一週間プロデュース~目指せパーフェクトコミュニケーション~   作:シンP@ナターリア担当

1 / 36
今始まるストーリー~お願いアイドル達~

 社長室と書かれた薄暗い部屋。その奥に設置された大きな椅子に腰掛ける一人の男が電話口に話しかける。

 

「あぁ、では、その方向でよろしく頼むよ。あぁ、こっちのことは気にしないでくれ、彼女達もあぁ見えて結構タフなんでね」

 

 その口元からは笑みがこぼれ、後に一言二言話し、電話は切られた。さて・・・と小さく溢しながら、男は窓から外を見やる。そこには一人の女性が少し小柄な女の子と談笑をしていた。今から自分の身に起こることを知らないままで・・・。

 

 

 所変わり、同じく社長室と書かれた部屋に二人の男性がいた。片方は少し濃い顔で、いかにも体育会系といった雰囲気の見て取れる大きな男性。もう一人はスーツを着た前者よりも一回り小さいかといったくらいの男性である。

 

「えっ?俺が、番組の企画に、ですか?」

「あぁ、そうだ!その名も『ドッキリ企画!アイドルの素顔をさらけ出せ!知らないあの人と一週間!』君には1週間の間、別の事務所へと勤務し、その交代する相手のアイドル達をプロデュースしてもらう!」

「それはまたなんとも大きい企画ですね。分かりました。せっかくなのでこの企画お受けします」

「うむ!そう言ってくれると信じていた!というか、もう相手さんとも話を付けた後だから、半分強制だ!」

「まぁそんな事だろうとは思ってましたよ……。それで、交代するお相手の事務所はどちらなんです?現状だと961プロさんとかですか?」

「あぁ、すまない!大事なところを忘れていた!君に交代で行ってもらうのは、346プロダクションだ!」

 

 その一言の後、数秒間の沈黙が場を支配した。

 

「なるほど、今人気絶頂の女性アイドルを多数扱う……。いやいやいや!!待ってください!!」

 

 バンッ!と大きな音と共に一人の男性が大声をあげる。

 

「ん?どうしたんだね?」

「どうしたじゃないですよ!!あそこは女性アイドルしか扱ってないじゃないですか!!」

「あぁ!勿論知っているとも!ライバル事務所でもあるからな!」

「いや!だから!そこに俺が行くのはおかしいでしょ!!女性アイドルばっかのとこになんで男が行くんですか!!」

「それは勿論そういう企画だからだ!アイドル達の素顔を見るには異性との方が良いだろうという企画会議での意見だ!」

「だからって!って、待ってください……俺が346プロに行くってことは、私の代わりに1週間あいつらのプロデュースをするのは……」

「ん?勿論346プロのプロデューサーだが?」

「それって、男性、ですよね……?」

「ははは!女性に決まってるじゃないか!」

 

 はぁ~……と、一際大きな溜め息が出たかと思えば、次の瞬間。

 

「何を考えてるんですか!!!こんな男ばっかりのとこに女性を放り込むなんて有り得ないですよ!!」

「うむ、君の言うことも最もだ!だが、あちらの社長とも話した結果、彼女が一番適任だったものでね!」

「っ!!だぁぁぁもう!!本当にどうなっても知りませんからね!」

 

 これ以上は何を言っても無駄だと悟ったのか、男性は諦め、同時に手渡されていた資料に目を落とす。

 

「何々……。『交代するプロデューサーは、アイドルの素顔を見れるよう、隠しカメラなどを意識せず、普段通りのコミュニケーションを取り、出来る限り様々なアイドルと交流を持つ事を主目的とする』なるほど、確かに普段は見れない一面を見るには打ってつけですね」

「そうだ!うちのアイドル達の中にも、やはりテレビの前だと少し違う面を見せる子達も多い!だからこそ、今回の企画は、彼らの新たな一面を見せ、さらなる活躍の場を持たせるという意味合いもあるのだ!」

「単に面白そうだからって理由じゃなくて安心しましたよ。で、続きっと……『各プロデューサーは、それぞれに対し直通の電話を常に携帯し、有事の際には必ず連絡を取り、相手の指示に従うこと』確かにこれは大事ですね。こちらとしても、しっかり指示を出さないといけない場面もあるでしょうからね」

「うむ!企画だからと言って、頑なに自分だけで等と考えず、大事なことは必ず連絡を入れるように。勿論、ある程度の事は君や相手のプロデューサーの判断でやってもらって構わない。これが企画であるという事もあり、後での調整もある程度は可能だろう!」

 

 その言葉に男性も胸を撫で下ろす。やはりこの仕事にも慣れてきたとはいえ、本来の自分の仕事と違う場所で、他の人間に迷惑が掛かるのはよろしくないと考えていたのだろう。

 

「まぁ、おおむね趣旨やルールは理解しました。それで、期間はいつからなんです?」

「あぁ、それについてだが……」

 

 

 

「1週間後ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?何考えてるんですか!?」

 

 また所が変わり、今度は男性と女性が向かい合い話している。男性は50代半ば頃の眼鏡をかけた温和そうな男性。女性はまだ若く、20歳だと言われても違和感は無いかという程の容姿である。だが、その叫びは、この部屋の防音が万全でなければ、建物全体に広がったのではないかという程の壮絶なものであった。

 

「おお、びっくりした……あんまり大きな声を出さんでくれ、寿命が縮んでしまうよ」

「ああっ!すみません!って、そうじゃなくて、1週間後ってどういうことですか!私まだ初耳の段階なんですよ!?」

「そりゃあまぁ、あんまり早くから伝えると、何かの拍子で口を滑らせてもいけないからね。出来る限りその期間を短く、かつ、引継ぎなどの資料作成にも問題が無い程度に、と決まったんだよ」

「た、確かに私もどっかで口滑らせてたかもしれないですけど……それにしたって1週間ですよ!?何をどうまとめればいいんですか!」

「それに関しては、ある程度はもう千川君がやってくれているよ。君は君が個人的に思う注意すべき点等をまとめておいて欲しい」

「ちひろさんまで巻き込んで……。それに、注意すべき点ですか?そんなの数えだしたらキリがないんですけど……」

 

 そこから女性はあーでもない、こーでもないと唸る。それほど頭を抱える人物が多いのが簡単に見て取れる。それを見た男性は苦笑しながらも、まぁまぁ、と話を続ける。

 

「何も今ここですぐにって話じゃあないんだ。今からの1週間で、少しずつでいい。交代する315プロのプロデューサーさんに、少しでも円滑にコミュニケーションを取れるよう、手伝いをして欲しいということだよ」

「はぁ、分かりましたよ。でも、本当に大丈夫なんですよね?」

「ん?何がかね?」

「この企画が、ですよ。男性の中に入る私はまだいいとして、女性アイドルばかりの中に男性が来るなんて、あの子達の中には男性と接するのが得意じゃない子や、顔見知りをするような子だって多いんですから」

「それこそが、君がいかに上手く情報を伝達し、よりよいコミュニケーションを取れるようにするか、が大事なんじゃないかね?それに、そういった慣れない表情というのも、ファン達は見たいだろうからね」

 

 この返しに女性も確かに……と納得する。この企画の趣旨が、普段見れない顔を見ることであるなら、その一面というのは間違いなく見せるべき面の一つでもあるということだろう。

 

「分かりました!ちょっと心配なところもありますが、私は私のアイドル達を信じます!よし、やるぞー!」

「ははは、その意気だよ。頑張ってくれたまえ」

 

 

 

 そして、あっという間に6日間が過ぎ、今日は入れ替え企画直前の最終打ち合わせ。そして、入れ替わる二人の、初顔合わせでもある。そして、この場にはすでに315プロダクション、346プロダクションの社長とプロデューサーが揃っており、数名のチーフスタッフも同じテーブルに座っている。

 

「さて、挨拶もすませたことだ。今回はこの企画を受けてくれて本当にありがとう」

「いえいえ!こちらとしても彼らの幅を広げるいい機会です!改めて、ありがとうございます!」

「さて、それでは本題に入ろうか。まずはお互いに、必要な資料を交換してくれたまえ」

「あ、はい!こちらになります!」

「そんなに緊張しないでくださいよ。こちらが資料です」

「ははは!男性たるもの、女性に対し常に紳士であれ!見事なパッションだぞ!プロデューサー君!」

「紳士なのにパッションってなんですか……」

 

 恥ずかしさもあってか言葉を早々に切り上げ、両者が資料に目を落とす。が、その行為も互いに早々に顔を上げることによって終了する。

「あの!この子達の過去ってこれ本当なんですか!?」

「ちょっ!なんですか!この注意する子リストって!」

 

 二人が全く同時に声を上げる。というのも、それぞれが渡した資料に書かれている内容が問題なのである。

 

「あ、大声を出してすいません……」

「いえ、こちらこそ。あ、彼らの過去に関しては、その資料にある程度まとめた通りです。少し端折ってる部分もありますが」

「そんな……どこかの国の王子だけど、命を狙われて逃げてきたとか、外国で旅行中に追いはぎにあったって。それにこの子なんて!」

「はい、皆そういういろんな事情を抱えてました。中には、本当に今ここにいてくれるのが不思議なやつだっています。ですが、彼らは今、本当に楽しんでアイドルをしてくれてます。その上で、貴女に過去を知ってもらい、受け止め、彼らと仲良くなってやってほしいんです……」

「315プロさん……」

「あはは、しんみりしちゃいましたね!って、そうだ!こっちのことなんかよりもそっちに資料ですよ!なんですか!注意する子リストって!」

 

 少ししんみりしかけた空気が一変し、今度は女性が答える。

 

「えっと、それに関してなんですけど、なんていうか……うちの子たち、過去とかはそっちみたいにあったりはしないんですけど、なんというか、今に問題があると言いますか……」

「いやいやいや!明らかにやばいでしょ!なんですかこのすぐに脱ぎたがる子って!男の前では絶対にやっちゃダメですよ!それにこっちの子、その子が渡してくる食べ物、飲み物は口にしないようにってどういうことですか!他にもいっぱい!」

「あはは……どうも私のところには、癖の強い子達が集まってきちゃうみたいで。あ!でも、皆ちゃんといい子達なんですよ!」

「そりゃあまぁテレビなんかで活躍してるんですから、そりゃあそうでしょうけど……。ん?この丸印の付いてる子は……」

「あぁ、その子たちに関してなんですが、危険というわけではなくて、ちょっと気をつけておいて欲しい子たちなんです。男性が苦手だったり、初対面の人と話すのが苦手だったり。私も、最初はあの子たちと打ち解けるまでは時間が掛かりましたし」

 

 どこか寂しそうに、しかし懐かしそうに、慈愛に満ちた表情でそう語る女性。

 

「あ、す、すいません!こんな語っちゃったりして!」

「いえ、大事な話を聞けてこちらも嬉しい限りです」

「うむ!!素晴らしいパッションを感じる!!君もいいプロデューサーだ!!」

「ははは、気に入られてしまったね」

「も、もう!早く続きを話しましょうよ!!」

 

 先ほどの湿っぽい空気はどこへやら、場の空気も一気に温まり、そこからはお互いに、ユニットやアイドル達の細かな注意する点や、仕事に関する事などの情報を共有した。その際、何度かお互いのプロデューサーが叫び声を上げたのはまた別のお話。

 

「ふむ、このくらいで大丈夫そうだね。では、会議はこの辺にしておこうか」

「はい。それでは、改めてですが、1週間よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、お願いします。あいつらも、さっき言ったとおり悪い奴らじゃないんで、仲良くしてやってください」

「はっはっは!なぁに心配はいらんよ!いざとなったら私も出てこよう!」

「勘弁してください。彼女がかわいそうです」

「おやおや、ずいぶんと酷い言われようをしてるようだね」

「私にはこれくらいがちょうどいいですよ!では諸君!話もまとまったようだし、後は各事務所のアイドル達にこの事を伝えないとな!」

「そうですね。あぁ……この瞬間が一番心配です」

「はは、あいつらどんな反応することやら」

 

 そしてお互いの事務所へと戻り、今回の企画がアイドル達に伝えられた。アイドル達に伝えられた内容は『315プロダクションと346プロダクションの交流を深めるため、各事務所のプロデューサーが1週間お互いの事務所に勤務し、アイドル達とコミュニケーションを取り、よりよい関係を築くという企画』という形である。

 反応はそれぞれではあったが、どのアイドル達も同様に、期待と不安を抱いている表情だった。そして夜が明け、長い長い1週間が始まりを告げた……。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。