じてたのか……」
「一人前の証って、どういうことっすか?」
「おいてめぇ!こりゃどういうことだ!!まさかさっきのあれは嘘で、オレ様の名前を呼び捨てで呼びやがったのか!?」
「うん。そうだけど、何か問題あったかしら?」
「大アリだ!!なんでてめぇなんかに呼び捨てにされなきゃなんねぇんだ!!今度からオレ様の事は漣様って呼びやがれ!」
「あら、本当にいいの?」
「あぁ?」
「本当にやってもいいけど、そうしたら貴方の評価は『付き添いの女性に自分を様付けで呼ばせる男』になっちゃうでしょうね。何人かの男はすごいって思うかもだけど、間違いなく女性の評価は最下層まで落ちるでしょうね」
「ちっ!わーったよ!!その代わり!絶対にオレ様のことを成長させやがれよ!?出来なかったらただじゃすまさねぇからな!」
「勿論!任せなさい!」
「すみません師匠……うちの漣がご迷惑を……」
「大丈夫。この辺も想定内だから。さて、他の呼び捨てメンバーだけど、翼君と相楽君が呼び捨てなのは意外ね?」
「俺は別に君付けでもいいんですけど、20超えて君付けだと、周りからの目もよくないかもですから」
「忘れたき、君で呼ばれし、在りし日を。流石にこの歳で君付けっていうのは恥ずかしさが勝つよねー。どうしてもだったら仕方ないけど」
「あぁ!違う違う!単純に語呂が良くて呼びやすいかなって思っただけなの。じゃ、これからは呼び捨てで呼ぶわね、想楽?」
「これはこれでくすぐったい気もするけど、君付けよりはやっぱりマシかなー」
「さて、後は2種類、名前にさん付けがいい人は?」
こちらは先ほどより少ないが手が挙がる。道流、英雄、翔真、九郎、みのり、雨彦、クリスの7名のようだ。
「ここの皆は妥当って感じかしらね?苗字にさんでも良かったかもしれないけど、名前のほうにしたのには理由があるのかしら?」
「自分は、今回の企画で少しでも女性に慣れるって目標を立てたッス!そのためにも、まずは身近な師匠に慣れるために、名前で呼んでもらうことにしたッスよ!」
「アタシはやっぱり距離感があるのが嫌だからだねぇ。せっかくのいい機会なんだ。少しでも仲良くさせてもらえるなら、それに越したことは無いって思ったのさ」
「俺も似たようなもんかね。ま、強いて違う点を言うなら、この苗字をずっと背負いっぱなしってのが好きじゃないから、ってとこかな」
「雨彦さんだけはちょっと特殊みたいだけど、他の皆も同じような感じみたいね。それじゃ、最後に君付けがいい人、手を挙げて?」
何人かがハーイ!と元気に声を上げながら手を挙げる。巻緒、麗、キリオ、涼、大吾、志狼、直央、かのん、翔太の合計9名だ。
「うん、元気でよろしい。そうね、この皆は最初に会って呼んでる時から君付けで呼んでたし、それで大丈夫そうね」
「本当は僕は呼び捨てかなって思ったんだけど、女の人に呼び捨てにされるのって、未だに慣れてないんですよね。姉ちゃんや、他の先輩の皆さんとかからは慣れたんですけど、あはは……」
「なんじゃ涼。そんなこと気にしとったんか。ちっさいことばっかり気にしとったらモテんぞ?」
「ロールは君付けでいいの?」
「うん。自分でも童顔だって事は分かってるし、呼び捨てよりも、君付けとかの方が呼びやすいって、よく友達に言われるから」
「確かに、呼び捨てよりは呼びやすいわね。こっちのことしっかり考えてくれるなんて、以外に紳士的じゃない」
「我らが魂の故郷の双璧たる一角であり、光の民らへの先駆けともなれば、これしきのこと宵闇がが光を包み込むより容易きことよ!」
「カフェパレードの一員で、それもウェイターなんだから、そのくらい朝飯前ですよ!って言ってくれてます。ありがとう、アスラン」
これで46人全員の呼び方が決まり、和やかな空気が流れる。そしてその空気のまま、彼女は次の話題へと話を変える。
「さて、じゃあ次だけど。というか、これが今日の一番のメインになるわけなんだけど……」
「お?ついにめいんえべんとでにゃんすね?さぁさぁ皆の衆!心して聞くでにゃんすよ!!」
「貴方が一番うるさいです。もう少しお静かに」
「大丈夫よ。このくらい盛り上がってくれてる方が、こっちとしても気が楽だから。で、その決めることなんだけど、今回のこの企画の最後。ちょうど1週間後の日曜日に、大型のライブをやることになってるの」
「おお!ライブか!!って、1週間後!?そりゃあちょっと早すぎないか!?」
「練習時間、足りるかな……」
「はいはいストップ。重要なのはここからよ。それで、今回のそのライブだけど、この企画だからこそ出来るスペシャルサプライズでお届けするわ」
「この企画だからこそ……って、もしかして!?」
「そう!うちの346プロと、君たちの315プロ。両プロダクションでの合同ライブになるの!」
「「「「おおおおおおお!!!!」」」」
「「「「ええええええええ!!????」」」」
歓声と驚きが一緒になったような声が上がる。まぁ普通に考えて、ただライブをするというだけでも普段からかなりの時間をかけて練習していたのに、それがたったの1週間しかなく、それも今までに無い女性アイドルとの合同ライブなのだ。様々な声が出るのも当然といえば当然である。
「そ、そんな大掛かりなライブ、間に合うんですか!?」
「っていうかうちの事務所と女性アイドルを合わせるって、どう考えても無謀すぎますって!」
「やっべ、どんなかわいい子がいるんだろ……すっごい楽しみ」
「ほ、本当にあの346プロの子達と一緒にライブが出来るのかい!?すごい!すごいよ!!」
「誰が来たって、オレがナンバーワンだけどな!!」
「しーずーかーに!!」
「「「「……」」」」
「はい、よろしい。いろいろ疑問とかあるだろうけど、一つずつ、ね。まずはライブまでの期間について。私も向こうでプロデューサーやってるんだから、この期間が短すぎるのは分かってるわ。だから今回は、パフォーマンス面を少し控えめにして、歌をメインにしようと思ってるの」
「なるほど!それなら歌詞と音程覚えたら、後はなんとかなるもんね!」
「次に、今回のライブの目玉とも言える試みなんだけど、今回のライブでは、全体曲以外の全部の曲を、男女混合で歌ってもらうことになるわ」
「それって、あっちの子達がこっちの曲を歌ったり、逆に僕たちが、あっちの子達の曲を歌ったりするってこと?」
「そういうことね。で、誰が誰とどの歌を歌うか、だけど、歌や人の相性もあるから、全部をその通りとはいかないけど、今からそれを皆で決めていこうってことよ」
「俺は……旬と一緒に歌えれば……それでいいんだけど……」
「まぁ、あんまりごちゃごちゃと混ぜすぎても難しいから、出来るだけユニットの形は崩しすぎないようにはするつもりだけど、まずはこっちにどんな子がいるのか、見てもらいましょうか」
「ん?見てもらうって……」
「なるほど、さっき言ってたモニターやらの準備はこれのためか」
「そういうこと。今から見てもらうのは、この間346プロの中のうちの所属だけでやった中規模のライブよ。実際に歌だったりMCだったりを見てもらった方が分かりやすいでしょ?」
「確かにそうだな。それがわかってないと、話が始められないしな」
「そ、そのライブって……もしかして!3ヶ月前に開催されたツアー公演の4箇所目の公演なんじゃ!?」
「そ、その通りだけど、みのりさん、知ってらっしゃったんですか?」
突然声を荒げたみのりに少し困惑するも、肯定を返す彼女。何を隠そう、みのりにはアイドル好きという一面があり、彼自身がアイドルでありながらも、いまだにいろんなアイドルのライブへと自ら足を運んでいる。そんな彼からすれば、今回のライブは願ってもないことなのかもしれない。ちなみに、先ほどの騒がしかった時、一緒にライブが出来るのを一番喜んでいたのが彼である。
「勿論知ってるとも!!そのツアーはその公演以外は全部見に行ったんだ!!ただ、その日だけはどうしてもこっちの仕事と被っちゃってね……」
「あぁ、そういえばそのくらいの時に、やたらと仕事中にそわそわしたり、途中で元気が無かったりしてたような……」
「みのり。あの時少しさみしそうだった」
「そうだったんですね。じゃあ、だからこそこれは、見る価値があるってことですよね?」
「勿論!!というか、それまだ公式では発売されてないのに、それよりも先に見られるなんて!!今日は嬉しいことだらけだよ!!」
「み、みのりさん落ち着いて……」
「あ、ご、ごめん!つい興奮しちゃって」
「ふふっ。それだけうちのアイドルの事を好きで思ってくれる人がいてくれるって分かって、私は嬉しいですよ。さぁ、気を取り直して見て行きましょうか。ちゃんと誰とどんな曲を歌いたいか、考えながら見ててちょうだいね?」
「「「はーい!」」」
そして部屋の明かりは落とされ、モニターには映像が流れ始める。大きな会場に、光るペンライトの海。円形の中央舞台と、そこから道で繋がる大きな正面ステージ。開演のアナウンスが終わり、正面モニターの大時計の針が12時を指した時、軽快な音楽とともに正面ステージの扉が開かれる。そこから現れるのは、行進用の旗を持ち、元気に、優雅に、華麗に、淑やかに、いろんな表情を見せながら、キラキラとした衣装を身にまとう、50人のアイドルの姿だった。そうして50人のシンデレラ達のための大きな舞踏会は、大きな歓声と共に幕を開けた。