一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

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事務所の愉快な仲間達~ボーイッシュと笑顔を添えて~

 

 さて、先ほどのやたらと慣れてない英語を放った本人は、いかにもしてやったりといったドヤ顔を決めている。そんな彼女の表情を見て、男性は小さく「なるほど、こうきたか……」と呟く。その呟きを聞いたのは近くにいる数人だけだが、後にその時の彼の少し俯いた表情を見た数人は語る。あれは、いたずらが成功した悪い人間の顔だったと……。そして、彼は一歩踏み出して口を開いた。

 

「Hey, good morning Ms.Graham and Ms.Miyamoto. Do you know what I'm listening to in English now?」

「ア~、オーケーオーケー……後半全然わかんないから日本語で言ってもらっていい?」

 

 彼の流暢な英語に対して帰ってきたのは、とても流暢な日本語だった。

 

「なるほど、君は中々ユニークのセンスもあるみたいだな」

「あいさん、プロデューサーがなんて言ったのか分かったのれすか?」「あぁ、彼は今こう言ったんだ。やぁ、おはよう。グラハムさんに宮本さん。今、私が英語でなんと聞いてるか分かりますか?ってね」

「ぷっ。あっはははははは!も~バレバレじゃ~ん!せっかく面白そうだなって思ったのに~!」

「いやはや、まさかこの完璧なボケを、さらに被せてつぶしてくるとは、中々お笑いの才能を秘めているね!」

「今のどこが完璧だったんじゃ……」

「くっはー!!突き刺さる一言が!まさにドスのごとき切れ味!」

「ほんまもんのドスの切れ味を知りたいっちゅうことでええんか?」

「いやはや滅相も無い。私はどちらかと言えば任侠物より時代劇なもので。それより、今さらだけど挨拶しといた方がいい?」

「ほんとに、今さらだね。まぁいいか、それじゃあ改めて。今回企画でお世話になる315プロのプロデューサーだ。よろしくお願いするよ。キャシー・グラハムさんに、宮本フレデリカさん」

「さっきのでバレてるって分かってたけど、改めて名前言われちゃうとフレちゃん恥ずかし~い」

「キャシーちゃんも恥ずかし~い」

 

 キャッキャと顔を見合わせて笑いあう二人に、周りの数人は着いていけないのか、それとも元より着いていく気がないのかは分からない。とりあえず、二人の容姿と中身を改めて説明しよう。まずはこの状況を作った張本人とも言える、キャシー・グラハムと呼ばれた彼女。茶色っぽい金髪に青い目で、名前の通り日本人ではない。が、生まれはアメリカながら、育ちは完全に東京浅草であり、全くもって英語は話せない。正確には学校で習う程度はわかるようだが、本人曰く「日本にいるんだし日本語あれば十分じゃない?」とのこと。服装はピンク主体のノースリーブにホットパンツという動きやすそうな服装。江戸っ子らしく、活発な性格のようだ。次にもう一人、宮本フレデリカと呼ばれた彼女。自分のことをフレちゃんと呼んだり、やたらとハイテンションは言動の通り、簡単に言えば、よく分からないと言われるタイプの人間。名前の通りハーフであり、父親が日本人、母親がフランス人だ。こちらはキャシーと違い、とても綺麗な金髪で、ショートボブといった感じのヘアースタイル。目の色はエメラルドグリーンで、やはりどう見ても日本人ではない。だが、キャシーと同じく日本育ちのため、母親の母国語であるフランス語はほとんど知らないそうだ。むしろ母親もほとんど忘れてしまったとのこと。服装は今時のおしゃれな女子大生といった感じで、白主体の薄手のシャツに、ピンクのフリルの着いた上着、下はキャシーと同じくホットパンツで、綺麗なスタイルを上手く活用しているようだ。さて、そろそろ会話へと焦点を戻そう。

 

「そちらのプロデューサーから聞いてた通り、掴みどころがなくて、自由奔放。面白いこと優先で、やりたい放題。まさにそんな感じだね」

「いや~そこまで言われるとフレちゃん照れちゃうな~」

「褒めてないと思うんだけどなぁ……」

「まぁいいんじゃない?本人がそう言ってるんだし。それよりさ、さっきの続き、奥でドーナツ食べながら話そうよ!」

「いいですね~。ちょうど、人が多くて暑いな~って思ってたんです~」

「確かに暑いですね~。ライラさんも、アイスを食べたくなってきたでございますですよ~」

「お、それいいナ!ナターリアも行くゾ!プロデューサー、また後でネ!」

「よし、麗奈。アタシたちは今の間に学校の宿題を終わらせとこう」

「はぁ!?なんでわざわざ仕事に来てまで宿題なんてしなきゃいけないのよ!アンタ一人でやってなさいよ!」

「いーやダメだ!ほら、行くぞ!」

「ちょ、離しなさいって!」

「おーおー、若い子達は元気ですなぁおばあさんや」

「そうですなぁおばあさんや」

「どっちもおばあちゃんなんですね」

「おばあちゃんになっても仲良しなんて素敵ですね~」

「論点はそこじゃないと思うんだが……っと、隠れて着いていこうとしても無駄だ。彼女がいない今、君の管理は私の仕事の一つだからね」

「ぐ……わ、私のお山がぁ~……」

「お山より海のがいいと思うのれす」

「うちも山よりは海じゃのう。泳げば涼しいし、食べ物にも困らん」

「話がどんどん変わっていくな……」

「いーのいーの。こういうのが私達らしいって感じだもの~」

「まぁ、否定はしないかな。もう慣れてきたものだよ」

 

 あいが、やれやれと言わんばかりに首を振って、その場は一時の休憩のようなムードが訪れる。いつの間にやらいなくなっている子もいて、改めて彼はこの場の人数を数える。今残っているのは、あい、愛海、巴、七海、藍子、夕美、そして今来たばかりのフレデリカとキャシー、彼自身も含め9人。これでも十分に多いのだが、先ほどに比べればずいぶんと少なく感じるのは、やはり仕方ないことだろう。と、そんな寂しさを与えないと言わんばかりにノックが響く。はいは~いと気楽なフレデリカの返事の後に扉は開かれ、またも二人組が入ってくる。

 

「おっはよ~!皆今日もよろよろー!」

「おはようさ~ん。もしかして、あたしたち最後だったりする?」

「おはようございます。まだ何人か来てないですよ。それに、時間もまだ大丈夫ですし」

「おはよーシューコちゃーん!会えなくて寂しかったよ~!」

「お~おはよーフレちゃ~ん。あたしも寂しかったよ~。で、さっきから思ってたんだけど、そこにいる男の人って、今回の企画の人?」

「あぁ、その企画の人であってるよ。短い期間だが、よろしく頼むよ。塩見周子さんに、大槻唯ちゃん」

「あっれ~?唯まだ自己紹介してないのに!すっごーい!」

「あの人の入れ知恵なんやろうな~とは思うけど、初対面から一方的に知られてるのってなんかむず痒いよねー」

「えぇ~、唯的には、唯のこといっぱい知ってくれてるってすっごい嬉しいから、プロデューサーちゃんすっごいポイント高いよー!」

「ありがとう。そう言ってもらえるなら頑張った甲斐はあるかな」

 

 すごく嬉しそうに言う唯に、こちらもまた嬉しそうに返す彼。ここでまた二人の説明を。まず一人目の大槻唯と呼ばれた彼女。フレデリカにも負けないような明るい金髪を、ウェーブにして肩甲骨付近まで伸ばしており、キャップタイプの帽子を被っている。服はオレンジ主体のシャツに薄手の白の上着、ズボンはジーンズで、ぱっと見ればボーイッシュなスタイルにも見える。だが、スタイルはとてもよく、街中を歩けば5人に一人は振り向くだろう。先ほどの会話の通りかなりテンションが高く、遊んでいるギャルといった感じの印象だろうか。これまたお調子者といった子が増えたようだ。そしてもう一人が塩見周子と呼ばれた彼女。こちらは唯と対照的に綺麗な銀髪のショートカットで、キツネのように少し吊り上がった目が特徴的に思える。服装は『LOVE MUSIC』と書かれた白のシャツに、これまたホットパンツというスタイル。この事務所ではホットパンツが流行っているのだろうかと疑いたくなるほどだ。先述した吊り目もそうだが、もう一つの特徴として、とても肌が白いのだ。シャツにホットパンツでは日焼けが心配されそうだが、彼女が日焼けしているのを見た人は何故かいないそうだ。少し分かりにくいが、彼女は紗枝と同じく京都出身で、どこかのんびりした性格が彼女の売りの一つとのこと。と、ここで周子が口を開く。

 

「にしても、こんな大人数を全員集めるなんて、プロデューサーさんも大変だよね~」

「そうですね~。みんな元気ですから、集まっちゃうと、もっと元気になっちゃいますもんね~」

「唯も久しぶりに会う子とか結構いるから超楽しみ!最近皆忙しくなってきて集合とか久々だもんね~!」

「確かにそうだね。私と唯ちゃんは、この間のミニイベントで会って以来かな?」

「そうそう!夕美ちゃんとも会いたかったんだ~!そ~れハグハグ~!」

「わっ!唯ちゃん!あんまり急に来たらビックリしちゃうよ!」

「えっへへ~。夕美ちゃんっていっつもお花のいい香りがするから、唯大好きなんだよね~」

「わ、私もハグハグ~!」

「君は本当に懲りないな」

「そういやあたしも最近紗枝はんとかと会ってないな~。後でいろいろ話さないとね~」

「女が4人揃えばやかましいとよう言うが、こんだけおりゃあやかましいなんてもんじゃないのう。そんな中で男一人じゃ、大変じゃろう?」

「そうだね。うちの男連中もやかましいのは多いけど、女性の集まった時に比べれば、まだマシなのかと思ってしまうな」

「ふふっ。女の子だって、お淑やかなだけじゃなくて、こんな風に楽しくお話するのが大好きなんですよ~?」

「そうそう。大江戸から現代に至るまで、井戸端の会話は乙女の嗜みってもんよ。女性ってのは喋ってなんぼってもんさ!」

「七海は喋るのが苦手だから、皆のお話を聞いてるのもすごく楽しいのれす!」

 

 これが女子パワー……などと冗談めいて大げさに驚いてみせるが、実際のところはやはり驚いているようだ。今回の企画の裏側、「普段テレビなどでは見れない姿を見せる」というノルマは、この時点でも十分なほどに達成できているのではと考えてしまうほどだ。だが、やはりこの程度は足りないのは明白だろうし、何よりもここで満足しては企画倒れもいいところだろう。変な邪念を飛ばし、彼も会話へと戻る。

 

「考えてみれば、もう残り10人を切ってるのか。一人ひとりと挨拶したとはいえ、気付けば結構時間も経ったもんだな」

「おりょ、もうそんなに来てたんだ。危うく本当に最後になるところだったんだね~」

「ていうかプロデューサーちゃん、ずっとここで来る人皆に挨拶してんの!?」

「あぁ、覚えてもらうにはやっぱり第一印象が大事だからな。せめてその第一印象くらいは良くしたいって感じかな」

「すっごーい!唯だったら絶対途中で飽きちゃうって!プロデューサーちゃん偉いね~!唯がなでなでしてあげる!」

「おっと、この歳で年下から子ども扱いってのは無理があるな。その気持ちだけもらっておくよ」

「え~いいじゃ~ん。それとも唯のこときらい~?」

「こらこら、そういうことを言うんじゃありません。これはそういうのとは別の話だから、駄々をこねてもダメです」

「っちぇ~。ちょっとスキンシップするくらいいいじゃ~ん」

「代わりに私とスキンシップをしない?私なら抱きかかえてなでなでしてくれてもいいよ?」

「ん~?今はそういう気分じゃないな~。また今度ね」

「また今度!ってことは全否定じゃない!脈ありですよね!ね!?」

「わぉ、フレちゃんもビックリするくらいのポジティブ~」

 

 そんな他愛の無い会話をすること数分。またもノックの音がするので今度はあいが返事を返す。扉がの先にいたのは、二人の少女。ここまで二人ずつ来ると、もはや何か作為があるのではと彼が疑いそうになるが、まずこの企画そのものが作為の塊のような物なのだと思い出し、考えるだけ無駄だろうとすぐに前の少女達に集中する。

 

「おはようございます!今日も頑張りましょうね!」

「おはようっす~。ちょっと遅れそうだったけど、なんとかセーフっすね~」

「おやおや、今日のデートの相手はこちらのカワイコちゃんかい?相変わらずモテモテですな~」

「なんすかその言い方は……卯月ちゃんとはさっきまで智香ちゃんと3人で来てて、智香ちゃんは別の所属だから分かれて、そんで今2人で来ただけっすよ」

「その言い方が怪しいですな~。どう思われますかな?シューコ警部」

「そうさなぁ……これは二股事件になりそうな予感ですなぁ……」

「な、なんと!これは一大事ですぞ!すぐに対策会議を……」

「はい、その辺にしときなさい。二人とも困ってるから」

「「「は~い」」」

「やけに素直っすね……っと、ありがとうっす……じゃない、ありがとうございます!あ、申し遅れたっす!じゃなくて、遅れました!アタシは、あ、いや、私は……」

「大丈夫だから、一旦落ち着いて。はい、深呼吸深呼吸」

「あ、はいっす……。スーーーハーーー……お、落ち着いたっす」

「よし、じゃあまずはこっちから自己紹介だ。私は今回の企画で315プロから来たプロデューサーだ。これからよろしくお願いするよ。吉岡沙紀さん。それに、島村卯月さんも」

「ふぇ!?あ、はっ、はい!よ、よろしきゅお願いしましゅ!」

「あっははは!卯月ちゃん噛みすぎ~!最高に可愛いじゃん!」

「あ、ぷ、プロデューサーさんだったっすか……」

「沙紀ちゃんは今のでずいぶん疲れちゃったみたいだね。今お茶入れてくるから、ちょっと待っててね」

「あ、ありがとうっす」

 

 来て早々に騒がしく出迎えられ、挙げ句自分達で勝手に騒いでとても疲れた様子の二人。彼女達の紹介をしよう。一人目は島村卯月と呼ばれた彼女。少し茶色がかった黒髪を背中まで伸ばし、一部をサイドポニーのようにまとめている。服装はピンクのフリルの付いたワンピースで、どこにでもいるようなかわいらしい少女、といった印象を受けるだろう。だが、彼女の真骨頂は、彼女のデビュー曲の通り、その笑顔である。彼女の笑顔は、教科書があればお手本に載るかの如く綺麗であり、彼女の笑顔に励まされた、というファンレターも多く届いているようだ。もう一人は吉岡沙紀と呼ばれた少女。キャシーと似たような濃い目の茶髪のショートヘアーで、ハンチングというかベレー帽というか、そんな感じの帽子を被っている。服装は薄手の青主体のシャツに、グレーの上着を腰に巻きつけ、ズボンもハーフパンツと、かなりボーイッシュな格好をしている。先ほどの話し方の通り「っす」といったやや男っぽい喋り方が特徴で、男性ファンも勿論多いが、女性ファンもとても多い。さて、夕美がお茶を持って戻って来た頃、ようやく二人とも落ち着いたようだ。

 

「夕美さん、ありがとうっす。プロデューサーさん、さっきは取り乱して失礼したっす。突然いろいろあったもんで……」

「わ、私も失礼しました!と、突然名前呼ばれて、びっくりしちゃって、その……」

「いや~、二人の珍しい反応が見れて、余は満足じゃ」

「そろそろきつ~いお灸を据えた方がええかのう?」

「あはは~やだな~。そういう冗談って、笑える人と笑えない人がいるんだよ~?」

「そうじゃのう。冗談かどうか、試してみるか?」

「「ご、ごめんなさい。少し静かにしてます」」

「悪ノリとかはほどほどにしないとね~。怖い怖い」

「もう。周子ちゃんも、後でちゃんと謝らないとダメですよ~?」

「はいは~い。分かってるってば」

「これで皆仲直りれすね」

「さぁ!これを記念して皆で抱き合おう!私はその真ん中に行くから!」

「ふむ、そろそろ部屋ごと隔離した方がいいかもしれないな」

「静かにしてます!だからせめて目の保養だけでも!」

「ふふっ、皆いつも通りだね」

「そうっすね。なんか変に緊張したアタシたちが馬鹿みたいっすよ!」

「そう、いつも通りでいてくれればいいんだ。そんな君達と触れ合ってこそ、今回の企画は意味があるんだからね」

「や~ん。触れ合うだなんて、プロデューサーちゃんったらやらし~」

「こ、こら!大人をからかうんじゃない!」

「えへへ。ほら、プロデューサーちゃんも、いつも通り、でいいんじゃない?」

「っ!まったく……ま、私は気が向いたら、ね」

「あ~!プロデューサーちゃんだけずる~い!」

「そうっすよ!プロデューサーも『いつも通り』で行くっすよ!」

「ふ、二人とも!あんまりプロデューサーさんを困らせちゃダメですよ!」

 

 さっきの少し変な空気もどこへやら。その前までの騒がしい空気にいつの間にか戻っている。『いつも通り』というのがどれだけ大切か、皆よく分かっているのだろう。それが度が過ぎる者もいるようだが……。と、そんな風に盛り上がってる中、ノックの音が鳴る。今度は卯月がは~いと返事し、扉が開き、今度は3人の女性が入ってくる。そして、その中の一人が口を開く。

 

「おはようございます。皆さんとても元気そうで、現金な私も元気になってしまいますね」

 

 騒がしかった空気が一瞬で凍りついた。

 


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